下垂体腺腫

下垂体とは何処にあるのか

まず、下垂体とは何処にあるのか、図を用いて説明します。1aは脳正中部を真横から見たものです。黒い矢印で示しているのが下垂体です。下垂体は、脳の正中部でトルコ鞍と呼ばれる骨のくぼみの中に存在しており、重さ約700 mg、大きさ7-8 mmの非常に小さな脳組織です。その上方には視神経 (物を見る神経)が(2)、側方には眼球運動神経 (動眼神経・外転神経などの眼を動かす神経)が存在しております。また、その下方には、蝶形骨洞と呼ばれる副鼻腔が位置し、鼻腔内に最も近接した領域なのです。したがって、この部に発生する腫瘍に対しては、後述します鼻腔からのアプローチが可能なのです。1bは、MRIの画像です。1aを部分的に拡大してあります。やはり、白い矢印で示しているのが下垂体です。

下垂体の働き

下垂体は、ホルモンの中枢であり、主として前葉と後葉に分けられ、各々、3に示したようなホルモンを分泌し、全身の各臓器に働きかけてホルモンの分泌を促しております。

下垂体腺腫とは

下垂体部に発生する腫瘍性病変として最も一般的なのものが、下垂体腺腫です。下垂体腺腫は下垂体の一部の細胞が腫瘍化したものです。組織学的には良性の腫瘍で、一般的には他の部位に転移したりすることはありません。しかし、非常に稀ですが (約0.1%)、他の脳組織や臓器に転移するものも報告されており、下垂体癌と呼ばれています。

下垂体腺腫は、一般的には、下垂体の前葉から発生します。ホルモンを過剰に分泌するもの (ホルモン産生腺腫)とホルモンを分泌しないもの (非機能性腺腫)に大きく分けられ、ホルモン分泌の種類により下記のごとく分類されます。

疫学

原発性脳腫瘍中、第3番目に多い腫瘍ですので、稀な腫瘍ではありません。一般的には、青壮年期から老年期に多く発生しますが、稀に、小児期にも見られます。小児例ではホルモンを過剰分泌する腫瘍が多く、高齢者例では非機能性腺腫が多くみられます。

発生頻度は、非機能性腺腫 (約40%)、プロラクチン産生腺腫 (約30%)、成長ホルモン腺腫 (約20%)、副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫 (約5%)、甲状腺刺激ホルモン産生下垂体腺腫 (約1%)、その他 (約4%)であります。

臨床症状

  ホルモンの過剰分泌による各種の症状、視神経圧迫による視力視野障害、下垂体機能低下症などが一般的です。稀ですが、下垂体卒中と呼ばれ、腫瘍内に突然出血することがあり、そのような場合には、突然の頭痛および視力視野障害や眼球運動障害などが生じます。各病型の臨床症状や特徴を述べます。

1) 非機能性腺腫

男性に多く、青壮年期から老年期にかけて多く発生する。ホルモンの過剰分泌による症状がないため、症状発現時にはすでにかなり大きな腫瘍が多い。よって、症状としては、下垂体のすぐ真上にある視神経が腫瘍により下側から直接圧迫され、両眼の耳側 (外側)半分が見えなくなる両耳側半盲(4)という症状が一般的です。したがって、臨床的には眼科から紹介されてくることが多いわけです。しかし、視野の障害は自覚症状としては気づかれにくく、診察して初めて患者本人も気づくことがよくあります。頭痛を伴うこともよくあります。さらに正常下垂体が圧迫され、下垂体前葉機能不全症が生じます。具体的には、男性では、性欲低下や勃起不全などの性機能障害、女性では、月経不順、無月経や乳汁分泌などです。疲れやすくなり、抵抗力が低下します。さらに色白になり、腋毛や恥毛の脱落がみられる場合もあります。不妊症、特に男性不妊症の原因のひとつでもあります。

