一般社団法人 日本頭頸部癌学会

学会について

ごあいさつ

吉本 世一

一般社団法人 日本頭頸部癌学会理事長 吉本 世一

 このたび本学会の新しい理事長を拝命いたしました国立がん研究センター中央病院頭頸部外科の吉本世一と申します。歴史ある学会の理事長の重責に身が引き締まる思いですが、微力ながら学会の更なる発展のために精一杯務めて参りますので、どうかご指導・ご支援のほど何卒お願い申し上げます。

 本学会は1961年に発足した頭頸部腫瘍研究会を前身としております。1974年には「頭頸部腫瘍」第1巻が発刊された後、1977年に頭頸部腫瘍研究会を引き続く形で日本頭頸部腫瘍学会が発足しました。また2004年には現在の日本頭頸部癌学会に改名し(雑誌名も「頭頸部癌」に改名)、2017年には一般社団法人となりました。現在、会員数は約3000名で、2026年に記念すべき第50回の学術集会が行われます。歴代の理事長の卓越したリーダーシップでここまでの発展が達成されましたが、それを引き継がれた林隆一前々理事長および丹生健一前理事長の多大なるご貢献がありました。また丹生前理事長はコロナ禍による最も困難な時期の舵取りをされました。これを機に歴代の理事長には会員を代表して深い敬意と感謝の意を申し上げます。

 ご承知のように現在の癌治療は日進月歩の世界と言えます。実際に頭頸部でも様々な外科手術用デバイス、手術支援ロボット、PET-MRI、フォトンカウンティグCT、遺伝子検査、強度変調放射線治療(IMRT)、粒子線治療、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤など、診断・治療法は目覚ましい進歩を遂げています。さらにはホウ素中性子捕捉療法や光免疫療法が保険適用となりました。一方、世界に類をみない高齢化社会を迎えた我が国では、頭頸部癌患者の最多年齢層も70歳代になり、併存疾患、臓器機能低下、フレイル、認知機能低下、重複癌を伴う症例が増えています。

 このように様々な制約を抱えた目の前の患者さんに、様々な選択肢の中から最適な治療を提供できるには、以前にも増して多診療科・多職種が関与する必要性が高くなっていると言えます。その中では各診療科・各職種が診療の質を向上させることに加え、目的の共有、円滑な連携、お互いを補完するための他領域の知識が不可欠であると考えられます。その観点でも幅広い分野の専門医と医療職種で構成される本学会の学際的な特徴が非常に重要です。最終的に患者さんへ少しでも多くのことが還元できるように、診療ガイドラインを継続的に改訂し、教育セミナーなどで普及を行い、学術集会では積極的に意見交換を行っていくことが必要です。

 また、会員の皆様から頂いた頭頸部悪性腫瘍全国登録の情報は非常に貴重です。全国がん登録で得られる総数と比較するとカバー率は50%に少し満たない程度ですが、データの質を鑑みると予後情報としては十分な内容と考えられます。Real World Dataを解析することで、無作為化比較試験の施行が難しいClinical Questionに対してもReal World Evidenceが創出されます。ガイドライン通りの治療が行われているかどうかのQuality Indicator (QI)の役目も果たせますし、逆にあまりにかけ離れているとガイドラインの再検証を考える契機となるかもしれません。会員の皆様には是非積極的にデータ提供の申請をしていただきたいと思います。明確な研究計画が確立していない段階でも申請していただくことで、研究テーマを探すヒントが得られることもあると思われます。

 コロナ禍の最も困難な時期を過ぎ、今後はますます国際的な結びつきが強くなっていくと考えます。丹生前理事長の強い要望で、このたび国際委員会が発足しました。アジア頭頸部癌学会(ASHNO)、国際頭頸部癌学会連合(IFHNOS)を始め、各国の頭頸部癌学会との交流を積極的に進めることで日本のプレゼンスを高めていきたいと思います。特に2034年の第10回IFHNOSの日本招致を実現することが、本学会の将来においても非常に重要な意義を持つと思われます。2026年にオーストラリアのブリスベンで開催される第8回IFHNOSでの決定会議に向けて、念願を果たすべく委員会活動を行っていきます。

 一方、頭頸部がんの診療が進歩するにつれ、医療者側と患者さんやご家族の側との知識や想いの差が更に大きくなってきたように思います。医療者側から患者さん側へのアプローチとしては、HPや公開セミナーを通じ、市民の方々に最新の頭頸部がんの治療法を解りやすく伝え、頭頸部がんの予防を広める広報活動も引き続き展開していきたいと思います。逆に患者さん側からの医療者側へのアプローチとしては、患者会との交流や患者市民参画(PPI)を行っていただく場を設けたいと思います。

 そして何より、これからの頭頸部がん診療を担う次世代を育成していくことが本学会の最も重要な使命であると考えています。これまでにも本邦の頭頸部の診療体制は学閥や派閥を超えた有機的結合が進んできましたが、さらに女性医師の会員、代議員を増やしていくことも求められます。また実際の診療現場では現場の細かい業務を担当している医師の技量がしばしば結果に直結します。そのためにもできればピアサポートのような制度を実現させ、互いに支え合い一緒に成長できる環境を整えていきたいと考えております。

 学会運営は理事会だけでなく、会員一人一人の意見やアイデアが大きな力となります。皆様のご支援があってこそ、私たちは大きな目標に向かって進むことができます。より一層のご協力を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

2024年6月23日
一般社団法人 日本頭頸部癌学会理事長 吉本 世一

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