てんかん
てんかんとは
てんかんは有病率が0.5〜1%と稀ではない慢性の神経疾患です。小児だけでなく、高齢者の発症率も高く、てんかんの患者さんは全年齢層にわたります。
てんかん発作は、脳の神経細胞が異常に興奮し、それが広がって、さまざまな発作症状を引き起こします。大脳の一部が発作の引金となる場合は、その部分を「てんかん焦点」と呼びます。発作は数秒から数分続き、回復すると平常通りの生活にもどることができます。
てんかんと診断されても、大多数の方では適切な治療でてんかん発作が消失し、脳機能に障害をもたらすことなく、健常な生活を送ることができます。しかし、てんかん発作が続くことで脳の機能が障害されることもあります。小児では、精神や運動の発達に支障をきたすことがあります。成人でも認知障害や精神症状などを伴うことがあります。
てんかんの診断と治療
てんかんの診断には、発作の症状に関する情報と脳波検査が重要です。しかし、てんかんによる脳波の異常は簡単には見つからないこともあり、逆に脳波の異常があってもてんかんではないこともあるので、注意が必要です。てんかん発作の症状と発作の時の脳波を同時に記録する長時間ビデオ脳波同時記録検査は入院が必要ですが、てんかんの診断にはきわめて有用です。その他にMRIなどの画像検査もてんかんの原因を調べるために重要です。
てんかんの治療は、抗てんかん薬を毎日規則正しく服用しててんかん発作の発生を予防することから始めます。抗てんかん薬には多くの種類がありますが、てんかんの発作型や病態に応じて効果が異なることもあるので、発作予防効果が大きく副作用の少ない薬から選択してゆきます。発作が止まらない場合や副作用が気になる場合は主治医とよく相談してみて下さい。
およそ半数のてんかん患者さんは一種類の抗てんかん薬で発作が止まりますが、残りの半数の方は、複数の抗てんかん薬が必要です。抗てんかん薬の種類が増えるほど発作を止められる確率は下がり、副作用の危険も高まります。多剤併用でも発作が止められない場合を「薬剤抵抗性てんかん」と呼び(「難治てんかん」と呼ばれることもあります)、およそ3割の患者さんがこれに相当します。薬剤抵抗性てんかんは国際学会で「適切に選択された二種類以上の薬を一年以上続けても発作が止まらない場合」と定義されています。
薬剤抵抗性てんかんでは、次の治療として外科治療を検討します。
てんかんの外科治療
過去30年で外科治療の効果と安全性が飛躍的に向上したため、今日では一部の薬剤抵抗性てんかんに対する外科治療は強く推奨されるべき標準治療となりました。特に側頭葉てんかんでは、外科治療の有効性と安全性が科学的に証明され、発作を止めきれないまま薬剤治療を続けることの弊害も明らかにされました。
手術を行うかどうかは、単に手術でてんかん発作が抑えられるかどうかだけでなく、手術の合併症、手術しない場合に予想される経過、薬の副作用、社会的背景など総合的に判断します。
手術治療が有効なてんかんとは、海馬硬化症による内側側頭葉てんかん、限局性皮質異形成などの脳形成異常、脳腫瘍、脳萎縮や瘢痕などが原因となるてんかんや突然転倒して外傷や事故をきたす危険な発作などです。
手術法はてんかん焦点切除や離断術(周辺の脳から焦点を切り離す)などの根治手術と、緩和手術(症状の緩和をめざす)があります。根治手術は、てんかんの原因部位を取り除く皮質焦点切除術/病巣切除術、側頭葉切除術や、脳を部分的に切り離し、てんかんの波を伝わりにくくする大脳半球離断術などがあります。緩和手術には左右の脳のつながりを部分的に切り離す脳梁離断術や、頚部にある神経を電気刺激する迷走神経刺激術が挙げられます。焦点の広がり、症状により手術方法が選択されます。