神経線維腫症2型(Neurofibromatosis type 2, NF2-SWN)患者における髄膜腫の分子生物学的特性と免疫腫瘍微小環境
Teranishi Y, Miyawaki S, Nakatochi M, Okano A, Ohara K, Hongo H, Ishigami D, Sakai Y, Shimada D, Takayanagi S, Ikemura M, Komura D, Katoh H, Mitsui J, Morishita S, Ushiku T, Ishikawa S, Nakatomi H, Saito N.
Meningiomas in patients with neurofibromatosis type 2 predominantly comprise 'immunogenic subtype' tumours characterised by macrophage infiltration.
Acta Neuropathol Commun. 2023 Sep 26;11(1):156.
https://actaneurocomms.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40478-023-01645-3
神経線維腫症2型(Neurofibromatosis type 2, NF2-SWN)患者における髄膜腫の分子生物学的特性と免疫腫瘍微小環境の解析結果を報告する研究です。NF2-SWNは、中枢神経系に様々な良性腫瘍を引き起こす遺伝性腫瘍症候群で、NF2遺伝子の生殖細胞変異が原因であり、両側の前庭神経鞘腫を特徴とします。聴神経腫瘍以外では髄膜腫も頻発し、全体の約45〜58%の患者に発生するとされています。特にNF2-SWN患者における髄膜腫は、その発症が予後と強く関連するため、臨床上の課題となっています。一方で髄膜腫は孤発性にも(NF2-SWNとは無関係に)発生し、成人脳腫瘍の中で最も頻度の高い腫瘍であり、60%がNF2変異を持つことが知られています。本研究では、NF2-SWN患者の髄膜腫と孤発性NF2変異髄膜腫との比較を通じて、NF2-SWN患者髄膜腫の臨床的、組織学的、および分子生物学的な特性を解明することを目的としました。
研究デザイン
本研究は、13.5年間にわたり37名のNF2-SWN患者から採取された159個の髄膜腫を対象とした長期追跡研究を行い、免疫組織学解析(IHC)、RNAシーケンス、および染色体コピー数解析を用いて、髄膜腫の分子生物学的特性および免疫腫瘍微小環境を解析、NF2-SWN患者の髄膜腫と孤発性NF2変異髄膜腫との比較を行いました。
主な結果
1. 腫瘍増大率とWHOグレード
NF2-SWN患者の髄膜腫の腫瘍増大率は年間成長率:1.0 cm³/年と低く、経過観察期間中に28髄膜腫(17.6%)、患者25名(43.1%)に対して摘出術が行われました。組織学的にはNF2-SWN患者の髄膜腫ではWHOグレードIの髄膜腫が92.9%を占め、これは孤発性NF2変異髄膜腫(80.9%)と比較して有意に高い割合でした(p = 0.04)。
2. 染色体コピー数変異
NF2-SWN患者の髄膜腫におけるChr. 22qの欠失は64.3%、孤発性NF2変異髄膜腫では73.3%にみられ (p= 0.7)、またChr. 1pの欠失に関しては、NF2-SWN患者では21.4%、孤発性のケースでは53.3%とされており、1p欠失の頻度は両者で差が認められました (p=0.07)。
3. 階層的クラスタリング
RNAシーケンスデータを用いてNF2-SWN患者の髄膜腫及び孤発性NF2変異髄膜腫に対して階層的クラスタリングを行うと、同じNF2変異髄膜腫であるにもかかわらず、ほぼNF2-SWN患者か否かの2群にクラスタリングされることが新たに分かりました。
4. 免疫腫瘍微小環境と腫瘍浸潤
RNAシーケンシングとIHCにより、NF2-SWN患者の髄膜腫では孤発性NF2変異髄膜腫と比較して、有意に強いマクロファージの浸潤に特徴づけられる免疫応答が高かったことが新たに分かりました。またGene Set Enrichment Analysisでは、NF2-SWN患者の髄膜腫は「Allograft rejection」(FDR q-value<0.001), 「Interferon gamma response」(FDR q-value=0.015)などの免疫関連パスウェイが有意に活性化していることが示されました。
5. 免疫細胞浸潤の詳細解析
xCell、ESTIMATE、CIBERSORTといったDeconvolution解析を用いて免疫細胞の多寡を解析した結果、NF2-SWN患者の髄膜腫では腫瘍率が低く(74.4% vs 80.9%、p = 0.02)、一方でDeconvolution解析から算出されるImmune scoreが高いことが示されました。特に、マクロファージや単球、樹状細胞、B細胞、CD4陽性メモリーT細胞などの浸潤が顕著でした。これらの結果は、NF2-SWN患者の髄膜腫が孤発性NF2変異髄膜腫の分子学的分類における”Immunogenic subtype”に属することが示唆されました。
6. IHCによる免疫細胞浸潤解析との整合性
RNAシーケンシングで得られた免疫細胞浸潤の結果とIHCによる解析結果を照らし合わせたところ、両者の間には強い相関関係が見られました(Spearman r = 0.46–0.5, p < 0.001)。特にCD45陽性の白血球とCD68陽性のマクロファージが顕著に浸潤していることがIHCでも確認されました。
考察
本研究では、NF2-SWN患者の髄膜腫は孤発性NF2変異髄膜腫に比べて臨床的に安定しており、また腫瘍免疫反応が強いことが新たに分かりました。特にマクロファージの浸潤が顕著であることから、これが腫瘍の成長を抑制する要因の一つである可能性があります。先行研究では、NF2変異髄膜腫における免疫腫瘍微小環境と腫瘍制御の関連が指摘されており、NF2-SWN患者の髄膜腫におけるより強い腫瘍免疫応答が、孤発性NF2変異髄膜腫よりも安定した腫瘍制御に寄与しているという新たな知見が示されました。
今後は、さらに大規模なコホートを用いて、NF2-SWN患者の髄膜腫における免疫腫瘍微小環境の詳細なメカニズムを解明し、新たな治療戦略の開発に寄与することが期待されます。
結論
NF2-SWN患者の髄膜腫は、腫瘍免疫応答が強く、特にマクロファージの浸潤が顕著であり、これが安定腫瘍制御に寄与している可能性が示されました。この知見は、NF2-SWN患者の髄膜腫に対する新たな治療ターゲットの探索に有用であると考えられます。