CYP3A活性の評価における血漿中4α‐hydroxycholesterol濃度で補正した血漿中4β‐hydroxycholesterol濃度の有用性の評価
明治薬科大学薬剤情報解析学
鈴木 陽介
Oda, A., Suzuki, Y., Sato, H., Koyama, T., Nakatochi, M., Momozawa, Y., Tanaka, R., Ono, H.,
Tatsuta, R., Ando, T., Shin, T., Wakai, K., Matsuo, K., Itoh, H. and Ohno, K.
Evaluation of the usefulness of plasma 4β‐hydroxycholesterol concentration normalized by 4α‐hydroxycholesterol for accurate CYP3A phenotyping.
Clin Transl Sci. 17:e13768 (2024). doi: 10.1111/cts.13768
https://ascpt.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cts.13768
シトクロムP450 (CYP) 3Aサブファミリーは、臨床現場で使用される薬物の約40%の代謝に関与する重要な酵素群です。CYP3A活性は、環境的、遺伝的、生理的要因により個体間で大きく変動することが報告されています。したがって、個々の患者におけるCYP3A活性の評価は、CYP3A基質薬物を効果的かつ安全に使用するうえで重要です。
近年、CYP3A活性を反映する内在性物質として、コレステロールからCYP3A4及びCYP3A5により生成される4β-hydroxycholesterol (4β-OHC) が注目されています。4β-OHCを指標としたCYP3A活性の評価において、以前より、血漿中4β-OHC濃度及び4β-OHC/総コレステロール (TC) 比が使用されています。しかし、4β-OHCは、コレステロールからCYP3Aによる水酸化だけでなく、非酵素的な酸化、すなわち自動酸化によっても生成されるため、CYP3A活性を過大評価する可能性があります (図1)。一方、4β-OHCの立体異性体である4α-hydroxycholesterol (4α-OHC) は、コレステロールの自動酸化により生成され、CYP3Aでは生成されません (図1)。このことから、血漿中4β-OHC 濃度から血漿中4α-OHC 濃度を減じた値 (4β-OHC-4α-OHC) は、コレステロールの自動酸化による血漿中4β-OHC濃度の上昇を補正し、より正確にCYP3A活性を反映する可能性があると考えました。
そこで、本研究では、CYP3A活性の評価指標としての4β-OHC-4α-OHCの有用性を評価するために、4β-OHC-4α-OHCを従来のCYP3A活性の評価指標である血漿中4β-OHC濃度又は4β-OHC/TC比と比較しました。4β-OHC-4α-OHCの有用性を評価するにあたり、一般成人又は慢性腎臓病 (CKD) 患者を対象とした横断研究を行いました。CYP3A5には遺伝子多型が存在し、CYP3A5の野生型アレルであるCYP3A5*1を少なくとも一つ保有する場合、変異型アレルであるCYP3A5*3のホモ接合体と比較して、CYP3A活性が高いことが報告されています。そこで、一般成人を対象として、4β-OHC-4α-OHCが血漿中4β-OHC濃度及び4β-OHC/TC比と比較して、CYP3A5*1アレルの有無に関して高い識別性を示すか否かを解析することで、4β-OHC-4α-OHCのCYP3A活性の指標としての有用性を評価しました。また、腎機能の低下に伴いCYP3A活性が低下することが示唆されているCYP3A5*1アレルを保有するCKD患者を対象として、4β-OHC-4α-OHCが血漿中4β-OHC濃度及び4β-OHC/TC比と比較して、CKDステージ3とCKDステージ4-5Dの分類に関して高い識別性を示すか否かについて解析しました。
一般成人におけるCYP3A5*1保有群と非保有群の血漿中4β-OHC濃度、4β-OHC/TC比、4β-OHC-4α-OHCを評価したところ、3つのCYP3A活性の指標は、非保有群と比較してCYP3A5*1保有群で有意に高い値でした。続いて、一般成人におけるCYP3A5*1アレルの有無を識別する受信者動作特性 (ROC) 曲線を作成し、ROC曲線の曲線下面積 (AUC) を比較することにより、血漿中4β-OHC濃度又は4β-OHC/TC比に対する4β-OHC-4α-OHCの識別性を比較しました。その結果、4β-OHC-4α-OHCのAUCと血漿中4β-OHC濃度のAUCの間には有意差は認められず、4β-OHC-4α-OHCのAUCは4β-OHC/TC比のAUCと比較して有意に小さい値でした (図2)。以上の結果から、一般成人では、CYP3A活性の評価における4β-OHC-4α-OHCの有用性は、血漿中4β-OHC濃度及び4β-OHC/TC比と変わらないことが示唆されました。
CYP3A5*1アレルを保有するCKD患者におけるCKDステージ別の血漿中4β-OHC濃度、4β-OHC/TC比、4β-OHC-4α-OHCを評価したところ、3つのCYP3A活性の指標は、CKDステージ3群と比較してCKDステージ4-5D群で有意に低い値でした。続いて、CYP3A5*1アレルを保有するCKD患者におけるCKDステージ3又はCKDステージ4-5Dを識別するROC曲線を作成し、ROC曲線のAUCを比較することにより、血漿中4β-OHC濃度又は4β-OHC/TC比に対する4β-OHC-4α-OHCの識別性を比較しました。その結果、4β-OHC-4α-OHCのAUCと血漿中4β-OHC濃度又は4β-OHC/TC比のAUCとの間に有意差は認められませんでした (図3)。以上の結果から、CYP3A5*1アレルを保有するCKD患者においても、CYP3A活性の評価における4β-OHC-4α-OHCの有用性は、血漿中4β-OHC濃度及び4β-OHC/TC比と変わらないことが示唆されました。
以上より、一般成人及びCYP3A5*1アレルを保有するCKD患者における4β-OHCを指標としたCYP3A活性の横断的評価において、血漿中4β-OHC濃度を血漿中4α-OHC濃度で補正する必要性は低いと考えられました。CYP3A活性の評価における4α-OHCの有用性を評価するには、更なる大規模研究が求められます。
最後になりますが、本研究の遂行にあたって、コホートによるバイオリソース支援をいただいたことに心より感謝申し上げます。