定例研究会報告
2023年度 第1回(251回) 第2回(252回) 第3回(看護・ケア研究部会と共催)
2022年度 第1回(247回) 第2回(看護・ケア研究部会と共催) 第3回(249回) 第4回(250回)
2021年度 第1回(244回) 第2回(245回) 第3回(246回) 第4回(看護・ケア研究部会と共催)
2020年度 第1回(243回)
2019年度 第1回(240回) 第2回(241回) 第3回(242回)
2018年度 第1回(237回) 第2回(238回) 第3回(看護・ケア研究部会と共催) 第4回(239回)
2017年度 第1回(234回) 第2回(看護・ケア研究部会と共催) 第3回(235回) 第4回(236回)
2016年度 第1回(231回) 第2回(看護・ケア研究部会と共催) 第3回(232回) 第4回(233回)
2015年度 第1回(228回) 第2回(229回) 第3回(看護・ケア研究部会と共催) 第4回(230回)
2014年度 第1回(224回) 第2回(225回) 第3回(226回) 第4回(227回)
2013年度 第1回(220回) 第2回(221回) 第3回(222回) 第4回(223回)
2012年度 第1回(216回) 第2回(217回) 第3回(218回) 第4回(219回)
2011年度 第1回(212回) 第2回(213回) 第3回(214回) 第4回(215回)
2010年度 第1回(207回) 第2回(208回) 第3回(209回) 第4回(210回) 第5回(211回)
2009年度 第1回(202回) 第2回(203回) 第3回(204回) 第4回(205回) 第5回(206回)
看護・ケア研究部会報告
2011年度 第5回
定例研究会報告
2023年度 第3回(253回)(第2回関東定例研究会)についての報告は看護・ケア研究部会研究活動報告をご覧ください。
2023年度 第2回(252回)(第1回関西定例研究会報告)
「フーコーと精神医学と精神医学批判」
合評会 蓮澤優(2023)『フーコーと精神医学 精神医学批判の哲学的射程』青土社
共催:医療社会学研究会、立命館大学生存学研究所
日時:2024年1月20日(土)15:00-18:00
日 時:12月2日(土) 13:00~16:00
場所:立命館大学 朱雀キャンパス 1F多目的室
要旨:
日本保健医療社会学会関西定例研究会(第1回)は、2024年1月20日(土)15:00-18:00に、立命館大学朱雀キャンパスにて、Zoom配信を含むハイブリッドで開催されました。会場での参加は15名、Zoonでは34名の参加でした。医療社会学研究会、立命館大学生存学研究所との共催で開催しました。テーマは「フーコーと精神医学と精神医学批判」です。
哲学博士にして精神科医でもある蓮澤優氏が、『狂気の歴史』を読むことで経験した「困惑」と正面から格闘した成果である『フーコーと精神医学 精神医学批判の哲学的射程』(2023年、青土社)の合評会という形式でした。異分野の書籍の合評会という形式を選んだのは、フーコーは、人文社会系諸学において影響力のある思想家であるだけでなく、医療や精神医療に関する著作もあるため、本学会でも言及されることが多いからです。評者は、医療社会学の美馬達哉とイタリア精神医療の人類学で知られる松嶋健氏でした。
蓮沢氏が、精神科の臨床に携わる医師としてのスタンスを崩さないままに、どうフーコーの問いに答えるかを議論の中心に据えて、ご著書の紹介をされました。それに対して、精神医療に関する保健医療社会学や歴史学の知見を美馬が紹介し、イタリアでの精神科病院の廃絶の経緯とそれを支えたフランコ・バザーリアの思想とフーコーの思想の比較という観点から松嶋氏がコメントした。研究者から実践家・当事者までの多様性をもつ本学会にとって、ディスカッションで語られた「フーコーを読むことでめまいを与えられて、臨床現場とか教育現場のあり方を別様に見るようになる経験」は、改めて大きな示唆を与えるものでした。なお、本研究会の記録は、「生存学研究所紀要」に掲載される予定です。
美馬理事:研究活動担当
2023年度 第1回(251回)(第1回関東定例研究会報告)
日 時:12月2日(土) 13:00~16:00
会 場:法政大学市ヶ谷キャンパス 大内山校舎6階 Y601教室
司 会:松繁卓哉・三井さよ
報告者:田代志門(東北大学)
テーマ:「研究倫理における「文化の違い」を考えるために―日本社会学会の取り組みから―」
討論者:菅森朝子(立教大学)・細野知子(日本赤十字看護大学)
近年、研究倫理について医療系で制度化が進んできたが、それと同時に社会学系との温度差や発想の違いが際立つようになってきた。また逆に、医療系の研究者の内部から、研究倫理の過度の制度化が、自由な研究の発展を阻んでいたり、研究倫理を形骸化させたりしているのではないかという声もあがりつつある。
本学会は、設立当初から社会学系と医療系との学際的な交流の場となってきた。学際的な交流を意義あるものとしていくためには、両者の「文化の違い」を踏まえるとともに、それぞれから吸収すべきものを吸収し合うことが重要だろう。研究倫理についての議論はその重要な手がかりとなりうる。
今回の定例研究会では、研究倫理についての第一人者であり、医療系についても社会学系についても詳しい田代志門さんに、それぞれの「文化」の違いとその背景について解説していただいた上で、日本社会学会での倫理綱領の改訂についてもお話しいただいた。また、秘密調査とその可能性について、従来の捉え方が覆されつつあるハンフリーズの研究を事例に解説していただいた。
その上で、細野さんと菅森さんからは、ご自分の調査研究上の経験や感じている課題などについてお話しいただいた。細野さんは看護系の立場から、倫理審査にどれだけの労力が支払われているかということ、ただもちろんその仕組みに一定の意義も感じてきたこと、「匿名化」をめぐって生じる問題などについて話してくださると同時に、個人情報保護法との関係について質問が出された。菅森さんは社会学の立場から、調査して論文をまとめていく過程で感じている葛藤について、自分の立場性を悩んでいたが経験の継承という視点を調査協力者から貰ったこと、それでいてインタビューのすべてを論文に活用できないでいる葛藤など、話してくださった。
田代さんからは、個人情報保護法についてはアカデミックな調査研究を別枠とする立て付けになっていること、「匿名化」の多くは「仮名化」であり、社会的意義等との兼ね合いで考えていく問題であること、インタビュー等のデータの活用は学術論文に限られないという発想もあることなどの回答があった。
フロアからは、看護系の倫理審査についての問題提起がいくつか出された。田代さんによると、社会学の質的研究と看護学系とは、倫理審査についてのルールは両極端なくらい違うこと、ただしその多くはローカルルールの問題であることなどが指摘された。オンライン参加者からもチャットでコメントが出され、医療系の倫理審査に人文社会系がかかわることの意義が提起された。
対面での参加は15名、オンラインでの参加は34名。対面での参加者は終わった後も活発に議論しており、活気のある会だった。他方、オンラインでの参加者がこれほど多いとは予想を超えており、またその多くが最初から最後まで視聴しておられ、関心の高さがうかがえた。ハイブリッド開催と名乗るほどの環境整備は今期研究活動委員には難しいが、今後も希望者にはオンラインで話を聴く機会を作るよう、細々と試みていきたい。
2022年度 第4回(250回)(第2回関東定例研究会報告)
日時:2023年3月11日(土) 14:00~17:00
場所:立教大学池袋キャンパス 15号館M301教室(およびZoomによる配信)
書評対象書:
・樫田美雄(神戸市看護大学)『ビデオ・エスノグラフィーの可能性―医療・福祉・教育に関する新しい研究方法の提案』(晃洋書房、2021年)
・河村裕樹(一橋大学)『心の臨床実践―精神医療の社会学』(ナカニシヤ出版、2022年)
要旨:
第2回関東定例研究会は、エスノメソドロジー・会話分析研究会春の例会との共催で、「保健医療のEMCA研究」の書評セッションとして開催された。対象書は、樫田美雄氏の著書『ビデオ・エスノグラフィーの可能性―医療・福祉・教育に関する新しい研究方法の提案』と、河村裕樹氏の著書『心の臨床実践―精神医療の社会学』の2冊である。前者は、20年以上に渡って本学会でEMCA研究の紹介を続けてきた樫田氏が、積み重ねてきた研究実績をもとに「研究方法の提案」として世に問うたものであり、後者は、第14回園田賞を受賞した若手研究者である河村氏が、一橋大学社会学研究科に提出した博士論文を刊行したものである。両氏には互いの著作への書評コメントを担当していただき、互いの書評へのリプライを皮切りに、フロアを巻き込んだ活発な議論がなされた。
河村氏からは、ビデオ・エスノグラフィーがリフレクションの手続きを明確に示したことを評価した上で、先行研究との関係、録画データの位置づけ、従来型の医療関係者の評価の妥当性、エスノメソドロジーとの関係などについて質問がなされた。樫田氏からは、精神医療の研究としての希少性と社会学としての応用可能性が両立されているというコメントのもと、事例の再分析の提案がなされた。両氏のリプライとそれに対する再コメントは、精神医療をはじめとした調査が簡単ではない保健医療の領域でどのように調査研究を行っていくのかという論点をはじめ、多岐にわたる論点を含んだ議論となった。フロアからも、ビデオ・エスノグラフィーが、エスノメソドロジーの方針をどの程度継承するものであるのか、質問がなされたのをはじめ、構築主義や医療化論との関係、エスノグラフィーとの関係などまで含め、活発な議論がなされた。
本定例研究会は、EMCA研との共催という初の試みとして開催され、対面・オンラインを含め90人近い参加者があり、極めて盛況なものであった。本書評セッションの盛会は、書評対象書の持つ多数の参加者の関心への訴求力を示すとともに、二つの領域が交差する地点への関心の高さを示していたように思われる。その意味で、保健医療社会学の研究者でEMCAをはじめ質的研究に関心がある参加者と、EMCA研究者で保健医療にかかわる領域にも関心がある参加者の間で議論を共有する機会となったといえるだろう。
2022年度 第3回(249回)(第2回関西定例研究会報告)
日時:2023年3月5日(日)13:00~16:00
方法:ハイブリッド(京都キャンパスプラザ第 6 講習室+オンライン)
報告者:浮ヶ谷幸代(相模女子大学名誉教授)
テーマ:現代日本の「看取り文化」を構想する
要旨:
日本では、ほとんどの人にとっての最期の場所は病院でその割合はオランダやスウェーデンなどとの比較によっても圧倒的に多いという特徴がある。そんな中、浮ヶ谷氏は、個人化や私秘化が進む社会における人の最期の迎え方を「個人の問題」から「集合体や地域コミュニティの問題」として捉えるという学術的課題として、また家族観の変容、地域コミュニティにおける紐帯の衰退、独居高齢者や無縁高齢者の増加、地域包括ケアシステムを担う「専門職チームへの過度の依存」という現実的課題として問題関心から、同氏の専門である文化人類学的な見地から「看取り文化」の構想を提唱している。
看取り文化とは「地理的にも人口的にも『顔の見える関係』が成り立つ、ある一定のローカルな地域において、そこで生活する人たちが志向する生と死のあり方とそれをめぐる実践のあり方」である。既存の価値観や関係性に対して、「そこで生活する人たち」が新たに志向する価値観や関係性とそれらの擦り合わせから新たに創り出されるという非同一性や動態性を内包する文化人類学的な文脈での「文化」の特徴を持つものである。
「看取り文化」の構想においては、ケレハー(2022)による老い、病、死、喪失を専門家から市民が受けとめ、支え合うコミュニティに取り戻す理念、運動として提唱された共感都市(Compassionate Communities)の考え方や、モル(2020)による「ケアのロジック」を引きつつ、ケア論の文脈、死をめぐる選択や看取りの場所性、看取りと地域コミュニティの4つの観点が述べられた。その上で「看取り文化」におけるケアに重要なのは「量」であり、優れた専門家とそうではない身近な人々によってもたらされるケアを対比し、事例を紹介しつつ後者からもたらされる「ケアの量」は質を凌駕することを示された。
最後に、今後の展望として、「人の生と死」を看取りや、葬送や墓、医療や価値観、経済状況などの領域に分断せず/接続させる試みを捉え、死を社会(私たち)に取り戻す研究への発展させていくことが述べられた。
現代日本では看取りの主たる担い手は専門家ではあるが「葬送」からは排除/分断されていることや、海外の事例も踏まえつつ果たして人は自宅で死ぬべきなのかという価値規範、ケアに携わる人の責任などについて意見交換がなされた。さらには看取り文化は、「くらしの場」における文化を取り扱っているため主たる死亡場所である病院が研究対象にならないことや子どもの看取りについても意見が交わされた。フロア参加が7名(登壇者除く)、リモート参加が(最大)51名であった。ディスカッションは、会場にてラウンドテーブル形式で行い、sympathyやempathyにcompassionが沸き立ち、大いに盛り上がった。なお会事前申込者の35%が看護学系、29%が非会員であった。
2022年度 第2回(248回)(第1回関東定例研究会)についての報告は看護・ケア研究部会研究活動報告をご覧ください。
2022年度 第1回(247回)(第1回関西定例研究会報告)
まだ暑さの残る9月24日(土)、2022年度の第1回関西定例研究会をキャンパスプラザ京都にてハイブリッド形式で開催しました。今回は松枝亜希子会員(立命館大学)執筆のご高著『一九六〇年代のくすり——―保健薬、アンプル剤・ドリンク剤・トランキライザー』(2022年、生活書院)の合評会でした。コメンテーターには、うつ病や緩和ケアがご専門の精神科医で非会員の森田幸代氏(滋賀医科大学)をお迎えしました。
