フォンビルブランド病
【フォンビルブランド病とは】
先天的にフォンビルブランド因子が量的に低下しているもしくは機能的に異常をきたしている遺伝性疾患です。フォンビルブランド因子は凝固第VIII因子結合し、その安定性に関与しており(このためフォンビルブランド因子は第VIII因子安定化因子とも呼ばれています)、フォンビルブランド因子が低下している病態では第VIII因子活性が低下しています。第VIII因子の安定可作用の他にも、フォンビルブランド因子は、コラーゲンとの結合や血小板との結合など様々な機能をもっており、血管外傷部位における凝固反応と血小板活性化とをつなぎ、止血反応の情報の統合を行う重要な因子です。このため、その低下や機能異常によって出血傾向を呈します。また、単純に抗原量が低下するのみならず、様々な機能異常症が報告さており、病型分類も複雑です。一般に抗原量も活性(多くの場合は血小板との結合能を見るリストセチンコファクター活性;RCoを測定しています)も低下しているType1およびType3と、抗原量は正常であるものの機能異常を合併しているType2とに分類されます。Type2はいくつかのサブクラスに分類されます。


【フォンビルブランド病の病型分類】
フォンビルブランド病はいくつかの病型に分類でき、病型特有の出血症状や臨床所見、並びに臨床検査値異常を呈します。しかし病型分類で判断に困る症例も多数あります(診断そのものに苦慮する症例もあります)。またフォンビルブランド病の分類は専門家の間でも最終的な結論は出ていません。下の表は一般的な分類になります。

病型 特徴
Type1 正常なフォンビルブランド因子の抗原量の低下
Type2 A 高分子マルチマーの欠落・低下
B 血小板との親和性の上昇
M 活性低下、高分子マルチマー存在
N 凝固第VIII因子との結合能の低下
Type3 正常なフォンビルブランド因子の抗原量の著減(測定感度以下)

この他に血小板型と呼ばれるタイプもあります。この症例では血小板膜蛋白の異常でフォンビルブランド因子に対する親和性が上昇し、その結果、血漿中のフォンビルブランド因子が低下しフォンビルブランド病と似た病態を示します。フォンビルブランド因子そのものの異常ではないため正式にはフォンビルブランド病に分類しません


【遺伝形式】
Typeによって遺伝形式が異なります。Type1およびtype2Aのほとんどと、type2Bおよびtype2Mの全ては常染色体優性遺伝の形式をとりますが、type2Nおよびtype3の全てと一部のtype1とtype2Aは常染色体劣性遺伝形式をとります。このため、血友病と異なり、男女の発症頻度は同じになります(ただし女性の場合は月経過多などによって診断にいたりやすい面があり、発見・診断比率は同じとは限りません)


【臨床症状】
鼻出血、紫斑・皮下血腫、口腔粘膜出血、月経過多などの血小板の数的低下や機能異常症で認められる出血症状が、Type1や多くのtype2で認められます。血友病でしばしば認められる関節出血はtype3やtype2Nの一部で認められますが、type1やtype2A, B, Mではまれです。一方、type2Nでは軽症〜中等症の、type3では中等症〜重症の血友病と似た症状が認められます。
その他抜歯後止血困難や術後の止血困難なども認められ、抜歯後止血困難などで診断に至る例も少なくありません


【検査所見】
PT正常、APTT延長
ただしAPTT延長はフォンビルブランド因子抗原量や活性に直接依存するものではなく、付随して低下する凝固第VIII因子活性に依存するため、必ずしもAPTTが延長するものではありません。APTTが基準値内である症例を経験することもしばしば経験します。延長したAPTTは補正試験で補正されます。


血小板数は正常です。ただしtype2Bでは血小板数の低下を認め、塗沫標本では引き終わりに凝集を認めます。

確定診断および病型分類のためには、フォンビルブランド因子抗原量、同活性、凝固第VIII因子活性などの測定が必要です。これらの検査所見については表にまとめています。

フォンビルブランド病 病型別の検査所見
病型 vWF活性 vWF抗原量 vWF比活性
(活性/抗原量)
vWF高分子
マルチマー
第VIII因子活性
Type1 低下 低下 ≈1 低下 低下
Type2A 低下 正常〜低下 <0.3 低下 正常〜低下
B 低下 正常〜低下 0.3-0.7 低下 正常〜低下
M 低下 正常〜低下 <0.7 正常 正常〜低下
N 正常 正常 ≈1 正常 低下
Type3 著減 著減 算出不能 著減 低下
vWF:フォンビルブランド因子。上記の表は典型的な場合の変化です。またフォンビルブランド因子高分子マルチマーを解析するマルチマー解析は保険適応はありません


