急性硬膜外血腫

T.概要

急性硬膜外血腫は主として頭部外傷により発生します.外傷性頭蓋内血腫には解剖学的位置関係から,硬膜外血腫,硬膜下血腫,脳内血腫(脳挫傷)がありますが,これらのうち硬膜外血腫は頭蓋骨と硬膜の間に発生するものであり(図1),出血源は硬膜に存在する動脈(中硬膜動脈)または静脈(静脈洞)であります.頻度は全頭部外傷の1〜3%,致命的頭部外傷の5〜15%を占めるといわれています.

*硬膜外血腫の特殊型として,後頭蓋窩硬膜外血腫と遅発性硬膜外血腫があります. 両者はともに静脈性出血であることが多く,比較的亜急性〜慢性に発症してきます.前者は10歳以下の小児に多く,後者は出血性ショックや播種性血管内凝固症候群(Disseminated intravascular coagulopathy: DIC)に合併して認められます.

U.重症度

頭部外傷の重症度を表す尺度として代表的なものはグラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale: GCS)(表1)とジャパン・コーマ・スケール(Japan Coma Scale: JCS)があります.GCSは開眼反応,言語反応,最良の運動反応で評価され,その合計点の範囲は3〜15点となります.一般的には3〜8点を重症,9〜13点を中等症,14〜15点を軽症と定義されています.

表1.グラスゴー・コーマ・スケール (Glasgow Coma Scale: GCS)

E T.開眼反応 (eye opening)
4 自発的に (spontaneous)
3 呼びかけにより (to speech)
2 痛み刺激により (to pain)
1 全く開眼しない (nil)
V U.言語反応 (verbal response)
5 見当識あり (orientated)
4 混乱した会話 (confused conversation)
3 不適当な言葉 (inappropriate word)
2 理解不能な音声 (incomprehensible sound)
1 全く音声なし (nil)
M V.最良の運動反応 (best motor response)
6 命令に従う (obeys)
5 疼痛部位識別可能 (localizes)
  四肢を屈曲する:
4  非識別性逃避反応 (withdraws)
3  異常屈曲 (abnormal flexion)
2 四肢(異常)伸展 (extends)
1 全く動かさない (nil)

GCSはE+V+Mの合計点で評価され,スコアは3〜15点となる.スコアが低いほど,重症である.

 

V.日本頭部外傷データバンク(Japan Neurotrauma Data Bank: JNTDB)

JNTDBには重症例(搬送時に半昏睡〜昏睡状態,GCS 3-8)のほかに,「受傷時はGCSが9以上であったが,その後意識障害が悪化した」(talk and deteriorateを含む)例およびGCS 9-15の脳神経外科手術例が登録されています.これまでプロジェクト1998 (P1998)とプロジェクト2004 (P2004)の2つの大規模研究が行われ,両研究を比較することにより,最近の動向が明らかになります.P1998とP2004で登録された症例数はそれぞれ1002例,1101例でありますが,そのうち硬膜外血腫は前者で130例(13%),後者で121例 (11%)で,両プロジェクトの頻度に差はありませんでした.

  1. 年齢分布を図2に示します.P1998, P2004ともに10-20歳代の若年層と40-60歳の壮年層に2つのピークがありますが,P2004では多少若年層が減少傾向,高齢者が増加傾向を示しています.なお,平均年齢,中央値はP1998では40.0±22.3 歳, 38歳でありましたのに対し,P2004ではそれぞれ43.2±22.2歳.42歳と上昇傾向を示しています.
  2. 受傷原因:P1998では交通事故が52%,転落・転倒が38%,その他が10%であり,P2004ではそれぞれ55%,33%,12%であり,変化がありませんでした.
  3. 重症度:P1998ではGCSスコア8点以下が58%,9〜14点が32%,15点(ほぼ意識清明)が10%でありましたのに対し,P2004ではそれぞれ36%, 54%, 10%であり,有意に重症例が減少しています (p=0.0010).


図2.日本頭部外傷データバンクにおける硬膜外血腫の年齢分布

W.診断方法

臨床(神経学的)診断で硬膜外血腫に特異的なものはありません.確定診断を得るには下記の画像診断が重要となります.