2)プロラクチン産生腺腫

若い女性 (20〜40歳代)に多い。プロラクチンが過剰に分泌され、月経不順や無月経、さらに乳汁分泌(5)などがみられます。つまり、妊娠していないのに体が妊娠しているような状態になるわけです。これらの症状が出現すると女性は早くから病院に行きますので腫瘍は小さいことが多いのです。女性不妊症の原因として重要な疾患です。これらの症状から患者は、まず産婦人科を受診する事が多いわけですが、実は脳腫瘍ですので脳神経外科の病気なのです。産婦人科でこの病気が発見されないまま、長きにわたり無月経の治療 (時には不妊治療)がなされていることもよくあります。無月経と乳汁分泌がともに起こった時には、下垂体専門の脳神経外科医の診察を受ける事をお勧めします。稀ですが、この腫瘍は男性にも発生します。男性ですと性欲低下や勃起不全になりますが、なかなか気づかれない事が多く、通常、腫瘍が大きくなって視力や視野に異常がみられるようになり初めて病院を受診し発見されます。したがって、男性では、中高年に多くみられ、腫瘍が大きいことが特徴です。稀に男性でも乳汁分泌を認めます。

3)成長ホルモン産生腺腫

発生頻度は男女ほぼ同じくらいですが、40歳代の男性にやや多い傾向がみられます。成長ホルモンが過剰に分泌されることにより、身体的に特徴的な症状を示します。骨端線の閉じる前 (思春期前)の小児期にこの病気になると身長や手足が異常に伸び、いわゆる巨人症になります(6)。ギネスブックに高身長として登録されてきた人達の大半がこの病気です。日本ではプロレスラー (元は巨人軍の投手)の故ジャイアント馬場選手もこの病気だったそうです。また、成人になってからですと手足の先端や額、下顎、鼻、唇、舌などが肥大し先端巨大症と云われます(7)。靴や指輪のサイズが合わなくなったとか、数年前に比べて顔つきがかなり変わったということからこの病気が発見される事がよくあります。睡眠時無呼吸や咬合不全の原因の一つでもあります。男性ですと性機能の低下、女性では無月経なども起こります。放っておくと糖尿病、高血圧、心不全などになり命に関わります。また、癌などにもなりやすくなると云われています。表1に先端巨大症の厚生省間脳下垂体機能障害研究班 (2003年)の診断基準を示します。

4)副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫

副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫は、クッシング病と呼ばれ、下垂体から副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌されます。若年から中年の女性に多く、肥満が特徴です。諸外国では小児例も比較的多くみられます。顔が満月様に丸くなり、手足に比べて胸や腹部が太る、いわゆる中心性肥満という体型になります (8)。にきびができやすく、体毛が濃くなります。多毛が初発症状のこともよくあります。前胸部や下腹部に赤紫色の引っ掻いたような線状の痕跡 (皮膚線条)がみられたり、上下肢に青あざができやすくなったりします。女性では無月経にもなります。小児では思春期になっても月経が発来しない、いわゆる原発性無月経の原因の一つでもあります。また、精神的にはうつ状態になることもよくあります。頑固な高血圧や糖尿病を伴うこともよくあります。2に厚生省間脳下垂体機能障害研究班による診断基準を示す。

5)甲状腺刺激ホルモン産生腺腫

現在までに約350例の報告しかなく、最も稀なホルモン分泌性下垂体腺腫です。甲状腺ホルモンの測定法の進歩により、この腫瘍の頻度は近年増加傾向にあります。全年齢層に生じ、性差はありません。主症状は、甲状腺の機能亢進に基づく頭痛、急激な痩せ、手の振戦、動悸、不整脈、下痢、精神症状などである。甲状腺そのものの疾患と誤診され、間違った甲状腺の治療をされている例が多く見られます。また、大きな腺腫が多く、腫瘍が視神経を下方から圧迫して視力視野障害を伴います。時に成長ホルモンやプロラクチンを同時に産生し、先端巨大症や無月経、乳汁分泌などもみられます。

画像診断

先端巨大症は厚生労働省の診断基準(1)にみられるような特徴的な身体局所の肥大所見を呈します。頭部単純レントゲン撮影にてトルコ鞍の風船状拡大、前頭洞の拡大や下顎の突出などがみられ、これだけでも診断可能な場合もあります(9a)。先端巨大症に罹患した患者が、昔に比べ顔貌が変わったといわれるのもこのためです。手指は太く短く皮膚がたるんだようになり、指末節骨は先端が花キャベツ様に肥大変形します(9b)。指輪がはずれなくなり、また、はまらなくなります。足はかかとの皮下組織が肥厚し、靴が履きにくくなります (9c)

