イベント情報
⽂部科学省学術変⾰領域研究『学術研究⽀援基盤形成』コホート・⽣体試料⽀援プラットフォーム 共催
第8回 遺伝統計セミナー
『ゲノムコホート研究における遺伝統計学』レポート
8度⽬の開催となる遺伝統計学セミナーは、2023年8⽉24⽇(⽊)から26⽇(⼟)の3⽇間にわたり、佐賀市内で開催された。1⽇⽬前半と2⽇⽬、3⽇⽬は佐賀⼤学鍋島キャンパス、1⽇⽬後半のみ同市内「グランデはがくれ」を利⽤した。SARS-CoV-2の5類感染症への分類変更に伴い、本格的な通常開催への移⾏措置として、佐賀市内の会場からZoomによるオンライン中継も⾏われ、初のハイブリッド形式での開催となった。佐賀市内の会場では29名が参加し、うち21名が⽀援対象者である科学研究費受給者やその関係者であった。⼀⽅、オンラインでは最⼤47名が同時視聴した。最終⽇(3⽇⽬)に開催された市⺠公開講座には⽇本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)佐賀地区に参加する住⺠を含む、200名余りが来場し、稀に⾒る盛況であった。
図1.1⽇⽬の講演の様⼦
1⽇⽬は、本プラットフォーム分担者、バイオメディカルデータ解析⽀援活動班⻑の中杤昌弘・名古屋⼤学⼤学院准教授による開会の挨拶があり、本プラットフォームの概要もご説明いただき、今回の開催への期待が述べられた。続いて、株式会社スタージェンから、遺伝統計学概論の講義が⾏われた。遺伝統計学の基本的な事柄を丁寧に解説する講義は少なく、参加者からの質問も活発であり、⼤変好評であった。昼⾷をはさみ、午後からは岩⼿医科⼤学の清⽔厚志教授、名古屋⼤学の永吉真⼦助教、愛知県がんセンターの春⽇井由美⼦技師、東北⼤学の⼤邉寛幸助教による講義が⾏われた。現地開催が盛況で質問も活発に⾏われたこともあり、予定されていた岩⼿医科⼤学の⼩巻翔平講師の講演は録画されたものを後⽇オンライン配信すること、事務局より連絡があった。
会場の移動と⼣⾷をはさみ、本会の共催である佐賀⼤学医学部社会医学講座予防医学分野の⽥中恵太郎教授より挨拶があった。続いて現地参加者によるライトニングトークが⾏われた。参加者の経歴や研究内容、現在取り組んでいる課題などが端的に紹介され、会場の興味を誘った。ライトニングトーク後は参加者同⼠の活発な交流が⾒られ、共同研究の創発という点で⼤変意義深い企画であった。
2⽇⽬は、株式会社スタージェンから、ゲノムワイド関連解析(Genome-wide association study; GWAS)の実習講義が⾏われた。予定された進⾏より⼤幅に遅れるなど想定外の出来事はあったが、現地ではスタージェンのスタッフ及び、3名のティーチング・アシスタント(TA)が適切にフォローすることで、脱落者を出さず会を進⾏することができた。昼⾷後は、Post-GWAS解析に関わる講義・実習が⾏われた。まず、EuracResearchの藤井 亮輔研究員によるデータ可視化についての実習が⾏われた。続いて、DBCLSの⼩野 浩雅特任助教による統合TVの紹介、岩⼿医科⼤学の⼤桃秀樹准教授によるTMM計画のデータベース紹介、及び名古屋⼤学の中杤 昌弘准教授によるUCSCゲノムブラウザの使⽤法の実習が⾏われた。
図2.市⺠公開講座の状況
最終⽇となる3⽇⽬は、⼀般市⺠を対象とした公開講座が佐賀⼤学医学部臨床⼤講堂を会場として⾏われた。J-MICC佐賀地区参加者を含む多数の聴講者が来場し、⼤講堂がほぼ満席となるほどであった。また、⾞椅⼦参加者のために利⽤しやすい別室が⽤意されるなど、バリアフリーにも配慮されていた。市⺠講座はまず名古屋⼤学の中杤准教授に代わって、岩⼿医科⼤学の清⽔教授から説明と挨拶があった後、「がんの疫学」と題して愛知県がんセンターの松尾 恵太郎教授による講演が⾏われた。続いて、佐賀⼤学の⽥中教授より「J-MICC研究佐賀地区の活動」と題して、これまでの取り組みと成果が報告され、 次いで岩⼿医科⼤学の清⽔教授より「遺伝と病気」という題で講演がなされた。最後に⽥中教授の総括で公開講座は盛会のうちに終了した。
今回の開催はSARS-CoV-2の取り扱い変更に伴う移⾏期間であったことを考慮し、現地開催とウェビナーを併⽤したハイブリッド開催となった。ウェビナー参加を選ぶ参加者も多く、また、講演者の側もオンライン講演を選ぶ事ができるなど、双⽅にとって利便性が⾼い開催形式であった。その⼀⽅、実習においては、想定通りうまく進まないなどの事態は当然起こりうることであり、現地のTAやスタッフがその対応に追われる場⾯が多々あった。こうした状況はオンラインでは⼗分に拾い上げられない可能性が⾼く、今後、質の⾼いセミナーを⾏っていくためには、現地開催を主軸とした開催形式にシフトすることも⼗分に検討する必要があるかと思われる。その際、参加者のサポート体制強化のため、今回以上にTA等現地スタッフを増強することも検討する必要がある。
本セミナーは2016年-2021年度まで実施された⽂部科学省新学術領域『学術研究⽀援基盤形成』事業の⼀つで、過去6年間の⽀援活動に対する⾼い評価に基づき、昨年度から⽂科省学術変⾰領域『学術研究⽀援基盤形成』事業として新たなスタートを切った学術研究の⽀援活動であり、多くのリピーターに加え、毎回新たな参加者を得てきた。このような講習会の需要は依然として⾼く、また、技術的な進捗が著しい分野でもあるため、今後も定期的に学習機会を提供し続けることは研究分野の発展のために必要である。また、本セミナーに関連して、第⼀線の研究者が開催地に移動する機会を利⽤して⾏われてきた、公開市⺠講座が開催の度に好評を博していることも、本会のアウトリーチ活動の成功例として考慮に⼊れる必要がある。こうした取り組みは、住⺠有志の参加により⾏われてきたコホート研究の成果を還元する活動の好例として、今後も継続的に続けられていくことが望ましい。
岩⼿医科⼤学 いわて東北メディカル・メガバンク機構
⽣体情報解析部⾨