舌がんは口の中にできる口腔がんの一つであり、その中で最多です。日本で1年間に約4400人が診断され、男性:女性が1.6:1と男性に多い傾向があります。 発生の要因は喫煙、飲酒、口腔内の不衛生などに関連が強くありますが、歯牙や義歯との慢性的な接触刺激も原因となります。更に熱い食べ物などの度重なる刺激も原因となります。 舌の側縁にできることが多いです。
初期は舌の側縁にしこりが触れることが多いです。口内炎と思っていて、なかなか治らない場合も注意が必要です。 進行すると痛みを伴い、潰瘍を形成して出血することもあります。さらに進行すると食べ物が摂りにくい、言葉が喋りづらい、口が開けにくいや口腔内の悪臭を生じることもあります。 また、早期から顎の下のリンパ節や頸部のリンパ節に転移をきたすこともあります。
視診、触診で腫瘍を確認し、首の触診を行います。腫瘍組織の一部を採取(生検)し顕微鏡などで詳しく診断(病理診断)を行い癌の確定をします。病変の広がり、 転移や重複がんの有無を確認するためにCT検査、MRI検査、エコー検査やPET-CT検査などの画像検査と上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行います。
手術が治療法の中心(Ⅳ-1 口腔がんの手術の項へ)となりますが、 組織内照射(がんに直接針を刺して放射線を照射する)が可能な施設では早期がんの治療の選択肢となります。手術の後は、状況に応じて放射線治療や抗がん剤を併用する化学放射線治療を行うことがあります。
初期の症状はほぼありませんが、進行すると鼻づまり、鼻出血や血性の鼻汁の症状を引き起こしたり、頬部の腫脹や歯肉の腫脹、口が開けにくくなったり、眼球が突出したり、ものが二重に見えるなどの症状を引き起こします。
初期の症状は軽度で、のどの異物感、違和感、飲み込み(嚥下)時のしみる感じです。進行するとともにのどの痛み、飲み込みにくい、喋りにくいなどの症状が強くなります。 さらに進行すると、激しい痛みや出血、ふくみ声、呼吸困難などの症状も出てきます。また、のどの症状はなくて、頸部のしこり(リンパ節転移)が唯一の症状のこともあります。
視診および鼻や口からの内視鏡検査で腫瘍を確認と首の触診を行います。腫瘍組織の一部を採取(生検)し顕微鏡などで詳しく診断(病理診断)を行い癌の確定をします。 腫瘍が確認できない場合は上歯ぐきの粘膜部分を切開し直接上顎洞内の腫瘍組織を一部採取する場合もあります。病変の広がり、転移や重複がんの有無を確認するためにCT検査、MRI検査、エコー検査やPET-CT検査などの画像検査と上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行います。
早期であれば、手術や放射線治療を行いますが、進行している場合は、抗がん剤、手術、放射線治療を組み合わせた治療を行います。抗がん剤は通常の全身投与以外にがんにつながる血管(動脈)に注入し、がんを治療する方法もあります。
上咽頭がんは中国南部や東南アジアに多く、日本を含めて他の地域では比較的まれです。日本で1年間に約750人が上咽頭がんと診断され、男性:女性が2~3:1と男性に多い傾向があります。 発生の要因はEBウィルスとの関連や中国南部や東南アジアで食されている塩漬けにした魚の摂取との関連も言われています。
初期はほとんどが無症状ですが、腫瘍が大きくなると鼻づまりや鼻出血などの鼻の症状が現れたり、耳と鼻をつなぐ管である耳管が詰まり、耳の閉塞感、中耳炎や難聴など耳の症状を引き起こしたりします。更に進行すると物が二重に見えたり、顔面の痛みや知覚障害などが現れたりします。 また、頸部のリンパ節への転移を生じやすく、自覚症状が頸部腫瘤のみの場合もあります。
鼻からの内視鏡検査での腫瘍の確認と首の触診を行います、内視鏡下に腫瘍組織の一部を採取(生検)し顕微鏡などで詳しく診断(病理診断)を行い癌の確定をします。病変の広がり、転移や重複がんの有無を確認するためにCT検査、MRI検査、エコー検査やPET-CT検査などの画像検査と上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行います。
放射線治療がよく効く腫瘍が多く、手術が困難な部位であるため放射線治療が中心となります。病期の進行に合わせて放射線治療に抗がん剤を併用する化学放射線治療を行います。
中咽頭がんは日本で1年間に約3200人が診断され、男性:女性が4~5:1と男性に多い傾向があります。発生の要因は喫煙と飲酒に関連が強くありますが、ヒト・パピローマ・ウィルス(HPV)の関連も明らかになってます。HPVが発がんに関連している場合はそうでないものに比べて予後が良いことが知られています。 また上部消化管内視鏡(胃カメラ)施行時にごく初期の段階で発見されることもあります。
