学会概要

会長挨拶

会長退任の挨拶

北海道大学大学院医学研究科 瀬谷司
瀬谷司

本年8月に補体研究会長を木下タロウ先生に引き継いで頂くことが決まりました。4年間お世話になりありがとうございました。特に本会を維持して下さった事務局に感謝申し上げます。

 諸般の事情で私の時代にできなかったことも木下先生なら実行してくださると思います。「補体」と云うアイデンティティに変遷はあってもそれを共有できる人が集える会を維持すること、次世代の新しい潮流をその会に取り込んで発展をサポートすること、セクト主義にならず優れた先端文化は評価し取り入れること、などが懸案になります。(こういうスローガン自体がセクトになるなら書かない方がよいわけですが)。

 以前に私が西岡先生の投稿文書に「補体の明日」としてご返答致しました。長い補体史を支えて下さった西岡先生にこのようなご返答は心苦しかったのですが、私も退任しますので、抜粋を再掲致します。私の時代も終焉に近いので若い方々のご迷惑にならないよう、老害を及ばさないよう、余生を送りたいと願っております。会のご発展を心から祈願致します。

(2007年9月)
(補体の明日より抜粋)

 補体から研究に入った人は免疫学会や生化学会から入った人に比べて人脈、交流で大変な不利を背負っている。補体の基礎研究をサポートする体制はなく、世界の趨勢から孤高でいるように見える。私の見ていた補体学は終わったのだなとどこかで思う。私はぼやきを云っているのではない。現状分析から次世代の向かう先を考えたいのである。

 私はこれまでの「補体」に限った(isolate した)研究など次世代に引き継ぐ必要はないと思う。獲得免疫の中心テーマ、抗原提示機構さえ自然免疫の理解なしに進展が無いほど融合の時代である。統合的理解ができないラボは亡ぶ。補体が自己完結的な昔話を繰り返して生き残れる時代では無い。そういう先人も僅かにあってよいが、主流になってはまずい。何より先人の時代は終焉の夕陽である。当時の発想には限界があり、それを踏襲していては、あるいは踏襲を強いては、研究は先端性を失う。私は自分のしてきた補体の仕事を評価する次世代を育てる必要はないと云っている。自分の仕事が無視されたとしても新しい潮流の中で次の時代に合った研究を広げられる次世代が育つならそれでよいと云っている。若い人は旧来の補体学を残すための努力より、発想の自由性と浸透性から研究領域を超えて伸びる努力をして欲しい。遠くに「補体」が見えている間は領域を超えても補体仲間である。

 (研究が)できなくなる前に身を引くべきであると思う。研究における現役とは何かを考えさせられる。補体学においても然り、これらが克服できて初めて総論賛成である。安直な研究を保証するようなよき時代ではない。感染症が大事だ、という時代に声も掛からない組織では困る。国を挙げて対策を講じるなら国は偏曲でなくそれに向いた人材を組織化する、補体であろうと無かろうと推進できる人材の登用に熱心であって欲しい。その中に補体の言葉を理解できる人が見えないのは補体学側の責任である。補体が融合の中で再度陽の当たるときは大きい変貌のあと、次世代の視界の向こうであってよい。そのとき自己の研究観を補体を取り込んだ広い理解で語れる人材が出てくれればよい。私の世代の努めとはその時代に向けて多彩な人材を潰さずに育てることだと心している。

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