合評会は、まず松枝会員からご高著の概要を報告いただき、ビタミンB1誘導体製剤に代表される大衆保健薬、薬害問題を引き起こしたアンプル入りドリンク剤、抗不安薬として主婦や受験生、果ては子どもまでをも服用対象とされたトランキライザーを具体事例として、現代とは異なる販売方法や宣伝広告などといった医薬品の位置づけを提示しました。これらがその後、どのような規制下におかれるようになるのか、薬害問題として批判する研究者や市民、医師、それに行政がどのように対応したのかを、新聞や一般・専門雑誌などをデータとする言説分析から明らかにしています。報告では、どのような人々を対象に、どのような売り文句で医薬品が宣伝されていたのかを、実際の広告を紹介することで、当時の社会的背景を浮き彫りにしていました。
松枝会員の報告の後、コメンテーターの森田氏からは、分析手法についての質問にはじまり、時代を追っての抗うつ薬の位置づけの変化、世代による医師がもつ医薬品への意味づけの相違など、臨床医ならではのコメントと論点提示がありました。その後、議論をフロアに開いていき、保健薬やトランキライザーなどが規制下におかれるようになった要因として、旗振り役となった医師の存在や、行政側の意向に関して質問があり、現代の薬害再発防止のあり方の議論へと展開していきました。松枝会員も、アンプル入り風邪薬が薬害問題の一つに数えられる背景となった薬害スモンやサリドマイド薬害に言及しながら、薬害問題の横のつながりや薬害運動に関するさらなる検証が必要であると指摘し、今後の薬害問題の歴史研究にフロアからの期待が寄せられました。
当日は秋の連休の最中にもかかわらず、フロア参加が6名(登壇者除く)、リモート参加が(最大)29名と盛況でした。
2021年度 第3回(246回)(第2回関西定例研究会報告)
日時:2022年3月12日(土)14:00~16:00
会場:Google Meetを用いたオンライン開催
画者:第48回大会実行委員会及び大会サポーター
テーマ:新型コロナウィルスと日常生活
司会:山田富秋(松山大学)
話題提供:白柿綾(聖カタリナ大学)
石川良子(松山大学)及び石川ゼミ
その他実行委員会メンバー
3月12日(土)14時00分から16時00分まで、第48回大会実行委員会及び大会サポーターが企画して、Google Meetによるオンライン研究会として開催いたしました。最大27名が参加しました。
テーマは「新型コロナウイルスと日常生活」とし、今回の大会テーマである「ウィズコロナの現実を生きる」という趣旨に沿って、「コロナ禍の下での暮らしと人生」という視点から、私たち一人ひとりの経験を振り返り、百年後の未来に何を繋ぐことができるのかを、フロアからも参加できるワークショップ形式で意見を交換しました。
司会は第48回大会長の山田富秋が行い、最初に話題提供者として実行委員会から、松山大学の石川良子さんのゼミ生3名が、このテーマでの調査結果を発表し前半第1部の話題提供としました。次に司会を聖カタリナ大学の中村五月さんに交替し、第2部の看護実習について、愛媛県立医療技術大学の田中美延里さんが地域看護について、聖カタリナ大学の白柿綾さんが精神看護について現状を報告されました。
内容を簡単に紹介すると、石川ゼミの江藤有花さんが、個別の販売網を持つ米農家にとって影響は少なかったが、JAなど大きな購入先に左右されるところは、需要減による販売価格の下落の影響を受けたと発表してくださいました。同じく、上甲真也さんは、高校の吹奏楽部の現状を調査し、感染防止を目的とした練習形態の変化と全国大会がなくなった代替的なイベントの創発について発表されました。最後に橘周平さんが、愛媛県内で最初に新形コロナで死亡した方のお葬式をした葬儀社のインタビューを行い、コロナ禍の中でも、故人への敬意が表現されるような式典を工夫している様子を発表されました。
第2部では、田中美延里さんが県内の地域看護実習では、病院外の実習がまったくできなくなった看護領域と違って、ゲートボール中の高齢者に声をかけることで、それほど警戒されずに、高齢者の生活について話をうかがうことができた例を紹介しました。次にこの2年間病院での臨地実習がほとんどできなくなった精神看護分野の白柿綾さんが、看護学生の立場に立って、実習前と後、就職前と就職後の心理的な変化を報告しました。こうした変化の背景には、看護学生たちが言葉にならないほどの恐怖や不安を抱えながら、社会の役に立たなくてはならないというプレッシャーと闘っている心理があると推測されました。
企画者からの話題提供を受けて、フロアからは第1部の橘さんの葬儀社の発表について、さまざまなコメントが出され、この2年間の中でお葬式を経験した参加者の経験を共有することができました。また、第2部の看護実習のトピックについては、同じ看護教員の立場から、あるいは患者の立場から、看護実習の重要性が指摘され、この間の実習の変化について、さらに注視していく必要があることが確認されました。
この研究例会をひとつのきっかけとして、5月28日(土)~29日(日)の第48回大会では、ウィズコロナの現実を生きる一人ひとりの経験をさらに共有していきたいと考えています。現地あるいはオンラインでの多くのご参加を期待しております。
2021年度 第2回(245回)(第1回関東定例研究会報告)
日時:2021年12月18日(土) 14:00~17:00
場所:オンライン開催
書評対象書:海老田大五朗(新潟青陵大学)『デザインから考える障害者福祉――ミシンと砂時計』
(ラグーナ出版、2020年)
評者:秋谷直矩(山口大学)
河村裕樹(一橋大学)
司会:前田泰樹(立教大学)
要旨:
ラグーナ出版から刊行された、海老田大五朗氏の著書『デザインから考える障害者福祉』の合評会として開催され、障害者雇用の現場の実践において用いられているデザインを記述しようと試みる本書の持つ可能性について、活発な議論がなされた。評者として、デザインのエスノメソドロジー研究に明るい秋谷直矩氏と、精神医療の社会学的研究を専門とする河村裕樹氏にご登壇いただいた。両氏からは、大別して、(1)個別事例の記述の適切さについて(2)本書のもつ可能性についてという、2つの論点に関して指摘がなされた。前者について、秋谷氏からは、デザインのアカウンタビリティを記述するという本書の掲げた方針が十分に達成されているのかどうか、また、河村氏からは、支援実践の記述として十分なものになっているのかどうか、鋭い質問がなされた。著者の海老田氏は、部分的には調査の限界を説明するとともに、本筋では、自著から事例を引用して再分析・再提示することで、非常に丁寧に応答されていた。後者の本書の可能性については、秋谷氏からは、デザイン社会学の潮流と参加型デザインの考え方について説明がなされたあと、社会学者がより一歩踏み込んでデザインに参加してく可能性について質疑がなされた。また、河村氏からは、支援実践を人びとの日常と連続するものと考えることで、「障害者」や「障害のある状態」を捉え直し、社会をデザインしていく知見を提出しうるのではないか、という指摘がなされた。社会学とデザインの関係をめぐる論点は、フロアとの議論に開かれ継続された。参加者は、非会員も含めて29名と多く、デザイン領域の研究者の参加もみられた。フロアからは、デザインを「微調整の連続」として捉える本書の視点を評価するコメントが寄せられていた。本書の想定読者には、障害者福祉にかかわりなく生きてきた人々が含まれており、本書は、社会がすでにデザインされてしまっているという事実を読者に想起させるものでもある。合評会は、本書が幅広い読者層に訴える力を持つことを示す、盛会となった。
2021年度 第1回(244回)(第1回関西定例研究会報告)
日時:2021年9月11日(土)15:00~18:00
場所:Zoomによるオンライン開催
書評対象書:野島那津子(石巻専修大学)『診断の社会学――「論争中の病」を患うということ』
(慶應義塾大学出版会、2021年)
評者:佐々木洋子(和歌山県立医科大学)
渡辺翔平(大阪府立大学大学院)
司会:美馬達哉(立命館大学)
要旨:
2021年度第1回関西定例研究会を、2021年9月11日(土)に医療社会学研究会との共催によるオンラインで開催した。今回は、野島奈津子会員(石巻専修大学)の御高著『診断の社会学――「論争中の病」を患うということ』(慶應義塾大学出版会、2021年)の合評会とし、著者の野島会員に加え、コメンテーターとして佐々木洋子会員(和歌山県立医科大学)、渡辺翔平会員(大阪府立大学大学院)にお願いし、美馬達哉氏(立命館大学)の進行で、冒頭からそれぞれの専門的見地からコメントをいただいた。
佐々木会員からは、ADHDをおもな事例とする医療化論の観点から、診断のもつ意義や、社会運動(あるいはセルフヘルプ・グループ)への展開可能性、ジェンダーや年代による差異についてコメントがあった。渡辺会員からは、N. ローズ、A. ペトリーナが提起した「生物学的市民(biological citizenship)」概念の観点から、 患者が非市民扱いをされつつも、かえって生物学的なものが抵抗の資源たりうるのでは、というコメントがあった。従来の保健医療社会学では、議論の前提として診断を自明視してきたと言えるが、野島会員が聞き取りデータから示した各事例は、 生物医学的な診断を得ようと奔走することで、かえって周囲の無理解に苦しみ、本来もつべき市民権を十全に行使できない状況であったと言える。さらに参加者からは、ジェンダー差について、西洋近代医療における「診断の社会史」の可能性といった論点も提示された。
当日の参加者は会員・非会員合わせて37人の盛会となり、野島会員の知見や、コメンテーターをはじめとするフロアとの議論を広く学会内外に発信することができた。オンライン開催による研究会は、関心のある参加者が全国から参集可能な点で優れているが、参加者の反応が対面に比べて見えづらいという難点も主催者として感じる。第2回目の定例研究会は3月12日(土)に開催予定である。会員各位には、今後も積極的な定例研究会への参加をお願いしたい。
第243回定例研究会
日時:2021年2月27日(土)13時30分~16時10分
テーマ:ハンセン病療養所の自治について考える
- (1)
- 「近代日本のハンセン病療養所における『自治』とその射程」
松岡弘之さん (岡山大学大学院社会文化科学研究科)- (2)
- 「戦後のハンセン病療養所における『自治』の隘路―多磨全生園患者自治会の閉鎖と再建を巡って」
坂田勝彦さん (東日本国際大学:会員)
要旨:
ハンセン病世界の研究を長年してこられた歴史学の松岡弘之さんと会員の坂田勝彦さんのおふたりをお迎えして、戦前期から戦後までのハンセン病療養所における自治について考察した。
松岡さんには、自著『ハンセン病療養所と自治の歴史』(みすず書房、2020)にもとづいて歴史学研究の立場から、ご自身のフィールドである、岡山県瀬戸内市長島に設置された邑久光明園(前身は外島保養院@大阪府)と長島愛生園の「自治」の開始・展開過程と、両園の相違、そして「自治」の意味について、報告していただいた。坂田さんには、自著『ハンセン病者の生活史』(青弓社、2012)で研究された多磨全生園の戦後の自治会を対象に、あらためて一人の入所者の論考を読み解いていくことで、自治会が閉鎖され再建される過程がどのような文脈のうちにあったのかについて報告していただいた。
いずれのご報告も、患者/病者たちによる「生」をかけた主体的な行為があり、それが一般社会の構造や変動とともに展開していること、療養所世界は決して社会と「断絶」してきたわけではないことを教えてくれた。
フロアからも、地域文化と療養所との関係やジェンダーの視点、現在の新型コロナウイルス感染症との関係、公衆衛生のあり方についての質問やコメントが寄せられ、盛会のうちに終了した。参加人数は、Zoom開催のメリットで広域から参加があり、38名を数えた。
第242回定例研究会
日時:2020 年2 月22 日(土)14:00~17:15
場所:神戸研究学園都市大学共同利用施設 UNITY(ユニティ
講演者:藤田 愛(慢性疾患看護専門看護師/ヘルスケア・マネジメント修士・専門職)医療法人社団慈恵会 北須磨訪問看護・リハビリセンター所長
テーマ:人生の最終段階における患者、家族、看護師の会話―そこにどのような意味が存在するのか事例を通して考える―
要旨:
訪問看護のエキスパート藤田愛氏をお迎えして、「人生の最終段階」の在宅ケアについてお話をうかがった。患者本人、家族、そして医療者との間でどのようなやりとりがあるのか、そして、本人の意向を聞き取って在宅であることの強みを活かしながらどのように看護をしていくのか、そもそも、その前に、在宅看護を開始するまでに病院医師、病院看護師、家族をどのように説得するのかという大きな問題を解決していかねばならない。これらの問いについて、具体例を通して説明してくださった。氏は、これまでの「統計にもとづいて」(ここでいう「統計」とは経験知のことである)、ときに「選挙演説のように」訪問看護師からみた自身の意向を主張し、そして、患者本人の意思を尊重して自宅で最期を迎えるための支援を実行しておられた。氏の経験は、著書『「家に帰りたい」「家で最期まで」をかなえる―看護の意味をさがして』(2018 年、医学書院)にもあきらかにされているが、ライブで氏のことばを伺うと、現場におけるいくつもの不確定要素のピースが――発表スライドにジグソーパズルの絵が用いられていた――、氏が現場の各人に投げかける質問と対話から「在宅で最期を迎えるためのケア」という文脈に位置づけられ、そのための具体的な支援が動き始める状況がありありと見えてきた。
折からの新型コロナウイルス感染症問題の影響もあってか、参加者は6 名と少なかったが、非常に充実した会合で、研究会後の茶話会、懇親会でも引き続き活発な議論が交わされた。
第241回定例研究会
日時:2019年11月30日(土) 14:00~17:00
場所:立教大学池袋キャンパス10号館X102教室
講演者:武藤香織先生(東京大学医科学研究所)
テーマ:人の遺伝・ゲノムの社会学~日本の30年間を振り返る
要旨:
