頭頸部がんの治療では手術・放射線療法・抗がん剤(薬物療法)が用いられ、これらを単独または組み合わせて行われます(表Ⅶ-1-1)。
組み合わせて治療することを集学的治療と言います。特に、遠隔転移がないものの進行しているがん(局所進行がん)では抗がん剤を含めた集学的治療が重要となります。局所進行頭頸部がんに対する抗がん剤の用い方としては、根治的化学放射線療法・術後補助化学放射線療法・導入化学療法があげられます。
局所進行頭頸部がんを根絶する(根治する)目的で放射線療法と抗がん剤を同時に行う方法です。治療の基本は放射線療法であり、抗がん剤は放射線療法によるがん細胞への治療効果を高める目的で行われます(増感作用)。手術で取りきることが困難ながん(切除不能局所進行頭頸部がん)での最も基本的な治療となるほか、手術で取りきることができると考えられるがん(切除可能局所進行頭頸部がん)でも、手術による機能障害(喉頭全摘による発声機能消失など)を避けるために行うことがあります。 根治的化学放射線療法で用いられる抗がん剤としてはシスプラチン、シスプラチン+5-FU、セツキシマブなどがありますが、最も基本(標準治療)とされているのはシスプラチンです。治療のスケジュールのうち、代表的なものを表に示します(表Ⅶ-1-2)。
シスプラチン併用根治的化学放射線療法の副作用として代表的なものを表に示します(表Ⅶ-1-3)。
治療効果を最大限に高めるためには、治療を十分行うことが重要となるため、副作用対策(支持療法)が重要となります。
手術の後に、再発のリスクが高い場合に再発予防を目的として放射線療法と抗がん剤を同時に行う方法です。治療の基本は放射線療法であり、抗がん剤は根治的化学放射線療法と同じように放射線療法への増感作用を目的として行われます。再発のリスクが高いかどうかの判断には、手術で切除した検体の詳しい評価(病理学的所見)が重要となります。特に再発のリスクが高いものとして手術で切除した端にがん細胞が認められること(顕微鏡的断端陽性)、手術で切除したリンパ節の外側にがん細胞が侵入していること(節外浸潤陽性)があります。この2つの所見のいずれかがある場合には、術後補助化学放射線療法が基本となります。ただし、実際には体力や臓器機能などを考慮して、術後治療の内容(抗がん剤と放射線療法を併用する・放射線療法のみ行う・術後治療を行わないなど)を検討する必要があります。 術後補助化学放射線療法ではシスプラチンが併用することが基本(標準治療)とされています。治療のスケジュールは根治的化学放射線治療に準じます。 シスプラチン併用術後化学放射線療法の副作用は、前項のシスプラチン併用根治的化学放射線療法の副作用と同様です。
根治的放射線療法・根治的化学放射線療法の前に抗がん剤を行うことを導入化学療法といいます。導入化学療法の意義としては、(1)切除可能局所進行がんの場合に、導入化学療法の効果をみて機能を残すことができるかを見極めるために行う場合(機能温存目的)、(2)切除不能・または切除しても再発の危険性が高い場合に、遠隔転移の危険性を下げるなど、より治療効果を高める目的で行う場合(予後改善目的)で行われる場合があります。 導入化学療法で用いられる標準的な抗がん剤の組み合わせは、ドセタキセル・シスプラチン・5-FUの3剤併用です(表Ⅶ-1-4)
ただし、白血球減少に伴う感染症などの副作用が強いことも多く、ほかの抗がん剤を用いた方法などについても検討が進められています。
ここでは頭頸部癌の大部分を占める口腔、中咽頭、下咽頭、喉頭の扁平上皮癌に対する薬物治療について述べます。再発・転移とは、すでに手術あるいは放射線治療を施行した部位での再発(局所再発といいます)や離れた臓器への転移があり、局所治療(手術や放射線治療など)での根治が困難な場合をいいます。 再発・転移頭頸部癌の患者さんへの治療として、①薬物による腫瘍縮小効果を目指す治療、②局所の症状を緩和する治療(緩和的放射線照射)、③生存や生活の質を保つ治療(気管切開や胃瘻造設など)がありますが、ここでは①について述べます。 再発・転移頭頸部癌の治療の目的は、病気の進行を抑え、それによって生命予後の延長や病気の進行に伴う症状の出現を遅らせることです。
