転移性脳腫瘍

1. 転移性脳腫瘍とは

表1 転移性脳腫瘍の原発巣頻度
(脳腫瘍全国統計第12版)
(1984-2000)

症例 全国集計
肺癌 51.90%
乳癌 9.30%
直腸癌 5.70%
腎/膀胱癌 5.30%
胃癌 4.80%
4.70%
頭頚部癌 3.20%
2.10%
子宮癌 1.70%
その他 11.30%
(症例数) 13,393例

頭蓋内以外の部位の癌が、脳内を中心に頭蓋内に転移し大きくなってしまったものです。このような病気は平均寿命の伸びと癌治療の成績向上とともに増加し、全脳腫瘍の16%あるいはそれ以上占めるとも言われています。また、癌になった方の約10%が転移性脳腫瘍を発症するともいわれています。特に、肺癌、乳癌(脳を包み覆う膜である、硬膜に転移が多い)からの転移が多く見られます(表1)。症状は大きく2つに分類されます。ひとつは、脳は一定容積の頭蓋骨という入れ物に収まっており、そこに腫瘍という余分なものができたことと、脳の腫れによる脳そのものの大きさの増加により、頭蓋内の圧の上昇をきたし、頭痛・嘔吐や意識障害を生じます。もうひとつは、腫瘍が周辺の脳組織を直接損傷し、それに伴う神経障害が出現します。検査は、造影剤を使用した頭部CT、MRIで行い(図1)、小さな病巣も診断可能です。

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図1:造影頭部CT

造影頭部MRI

 

 

2. 治療に関する現在の一般的な考え方

周辺脳への圧迫を取り除き、脳の腫れを少なくする必要があります。MRI、CTなどの脳の検査と、胸、腹、骨盤のCTや全身シンチグラム、血中腫瘍マーカーなどから全身の癌の状態を検索し、さまざまな角度より治療法を検討します。脳以外のがん病巣の状態から予想される生存期間が3ヶ月以内であるならば、ステロイドや浸透圧利尿剤などの薬剤による保存的治療を行います。予想される生存期間が6ヶ月以上の場合は単発症例では手術+全脳照射をまた多発例では放射線照射(定位および全脳)治療が考えられます。6ヶ月以内の場合は患者さんの状況により治療法を考慮する必要があります。脳転移がある場合は、多臓器への転移を伴う場合が多く,予後不良とされていますが、手術、薬剤、放射線治療などを組み合わせることにより治療成績は向上しており、今後も診断技術の発展による早期診断(症状が軽いうちに診断された場合のほうが治療成績がよい:表 2)、定位放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフ、リニアックナイフ)の普及などに伴い治療成績の向上が期待されます。転移性脳腫瘍の場合、脳腫瘍だけでなく、原発巣や他の部位の状態を十分考慮して治療を行う必要があり、脳神経外科だけでなく原発巣の主治医とも十分相談して、患者さんのQOLを良くするための治療を行うべきです。

表2 転移性脳腫瘍の治療成績(1981-2000)

診断時の状態 1年生存率 2年生存率
無症状 59.7% 41.4%
軽度の頭痛など 55.7% 37.2%
意識障害あり 25.9% 13.3%

3. 手術適応について

手術は、患者さんに対する体力的、精神的負担は少なくなく、適応は慎重でなければいけません。表3に示す項目を満たすことが重要です。1.単発性で全身状態がよい、2.手術により重篤な後遺症を残さない部位にある、3.原発巣が十分にコントロールされている、4.頭蓋外転移があっても直接生命に影響がない場合、5.確定診断が困難な場合。その他、多発性でもその1つの腫瘍が大きく患者さんの生命危機に直結する可能性がある場合、癌の進行状況から半年以上の生存が期待されない場合でも、手術によりQOLが改善し、たとえ3〜4ヶ月でも良い状態での生活が送ることが期待できる場合など、全身状態が良好であれば手術摘出を行う場合があります。もちろん、この場合にも、原発巣や他の部位の状態を十分考慮して適応を決める必要があります。

表3 転移性脳腫瘍に対する手術適応

1. 単発性で全身状態がよい
2. 手術により重篤な後遺症を残さない部位にある
3. 原発巣が十分にコントロールされている
4. 頭蓋外転移があっても、直接生命に影響がない場合
5. 確定診断が困難な場合
6. 水頭症に対するシャント手術

4. 放射線治療

転移性脳腫瘍の治療には、放射線治療が重要な役割を果たしています。放射線治療の種類には、脳全体に照射する全脳照射と、腫瘍部のみに一回で多くの放射線を照射する定位放射線照射(ガンマナイフやサイバーナイフ、ライナックを使用します)があります。これまでの臨床試験の結果から、単発の脳転移に対しては手術+全脳照射が世界的に標準治療法となっています。全脳照射は3週間かけての治療が主流ですが、病状によっては2週間に短縮する場合もあります。最近の試験結果から、単発性転移に対しては全脳照射+定位放射線照射の治療効果が優るとの報告も出てきています。定位放射線治療は、大きな身体的侵襲なく、かつ短期間(通常2泊3日)で、治療が可能であるため、腫瘍の大きさが3cm以下の小さい病巣で、転移病巣が数個以内の場合、有力な治療法となることがあり、我が国では定位放射線照射が選択されることも多くなっています。特に脳転移に対して手術が行えない場合や、原発巣や他臓器での進行がある場合など、治療に要する期間が1日で済むこと利点もあり、しばしば選択されています。しかし、定位的放射線療法も万能ではなく、照射後の脳浮腫、放射線壊死、腫瘍出血などの副作用もありますので、適応については十分相談することが必要です(表4)。現在までのところ、単発や4個以内の転移に対して、手術後に全脳照射を行うのと、定位放射線照射を行うのとどちらの治療法が優れているかを調べる臨床試験を国内で行っているところです。ガンマナイフ治療、サイバーナイフ治療はそれぞれ2010年9月現在、55施設、22施設で行われています。

表4 転移性脳腫瘍に対する定位放射線照射(ガンマナイフ・サイバーナイフなど)の適応

1. 一病巣の大きさが平均3cm以下であること
2. 病巣の数が数個で治療可能な範囲内に存在すること
3. 治療後少なくとも3ヶ月以上の予後が望めること

5. 最後に

転移性脳腫瘍は癌の転移であり、治癒させることは難しく、予後不良とされています。しかし、癌自体の進行状況や原発巣の状況、全身状態、脳転移の状態などにより、いろいろな治療法の選択があります。患者さんの病気の状態、全身の状態を十分に理解しておられる主治医や専門医と相談しながら治療を行って有意義なQOLを獲得することが重要であります。

参考文献

  1. Neurologia medico-chirurgica: Report of brain tumor registry of Japan (1969-2000) 12th edition
  2. 臨床・病理 脳腫瘍取扱い規約 臨床と病理カラーアトラス 第3版 金原出版 p264-266, 2010
  3. 脳腫瘍 図説脳神経外科 New Approach 9 メディカルビュー社 p58-63, 134-139

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