人の遺伝・ゲノムの社会学を長く第一人者として牽引されてきた武藤香織先生にご講演をいただいた。ご講演は、この30年間を3期に分けた上で、その都度ご自身が関わって来られたテーマにそって、論点を提示するものであった。家族性アミロイドポリニューロパチーの患者会の調査から始まり、ハンチントン病患者会の立ち上げと支援、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の経験、「がん遺伝子パネル検査」の経験について語られたのち、個人情報保護と遺伝的特徴に基づく差別に関する問題提起がなされた。参加者は非会員も含めて25人と多く、科学技術社会論や看護学の立場からの質疑も含め、活発な議論がなされた。議論は、政策が科学技術に与える影響の評価から、遺伝医療がゲノム医療へとシフトしていくなかでの「遺伝」についての理解の変化や、日本における遺伝カウンセリングの位置づけ、患者会調査において留意すべきこと、調査研究と支援をめぐる関係、日本における結婚差別の問題と「どのような行為を日本社会からなくすべきか」という倫理的な問いにいたるまで、多岐にわたった。質疑応答は予定の時間を超過して行われ、閉会したのちも議論や情報交換がなされる盛会となった。
第240回定例研究会
日時:2019年9月21日(土)14:00〜16:30
場所:龍谷大学梅田キャンパス
テーマ:はざまを探る——生命と非生命、そして科学と非科学
報告者:中屋敷 均(神戸大学農学研究科)
要旨:
『科学と非科学——その正体を探る』(2019年、講談社)『ウイルスは生きている』(講談社、2016年)、『生命のからくり』(講談社2014年)と分子生物学の知見を精力的に発信している中屋敷均氏をお迎えし、私たち保健医療社会学者とは異なる視点から、科学や科学を支える統計学、さらに科学が把握しきれないリスクとベネフィットについて議論した。中屋敷氏は、科学と神託とを対比して、現代では科学がかつての神託の代わりに機能しているとする。しかし実際には、過去の神託がそうであったように、中屋敷氏が専門領域とする農学、あるいは医学でも、科学は依然、不確かな要因に満ちている。科学を不確かにする要因には、①因果関係の複雑さ、②試行の有限性、③認知の限界、が挙げられ、統計学による検証を踏まえても、さまざまな健康被害や薬害が生じている現状は、科学の限界を明確に示しているとも言える。そこから科学者が求められるのは、現代の「神官」になるのではなく、考える素材を提供し、わからないことはわからないことを認める姿勢であることが提示された。報告を受けてフロアからは、科学の定義や前提について、分子生物学や農学の観点から考える健康被害についてといった質問から議論を深めることができた。 参加者は(その後会員申し込みをした)非会員含めて11人と少ないながらも(この点は研究活動理事として反省すべきである)、研究会後の懇親会もおこなわれ、第1回を盛会裡に終えることができた。
第239回定例研究会
日 時:平成31年3月21日(木・祝)14:00~16:00
場所:神戸市立婦人会館
テーマ:医療専門職の働き方と連携―イギリスからの示唆―
発表者:白瀬由美香(一橋大学)
要旨:
白瀬氏からは、直近のイギリス調査にもとづく(最新論文発表直前の)ホットな報告をいただいた。報告では、まず初めに厚生労働省「医師の働き方改革」検討会が挙げた「緊急的な取り組みの項目」6項目が紹介され、このうち主として、「医師の労働時間管理の適正化」と「タスク・シフティングの推進」に焦点を当てて、イギリスの事例について報告がなされた。イギリスにおいては、1993年に採択した欧州労働時間指令が1998年から国内法に適用され、いくつかの適用除外は認められつつも、その後20年間で医療専門職の大幅な労働時間短縮を実現してきた。現在、イギリスの医師の労働時間の<上限>は週48時間以内という報告には、残業上限年1860時間という日本とのあまりの違いに参加者からため息が漏れた。他方、医師の就労条件の改善のために、コメディカルへの医薬品の処方権の拡大など、医療行為のタスク・シフティングも進んだ。さらに、医師に関しては2009年からPhysical Associate(PA)、看護師に関しては2017年からNursing Associate(NA)という新たな補助職の養成が開始された。PAは国家資格化されていないなど法制度上の問題を残しているが、2019年1月に初の資格取得者を輩出したNAは国家資格である。NA養成への初回の応募者の大多数は経験の長いHealthcare Assistant(HA)であったというが、HAには看護系大学への進学というキャリア選択も可能である。ディスカッションでは、イギリスのタスク・シフティングから見た日本の課題や、今後イギリスにおけるHA-NA-看護師という階層化がどのように現場実務に反映するか、階層化とオープンなキャリアパスとの併存がどの程度有効かなどについて議論がなされた。参加者は12名。
第238回定例研究会
日 時:2018年10月14日(日)14: 00~16: 00
場 所:筑波大学・東京キャンパス337教室
報告者:荒井浩道(駒澤大学文学部)
タイトル:ナラティヴ研究の有効性と課題――ナラティヴ・ソーシャルワークをもとに考える
保健医療社会学会における研究方法として、ナラティヴ研究は研究協力者の語り・ストーリーを重視しながら、インタビューデータの背後にある内的な世界を掘り下げて分析する研究方法として着目されてきている。ただし、ナラティヴ研究が保健・医療・看護・福祉といった支援を重視する分野でどのような有効性と課題があるのかについてはこれまで十分に議論されてこなかった。そのため、ナラティヴ研究をソーシャルワークに応用しながら研究と実践を進めている荒井浩道さんを講師に迎えて研究会を行った。
荒井さんからは著書「ナラティヴ・ソーシャルワーク:「支援」しない支援の方法」(2014年、新泉社)の内容を紹介しながら、ナラティヴ・アプローチの種類と内容について説明がなされた。さらに、ナラティヴデータを用いたテキストマイニングによる実際の分析事例を紹介した報告がなされた。その後の参加者との意見交換では、参加者自身の研究におけるナラティヴ研究の応用上の課題に関連する質問、意見が多く出され、活発な議論がなされた。当日の参加者は22名であり、看護学、理学療法学、作業療法学、社会福祉学などをバックグランドにした会員、大学院生が主な参加者であった。
第237回定例研究会
日 時:平成30年9月2日(日)14:00~16:00
場所:キャンパスプラザ京都
テーマ:経験の固有性を理解するー『遺伝学の知識と病の語り』を中心にー
発表者:前田泰樹(立教大学)
要旨:前田氏からは、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の患者や家族、またその治療やケアにかかわる医療者たちを対象に2003年から継続的に行ってきたEMCA (「エスノメソドロジー」 Ethnomethodology と「会話分析(相互行為分析)」 Conversation Analysis )研究を題材に、保健医療社会学的EMCAの可能性についてご報告いただいた。EMCAは計量分析や既存の概念によって操作的に定義づけられた概念との比較連関を反映した理論を作るものというより、病者や実践家がどのような行為や経験をしているのかの記述に関心がある方法であり、それぞれの実践の参加者の問題への対峙の仕方、すなわち「人びとの方法論」に着眼して明らかにしていく方法である。
ADPKDの当事者を対象にしたEMCA研究では、また人びとの問題の理解の仕方、いわば枠組み自体が、人びとの実践の経験を通して流動的に書き換えられていくこと、個別的な経験としての語りにある問題の発見に価値がありつつ、患者の語りからは「多かれ少なかれ、皆言われていることは一緒だ」のように、一定の普遍性を志向しており、これはまた他人の経験と重ね合わせて普遍性の理解となること、また専門的知識を参照することによって、自らの個別的な経験が理解できるようになるなど、何らかのカテゴリーを頼ることなど、時代によって知識体系そのものも変化を伴ってきたADPKDの「人びとの方法」との固有性についてご報告頂いた。その後、方法的妥当性や課題解決型の研究としてのEMCAの可能性について意見交換がなされた。参加者は17名。
第236回定例研究会
日 時:2018年3月18日(日) 14:00~16:00
場 所:筑波大学東京キャンパス 116教室
報告者:北村弥生(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)
指定発言者:古山周太郎(東北工業大学)
タイトル:災害支援研究の新たなアプローチ
-障害のある当事者と共同して進める災害準備研究の有効性と課題-
司会進行:小澤温(筑波大学)
概要:これまでの災害支援研究では、災害弱者という観点で、高齢者、障害者をとらえる見方が一般的だった。これに対して、災害準備における取組を、当事者研究の視点で、長年、関わっている北村弥生さんを迎えて研究会を行った。当日は、浦河べてるの家における障害当事者の参加型の避難準備に関する実践と所沢市における障害者の参加型の避難所運営のワークショップの2つの取り組みにおける当事者参加型リサーチの有効性と課題について報告していただいた。指定討論者は、災害支援に関して、まちづくりという視点で、東日本大震災の研究に取り組んでいる古山周太郎さんから、これまでの行政計画による防災対策の問題点を障害当事者の個別避難計画の作成の取り組みから見えてきたことを通してコメントがなされた。参加者は10名であり、看護学、社会福祉学、教育学、社会学などの観点からこれまでの防災対策研究の課題について活発な議論がなされた。
第235回定例研究会
日 時:2018年2月3日(土)14:00-16:00
場 所:龍谷大学梅田キャンパス研修室
大阪府大阪市北区梅田2丁目2-2
ヒルトンプラザウエスト オフィスタワー
報告者:山中浩司先生(大阪大学人間科学研究科)
テーマ:病気とは何か?—「人」「病気」「病人」—
概要:冒頭、山中氏は、認知症者との会話で「心が弱いから病気になった」、「私はおかしい」、「偽物と入れ替わった」という相手にどのように言葉を返したかの経験を例に、「人」と「病気」を分ける考え方、分けない考え方を紹介された。「人person」の領域は、医療者だけでなく、本人・社会の対応があるのかないのかになどによって多層に広がっており、「人」と「病気」をわけない考え方は、生活と地つづきの予防医学や生活モデルと似ていること。「病」や「病人」の序列化が、医療者が対応するかどうか、あるいは本人や社会が対応するかどうかによって生じていることを、がんや未診断疾患、糖尿病などの具体例の分析から提示していただいた。
この後、およそ20名の参加者を交えて、制度化によって患者が増えることの経済的利害やアイデンティティ、薬害エイズのように加害者がいる場合の考え方など、社会的な文脈での「病sickness」について意見交換がなされた。
第234回定例研究会(第1回関西定例研究会報告)
日 時:2017年10月14日(土)13:30~16:00
場 所:大阪市立大学梅田サテライト(大阪駅前第2ビル6階)
テーマ:「ヘルスリテラシーと情報に基づく意思決定」
講 師:中山和弘先生(聖路加国際大学)
概要:看護情報学を専門とする中山和弘氏から、ヘルスリテラシーと意思決定支援について、国際比較も含め、多様な観点からお話しいただいた。
ヘルスリテラシーとは、健康情報を入手・理解し、意思決定を行う能力であり、周囲にはたらきかけることができる能力でもある。ヘルスリテラシーに関する中山氏の研究結果によれば、日本人はEUの人々に比べてヘルスリテラシーが低く、特に、健康情報の理解はできても意思決定が困難であることが明らかになっている。
米国では、ヘルスリテラシー向上のためのアクションプランが策定され、「情報に基づく意思決定」や「わかりやすいヘルスサービスの提供」が謳われ、ヘルスリテラシーにあわせたコミュニケーションや意思決定支援ツールの開発も進んでいる。他方、日本人のヘルスリテラシー能力は決して高くはなく、プライマリヘルスケアや健康教育に課題があることが示された。
これらの報告を受け、後のディスカッションでは、医療者、医療界に今後どのような取り組みができるか/必要か、また、国の政策課題は何かといった意見交換が活発になされた。
第233回定例研究会
日 時:2017年3月25日(土) 14:40~17:00(若手研究者支援企画に引き続き開催)
場 所:大阪市立大学梅田キャンパス・文化交流センター
(大阪駅前第2ビル6階小会議 https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/about/university/access)
テーマ:「薬物事後統制の経験的分析に向けた方法論的検討」
講 師:平井秀幸(四天王寺大学)
司 会:進藤雄三(大阪市立大学)
概要:今回の関西定例研究会は、『刑務所処遇の社会学:認知行動療法・新自由主義的規律・統治性』(2015:世織書房)を上梓した、平井秀幸先生に登壇いただいた。今回の報告は、日本における薬物統制原則が「事前統制」を中心になされてきたことを踏まえつつ、「事後統制」の動態をも射程に入れた分析の可能性をさぐるために、時間軸を組み入れた歴史社会学的分析の重要性を指摘し、その上でとりわけ研究蓄積の厚い「医療化」の検討を、「薬物事後統制」の経験的分析枠組み構築のために行う、という野心的な試みであった。 既存の「医療化」研究の概観を行った上で、その問題点を指摘し、その指摘に対応する分析枠組みを提示する、というきわめて論理的な提示がなされていた。報告の目的とされた分析枠組み提示のインパクトもさりながら、良質の博士論文の先行研究レビューを手渡されたかに思われた「医療化」の濃密なオーバービューの、その詳細さと問題点剔出の的確さには正直うならされた。参加者数は15名で、報告後にきわめて活発な議論が交わされた。
第232回定例研究会
