COVID-19関連パニック障害 (CAPD) の病態と治療
Peter C. Gøtzsche. Corona: an epidemic of mass panic. Deadly Medicines and Organised Crimes. Published on 21. March 2020.(論文ではなく,エッセイ.短くて医師でなくとも簡単に読める)
COVID-19関連パニック障害とは?、CAPDの病態、買い占め行動とCAPD、自己正当化の心理、通常のパニック障害とCAPDの共通点・相違点,CAPDの治療:自己正当化の心理と遷延性を踏まえた認知行動療法,具体的な作戦,作戦実行上の留意点
COVID-19関連パニック障害とは?(一般市民向けの説明は→新型コロナ真理教)
COVID-19関連パニック障害(CAPD: COVID-19-associated panic disorder 持続携行式腹膜透析と間違えないような呼び名があれば教えてください)の根底には、「新型コロナはスペイン風邪の再来」という妄想(でっち上げ)がある。そんな妄想を本気で信じて人類滅亡教の敬虔な信徒となる人のなんと多いことか。「そんなバカなこと信じちゃいないよ」という本人もマスクをしている。頭隠して尻隠さず。そんな死語になりつつあった言葉を思い出させてくれるのも,COVID-19の御利益か。では、なぜそんな妄想が多くの人々の間で共有され、維持されていくのだろうか?理由は至極簡単である。
CAPDの病態
自分は殺人ウイルスに殺されるという恐怖感→パニックに襲われる。しかし一方で人は誰でも自分が冷静である=正気であると思いたい→自分の持っているスペイン風邪の再来という妄想を正当化したい=自分がパニック状態にあること(=COVID-19は決してスペイン風邪ではないこと)を示す資料・データを全て否認あるいは無視する。一方でCOVID-19が恐ろしい殺人ウイルスであることを示唆するデータ(*1)だけに着目する結果,静かなパニックが維持される。
*1.CAPD患者が注目するのは、『今日の東京都の感染者発生数』のように、空間的にも、時間的にも限定されたデータである。一方、否認・無視するのは、『全世界の死亡者数のここ3ヶ月感の経過』(*2)のような、地域(つまり空間的)バイアスや、時間的バイアスが最小化されたデータである。
*2.2020年4月20日における『全世界の死亡者数のここ3ヶ月感の経過』によれば、4月に入ってからの死亡者増加率は4月2日に13%のピークを示した後は、4月5日には早くも7%と一桁になり、4
月6日8%→7日10%を唯一の例外として一桁代に留まりながら減少し、4月20日には3%までに低下している。全世界レベルでも感染が終息に向かい始めている頑健なデータを誰も見ようとしない(一瞬見たとしてもすぐに忘れてしまう)ことが、CAPDが年齢、性別、地域、職業を問わず、全世界的に広く流行していることを示している。
買い占め行動とCAPD
「宇宙戦争」の事例でもわかるように、未知の脅威の知らせを聞いた途端、人はパニックとなる。もちろんその途端マスクやトイレットペーパーが売り切れるわけではないが、個人の心の中で種が蒔かれることは確実だ。COVID-19の場合、流行の拡大と共に自分とSARS-COv-2(COVID-19の原因ウイルス)との物理的距離が狭まるにつれ、パニックも個人の心の中でぐんぐん成長する。そしてマスクが無くなる前に自分は抜け駆けしてマスクを求めようとする。そのような人の数が爆発的に増えて実際にマスクの棚がすっからかんになる(*)。マスクが無くなったら、パニック行動は次の標的を求める。それが消毒液、トイレットペーパー、米である。買い占めの根拠などはどうでもいいのである。保存できる物でさえあれば、品など何でもいい。買うことが目的化する。それが買い占め行動の本質である。
*必ずしもデマが買い占めを誘発するわけではない:マスクの買い占めはCOVID-19自体の感染爆発前に起こった。またマスクの場合には,感染爆発による実需爆発が発生する前に,予防的に購入しようとする人々の数が爆発的に増加することによる品切れなので、デマによる買い占めではない。トイレットペーパー、米の場合にも、デマが先なのではなく、「もしデマによる買い占めが起こったとしたら困るものは何か?」を過去の事例(73年のトイレットペーパー、93年の米)に基づいて予期した人々が爆発的に増えたためではないだろうか。
自己正当化の心理
誰でも自分がおかしくなっているとは思いたくない。「この非常時に」「耐え難きを耐え、忍びがたきを忍ぶ」自分だと思いたい。
●曰く、自分は科学も医学も知らない一小市民である。そんな自分が恐怖の感染症から身を守るためにマスク一枚、トイレットペーパー12ロール(家族のためなら12ロールは譲れない!!)求めて何が悪い!!
