血友病B
【血友病Bとは】
先天的に凝固第IX因子が欠損・低下している遺伝性疾患です。第IX因子活性が40%以下の症例を血友病Aとします。因子活性が低いほど出血傾向は強くなります。一般に、因子活性によって重症度を分類しています


【重症度分類】

因子活性重症度
1 %未満重症
1-5 %中等症
5-40 %軽症

この分類は、因子活性に基づくものであり、臨床症状の重症度と必ずしも一致しません。重症血友病でもほとんど出血しない患者さんもいらっしゃれば、中等症でもしばしば出血を呈する方もいらっしゃいます

【遺伝形式】
X染色体連鎖潜性(劣性)遺伝形式を取るため、多くの患者さんは男性です。男性50000人に1名程度の発症すると考えられています(血友病Aの1/5-1/10程度です)。責任遺伝子を持っている女性は、いわゆる「保因者」となりますが、X染色体の不活化(Lyon現象)に偏りが一定程度起こるため、数%の保因者は血友病Bと同じ因子活性を呈し、「女性血友病」となります

【臨床症状】
  • 皮下出血
    気が付き易いこともあり、初発症状としては最も頻度が高いものです。点状出血よりは指頭大〜の紫斑を呈することが多く、皮下硬節を触れる血腫を触れることもあり、palpable purpuraとも呼ばれます。新生児には出産時の大泉門の皮下血腫などが認められる場合もあります。

  • 関節出血
    歩行を開始する1歳以降に認められることが多く、膝、足、肘関節の順に認められますが、どの関節にも起こり得ます。
    関節の違和感、倦怠感などの前兆のあと、激しい疼痛、腫脹、熱感などとともに関節の可動域の制限が認められます。このため、血友病でない場合は経過観察で良いレベルの違和感などの前兆症状時に第VIII因子製剤の投与などを行う必要があります。
    同一関節に出血を反復することで滑膜炎症や肥厚性変化が起こり関節軟骨が侵食破壊され次第に関節の変形、拘縮をきたし血友病性関節症にいたるため、現在の治療の目標は関節出血そのものを予防するものとなっています。

  • 筋肉内出血
    運動機能に影響を与えるほどの出血も珍しくなく、疼痛と腫脹が認められ、運動制限をきたします。コンパートメント症候群を合併する場合もあり、減張切開を施行する必要がある場合もあります。腸腰筋出血をきたす場合もあります。現在では稀ですが、偽腫瘍を形成すると、近くの骨融解を惹起する場合もあります。

  • 頭蓋内出血
    致死的出血出血となることもしばしばありますので、早急な治療介入が必要です。硬膜外出血、硬膜下出血、くも膜下出血および脳実質内出血のどの出血も起こり得ます。外傷性の場合、受傷から発症までの期間が長いのも特徴です。

  • 腹腔内出血
    軽度の打撲でも発症します。進展は緩徐なことが多いのですが、重度の貧血を呈する場合もあります。

  • 血尿
    年長児や成人の重症症例に認められることがあります。特別な原因ははっきりしないことも多々あります。尿管内に形成された血餅のため、水腎症を合併する例もあります。このため血尿の治療ではトラネキサム酸の使用は推奨されていません。

  • 頸部出血
    稀な出血ですが、気道圧迫を起こし致死的な出血の一つであり、早期の地リュ介入が必要です。

  • その他の出血
    歯肉出血や抜歯後止血困難、外傷時や術後の止血困難など様々な出血症状を呈します。また保因者を含め、女性の場合は月経過多や産後の出血なども認められる場合があります。
これらの出血は、重症症例でも中等症症例でも共に認められます。ただしその発生頻度は大きく異なり、このため、治療の目標の一つが重症と中等症を分ける因子活性1%という値をトラフ値として保つことになっています。
軽症血友病ではほとんど出血症状を呈さず、成人になって初めて診断されることも珍しくありません(80歳代で診断された例もあります)
重症・中等症でも新生児期に診断される例は少なく、多くは1歳以降の活動性が上昇した時期に診断されます。先天性疾患と言っても、小児期に診断される例ばかりではありません

【検査所見】
  • PT正常、APTT延長
    典型例で認められる所見で、重症血友病ではほぼ全ての症例でAPTTの延長が認められます。しかし中等症血友病では一部の症例ではAPTTの延長が基準値をわずかに超える程度の場合があり、軽症血友病ではAPTTが正常値を示す症例も稀ではありません。PTは正常でAPTTがわずかに延長している症例で精査なしに手術をし、止血困難に陥った例(後日血友病と判明)もあります。APTTが基準値を超えて延長している場合は血友病やその他の凝固因子欠損症の可能性を考えてください
  • 延長したAPTTは補正試験で補正される
    ループスアンチコアグラントおよび後天性血友病の鑑別のために施行してください。凝固時間が測定できる施設では特別な試薬がなくともAPTTの試薬さえあれば施行可能です。
  • 凝固第IX因子活性低下(40%以下)
    多くの施設では外注検査と思われますが、確定診断には必須です。他の因子活性との比較になりますので、内因系凝固因子の同時測定を行った方が良いと考えます(次項目と関連)。
  • 凝固第VIII因子その他の凝固因子活性は正常
    ただしVKORDなど複合因子欠損や肝機能低下などでは複数因子の低下があり得ます。
  • フォンビルブランド因子抗原量は正常
  • 凝固第IX因子インヒビターは検出されない
    多くの場合、APTT補正試験で補正される場合はインヒビターは陰性と考えられます。

