イベント情報
アメリカ人類遺伝学会(American Society of Human Genetics, ASHG)年次総会に参加して
中杤昌弘(名古屋大学大学院医学系研究科)
この度、2024年11月5日〜9日にアメリカ合衆国のコロラド州デンバー市で開催されたアメリカ人類遺伝学会(American Society of Human Genetics, ASHG)年次総会に参加し、コホート・生体試料支援プラットフォーム(以下、CoBiA)による支援成果を発表するとともに、CoBiAの活動について紹介を行った。以下にその様子をレポートする。
会場の様子
今回発表した支援成果は、「日本人の飲酒行動を決定づける遺伝的構造の解明と食道がんリスクとの関連」に関する成果である。本成果は、愛知県がんセンターがん予防研究分野の小栁友理子主任研究員からCoBiAに支援が依頼され、始まった研究の成果である。本成果は、CoBiAの支援班のうち、「コホートによるバイオリソース支援活動班による支援(支援活動:A-2 J-MICC研究 GWAS用データによる横断研究)」と「バイオメディカルデータ解析支援活動班による支援(D-1 大規模オミクスデータ解析支援)」の二つの班の支援を受けた研究である。すなわち疫学とバイオインフォマティクス分野による学際的研究によって生まれた成果である。本成果では、ヒトのALDH2遺伝子中に存在するSNP rs671 と他のSNPの組み合わせが飲酒習慣へ影響(SNP×SNP交互作用)することを、多数のSNPで同定することに成功したというものである。本成果の論文は、Science Advancesに今年掲載されている(https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ade2780)。本成果の概要は、主要論文の解説文としてCoBiAのウェブサイトで公開されている(https://square.umin.ac.jp/cohort/thesis/D/)。成果の概要は当該リンクをご参照いただきたい。
今回のASHGでは、上記の成果とCoBiAの支援活動を紹介するべく、バイオメディカルデータ解析支援班の班長であり、直接支援を担当した中杤が代表して参加した。発表は、ポスター形式で行い、様々な研究者に紹介する機会を得た。発表時間は2時間であったが、切れ目なく研究者が来訪し、質問も途切れなく頂いた。飲酒習慣に限らず、SNPの組み合わせの効果を探索する研究は古くから行われてきたが、その同定に成功した事例は多くない。その成功例である本成果に対する研究者の興味の高さがうかがえた。SNP rs671は、東アジア人のみで観測されるSNPであり、今後日本人を含む東アジア人を対象としたSNP研究はrs671の組み合わせを考慮した解析が必要であると世界の研究者に周知した。今回のASHGにおける発表は、研究成果とCoBiAの存在を世界に周知する良い機会となったと考える。
ポスター会場にて
ASHGの年次総会は、ヒトを対象とした遺伝学研究を扱う学会として世界でもトップクラスの規模の学会である。今後、CoBiAによる支援活動を通して世界トップクラスの研究成果を創出するためにも、最新のヒト遺伝学研究を知る良い機会にもなった。