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胃がんリスクに関する遺伝要因・環境要因の症例対照研究

愛知県がんセンター研究所
碓井 喜明、尾瀬 功(被支援者)

Usui Y, Taniyama Y, Endo M, Koyanagi YN, Kasugai Y, Oze I, Ito H, Imoto I, Tanaka T, Tajika M, Niwa Y, Iwasaki Y, Aoi T, Hakozaki N, Takata S, Suzuki K, Terao C, Hatakeyama M, Hirata M, Sugano K, Yoshida T, Kamatani Y, Nakagawa H, Matsuda K, Murakami Y, Spurdle AB, Matsuo K, Momozawa Y.
Helicobacter pylori, Homologous-Recombination Genes, and Gastric Cancer.
N Engl J Med., 388(13): 1181-1190 (2023). doi: 10.1056/NEJMoa2211807
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2211807


ピロリ菌感染は胃がんリスクの主要な環境要因として広く知られており、ピロリ菌感染を基盤とする胃がんは東アジアで特に罹患率が高くなっています。これまで環境要因のみならず遺伝要因も胃がんリスクに関わっていることが示唆されてきました。一部の病的バリアントは疾患のリスクと関連することが示されてきていますが、そのエビデンスの多くは欧米諸国からのものが中心であり、東アジアにおける評価は限られたものでした。その影響もあり、特に東アジアにおいて罹患率が高い胃がんに関しての遺伝要因に関する評価は十分ではありませんでした。さらに、胃がんリスクにおいてこのような遺伝要因と環境要因が組み合わさった影響に関してもほとんど明らかになっていませんでした。

そこで、私たちは、日本の胃がん患者群と非がん対照群における大規模なゲノム解析による症例対照研究を通じて、病的バリアントと胃がんリスクとの関連、病的バリアント保持者の特徴、病的バリアントとピロリ菌感染を組み合わせた胃がんリスクについて評価を行いました。本研究では、愛知県がんセンター病院疫学研究(HERPACC)およびバイオバンクジャパンの11,859名の胃がん患者群、および44,150名の非がん対照群について27個の遺伝性腫瘍関連遺伝子を対象に理化学研究所基盤技術開発研究チームが開発したターゲットシークエンス法を用いて解析を行いました。

バイオバンクジャパンにおける関連解析の結果、9個の遺伝子の病的バリアントが胃がんリスクと関連していることが同定されました。また、その9個の遺伝子ごとに、胃がん患者における病的バリアント保持者の割合、胃がんの診断時の年齢、各種がんの家族歴などの特徴が異なっていることも明らかになりました。

次に、HERPACCにおいて、バイオバンクジャパンの関連解析で明らかになった9個の遺伝子の病的バリアントとピロリ菌感染情報を組み合わせ、胃がんリスクについて評価しました。その結果、相同組換え修復機能に関わる遺伝子群の病的バリアントとピロリ菌感染は交互作用を伴って胃がんリスクを高めていることが明らかになりました (relative excess risk due to interaction (95% confidence interval), 16.01 (2.22−29.81))。更に、これらの病的バリアントとピロリ菌感染情報を組み合わせて85歳時点までの胃がんの累積リスクを算出しました。その結果、ピロリ菌陰性の人は病的バリアントの有無に関わらず、85歳時点での累積リスクは5%未満と高くなかった一方、ピロリ菌陽性の人は病的バリアント非保持者では14.4 (12.2−16.6) %、病的バリアント保持者では45.5 (20.7−62.6) %と大きな違いを認めました。

今回の研究では胃がんリスクと関連する遺伝子の存在、その特徴が遺伝子ごとに異なっていること、それらの遺伝子の病的バリアントが存在するとピロリ菌による胃がんリスクが更に高まることなどが明らかになりました。相同組換え修復機能に関わる遺伝子群の病的バリアント保持者においては、ピロリ菌の感染状況の評価や除菌を考慮することが胃がんリスク低減のためにより一層重要であることが示唆されます。

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