一般社団法人 日本頭頸部癌学会

学会について

禁煙・節酒宣言

禁煙・節酒宣言 頭頸部癌にかからないために

頭頸部癌とは口腔癌、鼻・副鼻腔癌、咽頭・喉頭癌、唾液腺・甲状腺癌など首から上の臓器(脳と眼を除く)に発生する癌をいいます。日本頭頸部癌学会の調査では、頭頸部癌の多くは口腔、咽頭・喉頭領域や食道および肺に重複多発する傾向があり、さらに重要なことは喫煙と過度の飲酒がその発生の強い誘因として関わっていることが判明しています。このように、共通の誘因により、いくつかの領域にまたがって広く発癌する現象は広域発癌field cancerizationといわれ、最近注目されてきました。この点については医療界にはもちろん、国民の皆様にも、もっと広く認識していただきたいと考えています。
喫煙が虚血性心疾患や種々の癌など多くの疾患の誘因であり、受動喫煙も含めて健康に悪影響を及ぼすことは近年の科学的根拠の蓄積により今や周知の事柄です。平成15年5月「健康増進法」の発効および平成16年6月WHO「たばこ規制枠組み条約」の批准などで、わが国においても具体的な対策が進み、さまざまな学会・団体からも禁煙宣言が出されています。
飲酒に関しても、平成15年にはWHOにより中・下咽頭癌、口腔癌、食道癌が飲酒関連癌とされています。また日本人においては、アルコールが代謝される過程で産生される毒性の強いアセトアルデヒドが蓄積しやすい体質のひとが多く、そうしたひとでは少量の飲酒でも健康に悪い影響が現れ、より飲酒関連癌にかかりやすいことがわかっています。
日本頭頸部癌学会およびその全会員は、頭頸部癌の診断・治療とそれに関わる研究を行ってきました。これらの成果から、多くの頭頸部癌の誘因が喫煙と過度の飲酒によるものであることが判明しています。これらの誘因を排除するために、日本頭頸部癌学会およびその各会員は、以下に述べる諸活動を実行することを宣言します。また国民の皆様には喫煙と過度の飲酒を戒め、禁煙・節酒を心がけるようお願いいたします。

日本頭頸部癌学会として

【学会の取り組み】
  • (1)国民の皆様に対する禁煙・節酒の啓発に努めます。
  • (2)喫煙・飲酒と頭頸部癌との関わりについての研究をさらに進めます。
  • (3)学術大会場内を全面禁煙とします。
【各学会員の取り組み】
  • (4)国民の皆様に対して喫煙と過度の飲酒を戒め、頭頸部の飲酒関連癌患者に対して禁煙・禁酒を奨励します。
  • (5)学会員の所属機関においては、受動喫煙の防止のために施設等の全面禁煙に率先して協力し、その推進に努めます。
  • (6)禁煙指導に務め、あるいは実施を支援します。
  • (7)全会員およびその運営に関わる者は、喫煙と過度の飲酒を戒め、禁煙・節酒を心がけます。
【わが国の喫煙対策への要望】
  • (8)タバコ税の大幅引き上げに賛成し、税の用途を禁煙推進に活用することを要望します。
  • (9)未成年者喫煙の防止のためタバコ自動販売機の廃止を要望します。

平成18年6月15日
日本頭頸部癌学会
理事長 岸本誠司

日本頭頸部癌学会 禁煙・節酒宣言起草委員会

構成委員
  • 岸本 誠司東京医科歯科大学頭頸部外科
  • 吉野 邦俊大阪府立成人病センター耳鼻咽喉科
  • 池田 恢国立がんセンター中央病院放射線治療部
  • 白砂 兼光九州大学大学院口腔顎顔面外科学分野
  • 林崎 勝武医療法人社団菊田会習志野第一病院頭頸科
  • 櫻庭 実国立がんセンター東病院形成外科
  • 浅井 昌大国立がんセンター中央病院頭頸科
  • 大島 明大阪府立成人病センター調査部
  • 斉川 雅久国立がんセンター東病院頭頸科
  • 須長 寛福井大学耳鼻咽喉科
  • 津熊 秀明大阪府立成人病センター調査部
  • 宮原 裕大阪府立総合医療センター耳鼻咽喉科
  • 武藤 学国立がんセンター東病院消化管科
  • 渡邉 昭仁恵佑会札幌病院耳鼻咽喉科

※日本頭頸部癌学会は、頭頸部癌と総称される首から上の癌の診断・治療に関する研究を推進している、耳鼻咽喉科・頭頸部外科医、歯科口腔外科医、放射線科医、形成外科医、病理医その他の多領域の専門職種の会員で構成されている学会です。

禁煙・節酒宣言 用語の解説

頭頸部癌

頭頸部癌とは口腔癌、鼻・副鼻腔癌、咽頭・喉頭癌、唾液腺・甲状腺癌など首から上の臓器(脳と眼を除く)に発生する癌をいいます。これらの部位は呼吸・食物摂取・発声など身体にとって重要な機能をつかさどり、癌の発生やその治療によってこれらの機能や容貌が損なわれる可能性が大きいのが特徴です。

日本頭頸部癌学会

日本頭頸部癌学会は、先述の頭頸部癌の診断・治療に関する研究を推進している学会で会員総数は約3000名です。本会は耳鼻咽喉科・頭頸部外科医、歯科口腔外科医、放射線科医、形成外科医、外科医、腫瘍内科医および病理医など多領域にわたる医師・歯科医師で構成されており、その前身は昭和36年(1961)に創立された日本頭頸部腫瘍研究会で、その後日本頭頸部腫瘍学会、さらに平成17年には日本頭頸部癌学会と名称変更され現在に至っています。

Field Cancerization(広域発癌)

1953年、Slaughterらによって提唱された概念です。彼らはがんを引き起こす物質による活性化にさらされる粘膜は、広い範囲(field)にわたってがんが発生する危険性をはらむという仮説を提唱しました。このような「条件づけられた上皮」の場、あるいは「運命づけられた粘膜」では、がんを引き起こす物質にさらされることで、単一部位のがん化でなく、多くの場所が別個に活性化し、多発的に破壊されてがんが生じます。口腔、咽頭、喉頭、食道、気管・気管支などの粘膜がこれに該当し、がんを引き起こす物質として、タバコ、酒が挙げられます。

喫煙に関するエビデンス

喫煙が虚血性心疾患や種々の癌など多くの疾患の誘因であることは近年のエビデンスの蓄積により自明の事柄です。頭頸部癌に関しても過度の飲酒と共に喫煙が強い誘因であり、他の部位への多発・重複癌発症の誘因にもなります。

節酒に関するエビデンス

口唇口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、肝臓癌は、WHOにより過度の飲酒により発生しやすい飲酒関連癌に規定されています。(IARC 1988, WHO 2003)
一方、アルコールを体内で分解する過程で、毒性の強いアセトアルデヒドという物質が産生されますが、これをさらに分解する能力の弱い人が遺伝的に存在し、日本人に多くみられます。その様な人たちはわずかな飲酒でも癌発症の危険性が増すことが分かってきました。
この様に飲酒関連癌では多量の飲酒自体が危険因子ですが、飲酒に加えて喫煙の習慣のある人はさらに癌の危険性が増加します。

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