1. CTスキャン

画像診断の第一選択はCTスキャンであります.単純CTで頭蓋骨直下に両凸形,ときに三日月形の高吸収域が認められ,縫合線を超えていなければ診断は容易であります(図3).また超急性期にみられる混合吸収域は,初回検査では少量であっても,急激に増大する可能性があり,注意深い経過観察が必要であります.鑑別すべきは急性硬膜下血腫であります(表2).急性硬膜下血腫では多くは三日月形を呈し,縫合線を超えて大脳半球表面に拡がるのが特徴的であります.また重症例のCT所見では硬膜外血腫のほかに,脳損傷(脳内出血巣,脳腫脹など)やクモ膜下出血(図4)が認められる場合があります.

表2.硬膜外血腫と急性硬膜下血腫の鑑別

画像上の特徴 硬膜外血腫 急性硬膜下血腫
血腫の形態 両凸形,ときに三日月形 三日月形,ときに両凸形
縫合線との関係 血腫が縫合線を超えることはほとんどない 血腫は縫合線を超えて大脳半球表面に拡がる



2. 頭蓋単純撮影

中硬膜動脈や静脈洞に一致した血管溝を横切る線状骨折(図3)を認めれば,硬膜外血腫を疑うことができます.また陥没骨折でも発生することがあります.しかし骨折を認めない例が10%程度存在するといわれています.ちなみにJNTDBのP1998のデータでは線状骨折の頻度は88%でありました.

3. MRI

より精度の高い診断方法でありますが,撮像時間が長く,急性期の画像断としては適さない場合があります.しかし冠状断や矢状断を撮像することが可能で,また頭蓋骨の影響を受けないため,頭蓋底部の硬膜外血腫の拡がりを診断するには有用であります(図5).

4. 硬膜外血腫と脳損傷との関係

画像(CT)上の脳損傷には前述のように,脳内血腫,挫傷性血腫(いわゆるsalt and pepper appearance),脳腫脹(片側,両側)などが報告されています.脳損傷の合併頻度は重症例(GCS 8以下)のみを対象としますと69%と高く報告されていますが,JNTDB P1998のデータ分析では非重症例も含まれていますので32%でありました.内訳は脳内血腫巣を呈する例が多い傾向にあり,次いで脳腫脹の順でありました.

X.治療選択

治療選択は神経症状の進行度や合併する脳損傷の程度によって決定されます.

1.血腫が増大し脳幹反応(対光反射,人形の目反射,角膜反射など)が消失した例や脳損傷の程度が重症で回復が望めない例では,積極的治療の適応外となります.

2.脳損傷を伴わないか,伴っても軽度の硬膜外血腫では,血腫の量が少なければ保存的治療で経過観察を行い,良好な結果が得られます(図6).ただし,前述のように,超急性期(発症後数時間以内)に血腫が小さくても,その後急激に増大する例がありますので,保存的に経過をみる場合には注意深い経過観察が必要であります.血腫の量が多くなれば外科的治療(手術)の対象となります.2006年に改訂されました重症頭部外傷治療・管理のガイドライン第2版における硬膜外血腫の手術 適応と手術方法を表3に呈示します.しかしガイドラインはあくまでも指標であり,神経症状,画像所見などを総合的に評価し,手術適応が決定されます.

表3.硬膜外血腫の手術適応と手術方法(重症頭部外傷治療・管理のガイドライン第2版)

適応基準
  1. 厚さ1〜2 cm以上の血腫,または20〜30 ml以上の血腫(後頭蓋窩は15〜20 ml以上)や合併血腫の存在時には原則として手術を行う.
  2. 神経症状が進行性に悪化する場合は緊急手術の適応となる(とくに,受傷後24時間以内の経時的観察とrepeat CTがひつようである).
  3. 神経症状がない場合は厳重な監視下に保存的治療を行うことも可能である.
時期 可及的早期に行うのが望ましい.
方法 開頭血腫除去術が原則である.

 

Y.治療方法

治療方法には保存的(薬物)治療と外科的治療(手術)があります.

1. 脳損傷を伴わない硬膜外血腫:

  1. 血腫の量が少ない場合や多すぎてすでに脳幹反応が消失している場合は,原則として保存的治療を行いますが,後者の場合はほとんど救命することができません.
  2. 血腫の量が中等量〜多量の場合は,手術治療を行います.原則として,全身麻酔下に開頭・血腫除去術を施行します(図7).手術の時期は可及的早期に行うことが理想的であります.
  3. 搬入時に急激に神経症状が悪化する例では,救急外来(処置室)で,穿頭術(頭蓋骨に直径13mm程度の穴を開ける)を行い,血腫を吸引・除去することもあります.

