【活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)とは】 |
活性化部分トロンボプラスチン時間(Activated Partial Thromboplastin Time; APTT)は、内因系凝固反応を反映する検査です。内因系凝固反応は、凝固第XII因子が陰性荷電表面で、高分子キニノゲン及びプレカリクレインと複合体を形成し開始される凝固カスケード反応です。この反応を試験管内で再現したのがAPTTです。凝固反応の開始物質としてリン脂質を、また凝固反応を安定化させるための活性促進剤を試薬に含み、カルシウムを再負荷することで凝固反応を開始させます。内因系凝固反応は凝固第VII因子(及び凝固第XIII因子)以外の全ての凝固因子が関与していますので、凝固因子欠損・低下のスクリーニング検査としては プロトロンビン時間(PT)よりも重要であり、また有用です( 凝固第VII因子欠損症は稀であり、また出血傾向などの臨床症状を呈することは稀です)。 ワルファリン治療の指標として PTが使用されていることもあり、出血傾向のスクリーニングとして PTのみを測定している場合を散見しますが、適切な対応とは言い難く、 PTとともにAPTTも測定するのが本来のスクリーニング検査です。ただし、生体内の止血のための凝固反応は「凝固第VII因子/組織因子複合体→凝固第IX因子/凝固第VIII因子→凝固第X因子/凝固第V因子→プロトロンビン→フィブリン」という経路ですので、APTT単独でも出血するのかどうかの判断はできません。
APTTが延長する疾患としては、ループスアンチコアコアグラントがあります。ループスアンチコアコアグラントは抗リン脂質抗体症候群の一つで、深部静脈血栓症などの血栓症のリスクファクターとなります。このため術前検査でAPTTが延長していた場合、その原因が因子欠損によるものであれば術中術後の止血困難を呈する可能性があり、一方ループスアンチコアグラントによる延長の場合は血栓症を合併する可能性が上昇します。治療のベクトルが逆方向となるので、特に術前検査で異常を認めた場合はその原因を特定する必要があります。
APTTはヘパリン投与量の指標として使用されています。ガイドラインのいくつかにはAPTTを基準値の1.5-2.5倍に伸ばすように容量調節を行う様に記載されています。しかしそれに続いて「 APTT試薬には多様性があり、個々の凝固因子に対する反応性が異なるため、注意を要する」と記載してあります(どのように注意するべきか記載してあるガイドラインは少ないと思いますが)。実際同一プール血漿を用い、既知量のヘパリンを添加した検体のAPTT延長は試薬によって大きく異なり、また同一試薬であっても、個別検体によってヘパリンによるAPTTの延長は大きく異なります( 臨床病理 61;576-582, 2013.)。
APTT試薬には内因系凝固反応を開始する「リン脂質」と凝固反応の安定化のための「活性促進剤」の2つから成り立っています(ほかに凝固開始物質としての塩化カルシウムが必要ですが、こちらは標準化され試薬間差はありません)。リン脂質は主にウサギやウシの脳由来、ヒト胎盤由来、また卵黄由来などの動物由来リン脂質や大豆由来のリン脂質、また合成リン脂質など様々なリン脂質が使用され、その組成は各試薬ごとに異なっています。動物由来のリン脂質ではロット間の差もあり、ロットごとの基準値を提示する必要がある場合もあります。活性促進剤はシリカやエラジン酸、セライトなどが用いられています。このため、APTT試薬それぞれに特徴があり、因子活性低下に感受性が高い試薬やループスアンチコアグラントに対する感受性が高い試薬などもあります。逆に一部の試薬は凝固因子低下に対して感受性が低い場合やループスアンチコアグラントに対する感受性が低い場合なども存在し、術前スクリーニングとしてAPTTを施行しても軽症血友病と診断されず、術後止血困難を合併する場合もあります。各施設の特徴に応じて特性に応じた試薬を採用する必要がありますが、一般にメーカーが公開している情報のみではその特徴把握は困難です。
活性化部分トロンボプラスチン時間とはなんとも奇妙な名前です。この「部分トロンボプラスチン」とは、プロトロンビン時間で用いる「組織トロンボプラスチン」から蛋白成分である組織因子を除いた成分(すなわちリン脂質)のことで、リン脂質によって開始される凝固時間検査が「部分トロンボプラスチン」「時間」です。しかしこの反応は不安定であるので、活性促進剤を添加することで測定結果の安定を目指した検査が「活性化」「部分トロンボプラスチン」「時間」です
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