パーキンソン病

1. パーキンソン病とは

パーキンソン病とは、主に中高年以降に発症して徐々に悪化する、安静時振戦、固縮、無動、姿勢反射障害を主な症状とする病気です。耳慣れない症状ですが、このうち、振戦は、主に手足のリズミカルなふるえを、固縮は、手足を動かそうとしたときに目的としている動きには本来必要でない筋肉にも無駄な力が入ってしまうために手足がこわばってスムースに動かせない状態を指します。また、無動は、運動の麻痺がないのにもかかわらず動きの絶対量が減る現象を指し、このためパーキンソン病の患者さんは、顔の表情が乏しく、低く抑揚のない単調な話し方をするようになり、また歩行時にもあまり手をふらずに前屈みの姿勢で小刻みに歩くようになります。字を書いていくとだんだん小さくなることもあります。姿勢反射障害は、方向転換や歩行中の急な停止に伴う体のバランスの崩れを防ぐとっさの素早い動きができなくなることを指し、このためパーキンソン病の患者さんは転倒して怪我をしやすくなります。

パーキンソン病は、人口1000人に1人と、比較的高率にみられる病気で、神経変性疾患(原因のわからない進行性の神経障害を示す病気)としては、アルツハイマー病に次いで2番目に多いといわれています。

どうしてパーキンソン病になるのかの直接の原因はわかっていませんが、脳の深部、中脳の黒質にあって脳内の伝達物質(神経の間の情報の受け渡しを担う物質)の一つであるドパミンを作る細胞が徐々に減少して脳内のドパミン量が不足することで症状が起こることはわかっています。ドパミンを作る細胞がおおむね正常の1/5程度まで少なくなると症状が起こるとされています。また、この不足したドパミンの前駆物質(脳内で変化して結果的にドパミンになる物質)である、L-DOPA を薬として服用することで実際に症状が改善することもわかっています。

症状の上では、一見パーキンソン病と紛らわしいものにパーキンソニズムと呼ばれる病態があります。原因は様々で、脳血管障害によるもの、薬の副作用として起こるもの、パーキンソン病以外の神経変性疾患の初期症状としてみられるもの、遺伝性疾患の症状の一部として起こるもの、正常圧水頭症によって起こるものなどが知られています。いずれの場合も L-DOPA の服用は全く効果を示さないか、または示しても一時的なものにとどまります。このページの主題である外科治療も、パーキンソン病には有効ですが、パーキンソニズムの場合には基本的に効果がありません。発症初期のパーキンソン病では、その診断は意外に難しく、これらの他の病気との鑑別(みきわめ)は、神経内科の専門医でもしばしば困難です。後でも書きますが、治療の手段として外科手術を考えるタイミングは L-DOPA をはじめとする薬物療法で十分な治療満足度が得られなくなった時とするのが妥当な考え方ですが、薬物療法の開始から1年以内など、あまりに早い時期に薬が効かなくなっている場合は、手術を考えるより先に実は別の病気であるという可能性をもう一度考えてみる必要があると思います。

このページの目的は、パーキンソン病の外科手術について説明することですので、パーキンソン病そのものについてさらに詳しい情報を得たい方は、たとえば下記のサイトを御参照ください。

2. パーキンソン病の薬物治療

パーキンソン病の症状が脳内のドパミン不足によって起こることは、先に述べた通りです。ですから治療の主役は薬によるドパミンの補充です。ドパミンは直接服用しても脳の中には届きませんので、脳の中に届いてからドパミンに変化する前駆物資の L-DOPA を治療薬として服用します。特に病気の初期には劇的な効果があり、L-DOPA の服用によって症状のほとんどが消失します。

しかし、よく考えてみると、病気のそもそもの原因は、脳の中のドパミン産生細胞が減ってしまうことですから、L-DOPA の服用も有効な治療法ではありますが 問題の根本的な解決ではなく、一種の対症療法ということができます。L-DOPA には病気そのものの進行を止める効果はなく、それどころか、人間では証明されていないものの、動物実験では L-DOPA の服用が黒質のドパミン産生細胞の変性を加速する危険すら指摘されています。つまり、L-DOPA を飲むことそのものが、病気の進行を早める危険をはらむ可能性があるということです。

