誰が被告になるのか?:薬害アビガン訴訟の場合
これまでの副作用被害裁判で国が被告になった理由
薬害訴訟というと被告は企業と国と相場が決まっているように見える。しかし、それは裁判真理教に基づく幻想に過ぎない。被告を決めるのは原告である。原告の目的は勝つことであって真相を究明することではない。さらに損害賠償を求める裁判では、勝つ見込みとお金を取りやすいことの両方の条件を満たさねばならない。この二つを同時に実現するmission impossibleの前では、真相究明なんかどうでもよくなる。企業は金を持っている。国も金を持っている(*)。そして一朝裁判となればマッチポンプが得意なメディアが舌の根も乾かぬうちに彼らを攻撃してくれるから楽勝だ。
*国家賠償訴訟で国が負けた場合、賠償金は血税から支払われる。訟務検事(*)の元締めである検事総長の給料(まあ、これも血税なわけだが)から天引きになるわけではない。また、賠償金額がどんなに膨大になろうとも「被告国の準備書面が杜撰極まりなかったために、裁判所が原告の言い掛かりを見破れなかったために、莫大な血税が消失した。これ以上の出血事故を阻止するため、まともな準備書面が書けるように、科学的な裁判が行われるように、検察官・裁判官の科学・医学教育制度を創設するように」との指摘が会計検査院からなされた例を寡聞にして知らない。
*国家賠償訴訟のような行政訴訟で被告国の筆頭代理人となる(平たく言うと国の弁護をする)検察官あるいは裁判官のこと。主に若手検事、判事補クラスがその任に当たる。
今度こそお医者様達が被告になる理由
一方、肝心の処方箋を出したお医者様達を訴えた場合には、自分達が添付文書一つ読めないことを隠蔽しようと徹底抗戦してくるだろう。メディアもお医者様達に対してはマッチポンプの後ろめたさがある上に、最近は医療事故の場合でもメディアはなかなか医師を攻撃してくれない。だから裁判戦術上、彼らを被告とするのは得策ではない。実際、スモンの時は、キノホルムを大量投与した医師は誰一人として被告にならなかった。イレッサの場合にも、添付文書の注意喚起を無視した乱用が原因だったにもかかわらず、医師は誰一人として被告にならなかった。
そしてアビガンである。懲りないのは国ではない。添付文書一つ読めないお医者様達なのだ。二度あることは三度ある なんて悠長なことを言っている場合ではない。仏の顔も三度である。今度こそ薬害を起こした真の責任者が誰と誰なのか、落とし前をつけてもらう。和製アイヒマンみたいに逃げられると思うな(もちろんあのイカサマ野郎も逃がさないけどな)。人が死んでるんだ。富山化学と一緒に今度こそ裁判で真相を語ってもらおう。
上記の表は、スモンでもイレッサでもお医者様達が被告とならなかった理由、そしてアビガンではお医者様達が被告になれる資格を十二分に有している理由を示している。スモンでもイレッサでもお医者様達は当時の厚生省が承認した効能・用量に従って処方した。副作用被害が多発したのは、副作用被害を懸念することなく処方箋が乱発されたことによる。それが証拠にキノホルムの処方が中止されてスモンが無くなり、イレッサが適正に使用されるようになってから間質性肺炎が激減した。アビガンがスモン、イレッサと全く異なることは上記の表を見れば一目瞭然である。アビガンは効能、用量とも未承認のまま、研究目的で無償で提供された。その研究も被験者保護を謳った臨床研究法の対象にならない「観察研究」だった。二度あることは三度あるという。重大な副作用被害を招いたのは、またしてもお医者様達だった。ただし、今回は厚労省が責任を取りようがない形で研究に邁進した結果だった。「広告皇国の興廃がこの一戦にかかっているんだ。現場を知らない役人どもは引っ込んでろ!!俺たちに任せておけ」 とばかりに、なぜ自らが全責任を負うような形で暴走したのか?国民の皆様が大いなる疑問を持つところだろう。その説明責任を果たす場として法廷がある。
「観察研究」が招いた悲劇→「アビガン薬害の元凶とは」を参照のこと
もちろん誰を訴えるかは原告の自由である。だから、国を被告とする書面を作り、それを裁判所に提出することは可能である。しかし、裁判所が国の賠償責任を認めるかどうかは別問題である。日本は法治国家である。裁判も法に基づいて行われる。キノホルム、イレッサともに、当時の薬事法に基づいて国が承認した効能・用量に基づいた使用で副作用被害が起こった。だから国が訴えられた。
アビガンの場合には被験者保護の精神を踏みにじった三重(さんじゅう)の無法地帯で行われた医師主導自主臨床研究だった
1)未承認・未承認用量だった:効能、用量ともに未承認、つまり国が認めていない無法地帯で行われた医薬品使用だった。
2)救済制度が適用されないことも承知の上だった:スモンをきっかけにできた医薬品副作用被害救済制度はあくまで承認効能・承認用量に従って使用した場合に発生する副作用被害をカバーする制度であって、未承認効能and/or未承認用量で発生した健康被害は、それが既知あるかないかに関わらず、救済の対象とはならない(*)。
3)臨床研究法の枠外で研究を行った:さらに、被験者保護のために臨床研究保険を購入することなく、観察研究とやら(その実は紛れもない医師主導介入臨床研究)を臨床研究法の枠外で強行した。
*日本医師会のサイトに『医の倫理の基礎知識』としてヒポクラテス像の写真付きで解説が載っているから、前会長も含めて17万人の会員の皆様はよくご存じと思うが、老爺心まで。
おわかりだろう。どこを見回しても、国が被告となる法的根拠はない。ましてや、これほどまでに無謀に無謀を重ねたお医者様達を血税を費やして庇う義理など金輪際無い。もしそんなことをしたら;
●厚労省はそれこそ国民の皆様から袋叩きに遭う
●被告となる根拠が無い裁判で負けて国に絶大な損害を与えたとする会計検査院の指摘を受け、無能な訟務検事を放置した責任を問われた検察庁のしかるべき人々にも処分が下る。
なお、この記事の妥当性と記事を書いた人物の法務・訟務経験についてもっと知りたい方は、→法的リテラシー、→医療法務というキャリアパスを御覧あれ
→アビガン薬害事件目次
→コロナのデマに飽きた人へ
→表紙へ