日 時:2017年3月5日(日)14:00-17:00
場 所:首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス 会議室A・B
テーマ:「社会による健康被害」への社会学的アプローチの可能性
報告者:宇田和子(福岡工業大学社会環境学部)
指定発言:本郷正武(和歌山県立医科大学)
花井十伍(ネットワーク医療と人権)
司 会:田代志門(国立がん研究センター)
2015年に『食品公害と被害者救済:カネミ油症事件の被害と政策過程』を出版された新進気鋭の環境社会学者・宇田和子会員から、「食品公害による被害と補償問題」と題した報告が行われた。報告では油症被害の実態と被害に対する補償の状況を踏まえ、不十分な補償が継続している理由や現在の争点についての考察が展開され、最後に社会学の立場からの提言と今後の展望が示された。これに対して、本郷会員からは食品公害における研究者集団や医療従事者の役割や油症被害者が被害者に「なる」プロセスに着目したコメントが、花井氏からは薬害被害との異同についてのコメントがあった。宇田会員からのリプライの後、17名の参加者との質疑応答、自由討議が行われ、「社会による健康被害」への社会学的アプローチの可能性について活発な議論が行われた。
第231回定例研究会
日時:2016年11月5日(土) 14:00~16:00
会場:大阪市立大学梅田キャンパス・文化交流センター(大阪駅前第2ビル6階小会議室
テーマ:医療の質・安全の観点から見たストレスマネジメントと業務分析的視点
講師:笠原聡子(滋慶医療科学大学院大学医療管理学研究科医療安全管理学専攻)
医療の質・安全の観点から見たストレスマネジメントについて報告していただいた。 平成27年には労働安全衛生法の改正によりストレスチェック実施が義務化された。平成25年の労働安全衛生調査では、仕事や職業生活に関する不安や悩み、ストレス内容として最も多いものが「仕事の量・質」である。医師や看護師は長時間労働が多い。が、看護師の場合は離職が選択され、医師の方が拘束されやすく深刻である。勤務時間の短縮が医療ミスや誤診など発生を抑制するかについての介入研究では、効果なしとの報告も少なくなく、コミュニケーションや、ストレスマネジメント、疲労への対処等のノンテクニカルスキルが患者安全において重要であることが報告された。また安全研究の流れとして、線形モデルに始まり、複数の潜在要因を扱う疫学モデル、システミックモデル(創発的変動性)に発展してきた経緯と、その最も新しいモデルの一つとしてFRAM(Functional Resonance Analysis Method)が紹介された。また研究枠組みの中で、システムは本質的に危険であり、人間と組織の柔軟性がシステムを安全に機能させているというレジリエンス(「柔軟性」「復元力」)・エンジニアリングの考え方や、安全の定義は、うまくいかないことを減らす「Safety-I」からうまくいくことを増やす「Safety-II」に着眼するようになり、Safety-IIでは、システムの柔軟性やレジリエンスに必要な資源として位置付けられていることが紹介された。また日常臨床業務の複雑さの実証研究として、薬剤管理業務プロセスの調査研究が報告された。参加者は4名。参加者とのディスカッションでは、さらにレジリエンスの考え方や、さらに複雑になる地域包括ケアや訪問看護における展開での課題などがディスカッションされた。
第230回定例研究会
日時:平成28年3月5日(土)15:00~17:00
場所:大阪市立大学梅田キャンパス・文化交流センター・小セミナー室(駅前第2ビル6階) テーマ:大会シンポジウム連携企画「〈薬害〉経験のナラティヴをきく」
1. 大阪の血友病患者会はどのように問題経験を切り抜けたか -四半世紀を振り返って
発表者:若生治友(大阪ヘモフィリア友の会)
2. 血友病患者会全国組織の再始動
発表者:佐野竜介(ヘモフィリア友の会全国ネットワーク)
要旨:関西定例研究会は、薬害問題を取り上げた第42回大会(大会長:蘭由岐子)のメインテーマ「問題経験のナラティブをきく」と連携するテーマとして企画し、薬害HIV事件の経験について報告していただいた。
若生さんからは、HIV感染禍に血友病患者会が対処不能になり、かつ活動しにくい状況があった1990年代初頭に、HIVのNGOとして血友病患者並びにその家族の支援団体を立ち上げ、この際、運営に患者・家族以外のいろいろな人を巻き込んだことにより、実質の主体は患者であったが、医療機関の紹介、入院や通院介助、訴訟準備、面談などの活動がやりやすくなったことや、阪神大震災、薬害HIV訴訟和解後の国との医療体制整備、神戸での薬害エイズ国際会議(1996)などの経験を踏まえて、その時々の問題や課題に取り組みやすいのか、ふさわしいのかを考えて、それに対応しやすい組織や構成員で対応することが問題経験を乗り越えていく戦略として紹介された。佐野さんからは、HIV禍の影響で、患者会の主たる会員の体調不良や死亡、強烈な偏見差別で活動しにくくなるなどにより、全国的に活動停止に陥った状況があったことが紹介された。佐野さんは、転居により転入先の地域の患者会の戸を叩き、その地域での「HIVのゴタゴタを知らないことが良かったのかもしれない」という立場で、主として2000年以降の各地域のローカルな患者会活動や、各組織の主体性を尊重して緩やかにつなぐという新しい関係での全国血友病患者会組織の再組織化、活動のための資金の獲得や、活動を推進する上での資金提供者との自律的な関係について報告していただいた。参加者は23名。
第229回定例研究会
日時:10 月10 日(土)14:00~16:00
場所:首都大学東京 秋葉原サテライトキャンパス 秋葉原ダイビル 12 階(1202)D 会議室
報告者:孫大輔先生(東京大学大学院医学系研究科医学教育国際研究センター講師)
タイトル:「カフェ型ヘルスコミュニケーションにおける変容的学習」
要旨:孫先生は、家庭医として生活習慣病や慢性疾患患者の生活を知る必要があるのだが、患者は診察室では本音を言えていないと考え、医療系専門職と市民・患者がワールドカフェなどで自由にフラットな対話を通じて互いに学び合う「みんくるカフェ」を開催している。参加者を対象とした調査の分析から、そこで「変容的学習(transformative learning)」のプロセスが起こり、他者への理解が促進されていたことが確認された。さらに、カフェのファシリテーター育成講座の修了生が全国で活動を展開していて、地域住民の誰もが参加し学びあい、支えあえる地域づくりを目指すと報告された。
報告後の質疑応答では、カフェの案内がソーシャルメディアであることによる市民としての特殊性と医療者も市民であるという二重性があること、ファシリテーター育成では質の担保や活動の把握よりは自由な活動の展開を優先していること、専門医を中心とした医師の自己中心性やプライドの変化の可能性、看護職が医師に対抗してしまうなど他の職種との関係性、社会全体が情報に基づく意思決定のためにフラットなコミュニケーションやつながりを求めている可能性などが話題となった。今後の広がりとそれが意味するものについて、今後も注目すべき活動であることが確認された。
第228回定例研究会
日時:9月28日(月) 14:00~16:30
場所:大阪市立大学梅田キャンパス・文化交流センター・小セミナー室(駅前第2ビル6階)
発表者:天田城介先生(中央大学)
タイトル:「戦後日本超高齢化論――ケア労働の変容」
天田先生はここ数年の研究を、1)男性介護者、2)日本型生存保障システム、3)地方におけるケア労働、の三つに整理した上で、これらをすべて組み込んだ目下構想中の草稿の骨子を提示された。
特に焦点化されて取り上げられたのは、産業構造の変容、高齢者関連市場の拡大に伴う地方における「生き延びの女性化」(ウォーラスティン)であり、同時にそのかろうじて可能となった「生き延び」が期間限定つきのもの(人口規模の小さな地方ではすでに高齢者人口自体が減少し、市場自体の縮小が始まる)であることから、「地方における生き延びの都市化」が進行する、という見通しであった。これに対して、出席者からは、地方における女性の労働化の時期、ケアマネの役割、訪問看護の現況、ジェンダー・ポリティクスの問題などをめぐって、多岐にわたって活発な議論がなされた。
平日開催ということもあり、参加者は限られていたが、討議を通して、フィールドワークに基づいた知見に裏付けられた、地方の実情がリアルにうかがうことができ、充実した会合となった。
第227回定例研究会
日時:2015年2月28日(土)14:00~16:00
場所:首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス会議室A・B(秋葉原ダイビル12階)
報告者:すぎむらなおみ先生(愛知県公立高等学校養護教諭)
タイトル:「学校におけるケアの現状と課題~スクール・セクハラや「いじめ」事件において、ケア提供者は不在だったのか~」
すぎむら先生は、まず学校という「場」の存在から問題提起をされ、「学校」「教室」「保健室」という場における教員の規範意識、教員-児童・生徒関係などについて説明された。それらを前提に生徒が受ける「被害」がどのように学校内、そして家庭や警察などでどのように取り扱われているのかという点について「生徒」と「教員」の被害観のズレがしばしば生じる現状が調査による事例とご自身の経験も交え平易に説明された。
こうした状況の中、被害を受けた生徒にケアを提供する立場と考えられる養護教諭においても、その立ち位置は多様であり、積極的なケアを提供しようとした場合には、学校においてマイノリティになりがちであり、ともすると学校社会から「孤立」「バーンアウト」「排除」といった状態に陥りかねない。そうしたなか、意欲ある養護教諭たちが生徒のために学校内もしくは教育委員会や児童相談所などを交えた「仲間作り」を通じ、生徒にとってもケアを求めやすい「場」に作り替えていく作業を必要としている状況が理解できる内容であった。
報告後、10名強の参加者との質疑応答が活発に行われ、医療現場でのインシデントの扱いなどとの比較の中で、セクハラやいじめといった問題に対する学校・教育現場の認識や対応がどのようなものであるのかなどについて討論が行われた。
第226回定例研究会
日 時:2015年2月28日(土)13:30~16:30
場 所:大阪市立大学梅田キャンパス・文化交流センター(駅前第2ビル6階)
報告者:西村ユミ先生(首都大学東京)
タイトル:看護師に学ぶ協働実践の知――現象学と看護学の対話から
本学会において現象学を用いた研究を常にリードされている西村ユミ先生を招いて、近著『看護師たちの現象学:協働実践の現場から』(青土社 2014)のテーマでもある協働実践の知を中心にお話いただいた。
現象学的記述というものが具体的にどういうものであるのか、ありうるのかに関して理論的にはいくつかのスタンスがありうると思われる。西村先生はどのように咀嚼しておられるか。今回の報告の冒頭部分で話された、次の言葉が印象に残った。フィールドワークの実践のなかで、「一人のナースの関心に寄り添い、時間的順序ではなく、ナースが気づいた通りに」記述してゆく、という一言である。現象学的、という表現が適切かどうか分からないが、要諦の一旦が凝縮されていたと感じさせられた。
報告後、参加者25名と盛会ななかでの自由討論となり、ナースの個人的能力、時間体験、フィールドワークの困難さなどをめぐって、活発な意見が交わされた。
第225回定例研究会
日 時:平成26年11月8日(土)13:00~16:00
場 所:大阪市立大学杉本キャンパス(学術情報センター5階 AVホール)
報告者:山田陽子先生(広島国際学院大学)
タイトル:自殺の医療化と労災補償:メンタルヘルスと責任帰属
山田先生はまず、自殺という現象が、労働災害保険において「故意」による行為として保険給付対象外とされ、うつ病という疾患名および「心神喪失」という法的概念を介して例外的にのみ給付が認められていた時代から、自殺の業務起因性を認め「故意の欠如の推定」原則が容認されるにいたる歴史的経緯を丹念に指示するところから議論を始める。そこから、自殺と労災の「リスク化」という社会的動向を踏まえた上で、労災認定状況において、医学的判断、行政判断が錯綜する事態を指摘し、遺族が戦略的な動機の語彙として「医学的語彙」を選択すること、労災認定プロセスにおいて診断書が「医学的根拠」として機能すること、その結果として医療化が再生産される過程が提示される。
上記の提示自体、非常に説得的かつ興味深いものであったが、とりわけ「責任帰属」の箇所で言及された遺族の事例は印象的であった。
報告後、10名程度の参加者による自由討議を行い、事実確認あるいは方法論的問題をめぐって、活発な意見交換がなされた。
第224回定例研究会
日 時:平成26年9月6日(土)14:00~16:00
場 所:首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス会議室A・B
報告者:青木美紀子先生(聖路加国際病院遺伝診療部 看護師・認定遺伝カウンセラー)
タイトル:遺伝カウンセリングの現状と社会との関わり-遺伝性腫瘍-
青木先生からは、聖路加国際病院での遺伝医療に携わる認定遺伝カウンセラーとしての経験も踏まえた報告をいただいた。まず遺伝医療の多様性として遺伝医療に含まれる医療の種類や対象者の多さ、関わる診療科や職種の多さが特徴として示され、次に遺伝性乳がん卵巣がん症候群を中心に遺伝性腫瘍の説明、病院での取り組みが報告された。
最後には検査結果が血縁者を巻き込むものであること、現在は重要性が分からない遺伝情報が、将来的に重大な内容をもたらすことが分かった場合どうするのかといった問題や、近年国内でも誕生した遺伝子検査ビジネス、また予防的手術の保険適用やカウンセリング体制の充実や人材の育成など遺伝医療の社会的側面についても指摘がなされた。
