イベント情報

⽂部科学省学術変⾰領域研究『学術研究⽀援基盤形成』コホート・⽣体試料⽀援プラットフォーム(CoBiA)共催
第9回 遺伝統計セミナー
『ゲノムコホート研究における遺伝統計学』レポート

9度目の開催となる遺伝統計学セミナーは、2024年10月23日(水)から25日(金)の3日間にわたり、石垣市健康福祉センターで開催された。SARS-CoV-2のパンデミック以降、初の通常開催となった。後日の動画視聴希望者を含め、総参加登録者数は49名、現地会場では22名が参加した。総参加登録者数のうち38名が、CoBiAの支援対象者である科学研究費受給者やその関係者であった。本会に伴って10月27日(日)に開催された市民公開講座には、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)に参加するKyushu and Okinawa Population Study(KOPS)石垣地区に居住する住民・保健福祉関係者を含む、18名余りが来場した。


図1.1日目の株式会社スタージェンの上辻先生による講演の様子

1日目は、本プラットフォーム分担者、バイオメディカルデータ解析支援班長の中杤昌弘・名古屋大学大学院准教授による開会の挨拶があり、本プラットフォームの概要もご説明いただき、今回の開催への期待が述べられた。続いて、株式会社スタージェンの上辻茂男氏から、遺伝統計学概論の講義及び、デモデータを使ってのGWASの演習が行われた。遺伝統計学の歴史から基本的な事柄を専門家が丁寧に解説する講義・演習は少なく、参加者からは講義の内容に直接関係するものに留まらず、ゲノムコホート研究全般に渡って、日頃の研究活動で生じた疑問や、現在困っている点を含め、活発に質問がなされ、この分野における研究手法や考え方に関する理解を一段と深める機会となった。

2日目は、午後の悪天候が予想されたため、当初の予定を変更しての開催となった。まず午前中は予定通り、上辻氏から、研究デザイン及びメタ解析に関する講義がなされた。昼食を挟み、当初は3日目に予定していた2演習を行った。初めに中杤准教授によるUCSCゲノムブラウザの使用法の実習が行われた。続いて、岩手医科大学の小巻翔平講師より、いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)の開発したiMETHYLの利用法についての演習がなされた。


図2.2日目の名古屋大学 中杤先生による実習の様子

その後、夕方からは予定された進行に戻り、4題の招待講演が行われた。まず初めに愛知県がんセンターの小栁友理子主任研究員よりALDH2遺伝子の遺伝型で層別化したGWASの興味深い研究結果が報告された。次いで、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)の高瀬雅仁助教より「ゲノムコホート研究における遺伝統計学」と題して、直近の研究成果について発表がなされた。さらに、同機構の青木裕一講師よりToMMoのマルチオミックスデータの概要と整備状況についての報告があった。最後に、IMMの須藤洋一特命准教授より、肥満を予測するポリジェニックスコアの開発と解析に関する発表があった。

3日目には天候が好転したため、前日にキャンセルされた予定を午後から行う旨、事務局から連絡があった。まず、午前中は2実習が行われた。はじめに、藤田医科大学の藤井亮輔講師によるデータ可視化についての実習が行われた。続いて、ToMMoの田高周講師より、ToMMoが整備したjMorp 日本人多層オミックス参照パネルの活用法についての解説がなされた。

午後からは、前日に中止されたMeet the Expertを行い、参加者から専門家への質問・相談時間を確保した。その後、プラチナバイオ株式会社の小野浩雅ディレクターによる統合TVの紹介を行ったが、事前に現地スタッフと本セミナーのプログラムを共有していたにもかかわらず、別の会合がダブルブッキングされており、途中で打ち切る形となった(ただし、開催後にオンデマンドにて補填し配信)。その後、場所を変えてナイトセッションを行い、現地参加の発表希望者から各2分の研究発表(ライトニングトーク)が行われた。ライトニングトークが参加者同士の活発な交流の契機となり、その後の総合討論の時間でも参加者同士の意見交換が活発に行われていたのが印象的であった。


