貧血
【貧血と輸血】
貧血の基準としては赤血球数やヘマトクリット値よりも、ヘモグロビン値を基準とする場合がほとんどです。男性の場合、ヘモグロビン値で13 g/dL未満、女性の場合12 g/dL未満を貧血としますが、治療の対象となる値は原因や年齢、性別、活動状態などに異なります。特に輸血の対象となる値は、一概には定義できません。しかし、ヘモグロビンの酸素結合状態はシグモイド状の特性を持つことから(詳細はヘモグロビンの項を参照)、10 g/dL以上にしても酸素運搬能は上昇しません。このため一般にヘモグロビン値を10 g/dL以上に保つ必要はありません。逆にHbが異常高値となると多血症で認められるように末梢循環不全となり、かえって末梢酸素濃度は低下する可能性があります。貧血の治療は原疾患に対する治療が優先され、輸血は対症療法的な治療でしかありません。


【出血を原因とする貧血】
フォンビルブランド病などの出血素因がある場合は、明らかな出血となる原因が不明な状態で、慢性貧血を呈する場合があります。

出血による貧血の分類
急性出血 慢性出血
外傷
消化管出血
出産
手術
 
消化管出血
消化器腫瘍、消化管潰瘍
月経過多
腎腫瘍
膀胱腫瘍


【赤血球産生低下を原因とする貧血】
骨髄における赤血球産生が低下している病態です。平均赤血球容積(MCV)を用いた診断アプローチが比較的簡単であり、わかりやすい方法です。一般にMCVが80-100 fLを正球性とし、それより小さい場合もしくは大きい場合をそれぞれ小球性および大球性と呼びます。ただしMCVは個人差が大きく通常MCVが98 fLの方が、MCV82 fLとなれば小球性に偏っていると考えるべき状態もあります。また大球性貧血を示す巨赤芽球性貧血が鉄欠乏症状態になると正球性を示します。ある程度柔軟に対応しないと誤った診断に至る場合もあります。

造血能低下による貧血の分類
小球性貧血 正色素性正球性貧血 大球性貧血
鉄欠乏性貧血
鉄再利用障害
(慢性炎症,感染症)
鉄剤不応性鉄欠乏性貧血
遺伝性鉄芽球性貧血
サラセミア
 
 
 
 
二次性貧血
慢性炎症
感染症
腎性貧血
骨髄異形成症候群
骨髄癆
赤芽球癆
甲状腺機能低下症
下垂体機能不全
低栄養・栄養障害
巨赤芽球性貧血
葉酸欠乏症
ビタミンB12欠乏症
銅欠乏症(VitB12欠乏との合併)
アルコール依存症
肝疾患
吸収不良
骨髄異形成症候群  
 
 


【赤血球寿命短縮による貧血(溶血性貧血)】
赤血球の寿命が短くなっている貧血を一般に溶血性貧血と呼びます。温式抗体による自己免疫性溶血性貧血の様に、赤血球が網内系に取り込まれ分解される場合を血管外溶血と呼び、血栓性血小板減少性紫斑病の様に、血管内で赤血球が破壊される場合を血管内溶血と呼びます。また自己免疫性溶血性貧血の様に、原因が赤血球外の外的要因によって赤血球寿命が短縮している場合と、ヘモグロビン異常症の様に、赤血球の内部要因によって赤血球寿命が短縮している場合があります。前者の場合、輸血した赤血球も破壊される場合もあるため、輸血の効果は限定的な場合も多く認められますが、後者の場合はその他の貧血と同様の効果が期待できます。

溶血性貧血の分類
赤血球外の外的要因 赤血球側の内的要因
自己免疫性溶血性貧血
温式抗体
寒冷凝集素症
発作性寒冷血色素尿症
薬剤性免疫性溶血性貧血
脾機能亢進症
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
溶血性尿毒症症候群(HUS)
機械的損傷
心臓弁膜症
行軍貧血行軍血色素尿症
スポーツ貧血
感染症
クロストリジウム感染症
EBV感染症
マラリア
薬物/毒性物質
蛇咬傷(マムシ、ハブ)
先天性膜異常
遺伝性球状赤血球症
遺伝性楕円赤血球症
代謝性疾患
Embden-Meyerhof経路障害
ピルビン酸キナーゼ欠損症
ヘキソキナーゼ欠損症
グルコース-6-リン酸イソメラーゼ欠損症
ペントースリン酸経路障害
G6PD欠損症
ヘモグロビン異常症
サラセミア
鎌状赤血球症/ヘモグロビンS症
ヘモグロビンC症
ヘモグロビンE症
ヘモグロビンSC症
ヘモグロビンS-βサラセミア
低リン血症
発作性夜間血色素尿症
有口赤血球症
Rh欠損症候群