報告後、数名の参加者と講師との間で自由討議が行われ、著名人に関する報道でその存在を知る者は増えたが、報道では伝えられない外国で”previvors”と呼ばれている非発症の保因者の問題が血縁者にも広がる可能性があることなど、遺伝医療の特殊性についての活発な意見交換がなされた。
第223回定例研究会
日時:2013年2月1日(土)13:30~16:30
場所:大阪市立大学梅田キャンパス(駅前第2ビル6階 文化交流センター)
報告者:村上靖彦先生(大阪大学)
タイトル:精神科看護師の語りを通した現象学的研究
村上先生は現象学の視点から看護実践を分析されてきた。当日は、近著の『摘便とお花見』を踏まえながら、現象学的分析の方法論的特質、そして現在進めておられる単科精神病棟の看護師の語りの分析についての報告がなされた。
一見すると意味をなさないかに見える「ノイズ」や「シグナル」を手掛かりに、そこに「モチーフ」(<意味のある>要素)を読み取り、モチーフ間の布置に語り手の意図を超えた構造を見出していくプロセスは刺激的で興味深いものであった。同時に、この分析それ自体が一つの「ナラティブ」を構成しうるものであり、それゆえ語り手への「カウンセリング」効果を持つという印象も抱かされた。
研究会には38名の参加があり、予備の椅子とプリントアウトを用意する必要があったほどの盛会であった。報告後、参加者との質疑応答、自由討議が行われ、方法論的問題に関する質疑、個別のトピックをめぐる解釈等について活発な意見交換がなされた。
第222回定例研究会
日 時:2013年2月22日(土)14:00~16:00
場 所:首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス会議室 A・B
報 告 者:堀田聰子先生(労働政策研究・研究機構:研究員)
タイトル:地域包括ケアの担い手を考える
堀田先生は公共政策科学の視点から、国などが実施する様々な調査研究に関わられており、多くの調査結果を基に以下の7点について報告がなされた。1。介護労働市場と介護労働力需要、2。介護職をめぐる政策の変遷、3。採用・離職と過不足感をめぐって、4。介護職員のストレス軽減と雇用管理、5。人材確保・定着とワーク・ライフ・バランス、6。諸外国におけるケアの担い手をめぐる政策・研究の動向、7。地域包括ケアのまちづくりに向けて。
特に介護職の離職率やその理由は常勤・非常勤、施設・非施設によって異なっていることや、地域社会に開かれた事業所であることが職員の質・量の確保につながる可能性があるといった指摘は、社会学的な視座からも研究の蓄積が求められる内容であった。
報告後10名程度の参加者との質疑応答、自由討議が行われ、対人サービス職間での人材移動を容易にするシステムや、地域包括ケアにおける地域の看護力(機能)を高める方策について意見交換がなされた。
第221回定例研究会
日 時:平成25年10月5日(土)15:30~17:30
場 所:大阪市立大学梅田キャンパス(駅前第2ビル6階 文化交流センター)
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/academics/institution/bunko/index.html
報 告 者:山田富秋先生(松山大学)
タイトル:ライフストーリー研究における理解の達成――薬害HIV感染被害の社会学的調査から
山田先生は、2001年から2010年にかけてなされた「輸入製剤による薬害HIV感染被害調査研究委員会」の研究成果を、著書『フィールドワークのアポリア』に依拠しつつ、ライフストーリーの観点から詳説された。メディアによって構築された単純な加害?被害構造の図式を、ライフストーリーの丹念な解読・文脈化を通して溶解させてゆくプロセスはスリリングで刺激的なものであった。同時に、社会学者という外側に位置するものが、いかにして内部理解にたちいたったか、いたりえたのかを描くことによって、自省を強いられる方法論的な問題提起でもあった。
報告後、10数名程度の参加者による自由討議を行い、事実確認あるいは方法論的問題をめぐって、活発な意見交換がなされた。
第220回定例研究会
日 時:平成25年8月3日(土)14:00~16:00
場 所:首都大学東京荒川キャンパス 1階182教室 (熊野前駅 徒歩3分)
http://www.tmu.ac.jp/university/campus_guide/access.html
#maparakawa
話題提供者:松繁卓哉先生/国立保健医療科学院 主任研究官
指定発言者:浦野慶子先生/帝京大学 専任講師
テ ー マ:日本の保健医療福祉への海外からの関心と日本からの情報発信に向けて
概 要:
2014年にはISA世界社会学会議横浜大会が開催され、世界から多くの社会学者が日本を訪れます。日本の保健医療社会学にとっても、日本の保健医療福祉の状況や保健医療社会学の研究成果を国際的に認知してもらう好機といえます。そこで今回の定例研究会では海外での調査研究等を進めてこられた松繁先生に、ご自身の経験を踏まえて日本の保健医療福祉に対する海外の関心の高さや、日本から世界に発信していくべき知見についての話題提供をしていただきます。また浦野先生には松繁先生の話題提供を受けてのコメントとアメリカ社会学会での保健医療社会学の研究動向についても情報提供をしていただきます。最後には全体でのディスカッションを行いながら、参加者にISA横浜大会への関心を高めてもらいたいと考えます。
(研究活動担当理事・関東:木下康仁、清水準一)
第219回定例研究会
日 時:平成25年3月3日(日)14:00~16:00
場 所:筑波大学東京キャンパス 4階432教室 (茗荷谷駅 徒歩5分)
講 師:田中俊之先生/学習院大学等非常勤講師
テ ー マ:現代日本社会における自殺者数の推移について――男性学の視点から
概 要:
日本では、1998年に年間の自殺者数が3万人を突破する。その後、2003年の34,427人をピークに、2011年まで連続して3万人という数字が続くことになる。男性の自殺者数は、1997年の16,416人から翌1998年には23,013人と急増し、2011年の20,955人にいたるまで14年連続して2万人代であった。人口10万人当たりの自殺者数である自殺死亡率でみれば、過去最悪の数字となった2003年の40.1は、女性の2.77倍に達している。指摘しておかなければならないのは、バブル期の1986年から1990年においても日本では自殺者は2万人を超えていたという事実である。そして、今日ほどではないにせよ、その数にはやはり男女差があった。すなわち、自殺においてはもともと男女差があり、1998年以降に、その差を広げるような要因があったと理解するのが適切である。このように性別によって大きな偏りのある自殺という現象を、男性学の視点から考察する。
(研究活動担当理事・関東:朝倉京子、小澤 温)
第218回定例研究会
日 時:平成25年2月9日(土)13:30~17:30
場 所:関西学院大学大阪梅田キャンパス 1403号室
(阪急「梅田駅」 茶屋町口改札口より北へ徒歩5分)
参照URL:http://www.kwansei.ac.jp/kg_hub/
講 師:藤井ひろみ先生/神戸市看護大学、ほか1名を予定(現在調整中)
司 会:佐藤哲彦(関西学院大学)
タイトル:「患者と保健医療従事者のためのクィア・スタディーズ入門」概 要:
今回の研究会は「患者と保健医療従事者のためのクィア・スタディーズ入門」と題し、クィア・スタディーズと保健医療社会学の接点について検討する。保健医療の現場には人間のセクシュアリティが露わになる場面が少なからずある。そこでまずクィア・スタディーズの基本的概念枠組みについて議論し、そののち、藤井ひろみ先生より「看護における対象理解とクィア・スタディーズ」と題して、具体的な保健医療実践のなかでそれがどう関わっているのかについてお話しいただく。今回は、クィア・スタディーズを通じて保健医療の現場における多様な患者の様々なセクシュアリティに纏わる現象が、どのように解釈可能となるのか、その可能性を共に考えてみたい。
(研究活動担当理事・関西:池田光穂、佐藤哲彦)
第217回定例研究会
・テーマ:「自立と支援の社会学」
・日時:9月16日(日) 13:00~15:00
・場所:筑波大学 東京キャンパス 4階432ゼミ室 (茗荷谷駅 徒歩4分)
・講師:佐藤 恵先生(法政大学・キャリアデザイン学部)
・司会:小澤 温(筑波大学)2012年9月16日に、筑波大学文京キャンパスにおいて、佐藤恵氏(法政大学キャリアデザイン学部准教授)により、「自立と支援の社会学:阪神大震災とボランティア」というテーマで1時間程度の報告がなされ、その後1時間程度の質疑を行った。佐藤氏の報告は、最初に、自らの研究の立場を概括的に述べた後、著書である「自立と支援の社会学:阪神大震災とボランティア」(東信堂、2010年)の内容の説明を中心に行われ、最後に、東日本大震災への示唆に関して資料をもとに説明がなされた。内容は、阪神大震災を契機とした障害者と支援者による「支えあい」の取り組みとそれに関わる第三者(コミュニティ、市民の共感、行政)との関係について、神戸市での現場での聞き取りをもとに、社会学的に考察したことを、著書の章立てにそってポイントを絞った説明がなされた。その後の質疑では、災害時、緊急時の行政をどう考えるのか、東日本大震災でも阪神大震災でみられた課題が再現したこと、などの点について意見交換がなされた。(文責:小澤 温)
(研究活動担当理事・関東:朝倉京子、小澤 温)
第216回定例研究会
・テーマ:「自閉症」の医療化と社会問題化について:医療社会学からのアプローチ
・日時:2012年6月30日(土):13時30分~17時
・場所:大阪大学全学教育推進機構・全学教育総合棟(1)2階:セミナー室1
※会場は大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)がある同じ建物です。
グーグルマップ参照。 http://bit.ly/banpOM
・講師:竹内慶至(金沢大学子どものこころの発達研究センター社会技術部門)
工藤直志(金沢大学人間社会研究域学校教育系研究員)関西地区研究会を2012年6月30日(土)13時30分~17時に大阪大学大学教育実践センター・研究教育棟(1)2階:セミナー室1において開催した。今回のテーマは「『自閉症』の医療化と社会問題化について:医療社会学からのアプローチ」であり、竹内慶至さん(金沢大学子どものこころの発達研究センター社会技術部門・助教)と工藤直志さん(金沢大学人間社会研究域・研究員)に話題提供していただき、その後、会員を交えて討論した。話題提供者であった竹内氏と工藤氏は、金沢大学での「子どものこころ発達研究センター」の諸活動に関わる数少ない医療社会学者として、日々これらの問題に直接関わっておられ、現場からの「生の声」を報告していただいた。ここで医療社会学ならびに保健医療社会学の研究において「自閉症」を考えることは少なくとも次の3点を含めて極めて重要である。
(1)エヤールらの『自閉症のマトリクス』(2010)研究以降、これらを形成する一連「疾患」が、古典的でシンプルな医療化の産物というよりも当事者と家族を含めた支援者グループ、教育政策や福祉政策担当者や製薬業界などが絡む複雑な社会現象の一環として現れてくることを指摘していること。
(2)「自閉症」が「精神遅滞」や「精神疾患」という疾患や障害のカテゴリーに単純に収まるのではなく、緩やかに「健常人」との連続性を持ちながら、脱施設化による行動の自由を含む社会的活動に参与する権利主体としての「浮上」を市民社会は考慮せざるを得ないこと。すなわち理性概念をめぐる近代の人間観の変化を表象する出来事であるということ。
(3)日本や欧米では、pET, MEG, fMRI, NIRSなどの脳の活動をイメージングする機器の発達と認知脳科学研究の進展により「自閉症」の脳科学的な解釈や説明(=言説)が、科学ジャーナリズムを介して市民生活の中に入ってきて、自閉症に介入——一般的には「治療」を意味する——することができるのでないかという「期待」が急速に成長しつつある。それゆえ我が国でも科学技術振興機構(JST)などの政府系機関が大規模な予算をつけた数々の「プロジェクト研究」が進んでいること。すなわち、基礎科学と技術開発と応用的な実践科学としての医療の三すくみの複合体が「自閉症」を取り巻いているということ、である。会場では『社会学評論』63-1で「テーマ別研究動向(医療)」レビュー論文を上梓されたばかりの山中浩司氏などからコメントなども出て、発表者も含めて十数名のこぢんまりとした参加の規模ではあったが、その議論は多岐にわたり活発に展開された。終了後の懇親会の席上では、今回の研究会をより発展させて、本学会での分科会やシンポジウムとして企画提案しようとする構想も沸き上がり午後から夜まで大いに盛り上がった。(文責:池田光穂)(研究活動担当理事・関西:池田光穂、佐藤哲彦)
第215回定例研究会
・テーマ:HIV陽性者の現状について考える
・日時:3月3日(土)14時~17時
・場所:関西学院大学大阪梅田キャンパス
(大阪市北区茶屋町19-19 アローズタワー14階(受付)
阪急梅田駅茶屋町口より徒歩5分)
・講師 :日高 庸晴(宝塚大学・看護学部)
榎本てる子(関西学院大学・神学部)
・司会:佐藤 哲彦(関西学院大学)今回の研究会のテーマは「HIV 陽性者の現状について考える」であり、まず最初に、宝塚大学の日高康晴氏より「ゲイ・バイセクシュアル男性の薬物使用行動に関する研究-全国インターネット調査の結果から-」というタイトルでお話しいただいた。日高氏の講演は、これまでのHIV 感染傾向を踏まえ、性的志向自覚の年齢とセクシュアリティ教育欠如の問題、そのような社会的環境に置かれたゲイ・バイセクシュアル男性の孤独感や薬物使用の状況など多岐にわたり、示されたデータとともにHIV 陽性者の現状を理解するのに非常に重要なものであった。次にHIV 陽性者へのカウンセリングを長年続けていらっしゃる関西学院大学の榎本てる子氏より「HIV 陽性者と薬物使用-カウンセリングの現場からの報告―」と題してお話しいただいた。榎本氏の講演は、行動変容理論を踏まえてカウンセリング事例をそのステージに沿って整理しつつ、HIV 陽性者の感染過程やその悩みなどについて具体的に示したもので、現実のHIV 陽性者を理解するのに非常に重要なものであった。NpO からの出席者や、HIV 陽性者支援のための学生サークルからの出席者などもあり、時間も延長して活発な議論が行われた。