【鑑別疾患】
  • 血友病A凝固第XI因子欠損症凝固第XII因子欠損症、その他の因子欠損症
    治療法が異なるので鑑別は必要です。各凝固因子の測定が必要です。

  • ループスアンチコアグラント
    APTT延長延長で認められます。一般に出血傾向は呈さず、血栓傾向を呈することが多い病態ですが、時に出血傾向を呈する場合もあります。検査では補正試験で補正されないAPTT延長を認めます。無症状の症例も多く術前検査で偶然見つかる場合も多くあります。血友病では出血傾向、本病態では血栓傾向と反対方向のベクトルを示すため、術前検査などでAPTT延長を認める場合は血友病を含む因子欠損症かループスアンチコアグラントなのかの鑑別は重要です。
  • 後天性血友病
    凝固第VIII因子に対する自己抗体が出現する病態です。一般に強い出血傾向を呈し、検査では補正試験で補正されないAPTT延長を認めます。
  • フォンビルブランド病
    凝固第VIII因子の安定化因子であるフォンビルブランド因子の量的低下もしくは質的異常を呈する病態です

第IX因子の補充が治療の基本となります。出血時に投与するオンデマンド投与、手術など観血的手技や運動前に前もって投与し因子活性を上昇させておく予備的投与、並びに出血と関係なく一定間隔で投与することで出血そのものを予防する定期投与の3つの治療法に大別されます。これらは併用する場合もあり、定期投与中でも破綻出血を呈した場合はオンデマンド投与を行います。
大手術などでは、持続投与を行い一定以上の因子活性を保つ場合もあります。
製剤は大別して従来製剤と半減期延長製剤の二つに大別されます。

【従来製剤】
半減期が生理的な第IX因子とほぼ同じ製剤です。
ノバクトM
ベネフィクス*

【半減期延長製剤】
遺伝子組み換え技術などにより半減期を延長(およそ2.5倍)させた製剤です。
オルプロリクス
イデルビオン
レフィキシア

*は熊大病院採用薬です

【治療目標量】
病態によって治療目標となる因子活性は異なります。第IX因子は、2相性の血中濃度の変化を示します。一般に体重1kgあたり1単位の第IX因子を投与すると、α相の終盤・β相の始めの時点で0.5 %の因子活性の上昇が期待できます(循環血液量やヘマトクリットなどによって上昇率は異なります)。半減期は平均24時間(半減期延長製剤で60時間)ですが、個人差が大きく、個別に測定する必要があります。

出血症状 目標値 一日投与回数 投与日数
皮下出血 軽度 10-20 1 1-2日
重度 20-40 1-2 1-3日
関節内出血 軽度 20-40 1 1-3日
重度 40-60 1-2 3-5日, 以後漸減し、計5-7日
血尿 40-60 1 1-3日
消化管出血、頸部出血 60-80 1-2 3-5日, 以後漸減し、計5-7日
頭蓋内出血、腹腔内出血 80-100 2 5-7日, 以後漸減し、計7-10日
抜歯 60-100 1-2 3-5日, 以後漸減し、計5-7日
小手術 60-100 1-2 3-5日, 以後漸減し、計5-7日
大手術 60-100 2 5-7日, 以後漸減し、計7-10日

【インヒビター】
治療に用いた第IX因子に対する抗体を持つ場合があり、インヒビターと呼ばれます。血友病患者さんにとって、濃縮因子製剤に含まれる凝固因子は異物として認識される場合があり、特に重症血友病患者の治療開始後に認められる場合があります。20-50回目の投与後に認められる場合が多く、特に脳出血など集約的治療を行う場合や炎症反応の合併時に集中して治療を行なった場合などに起こりやすいことが知られています。
軽症や中等症の症例では比較的起こりにくいと考えられているものの、外傷時や手術時、脳出血など致死的出血時に集約的治療(大量の因子製剤使用)を行なった場合などにまれに認められます。特に感染症などの炎症病体合併時には感作されやすいと考えられており、十分な止血管理は必要ではありますが、必要最小限の製剤の使用を行うことが重要です。
インヒビター陽性患者の中には、第IX因子製剤投与によってアナフィラキシーなどのアレルギー反応や、第IX因子とイン非ビターの免疫複合体蓄積によるネフローゼ症候群合併などを起こす場合もあります。インヒビター陽性になりますと治療法が全く異なりますので、必ず専門医の元での治療(最低でも助言のもとでの治療)を行ってください。