イベント情報
⽂部科学省学術変⾰領域研究『学術研究⽀援基盤形成』コホート・⽣体試料⽀援プラットフォーム(CoBiA)共催
第10回 遺伝統計セミナー
『ゲノムコホート研究における遺伝統計学』レポート
10回目の開催となる遺伝統計学セミナーは、2025年10月23日(木)から25日(土)の3日間にわたり、山形県鶴岡市の鶴岡市先端研究産業支援センター(鶴岡メタボロームキャンパス共用棟)で開催された。文部科学省学術変革領域研究「学術研究支援基盤形成」事業の一環として、コホート・生体試料支援プラットフォームの支援活動の一部として実施されたものである。現地参加者及び、録画配信を希望するオンライン参加者を併せて37名の参加を得た。そのうち大部分が科学研究費助成事業の新規・継続採択者、あるいはその関係者であった。本会に伴って10月26日(日)に開催された市民公開講座は、鶴岡みらい健康調査推進セミナー実行委員会と共催で、“鶴岡みらい健康調査セミナー 「環境×遺伝:健康長寿への挑戦」”と題し開催され、多くの地域住民の参加を得た。
図1.1日目の株式会社スタージェンの上辻先生による講演の様子
1日目は開会挨拶に続いて、株式会社スタージェンの上辻茂男先生による「遺伝統計学座学」および「GWAS実習」が行われた。基礎理論の確認から実践的な解析手法まで、段階的に理解を深める内容であり、参加者からは「実際の研究データに応用しやすい」との声が多く寄せられた。質疑応答も活発で、研究設計や統計モデル選択など日常的な解析課題について、講師との具体的な議論が交わされた。
2日目午前は、同じくスタージェンの上辻茂男先生らによる「PRSなど」に関する座学と実習が行われ、ポリジェニックスコア解析の理論と実装例が示された。午後は、エクスカーションを兼ねて加茂水族館にて個別支援相談が実施され、講師や参加者間の交流を深める機会となった。夕刻からは4題の招待講演が行われ、慶應義塾大学の土岐了大先生、藤田医科大学の藤井亮輔先生(オンライン発表)、東北大学の大瀬戸恒志先生、岩手医科大学の須藤洋一先生が登壇した。いずれの講演も、日本人集団における疾患関連解析やポリジェニックスコアの応用に関する最新知見が紹介され、参加者との意見交換も盛んに行われた。
3日目は実習(ハンズオン)中心の内容となった。岩手医科大学の美辺詩織先生による「iMETHYL」、小巻翔平先生による「エピゲノム年齢」、中尾元基先生による「ChatGPTの活かし方」、名古屋大学の中杤昌弘先生による「UCSCゲノムブラウザの使い方」および「血中プロテオーム解析」など、幅広いテーマの実践的な講義が行われた。夜にはナイトセッションが開催され、ライトニングトーク (2スライド2分の短時間での研究紹介)および総合討論を通じ、異なる分野の研究者同士が積極的に交流し、活発な議論が行われた。

図2.3日目の名古屋大学 中杤先生による実習の様子
翌26日(日)には、鶴岡メタボロームキャンパスD棟レクチャーホールにて市民公開講座が開催された。開会挨拶は鶴岡地区医師会会長の福原晶子氏が務め、続いて慶應義塾大学教授の清水厚志先生による「よくわかる遺伝と病気の関係」、続いて同教授の武林亨先生による「鶴岡みらい健康調査の最新情報」、同教授の秋山美紀先生による「鶴岡から世界へ発信した論文の紹介」が行われた。最後に名古屋大学准教授の中杤昌弘先生による閉会の挨拶があり、会場は終始和やかな雰囲気に包まれた。参加者からの質問も多く、遺伝研究や健康調査への関心の高さがうかがえた。

図3.市民公開講座での武林先生による講演の様子
今回の開催地である鶴岡市は、自然に囲まれた静かな環境にあり、落ち着いた雰囲気の中で講義や実習に集中できる立地であった。交通アクセスについては、庄内空港を利用した飛行機経由と新幹線経由の両方が選択可能で、全国各地からの参加が比較的容易であった。一方で、会場周辺には飲食店や商業施設が少なく、夕食時には繁華街のある駅近くまでタクシーで移動する必要があり、参加者にはやや不便をかけた。しかし、鶴岡市内には地元の食材を活かした料理店が多く、参加者からは「食事が美味しく満足だった」との声が多く寄せられた。また、夜遅くまで営業する店も多かったことや、参加者のほとんどが会場近くのホテルに宿泊していたこともあり、セミナー終了後も自然に参加者同士の交流が行われた。開催時期が秋であったことから市内でクマの出没情報があり、事前に注意喚起を行った。地域特性を踏まえた運営対応の重要性を再認識する機会となった。
今年は、参加者の多くがRのコマンド操作に慣れており、実習の進行が非常に円滑であった。講師が示す手順に即してスムーズに解析が進み、質疑応答でもより高度な内容が多く見られた。若手研究者の間で基礎的な知識が定着しつつあり、今後の講習内容を一段階引き上げる必要があることが示唆された。一方で、ゲノムブラウザの利用経験者は少なく、データ閲覧や可視化などの基礎的なスキルについては引き続き支援が必要であると感じられた。直前の案内となった点は運営側の反省点であるが、それにもかかわらず参加者全員が事前準備を十分に行っており、全体として高い意識をもって臨んでいたことが印象的であった。
運営面では、会場のWi-Fi接続状態が予想以上に不安定であったため、急遽ポケットWi-Fiを手配して対応した。eduroamも使用できなかったことから、次回以降は通信環境の事前確認をより入念に行う必要があると感じられた。全体としては、実習や講義内容が円滑に進み、参加者間の交流も活発で、これまでで最も実践的かつ充実した開催となった。鶴岡という地方都市での開催を通じて、研究者同士のネットワーク形成と地域との連携という両面で大きな成果が得られたことは特筆に値する。今後も本セミナーが、遺伝統計学の教育と研究支援の両面で発展を続けていくことが期待される。
本セミナーは文部科学省学術変革領域研究『学術研究支援基盤形成』事業の一環として執り行われる学術支援であり、多くのリピーターに加え、毎回新たな参加者を得てきた。このような講習会の需要は依然として高く、また、技術的な進捗が著しい分野でもあるため、今後も定期的に学習機会を提供し続けることは研究分野の発展のために必要である。また、本会は専門家と、初学者、中堅の研究者が数日間一同に介し、活発な意見交換を行って技術的・理論的に実践的な理解を深める場としても成長してきた。今後も、今回の反省材料を活かしながら、他に例のない研究支援の枠組みとしての発展を進めていくことは、当事業の趣旨に沿うものと思われる。
また、本会に伴って開催される公開市民講座が、地域による参加者の多少はあるにせよ、開催の度に一定の好評を博していることも、アウトリーチ活動の成功例として考慮に入れる必要がある。病気と遺伝に加え、自身が参加しているコホート研究について専門家からもっと深く知りたいという住民の意欲は強く、そうした機会を提供する貴重な機会となっている。この取り組みは、住民有志の参加により行われてきたコホート研究の成果を還元する活動の好例として、今後も継続的に続けられていくことが望ましい。
岩手医科大学 いわて東北メディカル・メガバンク機構
生体情報解析部門














