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脈絡叢上皮細胞の加齢に伴う形態学的変化 ― 神経変性疾患との比較解析

香川大学医学部 炎症病理学 上野正樹

Murakami R, Chiba Y, Miyatake N, Miyai Y, Matsumoto K, Wakamatsu K, Saito Y, Hara M, Murayama S, Ueno M
Morphometry of choroid plexus epithelial cells in neurodegenerative diseases
Neuropathology, 45: 202-209, 2024, 10.1111/neup.13019
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/neup.13019


近年、アルツハイマー病やパーキンソン病や統合失調症や炎症性疾患などの疾患のMRI画像にて、脈絡叢の腫大は複数報告されているが、腫大した脈絡叢の組織学的な解析は十分なされていない。今回我々は、CoBiA 「ブレインリソースの整備と活用支援活動」班長・研究支援分担者である村山繁雄博士らの支援の元、アルツハイマー病、血管性認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症、非変性疾患高齢者コントロール脳の合計20例のヒト脈絡叢鵜を含む脳組織を用いて、上皮細胞の面積・長径・短径・細胞面積比を定量化した。約4800個に及ぶ細胞をPythonによる画像解析手法を用いて測定し、年齢・高血圧・糖尿病・間質石灰化との関連を統計的に評価した。その結果、疾患群間ではいずれの計測値にも有意差を認めなかった一方で、年齢と上皮細胞の面積との間に強い正の相関(下左図参照)と、年齢と長径あるいは短径との間に弱い正の相関を認めた。これらの知見は、神経変性疾患の有無よりもむしろ加齢が脈絡叢上皮細胞の形態変化を規定する主要因であることを示している。また、細胞の形態観測で、エオジン好性の細顆粒状構造を含む、腫大した細胞質を有する腫大上皮細胞が各群で散見された(下右図参照)。これらの結果は脈絡叢上皮細胞の脱落に伴う、上皮細胞のオンコサイト化生を含む代償性腫大の加齢に伴う増加を示唆しており、間質の著明な線維化と合わせて考えてみると創傷治癒機転が働いている可能性も推測された。脈絡叢内毛細血管の内皮細胞にはfenestrationがあり、血管内から脈絡叢間質内への物質移行が容易とされている。一方、脈絡叢は脳脊髄液産生のみならず、概日リズム形成にも重要な役割を担っているとされる。この組織の長年にわたる炎症を含む傷害が加齢に伴う様々な脳機能障害に寄与しているのではないかと推測された。

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