先天性プロトロンビン欠損症
【先天性プロトロンビン欠損症とは】
先天的にプロトロンビンが欠損・低下している遺伝性疾患です。

【遺伝形式】
常染色体劣性遺伝形式です。臨床的に出血傾向を呈するのは、ホモの異常症の一部です。ヘテロの方はプロトロンビン活性は低下(50 %程度)していますが、出血傾向を呈することはありませんので保因者となります

【臨床症状】
出血傾向を呈しますが、因子活性によって出血傾向の出現の程度は異なります。保因者の方は出血傾向は呈しません

【検査所見】
  • PTおよびAPTTの延長

  • 延長したPTおよびAPTTは補正試験で補正される
    ループスアンチコアグラントおよび後天性凝固因子インヒビター(後天性血友病並びに後天性第V因子インヒビター)の鑑別のために施行してください。凝固時間が測定できる施設では特別な試薬がなくともAPTTの試薬さえあれば施行可能です。ループスアンチコアグラントはPTは正常な場合が多いのですが、フォスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPSPT)と呼ばれるループスアンチコアグラントなどではPTの延長も同時に認めることがあります。

  • 凝固プロトロンビン活性低下

【鑑別疾患】
  • ワルファリン過剰状態・ビタミンK欠乏状態
    プロトロンビンはビタミンK依存性凝固因子ですのでワルファリン過剰状態やビタミンK欠乏状態では低下します。その他のビタミンK依存性の凝固因子(凝固第VII因子凝固第IX因子および凝固第X因子)並びに凝固制御因子(プロテインCおよびプロテインS)も低下します。またPIVKAIIも著しく上昇します(本病態の鑑別のための保険適応はありません)。臨床経過からワルファリン過剰やビタミンK欠乏の鑑別疾患にあげることは難しくないと考えがちですが、複数の医療機関から処方を受けている場合、他院から投与されているワルファリンの情報が考慮されない場合があります。またミコナゾールなどワルファリンの代謝に影響する薬物の処方を受けている場合もあります。絶食や抗生物質の投与などで内因性のビタミンK産生が低下している場合や胆道閉鎖症や吸収不全症候群合併例などでは診断に苦慮する場合もあります。

  • 血友病A血友病B、その他の因子欠損症
    治療法が異なるので鑑別は必要です。各凝固因子の測定が必要です。です。

  • ループスアンチコアグラント
    APTT延長延長が認められます。一般に出血傾向は呈さず、血栓傾向を呈することが多い病態ですが、時に出血傾向を呈する場合もあります。検査では補正試験で補正されないAPTT延長を認めます。無症状の症例も多く術前検査で偶然見つかる場合も多くあります。先天性凝固第XII欠損症では多くの症例では無症状ですが、本病態では血栓傾向と術前検査などでAPTT延長を認める場合は血友病を含む因子欠損症かループスアンチコアグラントなのかの鑑別は重要です。

  • 後天性第V因子インヒビター後天性血友病→
    後天性第V因子インヒビターは凝固第V因子に対する自己抗体が出現する病態です。出血症状を呈さない場合から強い出血傾向を呈する症例まで様々です。検査では補正試験で補正されない延長を認めます

【治療】
日常生活では出血傾向が必ずしも出現するものではありませんが、打撲などを契機として出血傾向を呈する場合があります。このため外傷などを可能な限り避けるなどの患者教育が必要となります。外傷時や手術をはじめとする観血的手技などの場合で、止血困難な出血を呈している場合、もしくは呈する可能性が高い場合には凝固第V因子の補充が必要になります。プロトロンビンを含む血漿分画製剤としてPPSBがありますが保険適応はありません。このため新鮮凍結血漿投与が必要になります。クリオ製剤ではプレシピテート側に濃縮はされていません(上清中に多くは含まれています)。