第214回定例研究会(関東)
・テーマ:「生命倫理学の挑戦:『自己決定』概念の再構築」
・日時:平成24年3月11日(日)14:00~16:00
・場所:筑波大学・文京キャンパス2階 講義室8 (丸の内線 茗荷谷駅 徒歩5分)
・講師:根村直美(日本大学経済学部教授)
・司会:朝倉京子(東北大学)根村氏からは、かつて生命倫理学においてキー概念であったが、現在はその位置から転落しつつある「自己決定」概念を、フェミニスト哲学者のマリリン・フリードマンの議論を手がかりに再構築する独自の試みが紹介された。報告をめぐっては、欧米と日本での自己決定をめぐる相違やコンテクストの重要性、自己決定を超越する共同決定の可能性、合意の形成、などについて活発にフロアとの意見交換がなされた。
第213回定例研究会
・日時:2011年10月1日(土)13時~17時
・場所:大阪大学豊中キャンパス
・講師:西村ユミ(大阪大学)
蘭由岐子(神戸市看護大学)
池田光穂(大阪大学)
・テーマ:調査の経験についての語りを伝える ――質的調査の過去・現在・未来――2011年10月1日午後1時から、日本保健医療社会学会・関西支部例会が大阪大学・豊中キャンパス「スチューデントコモンズ」で開催された。研究会のテーマは「調査の経験についての語りを伝える:質的調査の過去・現在・未来」というのもので、西村ユミ(大阪大学)「急性期病棟におけるフィールドワークの経験から」、蘭由岐子(神戸市看護大学)「ハンセン病問題と『薬害HIV』問題に関する調査の経験から」、池田光穂(大阪大学)「海外での文化人類学のフィールドワーク調査の経験から」の3名が、それぞれのフィールドワークの実際の経験、その後に作成されたモノグラフに書かれたこと/書かれなかったこと、フィールド経験の表象としてのモノグラフの意義などについて話題提供した後、およそ40名の参加者を交えて総合討論した。全体で4時間以上にわたる発表と討論であったが、フロアからの質疑応答や、コメントシートを使った、保健医療社会学の基本的問題構成のみならず、看護における質的研究教育の現実や、現場実践を質的方法によって表現する方法の可能性など活発な議論が展開された。
第212回定例研究会
・日時:2011年9月24日(土)14時~16時
・場所:筑波大学東京キャンパス 208教室
・講師:原山 哲(東洋大学・社会学部)
・テーマ:ケア組織の国際比較-パリと東京2011年9月24日に、筑波大学文京キャンパスにおいて、原山哲氏(東洋大学社会学部教授)により、「ケア組織の国際比較-パリと東京」というテーマで1時間程度の報告がなされ、その後1時間程度の質疑を行った。原山氏の報告は、看護職の専門性に関する日仏比較調査研究(1988年調査と2008年調査)の結果を中心に、看護労働の実態、業務の違いなどについて20年間の変化を中心に調査データをもとに解説した。後半の意見交換では、開業看護師の多いフランスにおける「看護師の固有の役割」の意味、近年フランスにおいて重視されているpOLE(複数の病棟をまとめて看護師のセクタリズムを超える試み)導入の課題について質疑と意見交換を行った。
第211回定例研究会
・日時:2011年3月19日(土)13:30~
・場所:龍谷大学大阪梅田キャンパス
・講師:栗岡幹英氏(奈良女子大学)
油井清光氏(神戸大学・日本学術振興会・学術システム研究センター専門研究員)
田島明子氏(吉備国際大学)
・テーマ:研究費申請支援のために第211回定例研究会(関西)を、3月19日(土)14:00~、TKp大阪梅田ビジネスセンターにおいて、諸事情から会場と時間を急遽変更し開催しました。「研究費申請と獲得の実際-仕組みと実例-」をテーマとし、科研費と民間研究費の両方に目配りしつつ、「研究費と学会との関係」や「研究費と研究者のキャリア戦略との関係」にいたる発展的な議論を行いました。司会は、樫田美雄(徳島大学)。
まず、前半で、科研費審査の仕組みと実際について、栗岡幹英氏(奈良女子大学)、・油井清光氏(神戸大学・日本学術振興会)に講演を頂きました。ついで、後半で、作業療法ジャーナル研究助成第2回受賞者の田島明子氏(吉備国際大学)に、獲得までの経緯と獲得後の推移を講演して頂きました。
科研費については、過去の慣習や、理系に関する情報があたかも現在も通用している科研費一般に関する情報であるかのように流通している事実があり、そのいくつかが現在的・文系的に修正されました。例えば、「少なくとも社会学では、科研費獲得において、欧文論文の執筆歴が必須ということはない」、「第1次審査の審査員構成はほぼ半舷上陸方式で入れ替わる」、「3年続けて応募すれば獲得できるというのは、都市伝説」、「費目内の複数の第一次審査チームへの各応募課題の割り振りは、キーワードによってなされている」などの重要な情報開示が行われました。その結果「無理をして欧文論文のある分担研究者を迎える必要はないだろう」、「キーワードとする文言は、よく吟味しなければならない」等が実践可能と推論されました。
民間研究費に関しては、支援金額そのものの研究促進効果だけでなく、受賞で意欲がわくことや、資金提供団体等とつながりができることによる効果(田島氏は、この研究資金関係のつながりから単著出版に至った)も語られました。また、総括討論では、田島氏が専攻する「作業療法史」のような分野は、「作業療法」でやっと一つの審査グループを成しているに過ぎず、文系的な企画を適正に評価する科研費審査の枠組みはいまだ成立していないということなども話し合われました。
第210回定例研究会
・日時:2011年3月5日(土)13:30~16:30
・場所:法政大学市ヶ谷キャンパス80年館7F大会議室1。
(図書館と同じ建物ですが、入り口は別です)
・講師:川口有美子(さくら会)
・司会:三井さよ(法政大学)第210回定例研究会は、3月5日(土)13:30~法政大学市ヶ谷キャンパス80年館7F大会議室1にて、川口有美子さん(さくら会)から「『ただそこにいる』という関係」と題して報告がありました。報告では、川口さんの著者『逝かない身体―ALS的日常を生きる』(医学書院)に基づいて、そこには書ききれなかった経緯や思いなどを話していただきました。討論では、他の国々でのALS患者を取り巻く状況や障害者運動とのかかわりについて質問が出て、ALS患者が「病人」と扱われるか「障害者」と扱われるかという点で大きな違いが出てくることなど、川口さんから国際的な視点から捉えたお話を伺いました。また、入院に際して、医療体系と福祉体系の齟齬についての議論も出されました。さらに、人工呼吸器の装着を「選択」とさせ、「選好」とならない社会のあり方が何に起因するのかなど、議論が深まりました。
参加者は8名と少なめだったのですが、その分密度の高い議論となりました。司会は三井さよ(法政大学)。
第209回定例研究会
・日時:2010年12月11日(土)15:30~18:00
・場所:首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス会議室A
・講師:栗盛須雅子氏(茨城キリスト教大学)
・司会:三井さよ(法政大学)第209回定例研究会では、栗盛須雅子氏(茨城キリスト教大学)から「自治体別にみた健康寿命(余命)の現状」と題してご報告いただいた。出席者は9名。栗盛さんからは、介護保険認定を利用して新たに開発した指標である、障害調整健康余命(DALE)や加重障害保有割合(WDp)について解説していただき、さらにそれらの指標を活用した実践例として、神奈川県南足柄市や茨城県での取り組みについてご紹介いただいた。DALEやWDpをはじめとして、多様な指標を用いての「健康」の現状の分析や取り組みの可能性について示された。フロアからは、効用値に関する質問や、茨城県で栗盛さんと共同研究をしている職員の意見も出され、議論がなされた。
第208回定例研究会
・日時:2010年9月25日(土)13:30~16:30
・場所:首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス
・講師:猪飼周平(一橋大学)
・司会:三井さよ(法政大学)第208回定例研究会(関東)は、9月25日(土)に首都大学東京秋葉原サテライトキャンパスにて、猪飼周平さん(一橋大学)から、「地域包括ケアシステムの社会理論へ向けて」と題してご報告いただいた。コメンテイターは稲葉振一郎さん(明治学院大学)、司会は三井さよ(法政大学)。参加者は30名。
猪飼さんから、2010年3月に上梓された『病院の世紀の理論』(有斐閣)の議論を土台として、20世紀の病院を中心とした医療システムに課せられた課題から論理的に解きほぐし、医療システムが三つの類型に分けられること、それぞれが持つ必然性や帰結について論じられた。日本の20世紀医療システムを安易な特殊論ではなく、より総合的に捉える視角が提供された。また、現在医療システムに生じている転換期の内実と、新たな医療システムを探る試論が展開された。稲葉さんのコメントでは、猪飼さんの議論が川上武の議論が持つ潜在的な力を読みとり医療史を描きなおすものであり、日本のプロフェッション論としても優れた意義を持つものであることが示された上で、現在生じている転換について、その断絶と連続性をどのように考えるか、それは社会における医療の持つ機能そのものを問いかえすことにもつながるのではないか、という問題提起がなされた。フロアからは、主に医療従事者として働く人たちから、現在の転換をどのように捉えたらいいのかという質問がいくつか出された。総じて、今後の保健医療社会学が何を課題とすべきか、多くの示唆を与えられた。
第207回定例研究会
・日時:2010年9月18日(土)13:30~17:30
・場所:龍谷大学大阪梅田キャンパス研修室
・講師:樫田美雄氏(徳島大学・大学院)、木下衆氏(京都大学大学院)、有吉玲子氏(立命館大学大学院)
・司会:伊藤美樹子(大阪大学)
第207回定例研究会(関西)を、9月18日(土)に龍谷大学大阪梅田キャンパスにて開催いたしました。今回は、テーマを「論文投稿支援のために―論文審査の実際と査読コメントの読み方:論文投稿から掲載まで―」と定め、事前配付資料のある新機軸の研究会でしたが、全国から39名の参会者がありました。司会は、伊藤美樹子氏(大阪大学)。
まず、第1部で、論文審査の実際について、樫田美雄氏(徳島大学・大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部)より、「論文投稿のすすめ―投稿誌の選定から査読対応まで」、天田城介氏(立命館大学・大学院先端総合学術研究科)より、「歴史と体制を理解して書く―社会学の学会研究体制の歴史と現在」と題した講演がありました。続いて第2部で、査読コメントの読み方実習について、木下衆氏(京都大学大学院)による発題その1(論文+コメント+リプライ)と、有吉玲子氏(立命館大学大学院)による発題その2(私の査読雑誌投稿物語)がありました。
議論では、「投稿者側」と「編集委員会・査読者側」とのコミュニケーションはもっと盛んになった方がよいという意見があり、一方で、実務側から、その要望に応えることが現在の編集体制では難しいという意見がありました。また、第2部の演者から、論文をよくするための環境作り(多様な助言者の確保・口頭発表の場の確保等)は、自分自身で行うべきであるという意見や、締め切りや学術性の程度などの異なる多様な雑誌があることを活用した投稿戦略についてよく考えるべきだという意見が出されました。
終了後、「査読割れの処理法がわかって興味深かった」「どんな感じで査読が進行しているのか、審査の原理がわかって納得した」などの感想が聞かれました。
第206回定例研究会
・日時:2010年3月27日(土)13:30~
・場所:首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス
・講師:松岡智恵子氏(首都大学東京大学院)
・司会:三井さよ(法政大学)
第206回定例研究会(関東)は、3月27日(土)13:30~首都大学東京秋葉原サテライトキャンパスにおいて行われました。松岡智恵子さん(首都大学東京大学院)から「介護施設内の高齢者虐待防止にむけた第三者機関活用に関する研究――国保連合会「苦情処理業務」の取組から――」と題して報告がありました。補足として、八王子市で介護相談員を務める菅原まり子さんからも、虐待防止の取組について紹介がありました。司会は三井さよ(法政大学)。参加者は12名。
松岡さんからの報告は、高齢者虐待防止の現状を踏まえたうえで、介護施設内での虐待防止に取り組む上で重要な手掛かりの一つとして、国保連の「苦情相談」が虐待相談でもあることに着目したものでした。それを具体的な対策につなげられるために、「苦情相談」が匿名ではなくなるような信頼関係を、苦情処理担当職員が相談者との間に育めるようなプログラムを作り、実際に匿名の訴えを正式な苦情申立につなげていった取組について紹介がありました。
フロアからは、虐待の防止が有機的につながることの重要性などが提起され、また虐待防止を考えるなら医療・福祉のより構造的な問題に取り組まなければならないという議論にもなりました。さまざまな背景を持つ研究者が集まり、それぞれの立場から高齢者虐待という大きな問題への取組をともに考える場となりました。
第205回定例研究会
・日時:2010年3月6日
・場所:龍谷大学大阪梅田キャンパス
・講師:霜田求氏(大阪大学) 杉浦圭子氏(大阪大学)
