先天性凝固第V因子/第VIII因子同時欠損症
【先天性凝固第V因子/第VIII因子同時欠損症とは】
先天的に凝固第V因子と凝固第VIII因子が同時に欠損・低下している遺伝性疾患です。先天性凝固第V因子欠損症(パラ血友病)と先天性凝固第VIII因子欠損症(血友病A)が、偶然合併した病態ではありません(可能性はあり得ますが、遺伝子頻度から考えると、世界中に1名以下の確率です)


【遺伝形式】
常染色体劣性遺伝形式です。臨床的に出血傾向を呈するのは、ホモの異常症の一部です。ヘテロの方は第V因子活性、第VIII因子活性はほぼ正常で、出血傾向を呈することはありません


【臨床症状】
出血傾向を呈しますが、因子活性によって出血傾向の出現の程度は異なります。多くの場合、第VIII因子の活性低下は軽症血友病A程度の低下で、臨床症状もほぼ軽症血友病Aと同程度です。このため抜歯後止血困難などの観血的手技時の止血困難や歯肉出血、鼻出血などが主な症状です。間接出血などは稀な症状です。保因者の方は出血傾向は呈しません


【検査所見】
  • PTおよびAPTTの延長

  • 延長したPTおよびAPTTは補正試験で補正される
    ループスアンチコアグラントおよび後天性凝固因子インヒビター(後天性血友病並びに後天性第V因子インヒビター)の鑑別のために施行してください。凝固時間が測定できる施設では特別な試薬がなくともAPTTの試薬さえあれば施行可能です。ループスアンチコアグラントはPTは正常な場合が多いのですが、フォスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPSPT)と呼ばれるループスアンチコアグラントなどではPTの延長も同時に認めることがあります。

  • 凝固第V因子および凝固第VIII因子の活性低下
    両因子ともに低下します。同程度の低下ですが、多くの場合は10%程度までの低下で軽症血友病A相当の値です。

  • 凝固第X因子およびプロトロンビン活性は正常、その他の凝固因子活性は正常

  • フォンビルブランド因子抗原量および活性は正


【鑑別疾患】
  • 凝固第V因子時欠損症
    PTおよびAPTTの延長がともに認められます

  • ビタミンK欠損状態、ワルファリン過剰状態、VKORD
    PTおよびAPTTの延長がともに認められます

  • 血友病A血友病B、その他の因子欠損症
    治療法が異なるので鑑別は必要です。各凝固因子の測定が必要です。

  • ループスアンチコアグラント
    APTT延長延長が認められます。一般に出血傾向は呈さず、血栓傾向を呈することが多い病態ですが、時に出血傾向を呈する場合もあります。検査では補正試験で補正されないAPTT延長を認めます。無症状の症例も多く術前検査で偶然見つかる場合も多くあります。先天性凝固第XII欠損症では多くの症例では無症状ですが、本病態では血栓傾向と術前検査などでAPTT延長を認める場合は血友病を含む因子欠損症かループスアンチコアグラントなのかの鑑別は重要です。

  • 後天性第V因子インヒビター後天性血友病
    後天性第V因子インヒビターは凝固第V因子に対する自己抗体が出現する病態です。出血症状を呈さない場合から強い出血傾向を呈する症例まで様々です。検査では補正試験で補正されない延長を認めます


【治療】
日常生活では出血傾向が必ずしも出現するものではありません。止血困難な出血傾向を呈する場合は、主に第VIII因子の補充が中心となります(第VIII因子と第V因子では止血に必要な因子活性は第VIII因子が高い値であるため)第VIII因子補充でも止血が得られない場合は新鮮凍結血漿投与などにより第V因子補充が必要になる場合があり得ますが、因子活性から考えると極めて稀と考えられます。クリオ製剤では第VIII因子の補充は可能ですが効率は悪く、第V因子の補充はできません。