頭蓋咽頭腫
頭蓋咽頭腫とは
頭蓋咽頭腫は胎生期の頭蓋咽頭管が消えずに残ったものから発生する先天性腫瘍と考えられています。ホルモンの中枢である下垂体をぶら下げる柄に発生し、頭蓋底の中央にあるトルコ鞍と言う頭蓋骨のくぼみの中あるいはその直上に発生します。のう胞を形成しやすく、中にモーター油に似た内容液とコレステロール結晶を含みます。腫瘍実質内には、砂状、結節状の石灰沈着がみられます。頻度は全脳腫瘍中の3%程度ですが、この腫瘍の1/5は15歳未満の小児期に発生します。
頭蓋咽頭腫の症状
頭蓋咽頭腫はトルコ鞍上部から上方に進展し増大すれば、脳脊髄液の経路であるモンロー孔を閉塞することで、脳の中に過剰に水が溜まる水頭症を来たし、頭痛や嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状を起こします。また、腫瘍そのものが視神経を圧迫することで視野欠損を引き起こします。さらに、下垂体の機能を低下させることにより、小児期の身体発育を遅延させ、低身長、薄い毛髪、基礎代謝の低下等、下垂体機能不全などの症状を起こします。また、視床下部症状として、低体温、傾眠、尿崩症、電解質異常も起こることがあります。成人では、視神経症状と精神症状で発症することが多い腫瘍です。
頭蓋咽頭腫の治療
頭蓋咽頭腫は良性腫瘍であり境界が明瞭なので、外科的な摘出による完全治癒が期待できます。しかし、周辺の正常脳との癒着、浸潤がある場合には全摘出は困難です。周囲に腫瘍細胞が巣状に迷入しているような症例では全摘出しても数年後に再発します。全摘出が出来なかった場合には、再発防止のために放射線治療が有効です。残存腫瘍に対するガンマナイフを用いた定位放射線治療は8割以上に有効とされています。のう胞を伴う例には、腔内へチューブを挿入し内容液の吸引や腔内照射、抗がん剤の注入が行われる場合もあります。最近、内視鏡を併用した低侵襲手術手技の発達に伴い、開頭をせずに経副鼻腔(蝶形骨洞)的に外科的摘出術を行う症例が増えています。
頭蓋咽頭腫の予後と問題点
全摘出が行われると、術後の下垂体視床下部の障害による症状(ホルモン異常、尿崩症、記名力障害)が強くでてしまう場合があります。成長ホルモン等のホルモン補充や、尿崩症に対してはデスモプレッシン製剤の点鼻や内服を必要とする場合がありますが、これらホルモン補充により正常な発達が可能です。全摘出を得た場合の10年生存率は80%を超えますが、残存腫瘍を放置すると50%となります。非全摘例に放射線治療を加えることにより、80%の10年生存率がえられます。個々の症例に応じて、手術、放射線の両治療法の長所を組み合わせて、腫瘍をできるだけ減らし、必要に応じてホルモン補充療法を加えるのが、現在の治療です。良性腫瘍ではありますが、再発の多い腫瘍であり、長期にわたった綿密な経過観察が必須です。