第205回定例研究会(関西)を龍谷大学大阪梅田キャンパスにて開催しました。今回は、霜田求氏(大阪大学)に「脳と行動-ニューロサイエンスの倫理から-」、杉浦圭子氏(大阪大学)に「日本の介護者の性差-東大阪市の介護保険サービス利用者縦断調査の結果から-」という演題でお話し頂きました。討論では、霜田氏に対しては「脳科学の主張を疑似問題を前提としたものであると主張するのなら、もはやその非科学性を告発する必要はないのではないか?」という問いや「ロンブローゾの頃の議論に似ているのではないか」という問い等が出されました。杉浦氏には「なぜ東大阪で縦断調査するのか?」「疑似相関を見落としている面はないのか?精神状態にはそもそも男女差があるのではないか」等の問いが出されました。コーヒーブレークも含め、和気藹々とした雰囲気で有意義な意見交換ができました(参加者14名)。
第204回定例研究会
・日時:12月19日(土)13:30~
・場所:首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス会議室C
・講師:戸ヶ里泰典氏(山口大学)
・司会:星旦二(首都大学東京) 三井さよ(法政大学)
第204回定例研究会(関東)は、12月19日(土)13:30~首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス会議室Cにて、戸ヶ里泰典氏(山口大学)から、「Sense of Coherenceと社会研究」と題してご報告いただきました。司会は星旦二(首都大学東京)、三井さよ(法政大学)。参加者は21名。 SOC論の背景となっている健康生成論から解きほぐし、特にSOC形成・規定要因に関して、従来の仮説や実証研究について、さらには戸ヶ里さん自身の仮説とその検討について、詳しくご紹介いただきました。
フロアとの間では、SOC概念が支援論にとってもつ意義や潜在的可能性について、多く論点が出されました。また、ポジティブ心理学との関連、SOC形成・規定要因に関するとらえ方などについても議論となり、さまざまな論点にかかわる活発な議論がなされました。
第203回定例研究会
・日時:10月3日
・場所:神戸学生青年センター
・講師:井口高志氏(信州大学医学部保健学科) 山中京子氏(大阪府立大学人間社会学部社会福祉学科)
・司会:樫田美雄(徳島大学)
・コメンテイター:栗岡幹英氏(奈良女子大学)第203回定例研究会(関西)を神戸学生青年センターにて開催しました。今回は「倫理的観点から見直す医療と福祉の社会学」と題して、井口高志氏 (信州大学医学部保健学科)「研究倫理と向かい合うことから社会学研究を問い直す-認知症ケアに関する調査経験から-」と山中京子氏(大阪府立大学人間社会学部社会福祉学科)「個人情報の保護をどのように実現するのか -HIV 感染者への面接調査経験を踏まえて-」のお二人に登壇いただき、コメンテーターには栗岡幹英氏(奈良女子大学)を迎えました。司会は樫田美雄(徳島大学)。全体討論では、研究者の倫理と手続き・装置としての倫理委員会問題を切り口に、被験者の権利を守るための個人情報の保護と研究としての研究手続きの妥当性・検証可能性の保障との兼ね合いや、被験者の権利を守るという約束とその対象に対する研究者としての批判的な態度との兼ね合い等、調査者と被調査者の関係について意見交換がなされました。また医療系のみならず、社会福祉領域においても学会や研究機関・大学での倫理規定や倫理委員会の設置が進んでいる趨勢について報告され、当学会においてもそうした倫理規定や倫理綱領の必要性や策定を検討する時期ではないかとの議論がなされました(参加者18名)。
第202回定例研究会
・日時:9月12日(土)13:30~
・場所:キャンパスイノベーションセンター田町の多目的室4
・講師:浮ヶ谷幸代さん(相模女子大学)
・司会:三井さよ(法政大学)
・コメンテイター:鷹田佳典(法政大学)相模女子大の浮ヶ谷幸代氏に「『開かれた専門性』に向けて:北海道浦河町精神保健福祉の取り組みから」と題して報告していただいた。北海道浦河町赤十字病院精神病棟の看護実践と、精神保健の多職種連携の取り組みに関するフィールドワークから、ケアのなされる「場」に注目し、その「場」によって生まれる/を生み出すローカルな専門性を汲みとろうとする報告であった。フロアからは多くの質問が出て、専門性や場などの定義に関してや、場を変えたときにどのような実践へと変化するのか、文化という視点がどう生きるのか、などが議論となった。会場の制限時間ぎりぎりまで議論が続くなど、活気ある会となった。
看護・ケア研究部会 研究活動報告
2023
2023年度 公開定例研究会
(第2回関東定例研究会と共催)
共催:看護・ケア研究部会公開企画
日時:2024年3月23日(土)14:00~17:00
場所:日本赤十字看護大学 大宮キャンパス 本館201講義室
報告者:宮坂道夫(新潟大学)
タイトル:弱さを抱きしめて ~あなたと私の正義論~
討論者:西尾美里(梟文庫世話人)、櫛原克哉(東京通信大学)要旨:
看護・ケア研究部会公開例会と研究活動委員会との共催にて、2023年度第2回(第50回大会連動企画)を2024年3月23日に日本赤十字看護大学大宮キャンパスで開催しました。対面・オンライン合わせて37名の参加者がありました。第50回大会のテーマは「『弱い』ままで生きられる社会のために」です。そこで、『弱さの倫理学――不完全な存在である私たちについて』(2023,医学書院)を出版された新潟大学の宮坂道夫氏を迎え、「弱さを抱きしめて―あなたと私の正義論」というテーマでお話いただきました。宮坂氏は倫理について、先行する思想家の概念ではなく、「弱い存在を前にした人間が、自らの振る舞いについて考えるもの」という考えを軸に多様な角度から私たちの「弱さ」についてお話されました。問題提起として、従来のケア論・正義論への批判として、一般的なケアにおける二者関係ではケアの責任が双務的であるのに対し、医療におけるケアでは医療者が片務的に責任を負う構造が指摘されました。本来的には二者のケア関係は双方向的で対等であるべきで、対等性を求めることが二者関係の正義論の核心なのではないかと問いが投げかけられました。
指定討論者のお一人目は、私設図書館「梟文庫」を開設運営されている西尾美里氏にご登壇いただきました。西尾氏からは、現代の教育の枠組みで見逃されがちな子ども特有の弱さについて指摘がなされました。特に学校という制度や環境が、「多様な育ちが前提になっていない」「個ではなく集団が優先される」「子どもの権利の軽視」という問題をはらんでおり、子どもには対話のテーブルが用意されていないこと等の問題提起がなされました。そして、教育が弱いまま生きられる社会を創造すること、私たち大人が未来のパートナーとしての子ども・教育をどのようにとらえ、今何をすべきか問われていると指摘がなされました。
指定討論者のお二人目は、精神医療をフィールドに長年社会学者として研究されている東京通信大学の櫛原克哉氏にご登壇いただきました。櫛原氏からは、精神医療における非自発的入院の研究から、医療と保護という点から医療倫理について論じられました。医療と保護にはグレーゾーンがあり、「弱い人たち」の「保護」をめぐる問題では既存の倫理概念との軋轢が生じる場面・制度や、倫理を考えるうえでどの二者関係を想定するかが重要であるという指摘がなされました。
その後、宮坂氏からのリプライとして、西尾氏には子ども・教育領域については一方的なケアを与える片務的な状況が起きやすいことに対する賛同が述べられました。その状況を変えるためには、個人と社会の両方の視点を往復しながら考えることの重要性も述べられました。櫛原氏には、二者間で弱い―強いが問われる倫理と、より望ましい社会のあり方を考えるときに問われる倫理の両方を考えていく必要があること、後者の方が複雑で難しさを孕んでいることが述べられました。制度化を考える際には功利主義的な発想になりがちであるが、二者間の視点を欠いてはいけないことも確認されました。
最後に、全体討論として倫理学にとって法とはどのようは存在なのかや、対等性をどうとらえていくのか、そして制度化することによって生じる新たなねじれがあることなどが話題として挙がり、議論が深められました。
第3回定例研究会
日時:2023年12月17日(土)14:00~17:00
場所:オンライン(Zoom)
報告:「高度急性期病院の看護管理者が認識する医師から看護師へのタスク・シフトによ る看護業務の変化」(樋口佳耶さん、神戸市看護大学)概要:
本研究は、高度急性期病院において、医師から看護師へのタスク・シフトが進められる中で、看護業務がどのように変化したと看護管理者が認識しているかを明らかにすることを目的として行なったものである。参加者の方からは、研究参加者の特徴がどれくらいデータに影響しているかという視点からの検討、本研究で明らかになったことと従来から指摘されている論点との相違点を明示する必要性など、数多くの貴重な指摘や助言をいただいた。今回発表の機会をいただいたことで、タスク・シフトを推進する政策が進められる背景、実際の現場でタスク・シフトが行なわれるプロセス、およびタスク・シフトがなされた結果、期待した効果が得られたのか否かといったことも踏まえ、研究を進めていく必要性が再確認できた。
第2回定例研究会
日時:2023年9月16日(土)14:00~17:00
場所:オンライン(Zoom)
報告:「『弱い』まま生きられる社会とは?」(吉田澄恵さん、東京医療保健大学)概要:
50回大会のメインテーマとした「『弱い』ままで生きられる社会のために」の大会長講演の準備段階のものとして、「『弱い』ままで生きられる社会とは?-思考の断片ー」と題し、まず、「弱い」まま生きる人とはどんな人なのかについて、よくみられる少数者、高齢者、子ども、女性/男性、被災者、犯罪被害者等々のカテゴリー化してしまわないで考えていることを示した。また、「弱い」まま<生きる>ということについて、いくつかの例を挙げ、他者から「弱い」と明らかにわかることもまた、<生きる>ための手段ともなっている場合があることを指摘し、一方で、社会現象の中で「弱い」ということが生まれているがゆえに、「弱い」ということは、<生きる>ことの困難を抱えている状況と捉えられるとした。そのうえで、「弱い」まま生きるために必要な「ケア・支援(看護・介護・介助・医療等々)」を担う側に求められる「弱さ」と「強さ」があるとし、「弱い」まま生きられる社会のために、看護学教育・研究者として考えていることと、社会学に期待していることを述べた。参加者からの論点提示があり、活発な意見交換を経て、現時点では、「弱い」ということが社会の変化の中で変容していることを明確に意識化したうえで、「弱い」まま生きられる社会をつくるために、目の前の『弱い』まま生きる人へのケアを続けられるような社会を一つひとつ構築していくことで、政策のような「社会的方策」として、ひとが、『弱い』まま生きられる社会を創造していくことにつなげていきたいと考えていることをクリアにすることができた。本日の論点を深め、大会長講演に備えていきたい。
第1回定例研究会
日時:2023年7月1日(土)14:00~17:00
場所:オンライン(Zoom)
報告:「sufferingとcommunityの関係について―compassionate communitiesのアイディアを手掛かりに」(鷹田佳典さん、日本赤十字看護大学)概要:
本報告では、報告者が別々の関心を寄せてきた<suffering>と<community>というテーマについて、死にゆくことやパブリックヘルスを専門にする社会学者のA・Kellehearによって2000年代初頭に提唱された<compassionate communities(comcom)>というアイディアを手掛かりに、その関係について検討した。<compassion>はしばしば「共感」と訳されることが多いが、そこには「苦しみを共にする」という意味合いが含まれており(共感共苦)、このことからも<comcom>が<suffering>と<community>とを結びつけるアイディアであることが示唆される。参加者からは、<comcom>をめぐる理念と実践の関係や<comcom>における専門家の役割について示唆に富むコメントが提起された。
2022
第3回定例研究会
日時:2023年3月11日 土曜日 14:00~17:00
場所:オンライン(Zoom)
報告:「SVを行っている緩和ケア病棟のソーシャルワーカーの実践―緩和ケア病棟における『パラレルチャート』的実践による病棟文化・スタッフ文化の『変容』」(田代順さん、ナラティヴアプローチ研究室)
概要:
緩和ケア病棟に「強力」に通底する「役割意識」。それは患者‐医療スタッフ双方を縛り合うものとして「機能」してきた( ex.パーマをかけたいという患者に対し、「死にゆく」患者がパーマをかけるなんて等)。当初、患者担当のソーシャルワーカーが連絡用においたノートが、カフェの「雑記帳」のようにも機能して、そこに医師、看護などの医療スタッフ(だけでなく)、病棟外の「関係者」も、患者や自分の「役割」についての主観的思いや感情を記述するようになった。その個人の思いに他者がまた加筆して、いわば多筆化という「記述的多声化」が生起した。それによって、「外からの(記述的)声」も含め、役割意識からくる専門的「単声」(のみ)で、互いを規定しあい、縛り合う様相が大きく緩和された。以上が展開した「緩和ケア病棟」の、病棟文化の変容を伴う諸相を事例として報告した。
2022年度 公開定例研究会
(第1回関東定例研究会と共催)
今年度の公開定例研究会を研究活動委員会との共催で2022年12月27日(火)(14 時~17 時)にZoom を用いたオンライン形式で開催しました。今回は、2023年5月27日(土)・28日(日)に東京都立大学で行われる第49回大会を盛り上げるべく、大会連動企画として実施しました。84名の参加者がありました。
