介護・高齢者施設とCOVID-19患者に対する差別

なぜ医療職がホテル三日月の従業員や勝浦市民と同様に振る舞えないのか?癩予防法が制定された1907年から何が変わったというのか?

HIV感染者内定取り消し訴訟の原告だった北海道内の30代男性は、社会福祉士として就職を希望した病院から内定を取り消される8年前の2010年、患者として同じ病院を受診したことがあった。その前年、HIVに感染していることがわかっていたので、問診票にその事実を記載した。すると、一人目の医師は診療を拒否し、二人目の医師は手術着のような防護服を着て現れ、厚手の手袋をして触診をしたという。(HIV診療「暗黒時代」から改善、制限ない暮らし可能に 朝日新聞 2020年2月23日 より抜粋)

感染症に対する差別のdeja vu
 蔡英文から日本語で弔辞を送られたほどの「爆笑天王」であっても、御兄様でさえ、その御遺体に面会が叶わなかった。かくも残酷に服喪の権利さえ奪った犯人は、もちろんSARS-CoV-2ではない。COVID-19という名の感染症に対する人間の差別である。まだ肉体がこの世にある私も、実は同様の目に遭った経験がある。

 日本で牛海綿状脳症(BSE 俗称 狂牛病)パニックが勃発し畜産業、食肉流通業・小売業に重大な損害を及ぼした時、「牛肉は安全。食べても死ぬようなことは絶対ない」と主張するプリオン潜伏感染者(1)に対し、消費者団体や「狂牛病専門家」から、「農水省・厚労省、食肉産業、畜産業、そして焼き肉店の手先となり、国民の皆様の生命を蔑ろにする悪徳医師」とばかりに、散々罵声が浴びせられたものだった(食のリスクを問いなおす-BSEパニックの真実)。

 その勢いたるや「こいつが死んでも火葬しただけでは安心できないから(*2)、骨壺ごとコンクリート詰めにして海に沈めてやる」と言わんばかりだった。ハンセン病患者に対する差別も全く同様だった(後藤正道 太平洋の島々におけるハンセン病 南太平洋海域調査研究報告 No.36 2002年12月)。感染症に対する差別は、事ほど左様に社会を震撼させる。その被害は感染症それ自体が及ぼす被害よりも桁違いに甚大なものである。2020年4月2日の時点で死亡数57のCOVID-19に対する差別もまた然り(*3)。癩予防法が制定された1907年から何が変わったというのか?

*1 私は最高月間3000頭(日本は20年間の合計でも36頭)とBSE が猖獗を極めていた90-92年に英国で、他の英国人同様に生活していた。つまり、安くて美味しい蛋白源(英国は魚がとても高い)として牛肉をたくさん食 べていた。当時はBSEは人間には感染しないと、私が英国生活を始める前に、政府が断言していた。それが「ごく稀ながらヒトに感染する場合がある」と、公 式見解をひっくり返したのは、私が帰国してから4年も経った96年3月だった。(忘れ去られた狂牛病騒ぎ 読売新聞 2014年9月12日
*2 細菌やウイルスは、遺伝情報を壊すような熱処理や紫外線処理で簡単に滅菌・殺菌できるが、プリオンは、熱に強く紫外線処理しても感染性は落ちない(北本哲之 プリオン病ってどんなもの?
*3 1996年から今日までの四半世紀の間(表は2015年までとなっているが、それ以降は死亡例がないだけ)に変異型クロイツフェルト・ヤコブ病による死亡例は英国174例、フランス26例、その他26例の合計226例で、これ以上増えることはない。かつては、数千人が死亡する、いや最悪の場合15万人が死ぬ等と、今から思えば随分と牧歌的(「目くそ鼻くそを笑う」とも)な論争ががScienceNatureの論文の著者同士で交わされていたものである。

我々はインフルエンザ患者を差別しない
2020年4月2日の時点で、COVID-19による日本での死亡者数は57である。一方、2018-19年の冬,日本だけで3325人がインフルエンザで亡くなっている(社会実情データ図録.インフルエンザによる死亡数の推移)これは2020年4月2日現在の中国全土でのCOVID-19による死者数3318人より7人多い.しかし,私が知る限り,あるいは私に記銘力障害がないと仮定する限り,2018-19年の冬,日本では医療崩壊は起きなかった.(なお,この冬(2019-2020),1万2000人がインフルエンザで亡くなった太平洋の向こう側でも医療崩壊が起きたとは寡聞にして知らない)
インフルエンザにより3325人が亡くなっても医療が崩壊しなかったのは、我々がインフルエンザ患者を差別しなかったからである。具体的には
1)介護施設や入院患者の中で後期高齢者の割合が高い病院(俗に言う老人病院)が多数あるから
2)さらに、そういった施設でインフルエンザで亡くなる高齢者を看取るという社会的合意が形成されていたから