また、病気の早期から大量の L-DOPA を服用し続けると、数年から10年程度で L-DOPA の効果の持続時間が極端に短くなり、一日に何回にも分けて飲む必要がでたり、同じ程度の効果を得るのにより多くの薬を飲む必要がでてきたりします (薬効時間の短縮)、またこうなると L-DOPA が効いている時にはかえって脳内のドパミンが一時的に過剰になるため、踊るような不随意運動が出現するようになることも知られています(薬剤誘発性ジスキネジア)。さらに、L-DOPA の投与量が多くなりすぎると、運動機能に対する治療効果以外に、幻覚など精神活動に有害な副作用がでることもあり、結局 L-DOPA の服用だけでは患者さんの有効な日常生活を維持できなくなってきます。L-DOPA に限らず、このように薬だけで有効な日常生活を維持できなくなってきた状態を進行期パーキンソン病と呼びます。これは、比較的若く発症し、生涯の長い期間にわたって薬を飲む必要がある若年性パーキンソン病の患者さんの場合により大きな問題になります。

このような問題が、比較的早期から L-DOPA を大量に服用した例に多く発生する事実から、現在では初めて診断されたパーキンソン病の患者さんに最初から大量の L-DOPA を服用するのを避ける傾向にあり、最初は L-DOPA ではないが脳内でドパミンと似た作用をする薬(ドパミンアゴニスト)を用いて治療し、できるだけ L-DOPA の服用開始を遅らせようと試みることが治療の主流になりつつあります。最近、日本でもいろいろなドパミンアゴニストが使用可能になってきており、これらを上手に組み合わせる事が神経内科の先生の腕の見せ所になってきています。

ドパミンアゴニスト以外にも、パーキンソン病に対して効果のある薬剤が多数ありますが、これらの紹介が本ページの目的ではありませんので、詳しく知りたい方は下記参考書を御参照ください。

  1. パーキンソン病治療ガイドライン、マスターエディション。 監修 日本神経学会。編集 日本神経学会「パーキンソン病治療ガイドライン」作成小委員会。医学書院。2003年
  2. よくわかるパーキンソン病のすべて。編集 水野美邦、近藤智善。永井書店。2004年

3. パーキンソン病の外科治療

パーキンソン病は、基本的には薬で内科的に治療する病気ですが、病気の進行具合や症状の種類によっては外科手術を組み合わせた方がより有効に治療できる場合があります。外科手術は、頭蓋骨に小さな穴を開けて、脳の深部にあるパーキンソン病の症状を起こす原因となっている淡蒼球・視床・視床下核などと呼ばれる小さな構造に針を刺す定位脳手術と呼ばれる手法を用いて行われます。この針の先に一時的に強い電流を流して目的とする構造にやけどをつくる凝固・破壊術と、針の代わりに治療用の電極を置いてきてそこから持続的に弱い電流を流し続けることで破壊したのと似た効果を生み出す脳深部刺激療法(DBS: Deep Brain Stimulation)という二種類の治療法があります。この二つは問題となっている症状の種類や患者さんの年齢・病気の見通しを考えて使い分けます。
手術はパーキンソン病の諸症状の改善に役立ちます。特に薬の効いていない時の症状が改善します。一方、薬が効いているときの状態をさらによくすることは無いようです。病気の進行を止めたり遅らせたりする効果はありません。薬が全く効かないほど進行したパーキンソン病の末期の患者さんには残念ながら効果がないようです。手術で症状が改善することから、薬の必要量を少なくすることが出来ます。ただ、パーキンソン病では、脳内のドパミン産生細胞が減少して脳の中のドパミンが不足することで症状が起こります。外科手術でドパミンの産生そのものが増えるわけではありませんから、手術を受けて一時的には薬を飲む量を減らすことが出来てもその先ずっと薬がいらなくなるというわけではありません。病気が進行してくればやはりドパミンが必要になります。定位脳手術以外の治療法として、脳の中にドパミンを産生させる細胞そのものを移植する手段やドパミン産生細胞の減少を防ぐ薬を注入する手段などが新しい治療法として考案されていますがいずれもまだ実験段階にとどまっています。
パーキンソン病の患者さんの多くは、薬の治療だけで有効な人生を送ることが出来ます。手術が必要となる人の割合はあまりはっきりしていませんがおおむね全体の1−2割程度ではないかと考えられています。手術は、薬の治療だけではいろいろの問題症状が残り、満足のいく日常生活が送れなくなったパーキンソン病の方で、その問題症状が手術によって解決できるものであるときにのみ考慮される治療手段と考えていたければ良いかと思います。
脳深部刺激療法は、脳内に留置した電極に、胸部に埋め込んだ心臓のペースメーカーとよく似た刺激発生装置・電池から弱い電流を送って治療効果を発揮します。電池は通常の使用で5年程度持ちます。交換の際は胸部の電池のみを交換し頭の電極は交換不要です。手術そのものの危険度は比較的少ないものですので、上記条件に当てはまる患者さんの場合には積極的に考えて良い治療法です。

