昔非国民、今不謹慎

症例1.先日、ある医療系メーリングリスト(米国の某学会の日本支部が運営)で、米国大統領がCOVID-19の治療薬としてクロロキン推奨している問題を取り上げたページのURLを紹介したところ(内容は紹介していない)、いきなり、ここに書くのも憚られるぐらい,仙台高等検察庁(当時)岩崎吉明検事による意見書を私が零点にした時よりもはるかに口汚い言葉で(*),受信を拒否する書き込みが実名でなされた。その勢いたるや、翌日の私の郵便受けに銃弾入りの封筒が投函されているのはないかと思われる程だったので,直ぐさま学会を辞めた。それで許してもらえればいいのだが,銃弾が封筒の中ではなく,私の体に入ることにでもなったらどうしよう。しかし,なぜそれ程までに怒りを買ったのか、その理由は私にはわからない。ただ一つ思い当たるのは、それが米国の内科系学会の頂点に位置する組織だったことだけだ。
(*その後検察からは何の意趣返しも無い.それどころか,ある訟務部付検事さんからは「ドクターGと仕事で御一緒できて光栄です」と感謝の言葉を頂いたぐらいである)

症例2. その数日後、全く別のメーリングリストで、COVID-19ワールドカップのページを紹介したところ(これもURLのみ)、ほどなく今度は匿名で「COVID-19ワールドカップとは不謹慎ではないか」との御指摘をいただいた。この指摘だけであれば、素直に受け止めていたかもしれないが、上記の件で浅からぬ心的外傷を負っていたので、仙台高等検察庁(当時)岩崎吉明検事による意見書を私が零点にしたよりも,はるかに深刻な恐怖感を覚えた。それは,翌日の私の郵便受けにくり小刀入りの封筒が投函されているのはないかと思われる程の恐怖感だった.非国民不謹慎との誹りはフーリガンや選手同士の喧嘩が起こるサッカーは、野蛮なスポーツだとの偏見故だろうか。だったら錦織の姿が見られるテニスにすればいいか。よもや死者数を使うというのがけしからんという意味では決してないだろう。なぜなら感染者数がイカサマ指標であることは、「バカなマスコミ」以外は誰でも知っていることなのだから。

症例3.そして同じ日、久々の外食に出かけた先で、話の内容から、おそらく自分の店を早く閉めて来店したのだろう、ラーメン店の店員さん(店長さん?)とおぼしき人と相方の会話がそれとなく聞こえてきた。マスクを下げてラーメンを食べていた高齢男性から「ラーメン店の店員のくせに、マスクをしないとは不謹慎だ!」と叱りつけられたというのだ(→堀江バッシングの陰にある「シルバーデモクラシー」)。もちろんここ高松でも、どこのドラッグストアでもマスクは品切れだというのに。去年から今日まで一度もマスクをしていない私なんぞは、遠隔診療さえもさせてもらえない御時世となったようだ(白色のペスト:マスクファシズムは如何にして世界を席巻したか)。

非国民のスローガンは何の役にも立たなかった。それどころか、まともな一般市民を非国民呼ばわりした帝国臣民達はボロ負けし、国土は焦土と化し一億総懺悔(*)する羽目になった。
*1945年の日本の人口は7200万人余りであり(政府統計)、4割ほどさばを読んでいることになる。なお、この「一億総懺悔」というスローガンがどのようにして生まれ、そして消えていったかは、このスローガンを生んだ東久邇宮稔彦王の波瀾万丈の人生を参照されたい。

二度あることは三度あるという。特に症例3は前の2症例と性質が異なるように見えるが、目に見えない大切なところが共通している。それが「この非常時に、けしからん非国民め」というメッセージである。いつも多数派に属してきた人には決してわからないだろうが,常に異端者だった私にはわかる。なぜならば、一度ならず二度までも非国民呼ばわりされた経験があるからだ。

 最初は2001年9月10日(9.11の前日)に始まった日本での狂牛病パニックの時である。「牛肉は安全。食べても死ぬようなことは絶対ない」と主張する私に対し、消費者団体や「狂牛病専門家」から、「農水省・厚労省、食肉産業、畜産業、そして焼き肉店の手先となり、国民の生命を蔑ろにする悪徳医師」とばかりに、散々罵声が浴びせられたものだった。その勢いたるや「こいつが死んでも火葬しただけでは安心できないから、骨壺ごとコンクリート詰めにして海に沈めてやる」と言わんばかりだった(感染症に対する差別のdeja vu)。二度目は北陵クリニック事件で検察・裁判所と全面的に対決した(今でもしてるけど)時である。この時は多くの匿名医師により「検察どころか裁判所にさえ逆らう非国民には必ずしや天罰が下るであろう」旨の書き込みがあちこちで盛んになされた。彼らの予言は当たった.今,私が,脈の取り方一つ知らない検察官,裁判官に医学を教えなければならない羽目に陥っていることが,天罰でなくて一体何であろうか.

新型コロナ真理教
コロナのデマに飽きた人へ
堀江バッシングの陰にある「シルバーデモクラシー」
「COVID-19との戦い」の意味-国家権力という文脈で考える-
COVID-19関連パニック障害 (CAPD) の病態と治療
差別の解消が医療崩壊を阻止する
COVID-19ワールドカップ
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