【先天性凝固第X因子欠損症とは】
先天的に凝固第X因子が欠損・低下している遺伝性疾患です。凝固第X因子は後天的にも因子活性が低下する場合があり(AL-アミロイドーシスでは時に単独低下が認められます)、凝固第X因子活性の単独低下でも先天性凝固第X因子欠損症とはいえない場合があります


【遺伝形式】
常染色体劣性遺伝形式です。臨床的に出血傾向を呈するのは、ホモの異常症の一部です。ヘテロの方は第X因子は低下(50 %程度に)していますが、出血傾向を呈することはありませんので保因者となります


【臨床症状】
出血傾向を呈しますが、因子活性によって出血傾向の出現の程度は異なります。保因者の方は出血傾向は呈しません


【検査所見】
  • PTおよびAPTTの延長

  • 延長したPTおよびAPTTは補正試験で補正される
    ループスアンチコアグラントおよび後天性凝固因子インヒビター(後天性血友病並びに後天性第V因子インヒビター)の鑑別のために施行してください。凝固時間が測定できる施設では特別な試薬がなくともAPTTの試薬さえあれば施行可能です。ループスアンチコアグラントはPTは正常な場合が多いのですが、フォスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPSPT)と呼ばれるループスアンチコアグラントなどではPTの延長も同時に認めることがあります

  • 凝固第X因子活性低下

  • 凝固第V因子その他の凝固因子活性は正常

  • 免疫グロブリン正常(M蛋白認めない、ベンスジョーンズ蛋白陰性、フリーライト正常範囲など)、線溶系の活性化が認められない
    いずれもAL-アミロイドーシスで認められることが多い異常です。これらの異常を認めた場合は、AL-アミロイドーシスに合併する後天性の凝固第X因子低下症の可能性を考慮してください。

【鑑別疾患】
  • 先天性凝固第V因子欠損症・低下症先天性プロトロンビン欠損症・低下症並びに複合因子欠損症(凝固第V/第VIII因子同時欠損症やVKOR異常症など)。
    いずれもPTおよびAPTTの延長を認め、延長した凝固時間は補正試験で補正されます。
    複合因子欠損症の可能性も否定できない病態では共通系因子(プロトロンビン、第V因子および第X因子)のみならず、外因系因子(第VII因子)および内因系因子(第VIII因子、第IX因子、第XI因子および第XII因子)の測定が必要な場合もあります。

  • ワルファリン過剰状態・ビタミンK欠乏状態
    凝固第X因子はビタミンK依存性凝固因子ですのでワルファリン過剰状態やビタミンK欠乏状態では低下します。その他のビタミンK依存性の凝固因子(プロトロンビン、凝固第VII因子および凝固第IX因子)並びに凝固制御因子(プロテインCおよびプロテインS)も低下します。またPIVKAIIも著しく上昇します(本病態の鑑別のための保険適応はありません)。臨床経過からワルファリン過剰やビタミンK欠乏の鑑別疾患にあげることは難しくないと考えがちですが、複数の医療機関から処方を受けている場合、他院から投与されているワルファリンの情報が考慮されない場合があります。またミコナゾールなどワルファリンの代謝に影響する薬物の処方を受けている場合もあります。絶食や抗生物質の投与などで内因性のビタミンK産生が低下している場合や胆道閉鎖症や吸収不全症候群合併例などでは診断に苦慮する場合もあります。

  • ループスアンチコアグラント
    PTは正常でAPTT延長が認められる場合が多いのですが、時にPTの延長も同時に認めらる症例があります。特にフォスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPSPT)と呼ばれる場合はPTおよびAPTTの両方が延長している場合があります。検査では補正試験で補正されない凝固時間延長を認めます。無症状の症例も多く術前検査で偶然見つかる場合も多くあります。aPSPTでは出血傾向と血栓傾向の両方が認められる場合があります。

  • 後天性第V因子インヒビター
    後天性第V因子インヒビターは凝固第V因子に対する自己抗体が出現する病態です。出血症状を呈さない場合から強い出血傾向を呈する症例まで様々です。検査では補正試験で補正されない凝固時間の延長を認めます。凝固第X因子活性は正常で、凝固第V因子活性の低下を認めます。凝固因子に対する自己抗体が出現する後天性血友病ではPTは一般的に正常ですので、鑑別疾患としてあげられることは少ないと思いますが、何らかの原因(ワルファリン服用など)でPT延長している場合もありますので注意が必要です。

  • AL-アミロイドーシス
    免疫グロブリンに凝固第X因子が吸着するために後天的に凝固第X因子の低下が認められる場合があります。しかしすべてのAL-アミロイドーシスで認められる所見ではありません。またAL-アミロイドーシス以外のアミロイドーシスでは一般に認められません。AL-アミロイドーシスの診断を行うとともに、新鮮凍血漿投与など外部から補充した凝固第X因子の半減期が短縮していることで診断は可能です

【治療】
正式な意味で保険適応のある濃縮因子製剤はありません。このため新鮮凍結血漿の投与が中心となります。
正式な保険適応はありませんがPPSBはビタミンK依存性凝固因子が濃縮されているため、効果的な凝固第X因子の補充が必要な場合にはメリットがあります。
ワルファリン過剰状態で使用可能なケイセントラにも凝固第X因子は含まれていますが、保険適応はありません。PPSBやケイセントラ濃縮因子製剤は凝固第X因子とともに他の凝固因子も濃縮されていますので、第X因子の上昇の一方で他の凝固因子も上昇しますので、血栓症の合併には注意が必要です。インヒビター陽性血友病などに適応があるバイクロットも凝固第X因子を成分として含んでいますが、保険適応はありません。