4. 脳深部刺激療法の実際

脳深部刺激療法の場合、多くの施設では2回手術を行います。一回目は脳の目的とする構造に治療用電極を挿入する手術で、定位脳手術の手技を使って行われます。二回目の手術は、電極に電気を送る電池と刺激の調節をする回路が入ったペースメーカーのような装置(IPG: i mplantable programmable generator)を胸部に埋め込み、首の皮膚の下を通した電線によって頭の電極とつなぎます。一回目の手術は局所麻酔で、二回目の手術は全身麻酔で行われるのが普通です。

1回目の手術は定位脳手術の手技を使って行われます。定位脳手術には、特殊な手術装置を使い、脳の中の狙った場所に正確に電極を進めることが出来ます(図3)。まず、この装置を装着した状態で MRI 画像を撮影し、目標となる構造の位置を装置の上の座標点として計測します(targeting と呼びます)。この装置は大変正確なもので、ミリ単位以上の精度で目標に電極を進める出来ます。ただし、目標とする構造数ミリ程度しか無いので、僅かでも針がぶれると狙っている目標に正確に到達しない可能性があります。そこで、本当にねらいが正しいかの確認のため、最終的な電極を入れる前に、特殊な記録電極を用いて脳の中の神経の活動を記録し(一種の脳波にあたります)、実際に針が行く先に目的とした構造があるかどうかを確認する手順を踏む施設が多いようです。このあたりの手術手順は施設ごとの独自性が強く、それぞれでかなり異なっていますので実際に手術をお受けになる施設のやり方を説明してもらうのが良いと思います。

(図3)定位脳手術装置を用いて電極を挿入している途中の頭部レントゲン写真。
(図3)定位脳手術装置を用いて電極を挿入している途中の頭部レントゲン写真。
枠に目盛り(座標)がうってあるのがわかる

脳深部刺激療法の場合、手術が終わった後で、今度は刺激の調整が必要です。これは、差し込んだ電極のどの組み合わせにどのような電流を流すかを症状の変化をみながら調節していく作業です。これは、専用の調節器で体の外から電波を送って行います。手術後にそのまま入院しながらやる場合と、通院しながら行う場合があります。手術を機会に症状が変化し薬の量がこれまと変わることもありますので、両方のかねあいをはかりながら注意深く双方を調節する必要があります。この様な作業は脳外科側でやる場合と、神経内科でやる場合があります。

現在用いられている脳深部刺激療法用の治療装置は一種類しかありません。世界中どこでも基本的に同じ装置を使用しています。装置の詳細については、下記ホームページを参照してください。刺激療法を受けた後の生活上の注意点について詳しい説明があります。

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