初期の症状は軽度で、のどの異物感や飲み込む時の違和感などです。進行するとともにのどの痛み、飲み込みにくい、言葉が喋りにくいなどの症状が強くなります。さらに進行すると、激しい痛みや出血、ふくみ声、口を開けにくい、息苦しいなどの症状も出てきます。 また、頸部のリンパ節への転移を生じやすく、自覚症状が頸部腫瘤のみの場合もあります。
視診および鼻や口からの内視鏡検査での腫瘍の確認と腫瘍や首の触診を行います。腫瘍組織の一部を採取(生検)し顕微鏡などで詳しく診断(病理診断)を行い癌の確定をします。病変の広がり、転移や重複がんの有無を確認するためにCT検査、MRI検査、エコー検査やPET-CT検査などの画像検査と上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行います。
表在病変で発見された場合は経口的な手術が行われます。早期がんは手術や放射線治療のみで治療します。進行がんの場合、がんが治癒することだけでなく、治療後の飲み込みや発声などの機能も重要となります。そのためがんの部位や範囲などで放射線治療に抗がん剤を併用する化学放射線療法をするか手術と(化学)放射線療法での治療をするかを検討します。
下咽頭がんは日本で1年間に約4200人が診断され、男性:女性が10:1と男性に多い傾向があります。発生の要因は喫煙と飲酒に関連が強くあります。他の頭頸部領域や食道に重複がんの頻度が高いことも特徴の一つです。
初期には自覚症状がないことも多いですが、のどの違和感や閉塞感などがあります。進行するとともにのどの痛みや飲み込みにくさ、息苦しさ、声がれ、血痰などの症状が現れます。また、頸部のリンパ節への転移を生じやすく、自覚症状が頸部腫瘤のみの場合もあります。
視診および鼻からの内視鏡検査での腫瘍の確認と首の触診を行います、腫瘍組織の一部を採取(生検)し顕微鏡などで詳しく診断(病理診断)を行い癌の確定をします。病変の広がり、転移や重複がんの有無を確認するためにCT検査、MRI検査、エコー検査やPET-CT検査などの画像検査と上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行います。
表在病変で発見された場合は内視鏡下の経口的な手術が行われます。 Ⅳ 経口切除術の項へ
早期がんは手術や放射線治療のみで治療します。進行がんの場合は手術が中心となります。発声の器官である喉頭を一緒に摘出することが多く、その場合には手術後は声が出せなくなります。
QOLの観点から放射線治療に抗がん剤を併用する化学放射線療法が行われる場合があります。
喉頭がんは頭頸部領域で最も多い悪性腫瘍で、日本で1年間に約5300人が診断され、男性:女性が12:1と男性に多い傾向があります。発生の要因は喫煙と飲酒に関連が強くあり、喉頭がんの方の喫煙率は90%以上です。がんのできる部位によって声門がん、声門上がん、声門下がんの3つに分けられます。最も多いのは声門がんです。
喉頭がんの中でもがんのできる部位(声門がん、声門上がん、声門下がん)によって症状が若干異なります。声門がんは声帯にがんができるため、早期から声のかすれが現れます。進行してくると血痰や息苦しさが現れます。早期には頸部のリンパ節転移はあまり起こりません。声門上がんは早期ではのど異物感や、飲み込むときの痛みなどが現れます。また比較的早い時期から頸部のリンパ節転移が認められます。 進行してくると声のかすれや息苦しさが現れます。声門下がんは、進行するまで症状がでない事が多く、進行してくると声のかすれや息苦しさが現れます。
視診および鼻からの内視鏡検査での腫瘍の確認と首の触診を行います。腫瘍組織の一部を採取(生検)し顕微鏡などで詳しく診断(病理診断)を行い癌の確定をします。病変の広がり、転移や重複がんの有無を確認するためにCT検査、MRI検査、エコー検査やPET-CT検査などの画像検査と上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を行います。
早期がんは放射線治療や喉頭を残す手術で治療します。進行がんの場合は喉頭をすべて摘出する手術(喉頭全摘出術)が中心となり、その場合には手術後は声が出せなくなります。喉頭を残す観点から放射線治療に抗がん剤を併用する化学放射線治療を行う場合があります。