図3.市民公開講座での池崎先生による講演の様子

10月27日には、一般市民を対象とした公開講座を同会場で挙行した。数日前まで台風接近による大雨や風など悪天候が続き、周知も十分に進まなかったものの、地域関係者のご尽力も有り、多数の聴講者が来場した。開会にあたり、まず班長の中杤准教授から本会の趣旨について説明と挨拶があった。続いて、「がんの疫学」と題して愛知県がんセンターがん予防研究分野の松尾恵太郎分野長による講演が行われた。続いて、同地域でKOPS研究を推進する九州大学の池崎裕昭准教授より「心筋梗塞・脳梗塞を予防しよう!」と題して、これらの疾患をもたらす要因や、最新の研究成果、石垣地区での状況が説明された。最後は岩手医科大学の清水厚志教授より「遺伝と病気」という題で講演がなされた。日曜開催であったにも関わらず、地域で保健・福祉に関わる方などが聴講しており、聴講者の関心は非常に高かった。各演題の合間に質疑応答の時間を設けたが、身近な疑問から専門的なものまで幅広く活発に質問がなされていた。

今回の開催はSARS-CoV-2のパンデミック以降、初の本格的な現地開催となった。また、本会に限らず学術的な実習や講演が頻繁に行われる大都市でなく、J-MICC研究のフィールドであり、かつ、できるだけ地方都市などを開催地に選ぶ本会の趣旨に基づき、J-MICC連合KOPS研究が対象としている石垣市での開催となった。石垣市は離島とはいえ、東京などからのアクセスはよく、都市の規模も比較的大きいため、実施においては意外なほど不便はなかった。その一方、遠隔地のため現地の協力者などとの綿密な打ち合わせが難しく、いくつかの連絡や確認のミスが生じたことは反省材料である。また、東京以外の地域からのアクセスは限定的なうえ、気候の点で本州との差が大きく、参加のために準備と日数を要する点で、参加者を制限してしまったのではないかという懸念がある。さらに、この時期には珍しく台風が接近しており、天候急変もあって、日程変更を余儀なくされた。その結果として、3日目の演題の一部を途中で打ち切る形となってしまい、参加者、演者、会場管理者にご迷惑をおかけした。台風などによる緊急対応の想定はあらかじめ行っていたものの、その場で臨機応変に対応することの難しさを痛感させられた。

本セミナーは文部科学省新学術領域『学術研究支援基盤形成』事業の一環として執り行われる学術支援であり、多くのリピーターに加え、毎回新たな参加者を得てきた。このような講習会の需要は依然として高く、また、技術的な進捗が著しい分野でもあるため、今後も定期的に学習機会を提供し続けることは研究分野の発展のために必要である。また、本会は専門家と、初学者、中堅の研究者が数日間一同に介し、活発な意見交換を行って技術的・理論的に実践的な理解を深める場としても成長してきた。今後も、今回の反省材料を活かしながら、他に例のない研究支援の枠組みとしての発展を進めていくことは、当事業の趣旨に沿うものと思われる。

また、本会に伴って開催される公開市民講座が、地域による参加者の多少はあるにせよ、開催の度に一定の好評を博していることも、アウトリーチ活動の成功例として考慮に入れる必要がある。がん、遺伝に加え、自身が参加しているコホート研究について専門家からもっと深く知りたいという住民の意欲は強く、そうした機会を提供する貴重な機会となっている。この取り組みは、住民有志の参加により行われてきたコホート研究の成果を還元する活動の好例として、今後も継続的に続けられていくことが望ましい。

岩⼿医科⼤学 いわて東北メディカル・メガバンク機構
⽣体情報解析部⾨

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https://square.umin.ac.jp/platform/links/cohort.html

主要論文の解説文

※満足度アンケート−被支援者の声—

COVID-19克服にむけて

J-MICC STUDY | 日本多施設共同コーホート研究(ジェイミック スタディ)

生命科学連携推進協議会

先端バイオイメージング支援プラットフォーム(ABiS) l 我が国のバイオイメージングスペシャリストによる支援

先端モデル動物支援プラットフォーム

先進ゲノム支援(先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム)

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