筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロンが変性・脱落することで進行性に身体の自由がきかなくなっていく神経難病です。本邦における患者数9,000人強ですが、毎年の発症数は3,000人前後と必ずしも稀な疾患ではありません。それまで健康であった働き盛りの壮年層・老年層を数年で死に至らしめるため、社会的損失が大きく、治療法開発への社会的要請は極めて大きいのですが、残念ながら有効な治療法の開発に至っていません。
我々の研究グループは、ALS患者全体の90%以上を占める孤発性ALSではグルタミン酸受容体に本来生ずべきRNA編集が不十分であることを世界に先駆けて見出し(Nature 427:801,2004)、この分子変化が孤発性ALSの大多数に生じていること、疾患特異的分子変化であり、運動ニューロン死の直接原因であることを明らかにしてきました。さらに分子病態モデルマウスを開発し、特異的治療法の開発に結びつけ、その方法による臨床試験を行っているところです。孤発性ALSの原因となる分子病態の解明からその正常化による治療法開発を目指している点で、世界に類例のない研究です。
郭 伸(カク シン)KWAK,Shin M.D., Ph.D.
東京医科大学神経分子病態学 客員教授