中枢神経系原発悪性リンパ腫

1 悪性リンパ腫とは

 脳にはリンパ系組織がありません。それなのになぜ悪性リンパ腫が発生するのかまだ分かっていません。炎症などで浸潤してきたリンパ球が腫瘍化するとか、他で発生したリンパ腫が免疫学的に保護されている脳内にだけ残ったとかの説がありますが、未だ解決されていません。脳に原発することは稀でしたが、近年は増加傾向を示していて、全国集計では原発性脳腫瘍の2.9%を占めます。中高年に多く、50歳以上が80%を占めます。この疾患にかかる危険因子としては、膠原病、免疫不全(臓器移植患者、AIDS患者、老人、など)、エプスタイン・バーウイルス感染、などがあります。

2 代表的症状

 初発症状としては、脳局所症状(麻痺、失語、など)が50%に、頭蓋内圧亢進症状(頭痛、吐気、嘔吐、など)が1/3〜1/4に、精神症状が1/5にみられます。また脳神経麻痺が10%にみられますし、3.5%に葡萄膜炎がみられるのが特徴的です。

3 診断方法

 CT、MRIでは、腫瘤を形成する病変として描出され、造影剤を用いると多くの場合、著明な増強効果を認めます(図1)。前頭葉、側頭葉、小脳、脳深部に多く、1/3は多発性です。これらの所見は、非特異的であり、他の腫瘍や非腫瘍性病変と鑑別するのが難しい場合もあります。髄液検査で腫瘍細胞が認められることがあり、髄液中のβ2ミクログロブリンは80%で高値を示します。また血清中にも特異的なレセプターを認める場合があります。最終的な診断確定のためには、手術により摘出した腫瘍組織の病理学的診断が必要です。ステロイドを投与すると、画像上40%で腫瘍が縮小・消失することがあり(ghost tumor)、こういう所見は診断的価値があります。


図1 悪性リンパ腫のMRI所見:
左(T1強調画像)中(ガドリニウム増強T1強調画像)右(T2強調画像)

4 治療方法

 手術は診断をつける以上の目的はなく、悪性リンパ腫と診断がつけばそれ以上摘出しません。治療の主体は、放射線治療と化学療法です。放射線療法は全脳に照射しますが、70〜80%程度の人で腫瘍は著しく縮小します。しかし、生存期間中央値(50%の人が生存している期間で、平均生存期間に近い)は1年少々です。したがって化学療法が検討され、現在はメトトレキセートという抗癌剤を投与した後に全脳に放射線を照射する方法が、最も良い治療成績を示しています。メトトレキセートによる代表的な副作用は急性腎不全ですが、これを防ぐためには厳重な尿量、尿pH管理が必要であり、集中管理できる施設での治療が必要です。治療なしでは生存期間中央値は2〜3ヶ月ですが、放射線療法により12〜15ヶ月になります。さらに、メトトレキセートを投与後に放射線療法を施行した場合は、これが40ヶ月前後になります。

5 トピックス

 全身の悪性リンパ腫に有効である化学療法のプロトコールが、中枢神経系原発悪性リンパ腫には殆ど無効である一方で、ステロイドや放射線照射に腫瘍縮小効果がみられることから、従来、ステロイドや放射線による治療を中心に行われてきましたが、再発までの期間は短く、治療成績は不良でした。メトトレキセート大量療法と放射線治療併用の有効性が示されてからは、治療成績は大きく改善され、わが国でも標準的治療となり、更にメトトレキセートを中心に様々なプロトコールが研究されています。一方で、メトトレキセート大量療法後の遅発性白質脳症(精神症状、けいれん、進行性痴呆などを呈する)が60歳以上では高頻度に起きることなども分かってきており、高齢者での放射線照射量を変えるなどの工夫がなされるようになってきています。

6 推奨リンク先

  1. 国立がんセンター(http://www.ncc.go.jp/jp/

7 参考文献

  1. New Lecture 4 中枢神経系悪性リンパ腫 篠原出版
  2. 脳腫瘍の病理と臨床 診断と治療社
  3. 脳神経外科学大系6 脳腫瘍1 中山書店
  4. 脳神経外科学 第9版 金芳堂
  5. 臨床・病理 脳腫瘍取り扱い規約 第2版 金原出版
  6. グリーンバーグ脳神経外科ハンドブック原著5版 金芳堂

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