下垂体腺腫の診断は何といってもMRIが有用です。特に造影剤を用いた画像の冠状断像および矢状断像が有用です。下垂体腺腫は造影効果の少ない腫瘍として描出されます (10a, 10b)。また、腫瘍が小さい場合は、造影剤の急速注入下に時間経過とともにMRIを連続して撮影し (ダイナミックMRI)、確実に診断する方法もあります(10c)

F診断方法

ホルモン分泌性の下垂体腺腫の診断の原則は、血中でのホルモンの過剰分泌とそれに伴う臨床症状およびMRIなどの画像診断上での下垂体部腫瘤の存在であります。非機能性下垂体腺腫の診断は、視神経や下垂体の腫瘍による圧迫症状とMRIなどの画像診断上での下垂体部腫瘤の存在であります。

1)プロラクチン産生腺腫

無月経や乳汁分泌などの臨床症状、血中プロラクチン値が高値、MRIでの下垂体腫瘤の証明、これらが満たされれば、診断は確定します。血中のプロラクチン値と腫瘍の大きさには正の相関があると言われています。高プロラクチン血症の原因として最も多いのが薬剤ですので、多量の胃薬や精神安定剤などの服用歴には十分注意が必要です。

2)成長ホルモン産生腺腫

表1に診断基準が示されていますので、これらを満たせば診断が確定するわけです。血中の成長ホルモン値の高値およびInsulin growth factor I (IGF-I、ソマトメジンC)の高値、さらにMRIでの下垂体腫瘤の証明、これらが満たされれば診断は確定します。血中の成長ホルモンが正常域でもIGF-Iが高値であれば、先端巨大症が疑われますが、成長ホルモンが高値でもIGF-Iが正常域の場合は、むしろ先端巨大症は否定的です。その理由は、血中の成長ホルモン値は日内変動しますし、ストレスや食事などのさまざまな要因により変化しますが、IGF-Iはそのような要因にはほとんど影響されないからです。

3)副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫

診断には、各種のホルモン負荷試験が必要ですが、それらの結果が全て2の診断基準を満たすとは限りません。クッシング症候群(8)は、下垂体腺腫だけではなく、副腎疾患や肺癌など異所性の副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍によっても生じます。また、MRI上、下垂体腫瘤が証明されても、その腫瘤が副腎皮質刺激ホルモンを分泌しているとは限りませんし、内分泌検査上、下垂体腺腫は明らかなはずなのにMRI上、腫瘤が小さすぎて証明されない場合もあります。そのような理由から、この疾患は、下垂体腺腫の中で最も診断が難しい腫瘍です。したがって、クッシング症候群の原因が内分泌学的検査にて明らかに下垂体に起因しており、MRI上、下垂体腫瘤が認められ、さらに下錐体静脈洞あるいは海綿静脈洞からの副腎皮質刺激ホルモンのサンプリングにより腫瘤からの副腎皮質刺激ホルモン分泌の証明が得られて初めて診断が確定します。

4)甲状腺刺激ホルモン産生腺腫

甲状腺機能亢進 (血中の甲状腺ホルモン高値)と血中の甲状腺刺激ホルモン高値およびMRI上の下垂体腫瘤の証明が揃えば、診断は確定します。

G治療法の選択

下垂体腺腫の治療の原則は、経蝶形骨洞的腫瘍摘出術です。腫瘍の種類、存在位置、大きさ、伸展方向などによっては、開頭腫瘍摘出術が選択される場合もあります。開頭術を選ぶ明確な定義づけはありませんが、一般的には次のような場合に選択されることが多いと考えられます。大きな腫瘍であるにも関わらず、トルコ鞍の風船状拡大がないか、あってもわずかな例、鞍隔膜によりくびれが生じ、トルコ鞍上部腫瘍が鞍内腫瘍よりも大きな例、鞍上部腫瘍が硬く、術後数か月経過してもトルコ鞍内に下降しない例、腫瘍が頭蓋内に広範囲に側方伸展している例などです。