治療内容は、以下のような要因に基づいて決定します。
日中の50%以上ベッド外で過ごせるかどうかがおおよその目安となります。体調がすぐれない状況での薬剤投与はさらに体調を悪化させる可能性があり、推奨できません。(図Ⅶ-2-1)
抗がん剤治療によって影響をうける合併症が存在するため注意が必要です。例えば、糖尿病は制吐目的のステロイドで悪化することがあります。また、腎機能障害や肝機能障害の程度によって、抗がん剤が使用できない場合があります。(図Ⅶ-2-2)
過去の治療歴から有効性が推測できる場合があります。また、使用できない薬剤や治療できない時期も存在します。
抗がん剤治療は、可能であれば外来での治療を目指しますが、治療内容や有害事象の程度、在宅環境や通院交通事情など様々な要因を勘案して通院で行うか、入院で行うかを決めます。治療により、仕事面や経済面などの社会的な問題がある場合には、それに応じた可能な治療法に変更することもあります。
過去にB型肝炎にかかっている場合、治療により肝炎ウイルスが活性化する場合があるため、治療前にB型肝炎ウイルスの検査を行う必要があります。一般に抗がん剤治療と並行してウイルスの再活性化を抑える治療を行う必要があります。 B型肝炎のHPへリンク
■B型肝炎の既往 最初に行う抗がん剤治療を1次治療、その後に行う治療を2次治療、3次治療、・・・と呼びます。一般的には後ろの治療になるほど有効性は低下します。また、がんに対する治療と並行して、つらさや症状を和らげる治療(緩和ケア)を行います。後ろの治療になるほど緩和ケアの比重は増加します。
再発・転移頭頸部がんに使用可能な薬剤としては主に以下のものがあります。
プラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチン)、フッ化ピリミジン系製剤(5FU、ティーエスワン)、タキサン製剤(パクリタキセル、ドセタキセル)があります。がん細胞が増殖するために必要なDNAという物質の合成や複製を阻害することや、細胞分裂を阻害することでがんを縮小させます。殺細胞性抗がん剤は増殖能の強いがん細胞により多くのダメージを与えますが、がん細胞のみではなく、増殖能の高い正常細胞にも影響を与えるため、その部位に関与した副作用が出現します。主な副作用は骨髄抑制(白血球減少や貧血など)、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢)、腎機能障害、神経障害(しびれ)、脱毛などです。
分子標的薬とはがん細胞の遺伝子異常で起きる特徴的な変化を狙いうちする薬剤です。(図Ⅶ-2-3)代表的な治療薬であるセツキシマブはがん細胞の表面にある、増殖に必要な上皮成長因子受容体(EGFR)という特定の分子と結合することで、がん細胞を増殖できないようにします。このEGFRに選択的に作用するため、前述の殺細胞性抗がん剤のような副作用はまれです。しかし、がん細胞以外に、皮膚にもEGFRが発現するため、皮膚に関連した副作用(ざそう様発疹、皮膚乾燥、皮膚亀裂、爪囲炎など)が出現します。他にも、頻度は多くはありませんが、薬剤性肺炎や投与時のアレルギー様反応、低マグネシウム血症などが見られます。
ペムブロリズマブ、ニボルマブは免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる種類の薬剤です。がん細胞の表面には免疫を担うリンパ球にブレーキをかける働きがあります。上記の抗がん剤や分子標的薬の様にがん細胞を直接攻撃するものとは異なり、免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキをかける働きを阻害することでリンパ球の働きが低下することを防ぎ、がんの増殖を抑制します。(図Ⅶ-2-4)
副作用は自己の免疫が増強することによって起きるものがあります。免疫細胞は全身のあらゆる箇所に存在し、副作用が出現する部位や時期も様々です。