【治療】
  • デスモプレッシン
    血管内皮細胞を刺激し、フォンビルブランド因子の放出を促進します。濃縮因子製剤に比較し薬価が低く抑えることができますが、一度放出を促進した後は、しばらくは効果が発揮されません(再び血管内皮細胞にフォンビルブランド因子が蓄積されるまで)。このため、止血が得られない場合は速やかに濃縮因子製剤の投与が必要です。フォンビルブランド病type2Bおよび血小板型フォンビルブランド病では禁忌とされています。

  • コンファクトF
  • ボンベンディ
  • ともにフォンビルブランド因子の濃縮製剤ですが、コンファクトFは血漿由来製剤で第VIII因子を含んでいます。一方ボンベンディは遺伝子組み換え製剤で凝固第VIII因子を含んでいません。このため第VIII因子の低下も合併し補充が必要と判断される場合には、ボンベンディに加えて第VIII因子製剤の同時投与が必要になります。在宅自己注射が可能な薬剤です。

  • 新鮮凍結血漿
  • 上記薬剤が入手困難な場合に緊急避難的に使用することは出来ます。ただし上記薬剤に比較し治療効率が悪いことは言うまでもありません。

  • クリオプレシピテート
  • クリオプレシピテート分画に含まれていますので、治療目的で使用は可能です。ただし上記薬剤に比較し治療効率が悪いことは言うまでもありません。

【タイプ別の特徴】
  • Type1
    正常なフォンビルブランド因子の抗原と活性がともに低下している病態です。診断基準が必ずしも定義されていません。フォンビルブランド抗原量および因子活性は、炎症反応や性周期、妊娠、ストレスなど様々な要因によって容易に変動します。また健常人でもフォンビルブランド因子活性は血液型によって基準範囲が異なることが知られており、O型の方は他の血液型の方に比較し平均25%低下します(フォンビルブランド因子にはABO抗原を示す糖鎖があり、O抗原を持つ因子半減期が短縮しているためと考えられています)。このように様々な要因が影響するため、特に軽症のフォンビルブランド病の診断は困難な場合が少なくありません。

  • Type2A
    血小板の膜蛋白質であるGPIbに対する親和性が低下している病態で、高分子マルチマーが欠損・低下しています。大動脈弁狭窄症で認められる後天性フォンビルブランド症候群の一つHyde症候群と同じ病態を示します。

  • Type2B
    血小板の膜蛋白質であるGPIbに対する親和性が亢進している変異を持つ病態です。その結果、血漿中のフォンビルブランド因子が流血中で血小板に吸着し、血漿中のフォンビルブランド因子活性が低下します。特に比活性が高い高分子マルチマーが吸着しやすいため、抗原値に対する活性の低下が認められます。また血小板に吸着したフォンビルブランド因子のため、血小板が凝集し、末梢血液中の血小板数は低下します。また塗抹標本では引き終わりに強い凝集塊を認めます。
    デスモプレッシンの作用によって異常なフォンビルブランド因子が放出されると、その結果として血小板凝集が促進され、血小板数がさらに減少します。このため他のタイプのフォンビルブランド病では有用な薬剤であるデスモプレッシンは、この病態では禁忌とされています(フォンビルブランド因子製剤は投与可能です)。また妊娠や炎症などでフォンビルブランド因子産生・放出が促進されると血小板数は低下する場合があると報告されています。

  • Type2M
    血小板の膜蛋白質であるGPIbに対する親和性は低下しているものの、高分子マルチマーが認められる病態です(Type2M の M は Multimer の Mです)。

  • Type2N
    凝固第VIII因子に対する親和性が低下している変異です。凝固第VIII因子はフォンビルブランド因子と結合していないフリーの状態では不安定で、半減期が著しく短縮してしまいます。このため、この病態では血漿中の第VIII因子活性は低下します(多くの場合は軽症〜中等症の血友病と同程度の低下)。一方でフォンビルブランド因子活性および抗原量は低下しませんので、検査所見では軽症(中等症)血友病との鑑別が極めて困難です。遺伝的に説明困難な軽症血友病や女性血友病症例では本疾患の可能性を考慮してください。またフォンビルブランド因子を含んでいない第VIII因子製剤を投与しても、その効果がはっきりしない場合も本疾患の可能性があります。投与した第VIII因子の半減期を測定することで診断は可能ではありますが、診断目的に行うことは倫理的に微妙な問題を含んでいます。また実験室レベルですが、第VIII因子結合能を測定することでも診断は可能です。

  • Type3
    フォンビルブランド因子抗原および活性が著しく低下している病態です。重症血友病と同じ様に強い出血傾向を呈します。