ビタミンK |
ビタミンKは脂溶性ビタミンの一つで、デンマークの生化学者カール・ピーター・ヘンリク・ダム (Carl Peter Henrik Dam)によって発見単離され、アメリカの生化学者エドワード・アダルバート・ドイジー (Edward Adelbert Doisy)によって生化学的に同定されました。この業績によって二人は第43回ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
ダムは脂質代謝の研究として、鶏にコレステロールを全く含まない食事を与える実験を行いました。数週間後、これらの鶏は出血傾向を呈する様になりました。この結果から、ダムは血液凝固に関連する脂溶性ビタミンが存在すると考え、植物からこの脂溶性ビタミン成分を単離しました。血液凝固に関係しているため「凝固ビタミン」と呼び、後に凝固を意味するドイツ語Koagulationsの頭文字を取った「ビタミンK」と呼ばれるようになりました。ドイジーはステロイドなどの研究者ですが、植物と動物から1種ずつビタミンKを単離し構造を決定しました。植物由来のビタミンKはダムにより単離されていましたのでK1と、動物由来のビタミンKをK2とそれぞれ名付けられました。
ビタミンK1はフィロキノンとも呼ばれ、植物によって合成されおり、食事に含まれるものの主なものです。一方、ビタミンK2はメナキノンと呼ばれ、ヒトの腸内細菌叢で合成されており、納豆をはじめとする発酵食品や動物性食品に含まれています。ビタミンKのアンタゴニストであるワルファリン服用中はこれら天然ビタミンKを多く含む食物(ビタミンK1は青汁など緑黄色野菜類、ビタミンK2は納豆などの発酵食品)の摂取は制限されます。天然のビタミンKのほか合成化合物ビタミンK3(メナジオン)が畜産で広く使用されています。メナジオンはビタミン前駆体で、活性を持つためには体内でビタミンK2/メナキノンに変換されます。安価ですが、活性酸素種の産生能があり毒性があるためヒトに対しては使用されていません。ワルファリン発見の経緯(スイートクローバー中毒)を考えると、畜産領域ではビタミンKの補充は必要と考えられます。
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ビタミンKはグルタミン酸(Glu)残基にCO2を取り込み、γ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基に変換する酵素であるγ-グルタミルカルボキシラーゼの補因子として作用します。植物おいてCO2を取り込む光合成にビタミンK1が重要な役割を果たしていることを考えると、共通の作用をビタミンKが果たしていると考えられます。
Gla残基を持つ蛋白質をビタミンK依存性蛋白質と呼びますが、凝固因子の中では凝固第II因子(プロトロンビン)、凝固第VII因子、凝固第IX因子および凝固第X因子が含まれます。Gla残基は蛋白質が立体構造を保持する上で重要です。また活性化血小板膜表面などに出現しているホスファチジルセリンなどの陰性荷電を帯びたリン脂質にカルシウムイオン依存的に結合する上で重要な役割を果たしています。凝固因子の多くは酵素活性発現にリン脂質との結合が重要であるため、Gla殘基を有しないビタミンK依存性蛋白質(PIVKA)は凝固活性をほとんど有しません。
凝固因子のみならず、生体内の重要な凝固制御因子であるプロテインCおよびプロテインSもビタミンK依存性蛋白質です。これらの因子もまたビタミンK欠乏状態やワルファリン服用時に低下します。骨代謝において重要な役割を果たしているオステオカルシンもビタミンK依存性蛋白質です。その他プロテインZなどがビタミンK依存性蛋白質として知られています。
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ダムの発見の様にビタミンKは脂溶性ビタミンであるために、胆道閉鎖症の様な脂質吸収が低下している場合には脂溶性ビタミンであるビタミンKの吸収が低下します。またK2は腸内細菌によって産生されるため、内服抗生剤や胆道排泄型の抗生剤投与後に腸内細菌叢が変化した場合などにはビタミンKの吸収が低下します。その結果、ビタミンK欠乏症となり、ビタミンK依存性凝固因子・凝固制御因子が低下し、出血傾向を呈する場合があります。典型的な病態が新生児ビタミンK欠乏性出血症・乳児ビタミンK欠乏性出血症です。
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