日本人閉経後女性における性ホルモン結合グロブリンと脂質異常症の関連
京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学
市川 貴博・岡田 博史
Ichikawa T, Okada H, Hamaguchi M, Hara M, Takashima N, Suzuki S, Tanoue S, Kato Y, Nagayoshi M, Tamura T, Fukui M, Matsuo K.
Association of sex hormone-binding globulin and dyslipidemia with Japanese postmenopausal women: a cross-sectional study.
Lipids in Health and Disease. 24(1):212, 2025. DOI: 10.1186/s12944-025-02634-2
https://link.springer.com/article/10.1186/s12944-025-02634-2
研究の背景
脂質異常症は、動脈硬化性疾患の主要な危険因子の一つであり、特に女性では閉経に伴うホルモン環境の変化が脂質代謝に影響することが知られています。
性ホルモン結合グロブリン(Sex Hormone-Binding Globulin: SHBG)は、主に肝臓で産生され、血液中でエストラジオールやテストステロンなどの性ホルモンと結合するタンパク質です。これまで、SHBGの低値はインスリン抵抗性や糖尿病など、さまざまな代謝異常と関連することが報告されていました。一方、閉経後女性において、SHBGが脂質異常症とどの程度関連するのか、またエストラジオール(E2)、総テストステロン(TT)、デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEAS)などの他の性ホルモンと比較してどの程度強く関連するのかは、十分に明らかではありませんでした。
そこで本研究では、日本人閉経後女性を対象として、SHBGと脂質異常症との関連を検討するとともに、異なる性ホルモンとの関連の強さを比較しました。
研究の方法
本研究では、日本人を対象とした大規模コホート研究である日本多施設共同コホート研究(J-MICC Study)のデータを用いました。対象者のうち、血清中の性ホルモンデータが利用可能な閉経後であった女性を抽出し、必要なデータが揃っていた570人を解析対象としました。
血液検査からSHBG、E2、TT、DHEASを測定し、脂質項目として中性脂肪(TG)、HDLコレステロール(HDL-C)、LDLコレステロール(LDL-C)などを評価しました。年齢、BMI、身体活動、飲酒習慣、喫煙状況などの生活習慣因子を調整した統計解析を行い、それぞれの性ホルモンと脂質異常症との関連を検討しました。また、ROC解析を用いて、各性ホルモンが脂質異常症を識別する能力についても比較しました。
主な研究成果
解析の結果、脂質異常症のある女性では、脂質異常症のない女性と比較してSHBG値が有意に低いことが分かりました。
さらに、年齢、BMI、身体活動、飲酒習慣、喫煙状況などを調整した解析においても、SHBG値は脂質異常症と有意に関連していました。また、SHBG値が低いほど、中性脂肪(TG)が高く、HDLコレステロール(HDL-C)が低い傾向が認められました。一方、LDLコレステロール(LDL-C)との間には有意な関連は認められませんでした。
また、SHBG、E2、TT、DHEASのそれぞれについて、脂質異常症を識別する能力をROC解析で比較したところ、SHBGのAUCは0.626で、E2、TT、DHEASよりも有意に高い値を示しました。SHBGについて脂質異常症を識別する最適カットオフ値は69.0 nmol/Lでした。
本研究の意義
本研究により、日本人閉経後女性において、SHBGは他の性ホルモンと比較して脂質異常症とより強く関連する指標であることが示されました。特に、SHBG値が低い事は、高いTG値および低いHDL-C値と関連していました。
SHBGは従来、性ホルモンを運搬するタンパク質として知られていましたが、近年では代謝やホルモン作用との関連も注目されています。本研究の結果は、SHBGが性ホルモンの単なる結合タンパク質にとどまらず、代謝状態を反映する指標となる可能性を示すものです。
一方で、本研究は横断研究であるため、SHBGの低下が脂質異常症を引き起こすのか、あるいは脂質代謝異常に伴ってSHBGが低下するのかといった因果関係については明らかにできません。また、SHBGのAUCは0.626であり、SHBG単独で脂質異常症を十分に判別できるわけではありません。今後は、他の臨床指標と組み合わせた評価や、SHBG値とその後の脂質異常症発症との関連を検討する縦断研究が必要です。
謝辞
本研究は、「コホート・生体試料支援プラットフォーム」による研究支援を受けた日本多施設共同コホート研究(J-MICC Study)のデータを活用して実施しました。J-MICC Studyの研究参加者の皆様ならびに研究の運営・データ収集に携わられた研究者、スタッフの皆様に深く感謝申し上げます。















