脳神経外科と脳卒中診療のかかわり

小川彰 
岩手医科大学 脳神経外科 
日本脳卒中学会理事長

脳卒中は、日本人の3大死因の一つであり、国民病とも言うべき疾患です。入院して治療を受けている方は、「癌」の1.5倍、心臓病の3.5倍にも上ります。脳卒中でお亡くなりになる方は減っているにもかかわらず、入院治療を余儀なくされている方が多いのは、ひとたび脳卒中に罹ってしまうと、麻痺や、言葉の障害、意識がはっきりしないなど、社会復帰が難しいばかりでなく、重症であれば家庭生活すら難しく、本人のみならず家族の負担も極めて重い病気です。また、「寝たきり」の最も多い原因です。

一方、脳卒中は病気になって数時間の極めて早時期に適切な治療が出来れば、場合によっては社会復帰も夢ではなく、極めて早い時期の適切な治療が効果的であることが判ってきました。そして、OECDヘルスデータの最新版では、日本の脳卒中治療が世界一のレベルである事が示されています。一例を挙げると、脳卒中入院30日以内の死亡率はOECD平均が10.1%に対して日本では3.3%で世界一です。脳出血、クモ膜下出血なども世界一です。

この様な、世界一の医療がどの様な状況で行われているのでしょうか。脳卒中の入院患者は全ての入院患者の実に16%を占めています。この脳卒中の専門治療は、主に脳神経外科医と、神経内科医の手に委ねられています。日本の総医師数は約26万名です。内、脳神経外科医は6241名、神経内科医は3443名(厚生労働省3師調査:平成21年)であり、全医師の3.6%にすぎません。16%の患者の世界一の医療をたった3.6%の医師が夜も寝ないで担っているのです。

日本の脳神経外科医は手術だけをしている訳ではありません。脳卒中救急診断から、手術的治療のみならず薬物療法を含む非手術的治療を行い、総合的かつ専門的知識と診療技術を持って、脳卒中の診断、治療を行っています。この様に、脳神経外科医の日々の献身的診療活動によって、世界一のレベルの脳卒中診療が日本の国民に提供されていることを、改めて認識して頂きたいと思います。

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