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  5. Association of variations in HLA class II and other loci with susceptibility to EGFR-mutated lung adenocarcinoma

Association of variations in HLA class II and other loci with susceptibility to EGFR-mutated lung adenocarcinoma

国立がん研究センター研究所
河野 隆志

Shiraishi K, Okada Y, Takahashi A, Kamatani Y, Momozawa Y, Ashikawa K, KunitohH, Matsumoto S, Takano A, Shimizu K, Goto A, Tsuta K, Watanabe S, Ohe Y, WatanabeY, Goto Y, Nokihara H, Furuta K, Yoshida A, Goto K, Hishida T, Tsuboi M,Tsuchihara K, Miyagi Y, Nakayama H, Yokose T, Tanaka K, Nagashima T, Ohtaki Y,Maeda D, Imai K, Minamiya Y, Sakamoto H, Saito A, Shimada Y, Sunami K, Saito M,Inazawa J, Nakamura Y, Yoshida T, Yokota J, Matsuda F, Matsuo K, Daigo Y, Kubo M, Kohno T*.
Association of variations in HLA class II and other loci with susceptibility to EGFR-mutated lung adenocarcinoma. Nat Commun. 2016, 7: 12451, 2016. doi: 10.1038/ncomms12451.
https://www.nature.com/articles/ncomms12451


肺がんはがん死因の一位であり、日本では年間に約7万人、全世界では約135万人の死をもたらす難治がんです。肺がんの中でも最も発症頻度が高く、増加傾向にあるのが肺腺がんです。肺腺がんは、肺がんの危険因子である喫煙との関連が比較的弱く(相対危険度は約2倍)、約半数は非喫煙者での発症です。喫煙以外の危険因子が特定されていないことから、罹患危険群の把握や発症予防は容易ではありません。そのため、喫煙以外の危険因子の同定とそれに基づく罹患危険度の診断法が求められています。肺腺がんの発症には、人種差があることも知られており、非喫煙者における発症頻度が欧米人よりもアジア人で高いことが報告されています。また、生じた肺がんにおけるEGFR(上皮増殖因子受容体)遺伝子変異の頻度が欧米人の約10%に対し、日本人では約50%と非常に高いことから、アジア人に特有の危険要因が存在することが示唆されています(図1)。本研究では、肺腺がんのなかでも日本人に多いEGFR変異陽性肺腺がんについて、罹りやすさを決める遺伝子領域を探索しました。


図1

コホート・バイオリソース支援を通じていただいたオーダーメイド医療実現化プロジェクト(バイオバンクジャパン)や国立がん研究センターバイオバンク、神奈川県立がんセンター、群馬大学、秋田大学などで収集された日本人の肺腺がんの患者(EGFR変異陽性がん3,173例、EGFR変異陰性がん3,694例)とがんに罹患していない対照15,158例の血液・非がん組織DNAについて、全ゲノム領域にわたる70万個の遺伝子多型の比較解析を行いました。その結果、6つの遺伝子領域の個人差がEGFR変異陽性の肺腺がんへの罹りやすさを決めていることを明らかにしました(図2)。その中には、免疫反応の個人差の原因となるHLAクラスII遺伝子領域が含まれていました。 特にHLAクラスII遺伝子産物のうちの一つであるHLA-DPB1タンパク質の57番目のアミノ酸の置換を起こす多型が、EGFR変異陽性の肺腺がんの罹りやすさを決める原因多型のひとつと考えられます。HLA遺伝子群の個人差は臓器移植における適合性など、免疫反応の個人差の原因となるものです。また、その個人差の分布は、人種によって大きく異なっています。よって、EGFR遺伝子に変異を起こした細胞に対する免疫反応の違いなど、いくつかの遺伝子の個人差による生体反応の個人差が、EGFR変異陽性肺腺がんへの罹りやすさを決めていると考えられます。


図2

今回の発見により、日本人を含むアジア人に多いEGFR変異陽性肺腺がんの罹りやすさには、喫煙等の環境要因だけでなく、遺伝子の個人差が関係することが明らかになりました。これにより、環境要因と遺伝子の個人差を組み合わせることで、EGFR変異陽性肺腺がんに罹りやすい人(高危険群)を予測し、検診による早期発見できる可能性があると考えます。さらに、肺腺がんの発がんメカニズムの解明にもつながると期待できます。