プロラクチン産生腺腫、成長ホルモン産生腺腫や甲状腺刺激ホルモン産生腺腫などでは、薬剤が選択されることもあります。知っておかなくてはならない重要なことは、薬剤による治療は、腫瘍の増殖を抑えることはできますが、根本的に腫瘍をなくすことはできないということです。つまり、かなり長期にわたり、その薬剤を使い続けなければならないということです。長期にわたる通院、高額な医療費などを考慮すると、手術療法を選択した方が、賢明な場合もありますので、担当医とよく相談することをお勧めします。不幸して、手術後に腫瘍が残存した場合は、腫瘍の種類により、薬剤や放射線療法、あるいはその併用を余儀なくさせられます。各疾患につき概説します。

1)プロラクチン産生腺腫 

この腫瘍の治療法の選択は担当した医師によりかなり考え方はまちまちです。その理由は、手術によらなくても薬剤により、腫瘍の増殖を抑えることができるからです。最近では、1週間に1回内服するだけで、血中プロラクチン値を正常化し、腫瘍の増殖を抑える薬剤の使用が可能となりました。よって、手術の適応となるような症例は限られるということです。一般的には、手術の適応となるのは、手術のみで腫瘍を完全に除去できるような症例、つまり、10 mm以下の小さな腫瘍、あるいはそれ以上の大きさの腫瘍でも下垂体の両側方部に位置する海綿静脈洞という大事な神経や血管が通過する領域に浸潤していないような症例ということになります。その他、薬剤が無効な例、薬剤を定期的に内服できない例、吐き気などの副作用の為に内服を続行できない例などは手術の適応です。無月経の患者を診たとき、治療のプロセスをどのように考えたら良いかの一例を11に示します。手術および薬剤の長所、短所を患者によく説明し、自分の手術の技量も考慮した上で、治療法の選択をすることが望ましいと考えられます。

2)成長ホルモン産生腺腫・甲状腺刺激ホルモン産生腺腫

治療法の第一選択は経蝶形骨洞的手術による腫瘍の摘出です。手術的に摘出することが難しい領域 (海綿静脈洞内など)に腫瘍が残存した場合は、放射線療法 (ガンマナイフ)を施行します。放射線やガンマナイフの効果については後述致します。ガンマナイフは効果が出るまで、年月を要する場合が多いので、それまで、注射薬(月に1あるいは2回注射する)あるいは薬剤を使い、血中成長ホルモンあるいは甲状腺刺激ホルモンを制御します。残存腫瘍に対する治療は、注射薬あるいは薬剤だけでも良いのですが、前述しましたように根本的な治療ではないので、かなり長い期間続けることになります。

3)副腎皮質刺激ホルモン産生下垂体腺腫

 治療法の第一選択は経蝶形骨洞的手術による腫瘍の摘出です。しかしながら、この腫瘍の診断および治療は、前述のごとく、かなり難しいこと、また、再発率も他の下垂体腺腫に比べ圧倒的に高率であることなどから、この疾患については下垂体疾患の専門家に治療を委ねた方が懸命かも知れません。クッシング症候群を診た場合の治療の考え方の一例を12に示します。手術的に摘出することが難しい領域 (海綿静脈洞内など)に腫瘍が残存した場合は、放射線療法 (ガンマナイフ)を施行します。前述しましたように、ガンマナイフは効果が出るまで、年月を要する場合が多いので、それまで、薬剤を使い、血中コーチゾルを制御します。

4)非機能性腺腫

治療法の第一選択は経蝶形骨洞的手術による腫瘍の摘出です。大きな腫瘍の場合は、2回に分けて経蝶形骨洞的手術を施行し腫瘍を摘出することもあります。トルコ鞍の大きさや腫瘍の伸展方向・性状 (線維性分に富む硬い腫瘍など)よっては、開頭術を選択する場合もあります。手術的に摘出することが難しい領域 (海綿静脈洞内など)に腫瘍が残存した場合は、経過観察しながら、もし、増大傾向があれば、再手術あるいは放射線療法 (ガンマナイフ)を施行します。この腫瘍に対しては、有効な薬剤はありません。

