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バイオメディカルデータ解析支援活動

大腸癌患者におけるサルコペニア肥満診断と有病率:スコーピングレビュー

公益財団法人がん研究会有明病院 栄養管理部 斎野容子
愛知医科大学栄養治支援センター・国立長寿医療研究センター老年内科 前田圭介(被支援者)

Saino, Y., Kawase, F., Nagano, A., Ueshima, J., Kobayashi, H., Murotani, K., Inoue, T., Nagami, S., Suzuki, M. and Maeda, K.
Diagnosis and prevalence of sarcopenic obesity in patients with colorectal cancer: A scoping review. Clin Nutr. 42(9):1595-1601. doi: 10.1016/j.clnu.2023.06.025 (2023).
https://www.clinicalnutritionjournal.com/article/S0261-5614(23)00210-8/fulltext


近年、がん患者の体組成変化が注目されており、大腸癌患者の予後予測にも有用であることが報告されています。サルコペニアは、加齢や活動・栄養・疾患を原因とした筋肉量減少であり、大腸癌の術後合併症増加や生存率悪化につながります。また、体格指数(BMI)で評価される肥満は大腸癌のリスク因子であり、全死亡率の上昇と関連しています。大腸癌では、サルコペニアと肥満がそれぞれ予後不良と関連しています。

サルコペニア肥満は、サルコペニアと肥満を併せ持つ病態であり、がん患者における有病率は約20%と報告されています。大腸癌でサルコペニア肥満を有すると術後合併症増加や生存率悪化につながることが報告されています。しかし、それぞれの研究によってサルコペニア肥満の診断方法が異なるため有病率もさまざまでした。

2022年に欧州臨床栄養学会(ESPEN)と欧州肥満学会(EASO)がサルコペニア肥満の診断基準を発表しましたが、この診断基準を用いてサルコペニア肥満を診断した研究は少なく、大腸癌におけるサルコペニア肥満有病率も明らかになっていませんでした。本研究は、大腸癌のサルコペニア肥満診断方法を調査して診断に関する問題点を明らかにすること、現時点における大腸癌のサルコペニア肥満有病率を明らかにすることを目的として実施しました。

研究プロトコルは2022年10月にFigshareに事前登録し (https://doi.org/10.6084/m9.figshare.21301026.v1)、「スコーピングレビューPRISMAガイドライン」に基づいて実施しました。適切な論文タイトルと抄録を特定するために、事前登録した検索式に沿って、6つの電子データベース(MEDLINE、EMBASE、CINAHL、CENTRAL、Web of Science・医中誌Web)を検索しました。検索された文献のうち、2022年7月までに英語または日本語で執筆された観察研究、縦断研究、横断研究および臨床研究で、サルコペニア肥満診断が行われた研究を対象とし、2人の独立したレビュアーが論文タイトルと抄録による1次スクリーニングを実施しました。1次スクリーニング後、論文の全文評価を行って、採用した論文についてサルコペニア肥満の診断方法、有病率などのデータを抽出しました。

電子データベースから検索された文献670件のうち、22件を本スコーピングレビューの対象としました。18件の研究において、サルコペニア肥満はサルコペニアと肥満の組み合わせで診断されていました。サルコペニアは主にコンピュータ断層撮影(CT)による骨格筋指数(SMI)で診断されており、握力や歩行速度を組み合わせて診断した研究は1件のみでした。肥満は主にBMIで診断され、次いで内臓脂肪面積で診断されていました。肥満診断に生体電気インピーダンス分析法による体脂肪率を用いた研究は1件のみでした。サルコペニア肥満の有病率は大腸癌全体で15%(95%信頼区間、11-21%)、待機的手術で18%(95%信頼区間、12-25%)、肝転移切除で11%(95%信頼区間、3-36%)でした。

大腸癌におけるサルコペニア肥満は、主にSMIとBMIの組み合わせで診断されており、筋力や体組成測定結果を用いて診断した研究は少ないことがわかりました。また、大腸癌のサルコペニア肥満有病率は約15%と推定されました。CTによるSMIを評価する前に、日常診療において筋力や体組成測定を行うことで、サルコペニア肥満の早期発見につながり、大腸癌患者の臨床的転帰の改善につながる可能性が考えられました。2022年のESPENとEASOのサルコペニア肥満診断ガイドラインを用いて、大腸癌におけるサルコペニア肥満の診断方法および臨床的転帰の確立に向けたさらなる研究が望まれます。

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