2. 脳損傷を伴う硬膜外血腫:

脳損傷には前述のように,脳内血腫,挫傷性血腫,脳腫脹などがあり,これらの程度により,種々の外科的治療および薬物療法を組み合わせて治療します.

  1. 脳損傷が軽度であれば,脳損傷と伴わない場合と同様に治療を行います.
  2. 脳損傷が中等度〜重度であれば,さらに薬物療法や外科的治療を加えますが,この場合も回復が見込めなければ積極的治療の対象外となります.具体的には硬膜外血腫を除去しても,頭蓋内圧亢進(上記の脳損傷が原因で頭蓋骨内の圧が高いこと)が存在する場合には,高浸透圧利尿薬(マニトール,グリセロールなど)を投与したり,脳室ドレナージ(脳室内にチューブを挿入)を設置して髄液を排除したりします.これらが有効でない場合には,さらにバルビツレート療法や低体温療法を行うこともあります.また脳内血腫や挫傷性血腫では,薬物療法が有効でない場合,出血の大きさが3cm以上,頭蓋内圧が30mmHgを超える場合には,脳内血腫(挫傷巣)除去術や広範囲減圧開頭術(頭蓋骨の骨弁を除去し人工硬膜を用いて硬膜を形成する手術)を加える場合もあります.

Z.転帰

転帰は合併する脳損傷の程度によって決定されます.脳損傷を伴わない例では早期診断・早期手術が施行されれば,良好な転帰が得られます.また転帰を悪化させる因子としては,術前の意識障害が強い例(脳損傷が強い例),受傷より手術までの時間が短い例(重症例が多いといわれています),脳幹障害を呈する例,高齢者などが挙げられています.

転帰の評価法としては種々のスケールが用いられていますが,本稿では頭部外傷で汎用されていますグラスゴー・アウトカム・スケール(Glasgow Outcome Scale: GOS)で評価しました.GOSは5段階評価で,good recovery(GR: 正常生活に復帰),moderate disability(MD: 日常生活は自立),severe disability(SD: 介護に依存した生活),vegetative state(VS: 植物状態),death(D: 死亡)に分類されています.

以下にJNTDBにおける退院時転帰の分析結果を示します.

重症度別転帰の最近の動向を図8に示します.GCS 3-8の重症例ではP2004はP1998と比較して,GRが20%から35%,死亡が21%から14%と変化し改善傾向を示しましたが,統計学的には有意差を認めませんでした.GCS 9-15においても同様の傾向を示しましたが,これも差を認めませんでした.次に年齢別転帰の最近の動向を図9に呈示します.6-19歳,20-39歳,40-59歳ではP2004はP1998と比較して,GRが増加傾向,死亡が減少傾向を示しました.一方60歳以上の高齢者ではGR,死亡ともに減少傾向を示しましたが,いずれも差を認めませんでした.

さらにP1998における脳損傷,とくに多発性脳内出血巣,片側または両側びまん性脳腫脹を呈する損傷の有無による転帰を分析しますと,脳損傷を認めた群ではGRがわずかに20%,死亡が30%でありましたのに対し,認めなかった群ではGRが47%,死亡が8%と有意に良好でありました(p=0.0029).


図8.日本頭部外傷データバンクにおける硬膜外血腫の重症度別転帰の経時的変化
P: project, GR: good recovery, MD: moderate disability,
SD: severe disability, VS: vegetative state, D: death


図9.日本頭部外傷データバンクにおける硬膜外血腫の年齢別転帰の経時的変化
P: project, GR: good recovery, MD: moderate disability,
SD: severe disability, VS: vegetative state, D: death

[.まとめ

硬膜外血腫は脳損傷を伴うか否かで,最終的な予後が異なります.脳損傷を伴わない例では,早期診断・早期治療(手術)により良好な予後が期待できます.それには頭部打撲後に頭痛,嘔吐が続く場合,意識障害が進行する場合,運動麻痺がある場合などは,早期に脳神経外科施設を受診することが重要であります.脳損傷を伴う場合はその程度によって予後が決定されます.しかし受傷後早期に脳神経外科または救急センターへ搬送することによって,低酸素症,低血圧症などによる二次的損傷を最小限に抑えることができ,予後の悪化を防ぐことが期待されます.

\.参考文献

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