では、これは日本人だけの美徳なのだろうか?それは私にはわからない。海外事情を調査できる立場にない。ただし、インフルエンザではなく、COVID-19患者に対する差別が外国で大手を振って行われ、それが誇らしげに報道されていることは知っている。
COVID-19に罹患した高齢者を、突貫工事で建てたプレハブ病院手抜き工事で倒壊の危険性のあるホテル軍事施設等々、Arbeit macht freiの看板こそないけれど、彼らが決して幸せな最期を迎えられないと分かりきっている場所へ、事実上看取りだけの目的で転送することは、「社会防衛」に名を借りたCOVID-19感染者に対する差別以外の何物でもない。「防衛」とは誰の何を守るというのだ?どう転んでも、それは絶対に「患者の幸せ」ではないなぜ医療職がホテル三日月の従業員や勝浦市民と同様に振る舞えないのか?癩予防法が制定された1907年から何が変わったというのか?

COVID-19に対する差別の解消により医療崩壊を阻止する
そう考えれば、COVID-19に対する差別の解消が医療崩壊を阻止することは自明である。そして実際にそのような動きになっている。「必要は発明の母」、「背に腹はかえられない」。表現なんぞ、どちらでもよろしい。そんな些細なことは、「COVID-19に対する差別の解消」の錦の御旗によって、木っ端微塵に吹き飛んでしまうのだから。

自分の施設を放棄せずに利用者の命を守ることが、外部の病院のベッドを空け、そこに入ってくる患者さんも同時に守ることになる、それこそwin-winの仕事になることを示している。
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福祉施設、感染拡大も休業難しく 高齢者ら介助必要 日経新聞 2020年4月2日
 千葉県東庄町や名古屋市の福祉施設などで起きた新型コロナウイルスの集団感染は、施設の運営を継続しながら感染拡大を防ぐ難しさを浮き彫りにした。入所者の多くは日常的に介助が必要な高齢者や障害者で、感染者が出てもすぐに休業するのは難しい
 千葉県東庄町の障害者福祉施設「北総育成園」では3月27日、40代職員の陽性が判明した。県によると、入所者や職員の発熱が相次ぎ、検査の結果、4月2日までに入所者70人のうち49人、職員67人のうち34人の陽性が判明した。職員の家族や通所利用者らも含めると計95人の感染が確認された。
 同施設は知的障害者を多く受け入れている。環境変化による負担を考慮し、陽性の入所者も重症でなければ施設内で治療する方針。県が医師や感染症専門の看護師の派遣などで支援する。職員の半数近くが感染したため、運営する社会福祉法人からスタッフも派遣する。
 県の担当者は「入所者同士や職員への感染拡大を防がなくてはならないが、食事の介助などは命に関わるため、やめるわけにはいかない」と対応の難しさを説明。「職員への注意喚起を続けるしかない」と話す。
 3月上旬に通所介護(デイサービス)施設で集団感染が発生した名古屋市でも、市は計126施設に2週間の休業を要請したが、実際は半数近くが営業を続けた。
 市は「利用者の命を守るために休業に協力を求めた」(担当者)が、名古屋市内で一人暮らしの女性(98)はデイサービス施設に「命を守ってもらっている」と話す。3人の娘は週に1回様子を見に来るのがやっとで、入浴も薬の管理も施設職員に頼りきりだ。
 軽い脳卒中になったときは職員がいち早く異変に気付いた。休業要請後も利用者の受け入れを続けた市内の男性施設長は「施設は命綱。受け入れなければウイルス以外の理由で命を落とす」と訴える。(後略)
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亡くなった7人の患者さんは,入院している病院で看取ることができた.私が家族だったら,無理に転院させずに看取ってくださった永寿総合病院の皆さんに感謝する.それが成熟した大人というものだ。医療職であろうとなかろうと。
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東京都で感染者7人死亡 うち5人は永寿総合病院の患者 朝日新聞 2020年3月31日
東京都は31日、新型コロナウイルスの感染者7人が死亡したと発表した。このうち50~70代の男性5人は、院内感染の疑いが指摘されている永寿総合病院(台東区)の入院患者だという。都によると、亡くなった永寿総合病院の入院患者5人は、28~30日に死亡した。台東区によると、検査日から死亡まで短期間の患者が多く、病状が急速に進んだとみられるという。このほか、60代女性と60代男性の死亡も発表された。
 同病院をめぐっては、24日に入院患者と医療従事者ら5人の感染が明らかになり、このうち70代男性が死亡。28日にも50代男性の死亡が明らかになった。31日までに感染者は計107人に上り、死者は計7人となった。しかし感染者の転院は難航している。病院は25日から外来を中止したが、いまだに会見を開いていない(←家族にきちんと説明すればいいだけだ。医療のことなど何も知らない新聞屋なんぞにへつらう必要などこれっぽっちもない
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奥田七峰子【フランス便り】COVID19に見られる高齢者施設における問題 高齢者介護・医療の優先度が低いフランス(m3 オピニオン 2020/04/15)
欧米介護事情
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食のリスクを問いなおす-BSEパニックの真実-