末梢血におけるミトコンドリアDNAコピー数の低値は将来の死亡リスクと関連する:日本における長期追跡研究
東京工科大学医療保健学部臨床検査学科 水野 元貴
藤田医科大学医療科学部予防医科学分野 鈴木 康司(被支援者)
Mizuno G, Yamada H, Tsuboi Y, Munetsuna E, Yamazaki M, Ando Y, Kageyama I, Nouchi Y, Teshigawara A, Hattori Y, Fujii R, Ishikawa H, Hashimoto S, Ohashi K, Hamajima N, Suzuki K.
Low mitochondrial DNA copy number in peripheral blood mononuclear cells is associated with future mortality risk: a long-term follow-up study from Japan.
J Nutr Health Aging. 28(1):100013 (2024). doi: 10.1016/j.jnha.2023.100013
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1279770723023758?via%3Dihub
ミトコンドリアはエネルギー代謝に関与する細胞小器官です。その機能低下は老化と密接に関係しています。ミトコンドリアマトリックスには、ミトコンドリアDNA(mtDNA)と呼ばれる環状の二本鎖ゲノムが複数コピー含まれています。mtDNA コピー数(mtDNA-CN)の低値は健康状態や疾患発症との関連性が多く報告されています。しかしながら、一般集団の死亡リスクとの関連について解析した報告は少なく、mtDNA-CNと将来の死亡リスクとの関連については依然として不明でした。さらに日本を含むアジア圏の集団では、これまでに死亡リスクとの関連について報告されていません。そこで本研究では、日本人集団の長期追跡調査により、mtDNA-CNと死亡リスクとの関連性を評価しました。
本研究では、1990年に北海道二海郡八雲町の住民健康診断に参加した健常成人を対象とし、2019年まで死亡に関する追跡調査を実施しました。1990年時点の血中mtDNA-CNを測定し、約30年間の全死因死亡率との関連性を解析しました。その結果、追跡調査終了時(2019年)の生存者と死亡者について、ベースライン時(1990年)のmtDNA-CNを比較すると、mtDNA-CNは死亡者で有意に低値を示しました。さらにmtDNA-CNを3分位数で群分け(低、中、高)し、生存時間分析とCox比例ハザード回帰分析を行いました。生存時間分析では、mtDNA-CNが低い集団は累積生存率が低く、寿命が短い傾向を示しました(図1)。さらに、Cox比例ハザード回帰分析では、mtDNA-CNが低い集団は将来の死亡リスクが有意に高値を示しました。
本研究は、アジア人コホートにおいて血中mtDNA-CNと死亡リスクとの関連を検討した初めての長期追跡研究であります。我々は、mtDNA-CNの低値が、死亡リスクと関連していることを見出しました。本研究の成果は、将来の死亡リスクの早期予測やその基礎的なメカニズムに関するさらなる研究の発展に寄与することが期待されます。
図1. 生存時間分析