治療法

1)手術法 

手術法は経蝶形骨洞的手術と開頭術の2つに分けられます(13)。経蝶形骨洞的手術には、上口唇下を切開する方法と直接鼻腔からアプローチする方法に分けられます(14)。また、手術用顕微鏡を使用する場合と神経内視鏡を用いる場合、およびその両者を併用する場合があります。これらについては、施設により、術者により、得意とするアプローチが各々選択されているのが現状です。熟練者による手術成績は、どの手術法を選択しても、それほど大きな相違はありませんので、それらの利点、欠点に関して、よく説明を受けた上で、患者さん本人が選ぶことも可能です。また、開頭術は、腫瘍の性状や伸展方向に応じていくつかのアプローチがあります。これも施設により、術者により、多少の違いがあります。ここでは、自分が施行している直接鼻腔からアプローチする方法を概説します。

a. 術前処置

 手術前に耳鼻咽喉科を受診をしていただき、副鼻腔やその他の鼻内の急性炎症の有無を確認し、必要があれば治療を行います。入院後より、両側鼻孔を綿球にて塞いで呼吸、飲水および食事摂取の練習を行います。

b. 手術操作

手術は一般的な気管内挿管による全身麻酔にて行います。左鼻腔の鼻粘膜に鼻中隔軟骨の前縁に沿って逆J字型の切開を加えます(15)。次に、鼻中隔軟骨実質と軟骨膜を剥離します(16)。さらに深部に剥離を進め、鼻中隔の下側を脱臼させ右側に圧排し、鼻中隔を中央に見ながら両側の剥離を進めます。患者の鼻孔の大きさや鼻腔の深さに応じて鼻鏡を選択し、蝶形骨洞前壁まで挿入します(17)。ドリルを用いて蝶形骨洞前壁を開窓します。閉創時の鞍底部形成のために用いるために蝶形骨洞前壁を上手くくり抜きます。トルコ鞍底部をドリルで開窓すると硬膜が見られます。硬膜を十分に切開した後、まず、直視下に見られる腫瘍を可及的に摘出します(18a)。次に、側方部やトルコ鞍上部前方あるいは後方に伸展した腫瘍のような通常直視下の摘出が困難な領域に存在する腫瘍に関しては、ミラーあるいは内視鏡を見ながら、直視下に腫瘍を摘出します(18b, c)。腫瘍摘出終了後、腫瘍摘出腔には、大腿部内側部より摘出した筋肉組織を充填します。事前に摘出しておいた蝶形骨洞前壁を用いて鞍底部を形成します。鼻鏡を抜去し、鼻中隔軟骨を正中に戻し、切開した粘膜を縫合します。両側の上・中鼻道には軟膏付きガーゼを充填します。軟膏付きガーゼは術後3日目に抜去します。

代表例の術前・術後の下垂体部のMRIを供覧致します(19, 20)

2)放射線療法

下垂体腺腫を治癒させることができるもう一つの手段が、放射線療法です。放射線療法については、手術により可能な限り腫瘍を摘出した後、手術的に摘出困難な領域に残存した腫瘍に対して行うことが原則です。放射線療法は一般的な放射線療法と定位的放射線療法 (ガンマナイフ)に大別されます。一般的な放射線療法では、残存腫瘍や腫瘍の再発・再増大における腫瘍の増殖制御の有効性は、既に多数の報告があり認められています。しかし、その副作用として視神経の障害、正常下垂体の機能障害、血管障害、放射線に誘発された腫瘍などが報告され、問題視されてきました。最近になり、残存腫瘍や腫瘍の再発・再増大における腫瘍の増殖制御におけるガンマナイフの有効性が報告されるようになりました。ガンマナイフ療法は、照射範囲、照射量などを正確に決めることができますので、視神経障害や下垂体機能障害などの副作用もほとんど報告されておりません。また、一般的な放射線療法が約一ヶ月半の入院期間を要するのに対し、ガンマナイフは二泊三日で澄みます。両者ともに保険の適応があります。以上のような理由より、最近では、術後の残存腫瘍の増殖制御には、ガンマナイフが選択されているのが現状です。しかし、ホルモン産生腫瘍におけるホルモンの過剰分泌の制御という点では、未だ、満足する結果が得られておらず、これからの課題であります。また、経過観察期間が未だ短いので、今後、さらなる検討が必要であることは言うまでもありません。