主な副作用として、疲労、皮膚障害(発疹、そう痒)、内分泌機能障害(甲状腺機能の異常など)、肝機能障害、腸管粘膜障害(下痢や腸炎など)、肺障害(薬剤性肺炎)などがありますが、副作用の発症初期は症状がはっきりとしないことがあるので注意が必要です。
記の各種薬剤を以下の様な組み合わせで治療に用います。どの組み合わせをどのような順番で使用するかは、治療によるメリット、デメリットを勘案して決定します。
□プラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)+ 5FU + ペムブロリズマブ 併用療法
2019年12月に承認された、頭頸部癌で初の殺細胞性抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせです。殺細胞性抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬のそれぞれの良いところが得られる可能性のある今一番期待されている治療法です。投与に際しては、手術あるいは生検で採取した癌細胞や周囲の免疫細胞の状態を参考にします。3週間に一度の点滴を1コースとして、最大6コースまで繰り返します。各コースの最初の1週間程度は入院が必要となります。終了後は3週間に一度ペムブロリズマブ単剤の点滴を外来で継続します。殺細胞性抗がん剤、免疫チェックポイント阻害薬、いずれの副作用も出現する可能性があり、注意が必要です。
□プラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)+5FU±セツキシマブ* 併用療法
上記の治療が承認されるまでは、最も有効性が高かった組み合わせで、現在でも優先順位の高い組み合わせです。ただし、副作用も多く、投与には十分な臓器機能と体力を有していることが必要です。3週間に一度の点滴を1コースとして、最大6コースまで繰り返します。各コースの最初の1週間程度は入院が必要となります。終了後は毎週セツキシマブ単剤の点滴を外来で継続します。殺細胞性抗がん剤の副作用の他に、セツキシマブ特有の皮膚に関連した副作用に注意が必要です。*セツキシマブが使用できない場合はプラチナ製剤と5FUの2剤となります。
□(±カルボプラチン)+パクリタキセル+セツキシマブ併用療法
上記の3剤併用療法が困難な場合などに1次治療などとして使用します。比較的高い有効性が示されており、腎機能低下例などでも使用可能であること、入院を要さない事がメリットとなりますが、毎週の点滴通院が必要になります。
□ペムブロリズマブ単剤療法、ニボルマブ単剤療法
これらの免疫チェックポイント阻害薬は、奏効率(腫瘍を縮小する割合)は上記の治療と比較して高くはありませんが、長期間にわたり治療効果が持続する場合があることが知られています。
ペムブロリズマブ単剤療法は、1次治療から使用可能であり、手術あるいは生検で採取した癌細胞や周囲の免疫細胞の状態を参考にして投与を決定します。2週に一度あるいは4週に一度の点滴を行います。
ニボルマブ単剤療法は、プラチナ製剤使用歴のある患者さんに対して2次治療以降で使用され、2週間に1度の点滴治療を行います。
□タキサン製剤(パクリタキセルあるいはドセタキセル)単剤療法、ティーエスワン単剤療法
これらの薬剤は主に2次治療以降で使用されます。
パクリタキセルは毎週の点滴通院、ドセタキセルは3週毎の点滴通院が必要となります。ティーエスワンは内服での投与のため、点滴の治療と比較して通院頻度を抑えることが可能となります。
2019年8月から、がん遺伝子パネル検査が保険適応となりました。 がん遺伝子検査はがんゲノム医療中核拠点病院やがんゲノム連携病院等にて施行可能です。
ただし、白血球減少に伴う感染症などの副作用が強いことも多く、ほかの抗がん剤を用いた方法などについても検討が進められています。
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