●曰く、自分は「しがない」神経内科医(「脳」をつけたい人はどうぞ)である。感染症のことなど、全く専門外である。自分は外来患者さんを何百人も抱え、外来診療に勤しまなくてはならない。遠隔診療なんてものは信頼できない。こんな大変な時にやってきてくれるのだから、たとえ一日に一人、二人であろうとも、そういう患者さんこそ大切にしたい。そんな自分がマスク一箱病院から配給を受けて何が悪い。
通常のパニック障害とCAPDの共通点・相違点
こうしてパニックが共有され、感染が拡大していく。しかし、パニックは一時的なものであるはずだ。それが何ヶ月も維持されるのは、一体どういう仕組みによるものか?当然そういった疑問が生まれる。その疑問に対する答えは、まず、パニックが解消される仕組みに注目し、その仕組みが働かなくなる原因を考察することによって、初めて得られる。
精神科疾患としてのパニック障害の本質は、死の恐怖の前に右往左往する“死にたくない”病である。それゆえ、パニック障害の治療の基本は「自分が死ぬリスクは世間一般の人と比べて特別に高いわけではないし、神様が悪意を持って自分だけを特別に不運な事故に遭わせるわけでもない」という厳然たる事実を直視させることにある。
CAPDの場合も、治療の本質は同様だが、目下のごとき流行の最中に,他者の介入によって治癒を期待するのは極めて困難である。なぜならば、第一に、ほとんどの患者には全く病識がない。それゆえ他者の助言や治療介入を拒絶あるいは無視すること。第二の理由としてに、有効性が確認された薬物療法がなく、自分自身に対する認知行動療法(CBT)しか治療法がないこと。
CAPDの治療:自己正当化の心理と遷延性を踏まえた認知行動療法
CAPDは「自分はCOVID-19で死ぬかもしれない and/or 大切な家族の殺し屋になってしまうかもしれない」との妄想に基づく,”死にたくない/殺し屋になりたくない病” である。CAPDの場合には、この妄想が遷延・維持される環境が整っている。センセーショナルな報道を生命線とする既存のマスメディアはもちろんのこと、ネットもマスメディア同様、あるいはそれ以上に、スペイン風邪妄想を煽るデマの津波によってpage viewを稼いでいる。
このような環境下では、COVID-19に実際に感染することと,CAPDの発症とは全く関係ない。自分の「身近」(それが自分の住む都道府県内であれば、どんな遠くでも構わない)でCOVID-19「感染者」(たとえその感染者が無症状であっても)が発生すれば、スペイン風邪妄想は妄想ではなく、やっぱり正しかったと自己を正当化し、CAPDを「安心して」維持できる。このように、不安を抱き続けることによって自己の安定化を図る、この遷延性がCAPDと通常のパニック障害との決定的な相違点であり、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-Cov-2が、本家のSARS-Cov(SARSの原因ウイルス)よりも『狡猾』であると認定される所以である。
CAPDでは, 「自分は間違っているかもしれない」と考える回路がブロックされる。「自分は常に正しい」というドグマに基づいて行動する結果、トイレットペーパーを買い占め、マスクをしていない(したくてもマスクが入手できない)ラーメン店の店員やCOVID-19ワールドカップのページ作成者を非国民不謹慎呼ばわりする問題行動を生じさせる。それがCAPDの本質なのだから、治療は、「自分は間違っているかもしれない」と考える回路を起動する=自分にツッコミを入れる(!)=COVID-19そのものをCBTネタにすることに尽きる。
具体的な作戦:COVID-19ワールドカップとコロナデマ包囲網突破ゲーム
上記は基本的な戦略である。以下に述べるのは具体的な作戦である。CBT用の教材は、コロナのデマに飽きた人へを参照
●CAPDを治したくない自分=COVID-19がスペイン風邪の再来であるという信仰(新型コロナ真理教)を捨てたくない自分を認める
●COVID-19で人類が滅亡するというデマから無限大の距離を置く→COVID-19で人類は滅亡していないという現実に目を向ける。
●COVID-19はスペイン風邪の再来であるというデマから無限大の距離を置く
●COVID-19はスペイン風邪の再来「ではない」というエビデンスに目を向ける
●そのエビデンスの妥当性を自分なりに検討する。具体的にはCOVID-19とスペイン風邪との脅威の程度を比較するページを読んでみる。
●コロナデマ包囲網突破ゲームで参謀総長になってみる.
●「日本はダメだ」というデマから脱却し、「結構やるじゃん」どころではなく、OECD36カ国でトップを走る日本を認める。
●COVID-19はスペイン風邪の再来「ではない」というエビデンスの妥当性を検討し、自分の国の介護職・医療職の素晴らしい活躍ぶりを認める自分が見えてくる。自分も中々捨てた物ではないと思えてくる。
作戦実行上の留意点
●プロセス因子(例:感染者数)ではなく、常にアウトカム因子(例:退院、死亡)に注目すること
●「なぜ?」という疑問を捨てること。なぜなら(^^;)、「なぜ?」という疑問は、アウトカム因子から目を背けさせ、プロセス因子のみに注目させる、SARS-Cov-2の狡猾な罠ひっかかることになるからである。
●「なぜ?」という疑問のほとんどは、決して今すぐには解決できない疑問である。その疑問に対し、あたかも自分だけが答えを知っていると装い、デマを吹き込む連中が、「なぜ?」という問いかけに拘るCAPD患者の思考力を奪って思考停止に追い込み、CAPDを不治の病にしてしまう。
→An Online Intervention for Disabling Worry About the COVID-19 Pandemic NEJM Journal Watch December 15, 2020
(Peter Roy-Byrne, MD reviewing "Wahlund
T et al. Brief Online Cognitive Behavioural Intervention for
Dysfunctional Worry Related to the COVID-19 Pandemic: A Randomised
Controlled Trial Psychother Psychosom 2020 Nov 19")
→Peter C. Gøtzsche. Corona: an epidemic of mass panic. Deadly Medicines and Organised Crimes. Published on 21. March 2020.(論文ではなく,エッセイ.短くて医師でなくとも簡単に読める)
→コロナデマ包囲網突破ゲーム
→コロナのデマに飽きた人へ
→COVID-19ワールドカップ:日本の素晴らしい介護・医療チームを応援しよう!!
→表紙へ