I偶然発見された下垂体腺腫の取扱いについて

偶然発見された、いわゆる無症候性の下垂体腺腫の大多数は、非機能性下垂体腺腫です。このような腫瘍に対する治療法の選択については日本脳ドッグ学会が推奨するガイドラインがあります。手短に言いますと「下垂体部腫瘤が発見された場合、実質性かつ鞍上進展 (視神経に接触または軽度挙上)がみられれば手術 (おもに経蝶形骨洞的手術)が勧められる」ということです。詳細につきましては、3に示しますので参照して下さい。

J推奨リンク先

代表的論文

表1. 末端肥大症(先端巨大症)の診断基準(厚生省間脳下垂体機能障害研究班2003年)

T. 主症候(注1)

  1. 手足の容積の増大.
  2. 先端巨大症様顔貌(眉弓部の膨隆, 鼻・口唇の肥大, 下顎の突出など)
  3. 巨大舌

U. 検査所見

  1. 成長ホルモン(GH)分泌の過剰
    1. 血中GH値がブドウ糖75g経口投与で正常域まで抑制されない.(注2)
    2. 尿中GHの高値(但し腎障害のない場合).
  2. 血中IGF-1(ソマトメジンC) 高値.(注3)
  3. CTまたはMRIで下垂体腺腫の所見を認める. (注4)
  4. (参考)頭蓋骨および手足の単純X線の異常.(注5)

V. 副症候

  1. 発汗過多
  2. 頭痛
  3. 視野障害
  4. 女性における月経異常
  5. 睡眠時無呼吸症候群
  6. 耐糖能異常
  7. 高血圧
  8. 咬合不全

診断の基準

確実例:Tのいずれか、およびUをみたすもの

疑い例:Tのいずれかをみたし、かつVのうち2項目以上をみたすもの

(注1) 発病初期例や非典型例では症候が顕著でない場合がある.

  • 正常域とは、血中GH底値1μg / L (イムノメトリックアッセイによる)未満である。糖尿病、肝疾患、腎疾患、青年では偽陰性を示すことがある。また、本症では血中GH値がTRHやLH-RH刺激で増加(奇異性上昇)することや、ブロモクリプチンなどのドパミン作動薬投与で血中GH値が増加せず、変化しなかったり、逆に減少(奇異性低下)することがある。
  • 健常者の年齢・性別基準値を参照。栄養障害、肝疾患、腎疾患、甲状腺機能低下症、コントロール不良の糖尿病などが合併すると偽陰性の場合がある。
  • 明らかな下垂体腺腫所見を認めない時や、ごく稀にGHRH産生腫瘍の場合がある。
  • 頭蓋骨単純X線でトルコ鞍の拡大および破壊、副鼻腔の拡大と突出、外後頭隆起の突出、下顎角の開大と下顎の突出など、手X線で手指末節骨の花キャベツ様肥大変形、足X線で足底部軟部組織厚heel padの増大=22mm以上(但しこれは欧米人で得られた基準値である)を認める。

表2. クッシング病の診断基準(厚生省間脳下垂体機能障害研究班)

T. 症候(注1, 2)

次の症候のいくつかがみられる.

  1. 満月様顔貌
  2. 中心性肥満・buffalo hump
  3. 高血圧
  4. 月経異常
  5. 赤紫色の皮膚伸展線条(幅5mm以上が多い)
  6. 皮下溢血
  7. 座瘡 (にきび)
  8. 多毛
  9. 筋力低下
  10. 浮腫
  11. 糖尿
  12. 骨粗鬆症(若・中年)
  13. 色素沈着
  14. 精神異常
  15. 発育遅延(小児の場合)
  16. 皮膚萎縮

U. 検査所見

  1. cortisolおよびACTH過剰分泌の証明.
    1. @血中cortisolおよびACTHの増加および,または日内変動消失.
    2. A尿中17-OHCSまたは遊離cortisolの増加.
  2. cortisolおよびACTH過剰分泌に対する抑制試験の異常(注3).
  3. (参考) metyrapone投与により尿中17-OHCSまたは血中ACTHおよび11-deoxycortisolは正常ないし過大反応を示す.
  4. (参考) 下垂体腫瘍の診断には画像診断(CTスキャン, MRI, X線撮影など)が有用.

