ヒトの腸内に生息する細菌集団(腸内細菌叢)は、宿主と密接に相互作用することで複雑な腸内生態系を形成している。腸内細菌叢のバランスの乱れは、大腸がんや炎症性腸疾患といった腸そのものの疾患に加えて、自己免疫疾患や代謝疾患、精神疾患といった全身性疾患とも関連することが報告されている。従ってその重要性から、腸内細菌叢は異種生物で構成される体内における「もう一つの臓器」とも捉えられるが、健常人であっても腸内細菌叢の特徴は個々人で異なるため、その機能理解が求められている。本発表では「層別化」をキーワードに、乱れた腸内細菌叢の是正による疾患の予防や治療の可能性、個々人で異なる腸内環境に基づく適切な食習慣やサプリメント提案、さらにはコンパニオン診断や医療・創薬など、腸内環境に基づく新たな健康維持、疾患予防・治療基盤技術の創出に向けたわれわれの取り組みについて紹介する。
福田真嗣
慶應義塾大学先端生命科学研究所・順天堂大学大学院医学研究科
神奈川県立産業技術総合研究所・筑波大学医学医療系
株式会社メタジェン
2006年明治大学大学院農学研究科博士課程を修了後、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。2019年同特任教授。2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。2015年文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015」に選定。同年、第1回バイオサイエンスグランプリにて、ビジネスプラン「便から生み出す健康社会」で最優秀賞を受賞し、株式会社メタジェンを設立。代表取締役社長CEOに就任。専門は腸内デザイン学。著書に「もっとよくわかる!腸内細菌叢 ”もう一つの臓器”を知り、健康・疾患を制御する」(羊土社)。学生時代から25年以上一貫して腸内細菌の研究を行っており、基礎研究と社会実装の両輪で病気ゼロ社会の実現を目指している。