脊髄腫瘍

脊髄腫瘍の概念と分類

脊髄およびその周囲組織にできる腫瘍で、脊髄、神経根(しんけいこん、脊髄からでる細い神経の根元)、あるいは脳脊髄を包む硬膜(こうまく)、更にその周囲にある脊椎(せきつい)から発生します。発生する頻度は10万人あたり1〜2人で、脳腫瘍の1/5〜1/10程度と比較的珍しい病気です。脊髄腫瘍は発生する場所により、硬膜の外側(脊椎を含める)にできて硬膜の外から脊髄を圧迫するもの(硬膜外腫瘍、図中A)、硬膜の内側で脊髄と硬膜の間に腫瘍ができて脊髄を圧迫するもの(硬膜内髄外腫瘍、図中B)、脊髄の中から発生するもの(髄内腫瘍、図中C)の三つに分類されます。脊髄の中から発生する腫瘍以外は、脊髄が腫瘍によって圧迫されて症状がでてくるのが普通です。脊髄の中から発生する腫瘍は、脊髄そのものが傷害されます。


脊髄腫瘍の3つの分類

脊髄腫瘍の種類

硬膜外腫瘍で最も頻度が高いものは転移性腫瘍(悪性)です。これは体の他の場所にできたがんが脊椎などに転移したもので、脊椎(骨)を壊しながら大きくなり、脊髄を圧迫します。肺癌、乳がん、前立腺がん、消化器がんなどが脊椎に転移しやすいがんとして知られています。原発巣が発見される前に脊椎に転移し、背骨のひどい痛みのために転移巣が硬膜外腫瘍として先に発見されることもあります。

硬膜内髄外腫瘍で頻度が高いものは、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)と髄膜腫(ずいまくしゅ)です。神経鞘腫は、幹(脊髄)からでた枝のような細い神経即ち神経根から発生し、脊髄を圧迫します。髄膜腫は硬膜から発生し、腫瘍の増大とともに脊髄を圧迫します。いずれも通常は良性でゆっくり発育し、脊髄との境界は比較的はっきりしています。

髄内腫瘍は、上衣腫(じょういしゅ)と星細胞腫(せいさいぼうしゅ)が多くを占めます。これらの腫瘍は脳の中にも発生しますが、脳内に発生する場合と比較して、脊髄では上衣腫の割合が高いという特徴があります。これらは一括して神経膠腫(しんけいこうしゅ)と呼ばれますが、脊髄組織を形成する細胞である神経膠細胞から発生します。脊髄の中から発生し周囲の脊髄組織に浸潤するため、腫瘍と脊髄の境界は不明瞭です。多くは良性ですが、悪性の場合治療は困難となります。

脊髄腫瘍の症状

脊髄腫瘍の多くを占める良性の腫瘍の場合、数ヶ月から数年の経過で症状が進行し、悪性の場合は症状が早く進行します。一般的にははじめ手足の感覚が障害され、局所の痛みが出現する場合もあります。腫瘍が増大して脊髄の圧迫がひどくなるにつれて、手足の麻痺が出現し、更に進行すると尿は便が出にくくなったり、もらしてしまうこともあります。

脊髄は頭に近い方から連続して頚髄(首の部分)、胸髄(背中の部分)、腰髄(腰の部分)となっていますが、どの高さに腫瘍ができたかによって症状が違います。例えば、頚髄に腫瘍ができると、手足や体幹(胸腹背中)の感覚障害や麻痺、がでるかもしれませんが、腰髄に腫瘍ができた場合、手に影響はなく足に影響がでます。

脊髄腫瘍の診断

症状や神経検査で脊髄腫瘍を疑った場合、以前は脊髄造影(背中から針を刺して造影剤を脊髄周囲の髄液に入れ、脊髄の形をみる検査)が行われましたが、現在はまずMRIを撮ります。MRI検査でほとんどの脊髄腫瘍は診断することができます。ただしMRI検査の際に造影剤を使わなければなりません。腫瘍が周囲の骨を壊したり、腫瘍自体に骨のような硬い組織を含む場合、あるいは神経や硬膜ではなく脊椎からでた腫瘍を疑う場合には、CTスキャンや脊椎のレントゲン撮影を行います。腫瘍に血管が豊富に含まれている場合、あるいは腫瘍か血管由来の病気か診断が難しい場合には、血管撮影を行います。


硬膜外腫瘍(転移性腫瘍)のMRI
(縦断面を横からみる)
椎体の転移性腫瘍が前方から脊髄を圧迫している (矢印)

髄内腫瘍(上衣腫)のMRI
(縦断面を横からみる)
頚髄から上位胸髄に腫瘍がある

脊髄腫瘍の治療

硬膜外腫瘍の中で転移性腫瘍を例にとると、通常脊椎を破壊するように発育して脊髄を圧迫しているので、患者さんの状態がよければ手術をして腫瘍を摘出します。しかし通常原発巣にがんが残存しているため、脊椎の転移巣を手術しても病気を完治することはできません。手術により脊髄の圧迫を取り除き日々の生活の質を保つことが目的です。また体を支える機能をもつ脊椎も破壊されているため、同時に脊椎の再建も行わなければなりません。

硬膜内髄外腫瘍は、手術顕微鏡を用いて摘出します。圧迫によって弱っている脊髄を傷つけないように慎重に腫瘍と脊髄との境界を分けて腫瘍を摘出します。摘出した腫瘍の病理標本で良性であることが確認されれば、放射線や薬物による治療は必要ありません。また腫瘍が全摘出されれば再発は稀です。

髄内腫瘍は、腫瘍と脊髄の境界が不明瞭なため、腫瘍をとるためには手術顕微鏡を用いた精密な手術が必要です。特に脊髄は、手足を動かす神経線維や感覚を司る神経線維等大事な神経線維が束になって密に存在するため、これら神経を傷つけないよう細心の注意が必要です。上衣腫は比較的境界がはっきりしていることが多く摘出できる場合が多いのですが、星細胞腫は境界が不明瞭な場合が多く、その場合腫瘍の全てを摘出することは困難です。手術中の所見で境界がはっきりしない場合は、ある程度腫瘍の容積を減らすか、あるいは腫瘍のごく一部をとって病理診断をつける生検に終わる場合もあります。残った腫瘍に対して、放射線照射や抗癌剤による化学療法を行うことがあります。特に腫瘍が悪性であった場合、脳内の悪性腫瘍と同様にこれら補助療法が必要と考えられています。脊髄髄内腫瘍は頻度が少ないため、これら補助療法の効果を科学的に証明する確実なデータはいまだ不足していますが、補助療法を追加しなければ、あるいは追加したとしても悪性髄内腫瘍の患者さんは、未だ短期で生命を奪われるのが実情です。

参考文献

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