V. 除外規定

  1. 異常所見ACTH産生腫瘍によるクッシング症候群をのぞく.
  2. CRH産生腫瘍によるものはのぞく.
  3. 原発性副腎疾患(過形成, 腫瘍)によるクッシング症候群はのぞく.
  4. ACTHまたは糖質コルチコイド投与によるものはのぞく.

(注1) 発病初期例や非定型例では症候が顕著でない場合があるので注意を要する.

(注2) 症候はおおよそ頻度の高い順に並べているので, 頻度の高い症候が多いほど確実例と考えられる.

(注3) 方法としてNugent法(dexamethasone 1mg , 午後11時1回経口投与, 翌朝8〜9時の血中cortisol測定)およびLiddle法( dexamethasone 1回0.5mg, 6時間ごとに8回経口投与, 投与前より投与終了翌日まで尿中17-OHCSを測定)がある.

判定には, 短時間内, 日内, 日差変動を考慮するが, 正常では, Nugent法では, 血中cortisolが5μg/dl以下に, Liddle法では尿17-OHCSが3mg/日(2mg/gクレアチニン)以下になる. 標準用量で正常に抑制されても臨床的になおクッシング病が疑わしいときは, さらに少量のdexamethasone(Nugent法では0.5mg, Liddle法では1.5mg/日・3分割3日間, 0.5mg/日・4分割4日間)を投与し, 抑制されたときには本症が否定的となる. 頻度の高い症候が多いほど確実例と考えられる.

表3. 脳ドッグのガイドライン2003 (推奨)

無症候性脳腫瘍及び腫瘍性病変

下垂体部腫瘤が発見された場合、実質性かつ鞍上進展 (視神経に接触または軽度挙上)がみられれば手術 (おもに経蝶形骨洞的手術)が勧められる. 嚢胞性病変および小さな実質性病変に対しては、当初6ヶ月毎2回、以後年1回のMRIによる経過観察を行う (注意1). この際同時に下垂体前葉機能検査をする (注意2).

経過観察中に腫瘤の増大傾向あるいは個々の特殊な事情があれば、年齢、局在、手術リスク等を考慮した上で患者に説明し、十分な理解を得て治療を行う. 治療とは主として手術療法を指すが、定位的放射線療法 (ガンマナイフ等)の適応も考慮する.

注意1 下垂体偶発腫に関する全国多施設調査報告によると、6ヶ月以上経過観察された下垂体部腫瘤242例中、不変180例 (74.4%)、増大30例 (12.4%)、縮小29例 (12.0%)、変化3例であった. この中で腺腫 (実質性腫瘤主体)と考えられた115例では、不変72%、増大20%、縮小10%であった. 一方、嚢胞と考えられた94例では、不変77%、縮小16%、増大5%、変化2%であった. そのため、実質性で特に視神経に接触する程度の鞍上進展を示す腫瘤に対しては経蝶形骨手術が勧められる.

一方、嚢胞性病変の場合は増大率が5%と低い上、急激な増大 (下垂体卒中)の可能性も極めて少ないと考えられるため、経過観察でよいと思われる. さらにトルコ鞍内に限局するようなより小さな実質性病変も一般的には経過観察を行い、増大傾向がみられた場合に手術適応を考えればよいであろう.

注意2 下垂体前葉機能検査としては、GH、PRL、ACTH、cortisol、TSH、fT3、fT4、FSH、LHの基礎値を測定する. PRLの上昇は腫瘤の増大を示唆する. 副腎や甲状腺の機能低下に対してはホルモン補充療法を行うことが望ましい.

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