唾液(つば)を作り出す唾液腺には、耳の下の「耳下腺」、顎の下の「顎下腺」、舌の裏の「舌下腺」といった大きなもの(大唾液腺)と、口や咽頭に多数存在する小さなもの(小唾液腺)があります。 このうち耳下腺に発生する腫瘍は良性が多く、悪性(がん)は10~20%程度ですが、他の部位では悪性腫瘍の占める割合が高くなります。ただ、良性唾液腺腫瘍である多形腺腫は長年放置していると悪性化する可能性があり、 治療対象となります。最新の本邦での頭頸部悪性腫瘍登録(2016年)では、唾液腺癌は661人/年です。唾液腺がんの中では耳下腺がんが最も多くその約7割を占めますが、地域の基幹病院においても年に数名程度の患者さんが受診される程度であり、決して多くはありません。
唾液腺がんのなかには、病理組織の型によっても様々な種類のがんがあります。進行が早く、周囲の組織に浸潤しやすく、転移しやすい高悪性度がんと進行がゆっくりで転移しにくい低悪性度がん、そしてその中間の中悪性度がんに大きく分類されます。 がんを疑う症状として、神経麻痺を伴うこと、自発痛や圧痛を伴うこと、腫瘍を触っても動かないことがあげられます。耳下腺内には目を閉じる、口唇を動かす、頬を動かすといった顔の筋肉の動きをつかさどる顔面神経が走っています。良性腫瘍では基本的に神経麻痺を伴うことはありません。唾液腺の炎症によって痛みを生じている場合もあります。
まずは、MRIやCTを撮影し、腫瘍の形、位置、広がりなどを確認します。唾液腺腫瘍は良性でもPETで異常集積することが多く、PET-CTで陽性となった場合でも、良性と悪性の診断は困難とされています。リンパ節転移がある場合もがんが疑われます。これらの画像検査に加えて、頸部超音波検査(エコー)で観察しながら、 注射針で腫瘍細胞を吸引採取し、顕微鏡で検査をします(穿刺吸引細胞診)。穿刺吸引細胞診で悪性を疑う診断が出るのは60~70%程度です。穿刺吸引細胞診で診断がつかなかった場合、低/中悪性度のがんである可能性もがあるため、注意が必要です。したがって、穿刺吸引細胞診だけではなく画像検査や上述のがんを疑う症状などを含めて総合的に診断する必要があります。
治療は、通常は手術 治療が中心になります。初回治療で放射線治療や抗がん剤による根治は困難とされています。手術の内容は、がんの悪性度や広がりによって決定されます。術後病理診断で高悪性であった場合や神経浸潤があった場合には、術後放射線治療を施行したほうが良い場合があります。
がんが再発した際でも可能であれば手術を施行し、手術で切除困難であれば、抗がん剤や放射線治療を行います。
予後は、がんの悪性度、進行度によって大きく異なり、5年生存率は高悪性度がんでは30~50%程度、低/中悪性度がんでは90~100%です。低/中悪性度がんでは5年以上経っても再発する可能性があり、5年以上経っても定期的な診察や検査が必要です。
甲状腺がんは頭頸部領域にできるがんの中では頻度の多いものの一つです。男性よりも女性に多いという特徴があります。一般に若い女性の方が高齢者・男性に比べて治りやすい傾向にあるとされています。甲状腺がんは組織型によって分化がん(乳頭がん、濾胞がん)、髄様がん、未分化がんに分類されます。この組織型によって予後は大きく異なります。 分化がん、とくに高分化がんは予後が良好ですが、未分化がんでは有効な治療が確立されておらず、予後の悪いがんの代表格です。
症状としては頸部の「しこりや腫れ」としてあらわれる場合が多いですが、これは甲状腺にできた腫瘍を触っている場合と頸部のリンパ節転移を触っている場合の両方がありえます。バセドウ病など甲状腺ホルモンに異常が出る病気と違って、甲状腺がんの場合にはホルモンに異常は出ないことが多いです。
また、甲状腺がんの診断を受けるまでまったく無症状の人もおられます。
進行すると「嗄声(声のかすれ)」や「嚥下障害(飲み込みにくさ)」などが生じることがあります。
甲状腺がんの診断には超音波検査が最も有効です。(図Ⅲ-6-1)
がんが疑われる場合にはさらに細い注射針で腫瘍細胞をごく少量吸引して診断(穿刺吸引細胞診)を行います。穿刺吸引細胞診は甲状腺結節の良悪性の鑑別診断に有効で乳頭がんのほか、髄様がん、悪性リンパ腫、未分化がんの診断にも有効とされています。
ただし、濾胞がんや悪性リンパ腫の一部など組織型によっては穿刺吸引細胞診では確定診断がつきにくく、手術などによる組織診断で最終診断をつける必要があります。PET-CT検診で見つかる場合もありますが、甲状腺がんの全例で陽性になるわけではなく、
良悪性の鑑別として推奨はされていません。一方で転移の有無や周辺への広がりを評価する際にはCTやPET-CTも有用とされています。
甲状腺がんに対する治療法には「外科的切除」「放射性ヨード内用療法」「放射線外照射」「甲状腺ホルモン療法」「分子標的薬治療」などがあります。主な治療は外科的切除であり、そのほかは補助療法として適用されています。