プロトロンビン時間 |
プロトロンビン時間(prothrombin time; PT)は、外因系凝固反応を反映する検査です。外因系凝固反応は、凝固第VII因子が血管外に存在する組織因子に結合することで開始される凝固カスケード反応です。この反応を試験管内で再現したのがPTです。凝固反応の開始物質として組織因子を用い、カルシウム再負荷することで凝固反応を開始します。外因系凝固反応は、その構成因子にビタミンK依存性凝固因子が多く関与し、さらに同因子の中で最も半減期が短い凝固第VII因子が関与していますので、ワルファリン投与量の指標として重要です。一方、APTTが正常でPTのみが延長する凝固第VII因子欠損症では出血傾向を呈する場合は稀ですので、出血傾向のスクリーニング試験として重要性は高くはありません。
生体内の止血のための凝固反応は「凝固第VII因子/組織因子複合体→凝固第IX因子/凝固第VIII因子→凝固第X因子/凝固第V因子→プロトロンビン→フィブリン」という経路で、凝固第VII因子/組織因子複合体が直接凝固第X因子/凝固第V因子を活性化する経路はバイパス経路と呼ばれるある意味非生理的な経路です。PTはこのバイパス経路を反映していますので、この点でもPTはあくまで試験管内の反応と理解する必要があります(止血が標準的なPTの秒数である10数秒では起こりません)。PTの開始物質である組織因子を十分に希釈した組織因子希釈PTでは生理的な止血反応に近い経路が再現され、凝固第VIII因子欠損・低下症(血友病A)や凝固第IX因子欠損・低下症(血友病B)の検体でも凝固時間の延長が認められます。
PTは様々な病態で延長します。
PTは適切なワルファリンの指標として使用されます。APTTでは、ワルファリンの影響を受けない凝固第XII因子や凝固第XI因子が存在し影響を与えているのに対して、PTでは多くの段階にワルファリンの影響を受けるビタミンK依存性蛋白である凝固第VII因子、凝固第X因子、凝固第II因子(プロトロンビン)が存在しているためワルファリンによって延長しやすいと考えられています。さらに凝固第VII因子はビタミンK依存性蛋白の中でも半減期が5時間と最も短いものであるため、、ワルファリンの投与量を鋭敏に反映しますので、ワルファリンの投与量が適切であるかの適切な指標として有用と考えられています。しかし、凝固第VII因子の低下のみでは凝固活性化は必ずしも抑制されず、凝固第X因子や凝固第II因子、さらに内因系凝固因子である凝固第IX因子が低下して、初めて抗凝固能は発揮されます。このためワルファリン導入時にはPTが延長していても、十分に凝固能が抑制されていない場合があります。このため急性期にヘパリンで抗凝固療法施行中の患者さんで、ワルファリンを導入したとしても、目標のPTに達してもすぐにはヘパリンは中止せず、数日間ヘパリンとの併用を行うのが一般的です(ヘパリンブリッジング)。PTはワルファリンによる抗凝固能を反映しているのではなく、ワルファリンの投与量が適切であるかを反映している指標であることは記憶しておいてください。
ワルファリンはその投与量が少ない場合は血栓症予防効果発現はなく、かえってプロテインCやプロテインSの低下を引き起こすため血栓症が悪化する可能性があります。一方過剰な場合は出血傾向を呈することになります。このためPTの標準化が検討され、いくつかの方法が検討されたのち、最終的に「患者血漿PT(秒)を標準血漿PT(秒)でわり、各試薬・機器(lotも含む)で設定される指数(International Sensitivity Index; ISI)で累乗する」と試薬間差がなくなる(少なくなる)ことが提案されました。これがプロトロンビン時間−国際標準化比(Prothrombin Time-International Normalized Ratio; PT-INR)で、式は
PT-INR = ${\LARGE (}\cfrac{患者血漿PT}{標準血漿PT}{\LARGE )}^{ISI} $
となります。
標準化されてはいるものの、ISIが大きい場合には、ワルファリンの治療域では誤差が大きくなり、治療に影響が出る場合があります。WHOもISIは0.9-1.7の試薬の使用を推奨していますが、一部の試薬は2.0近くの試薬もあります(一般にこの様な試薬の方が値段が安い傾向があります)。熊本大学ではISIが1.0近くの試薬を使用しています。
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