二分脊椎
二分脊椎とは
二分脊椎とは、胎児期に脊髄神経が入っている背骨のトンネル(脊柱管)の形成がうまくいかず、一部が完全に閉鎖していない状態のことを言います。二分脊椎には、脊髄組織が露出した状態で生まれてくる開放性の二分脊椎である「脊髄髄膜瘤」と、皮膚組織で覆われた状態で生まれてくる潜在性の二分脊椎に分けられますが、潜在性の二分脊椎の頻度が高い疾患として「脊髄脂肪腫」があります。
図1:脊髄髄膜瘤(左)と脊髄脂肪腫(右)
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二分脊椎の病型
1.脊髄髄膜瘤
脊髄髄膜瘤の原因
妊娠早期に行われる胎生期神経管の閉鎖が何らかの理由で障害され、開いたままになってしまうことで生じると言われていますが、原因の詳細はまだ分かっていません。
環境因子としては、妊娠初期の葉酸摂取が脊髄髄膜瘤の頻度を下げるとの報告があることから、厚生労働省では、脊髄髄膜瘤の子供が出来ることのリスク低減のために、妊娠を計画している女性は食品に加えて、いわゆる栄養補助食品から1日0.4mg(400μg)の葉酸を妊娠する4週間前より妊娠12週までの間は摂取するよう呼びかけています。
脊髄髄膜瘤の症状
脊髄は、閉鎖しなかった部分は機能障害を起こすため、閉鎖不全部位より足側の神経障害を伴うことが多いです。閉鎖不全の部位が低い位置の場合は排尿、排便障害が中心ですが、より高い位置になるにつれ下肢の運動感覚障害を伴うようになります。70%以上の脊髄髄膜瘤の患者の知能は正常で、知的障害があっても比較的軽度であることが多いです。
図2:脊髄髄膜瘤では、瘤がある部分より足側の脊髄の障害が生じ、水頭症やキアリU型奇形を合併することがあります。
また、脊髄髄膜瘤には水頭症、キアリ奇形を合併することが多くあります。水頭症は、80%以上の例で治療が必要となります。水頭症の症状、治療については別項目に記載されているので参照ください。キアリ奇形はU型の奇形であり、通常症状はありません。しかしながら症状が出現する場合は喘鳴、無呼吸、嚥下障害など命に関わる症状であるため注意が必要で、大孔―頚椎の減圧術が必要になる場合もあります。詳しくはキアリ奇形の解説を参照してください。
脊髄髄膜瘤の診断
脊髄髄膜瘤は最近では胎児期に胎児超音波検査で診断される機会が増えてきています。出生後には早期にMRIを撮影し、髄膜瘤の内部の構造や水頭症の状況を確認します。
脊髄髄膜瘤の治療
出生前診断されている場合には帝王切開が望ましいように考えられています。出生後手術を受ける期間までの間はうつぶせに寝かせます。開放されたままの神経組織(脊髄のことです)からは髄液が流出し、感染する危険性がありますので、早期に修復のための手術を実施します。脊髄髄膜瘤の外科的修復のタイミングとしては、出生48時間以内に行うことが一般的です。
シャント管理(水頭症の項目を参照してください)や脊髄の係留(脊髄が全体に下の方にひっぱられること)に対する治療が必要になることもあり、長期にわたる脳神経外科での経過観察が必要となります。また、小児科や泌尿器科による尿路管理、整形外科による足の変形や側彎(背骨の左右のゆがみやねじれ)の管理、そして青年期から若年成人にかけては精神的なフォローが必要になることがあります。
2.脊髄脂肪腫
脊髄脂肪腫の原因
脊髄脂肪腫は、神経管が閉鎖する段階での皮下脂肪の元となる組織の迷入が起こり、脊髄から皮下脂肪が付着した状態になることが原因と考えられています。皮下脂肪が付着した脊髄が足側へ牽引された状態になり、症状が出現します。
脊髄脂肪腫の症状
脊髄脂肪腫では、新生児や乳児の背中や腰の真ん中やそれに近い場所に皮膚病変を認めます。図1で示しているように、背中の瘤があるような例や、背中のあざやくぼみがほとんどの症例で認められます。多くの乳児例は無症状で、成長に伴い脊髄の牽引が強くなる(脊髄が下の方に引っ張られる)ことで脊髄が損傷され、排尿、排便障害や足、特に足関節の筋力低下が生じます。
図3:脊髄脂肪腫では、脊髄が脂肪腫と付着し、下方へ牽引され障害が生じます。
脊髄脂肪腫の治療
脊髄脂肪腫の手術では、脂肪腫と脊髄との付着部を離断し、脂肪腫を摘出することで脊髄が足側へと引っ張られないようにします。手術を実施する時期については、いったん出現した症状はその後手術を行っても改善しにくいことから、症状が出現する前に予防的な手術を行うという考えが一般的ですが、症状が出現してから手術を行った方が良いと考える医師もいるため主治医とよく相談する必要があります。
手術を行うことで排尿排便障害といった症状の出現が予防されることが期待されますが、術後脊髄が再度周囲組織と癒着し、その癒着を剥がす手術が必要となる例もあります。身長が伸びている間は定期的な検査を受け、症状が軽いうちに治療が受けられるようにする必要があります。