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日本人の食関連温室効果ガス排出量と死亡リスクにU字型の関連-赤身肉1食分を豆類への置き換えは健康と環境の両方に有益-

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 渡邉大輝

Watanabe D, Maruyama K, Tamakoshi A, Muraki I; JACC Study Group
Association between Diet-Related Greenhouse Gas Emissions and Mortality among Japanese Adults: The Japan Collaborative Cohort Study
Environ Health Perspect,132(11):117002, 2024,DOI:10.1289/ EHP14935
https://ehp.niehs.nih.gov/doi/full/10.1289/EHP14935


温室効果ガス排出量(greenhouse gas emissions: GHGE)は地球温暖化の主要因であり、人類の健康および持続可能な社会の実現に深く関わっている。そのうち約21〜37%は、食料の生産・流通・加工などに伴う食関連温室効果ガス排出量(diet-related GHGE: dGHGE)が占めることから、環境負荷の観点で注目されている。加えて、近年、dGHGEと健康影響の関連が注目されている。欧米諸国を対象とした疫学研究では、個人のdGHGEと全死亡リスクとの間にJ字型またはU字型の関連が報告されてきたが、文化的背景や食習慣が異なる東アジア、特に日本における評価はこれまで行われていなかった。

本研究は、日本の大規模前向きコホート「Japan Collaborative Cohort Study(JACC研究)」に含まれる、1988〜1990年にベースライン調査へ参加した40〜79歳の日本人成人58,031名(男性22,953名、女性35,078名)を対象に実施した。食事摂取量は、妥当性が検証された食物摂取頻度調査票により評価し、各食品および飲料由来のGHGEは既存のdGHGEデータベースを用いて推定した。これに基づき、個人ごとに摂取食品重量1kg当たりのdGHGEを算出し、対象者を五分位群に分類した。主要アウトカムは全死亡および心血管疾患、がん、呼吸器疾患による死亡とし、最大2009年まで追跡した。統計解析は、生活習慣や病歴などの交絡因子を調整したCox比例ハザードモデルを使用し、さらに制限付き3次スプライン解析で非線形関係を検討した。加えて、leave-one-outモデルを用いた置換解析により、赤身肉1食分を他のたんぱく質源(豆類、卵、魚、鶏肉など)に置き換えた場合のdGHGEおよび全死亡リスクへの影響を評価した。

中央値19.3年(総計約955,819人年)の追跡期間中に11,508人の死亡が確認された。全死亡リスクは、中程度のdGHGE群(第4五分位)で最も低く、最もdGHGEが低い群(第1五分位)ではハザード比(hazard ratio: HR)1.11(95%信頼区間[confidence interval: CI]1.05-1.18)、最も高い群(第5五分位)ではHR 1.09(95%CI 1.03-1.17)と有意に高かった。心血管疾患死亡についても同様の傾向が見られ、第1および第5五分位群でそれぞれHR 1.23(95%CI 1.10-1.38)、1.22(95%CI 1.08-1.37)とU字型の関連を示した。一方、がんおよび呼吸器疾患死亡との間には明確な関連は認められなかった。スプライン解析では、全死亡および心血管疾患死亡におけるdGHGEとの関係はU字型を示し、最もHRが低い範囲は約1,400〜1,600 g-CO₂eq/kg食品重量/日であった(図1)。さらに、赤身肉1食分を豆類に置換した場合、dGHGEおよび全死亡リスク(HR 0.96、95%CI 0.93-0.99)共に有意な負の関連が示された(図2)。

これらの結果は、日本人においてもdGHGEと死亡リスクの間にU字型の関連が存在し、極端に低いまたは高いGHGEを伴う食習慣が健康リスクを高める可能性を示している。低dGHGE食は植物性食品中心となる一方で、たんぱく質や微量栄養素の不足により死亡リスクを高める可能性があり、高dGHGE食では赤身肉や加工肉など動物性食品の過剰摂取がリスク上昇に関与すると考えられる。また、赤身肉を豆類に置き換えることは、dGHGEを削減するだけでなく、全死亡リスクの低下にもつながる可能性が高い。以上より、dGHGEの単純な最小化ではなく、適切な栄養バランスと環境持続性を両立させることが重要である。本研究は、健康と環境の双方を考慮した持続可能な食糧政策の策定に資する知見を提供し、持続可能な食事スタイルを検討する上で重要なエビデンスとなる。

図1.食品重量あたりの食関連温室効果ガス排出量と全死亡および心血管疾患死亡との用量反応関係。
実線はハザード比、破線は95%信頼区間を表す。

図2.赤身肉1食分(41g)をその他のたんぱく質源の食品に置き換えた場合の食関連温室効果ガス排出量と全死亡リスクとの関連

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