第49回の大会テーマは「実践の場をひらく―研究の可能性の再発見」です。そこで、さまざまな実践の場に赴き継続的な研究を行ってこられた大阪大学の村上靖彦さんにご登壇いただき、「自閉症・看護・子ども子育て支援―現場でのフィールドワーク」と題してご講演いただきました。村上さんからは、自閉症や看護に関する現象学研究のフィールドワークについてお話しいただき、これらを通して得られた視点として、人々の個別の経験の中に他の人たちにとっても意味を持つ内容があること、一人称から見た世界の構造、構造はディテールを尊重することで取り出すことが出来るなど、たいへん示唆に富む解説・問題提起をいただきました。また、子育て支援の現場でのフィールドワークのご紹介と、そこから導き出された現象学的な倫理学とは何か、という問いについてお話しいただきました。
続いて、1人目の指定討論者として東京大学大学院の三枝七都子さんにお話しいただきました。三枝さんからは、ご自身がフィールドとしている「富山型」のデイサービスにおけるケアとの対比の視点から村上さんのお話をレビューしていただきました。そうした中で、フィールドのアクター間で主張が対立することはないのかといった問いも投げかけられました。
2人目の指定討論者、東京大学医科学研究所の木矢幸孝さんからは、フィールドワークにおいて「研究協力者から学ぶ」という点に着目して村上さんのお話から得た示唆などが述べられました。また、調査という営みのダイナミックさを改めて評価する視点が提示され、村上さんのお話を理解する上でのキーワードとして「普遍とは」「構造とは」「代弁する営み」といった点について、村上さんへの問いかけがありました。
その後、お二人の指定討論を受けて、村上さんからのリプライがありました。「アクター間の主張の対立」については、それぞれの見方は異なるもので、ポリリズムの視点の重要性が述べられました。「協力者から学ぶ」という点については、どれだけ学ぶことが出来るかで仕事/研究のクオリティが決まるという点が示されました。
最後に、参加者も交えた全体討論が行われました。この中では、「個別」から「真理」に達する「回路」についての関心が示され、また、これに対して村上さんからは、客観性に基づく学問の在り方とは違ったような、「真理」にたどり着く学問の在り方があるというお話もあり、非常に有意義な意見交換の場となりました。
第2回定例研究会
看護・ケア研究部会 11月定例会報告
日時:2022年9月17日(土)14:00~17:00
場所:オンライン(Zoom)
第1報告:「外傷により脊髄を損傷した人の経験」(村上優子、東京都立大学)
概要:
論文投稿につなげていくための課題について、さまざまな視点から議論することができた。投稿先の選定、データの特徴を反映させたタイトルや目的を意識すること、自身の研究の立ち位置をどのように記述していくと伝わりやすくなるのか、データの価値が伝わるような記述や考察の展開について、等々、今後の論文投稿に向けて貴重な示唆をいただいた。
また、論文投稿だけでなく、研究成果の公表の方法は多様であることについても気づかせていただくことができ、研究成果の公表の可能性がひらけたと感じた。
第1回定例研究会
日時:2022年7月15日(土)14:00~16:00
場所:オンライン(Zoom)
第1報告:「吃音とパニック障害を抱え生きる経験からの一考察――病と自己の境界線」(坂井志織:淑徳大学、小林道太郎:大阪医科薬科大学)
概要:
吃音とパニック障害を抱え生きる当事者の語りから,長く病むことにおいて疾患をどのようなものとして経験し,どのように捉えているのかを記述的に明らかにすることを目的とした研究を報告した。個別性の高い経験でありながら、そこから見えてきた病い経験の本質的なものを、どのように一事例で示していけるのか査読過程を経て悩んでいることを検討課題とし、議論を実施した。議論を経て、自分と病気の関係を考えるにあたり既存の健康―病気という軸ではない経験が語られており、現象学的研究で探求する意義をよりクリアに述べること、社会学で為された吃音の当事者による研究を参照すること、健康であるとも病であるとも言い難い狭間の経験であることなどを論述していく方向性が見えてきた。
2021
第3回定例研究会
看護・ケア研究部会 3月定例会報告(第4回研究活動委員会との共催)
日時:2022年3月26日(土) 14:00~17:00
場所:Zoomによるオンライン開催(参加登録後URLをお知らせします)
報告者:八木絵香(大阪大学COデザインセンター)
指定討論者:松繁卓哉(国立保健医療科学院)
2022年3月26日(土)14時から17時 まで、Zoomを用いたオンライン開催にて、研究活動委員会との共催で定例研究会を開催しました。八木絵香さん(大阪大学COデザインセンター)に「専門家と市民とのコミュニケーション」と題する報告を行っていただきました。コメンテーターは松繁卓哉さん(国立保健医療科学院)でした。参加者は48名でした。
はじめに、大阪大学COデザインセンターの八木絵香さんから、「長期化するパンデミック禍における専門家と市民のコミュニケーション」と題してご講演をいただきました。
まず、東日本大震災で起きた福島第一原子力発電所の事故を例に、専門家と政治家の間で問題やそれに対する対策についてどのような見え方のズレやギャップがあるのかや、そうしたものが生じる背景が説明されました。続いて、イギリスで起きたBSE騒動をめぐる経緯やその後の政府・専門家の対応が紹介され、ある事象(BSE、新型コロナ、ワクチン接種等)について科学者がどこまで、どのように発言すべきかという問題や、科学的知見を政策決定の中でどのように位置づけるかという問題が提示されました。最後に、科学技術コミュニケーションの変遷を辿りながら、八木さんがこれまで行ってきた対話をデザインする取り組みの具体例や、ミニ・パブリックの実践などを紹介いただきました。
八木さんの講演を受けて、国立保健医療科学院の松繁卓哉さんから指定討論をいただきました。医療社会学が専門で、知識や情報の受け手に着目する松繁さんは、保健・医療の分野においても、専門家と素人との間の見え方のギャップがあることや、独特の言い回しをめぐるコミュニケーションの難しさがあることにふれつつ、現代社会において問題解決志向が強まるなか、性急に解決を求めない対話はいかにして可能か、という問いを提示されました。
その後、参加者を交えて、活発な意見交換が行われました。公衆衛生の領域では、ひとびとを、対話の場面で想定されているような自立的「市民」としてではなく、予防や保護の対象である「住民」と位置づける視点があるのではないかといった意見や、パンデミック禍における学生との関わりのなかで、「上から」一律に行動の基準を定めることにより、学生の主体性が育たないもどかしさを感じるといった意見が出されました。また、日本社会のなかに「決めてほしい病」やコスパ感覚が広がり、それが対話を難しくしているのではないかといった意見もありました。八木さんや参加者からは、事故を起こした企業と被害者と間で重ねられた対話や、地方自治体での非問題解決型の支援など、比較的うまくいった事例も紹介され、with/afterコロナ時代における専門家と市民のコミュニケーションのあり方をめぐって大変有意義な対話の場になりました。
第2回定例研究会
看護・ケア研究部会 11月定例会報告
日時:11 月20 日(土)14:00~17:00
場所:オンライン(Zoom)
第1 報告:第一報告「『日本的ジョブ型雇用 』 として捉える 看護師の労働意識--『 転職口コミサイト 』 を通じた離職・労使コミュニケーションの再検討-」(鹿島謙輔、放送大学大学院)
概要:
本報告は修士論文として作成中のものであったが、「学問水準に近づける」ため忌憚のないご意見をいただきたく発表を行った。
課題設定として「看護師の離職・労働意識」に関する看護学・経済学・経営学・社会学の先行研究から、「離職を促す臨床外的視点」「病院という職場を個別的に観察する視点」「労使関係的な視点」からの分析が少ないことに着目し、「ジョブ型雇用」概念の視点から「転職口コミサイト」を対象に分析することを試みた。「臨床外的な視点」として、看護師の職務意識、多様な就業場所、人材紹介会社、看護師のキャリア志向、を整理し、「病院の個別的観点」「労使関係」を「転職口コミサイト」から実証的に分析資源を抽出した。
結論的な分析に至らない報告となり大変ご迷惑かけたが、テーマである「ジョブ型雇用」の視点からの分析と報告内容に連関性をもたらすことができず、また分析対象の実証性にも疑念が呈され「ルポルタージュ」の域を出ないことをご指摘いただいた。ご指摘から軌道修正を行うとともに、12 月に提出する修士論文の執筆に励みとなるお言葉もいただき大変感謝しております。
第2 報告:「付き合い続ける実践――障害児者家族に対する富山型デイサービスふらっとの試み」 (三枝七都子、東京大学大学院)
概要:
今回は、2017 年から現在までフィールドワークを続けている「富山型デイサービスふらっと」で見られた障害児者家族との関係のあり方について報告させていただきました。
職員側の実践とその認識について着目していた(興味がある)にもかかわらず、母親(利用者家族)の語りを中心に分析してしまっていたことや、分析方法の記載が曖昧であるといったご指摘をいただき、多くの改善点に気づくことができました。
また、富山型デイサービスで見られる実践が、他(福祉領域で言われている伴走型支援など)とどのように違うのか/共通するのかといった考察視点についても助言いただきました。
後は、いただいたコメントを踏まえ再考し、投稿論文としてまとめていきたいと思います。
第1回定例研究会
看護・ケア研究部会 7月定例会報告
日時:7月17日(土)14:00~17:00
場所:オンライン開催(Zoom)
報告:「通常学校で活動する看護師の効果と課題―通常学級の担任のインタビューを分析して―」(荻野貴美子さん:星槎大学)
概要:今回発表した研究の資料は、中学校で活動する当事者の看護師の実践について、その効果と課題を見出すことを目的として教員へインタビューして分析した内容を、雑駁にまとめたものである。参加者の方から、看護師の当事者研究であるならば、看護師と生徒、保護者、教員、養護教諭、校長など周囲の関係性の明確化、教員の言葉と看護師の現実の対比、障害学や社会福祉学から生徒の自立について分析することもこの研究の意味に繋がってくるのではないかとご意見をいただいた。また、参考文献、誤字・脱字等も配慮するようご意見をいただいた。今後は、インタビュー内容と共に、学校におけるフィールド全体の展開図と小児看護学、障害学、社会福祉学もふまえ、当事者研究の強みを活かすべく考察を深めたい。
2020
第3回定例研究会
看護・ケア研究部会 3月定例会報告要旨
日時:3月13日(土)14:00~17:00
場所:オンライン(Zoom)
「糖尿病手帳をつける経験の現象学的研究―手帳の存在論的検討の試み」
(細野知子さん:日本赤十字看護大学)
糖尿病手帳をつける経験を、手帳をつける時に生じるつぶやきの記録とともに明らかにした内容を報告した。質疑応答を通じて、認識論/存在論という用語を持ち込むことで本研究の目的が見えづらくなること、糖尿病医療に向かう本研究の立ち位置を明確にすることなどの課題が見えてきた。活発な議論により、糖尿病手帳をつける主体と手帳との関係、数値を記録するという経験の特徴、糖尿病手帳を媒介した相互行為など、多様な経験をまとめていく方向性に有意義な示唆が得られた。さらに、保健医療社会学領域への論文投稿、本知見が可能な糖尿病ケアへの貢献についても貴重な示唆を得た。
第2回定例研究会
看護・ケア研究部会 1月定例会報告
日時:1月23日(土)14:00~17:00
場所:オンライン(Zoom)
第1報告:「看護実践と成りゆく『ふるまい』―動きづらい身体との応答―」(齋藤貴子さん:日本赤十字秋田看護大学)
概要:運動器領域の看護実践を現象学的研究にて記述したものの一部を報告した。本報告は「言語化しづらい」看護実践が通底するテーマであり、それに沿って論旨の一貫性を整えたほうがよいという様々なご示唆をいただいた。結果の「ふるまい」そのものが応答であり看護実践と成りゆく点については、参加者より共感を得られたが、運動器領域の特徴が曖昧であり、コントラストをつけた記述への意見があった。その他、具体的かつ戦略的なご示唆があり、今一度論文の構成を練り直して参ります。
第2報告:「社会的問題があり繰り返し救急外来受診する患者への対応」(吉田澄恵さん:東京医療保健大学)
概要:「社会的問題があり繰り返し救急外来を受診する患者への対応」と題して、研究者らの救急外来における対応経験に端を発した文献レビュー経過を報告した。セルフネグレクト、社会的処方、社会的排除などに関する議論や、問題解決モデルで状況を解釈することの限界、救急外来看護と社会福祉協議会の連携の可能性、医療モデルにおける健康管理を促進するという意味でのケアと異なるケアのあり方などについて意見交換があり、今後の文献レビューならびに研究の方向性への示唆があった。
第1回定例研究会
看護・ケア研究部会 11月定例会報告要旨
日時:2020年11月14日(日)14時~
開催方法:Zoom開催
報告者1:樋口佳耶:神戸市看護大学
タイトル:特定行為研修を修了した看護師が認識する看護実践の変化
要旨:今回発表した研究は、ジェネラリスト看護師が特定行為研修を修了したことによって、医療チームの中で自らの看護実践がどのように変化したと認識してるかを明らかにすることを目的として行なったものである。参加者の方からは、研究結果の内容や考察の仕方についてのご指摘だけでなく、特定行為研修制度そのものについてもご意見をいただき、本研究を発展させていく上での課題を見出すことができた。特定行為研修制度がどのような文脈の中で位置づけられているのかを記述し、制度設計上の課題や看護師のキャリアの視点等から、多角的に考察を深めていきたい。
報告者2:伊田裕美:東京都立大学
タイトル:救命救急センターの看護実践
概要:本研究は、救命救急センターで看護師たちがどのように実践を行っているのかを、現象学を手がかりにして明らかにすることを目的として探求しているものである。約1年間の救命救急センターでのフィールドワークによって得られたデータの分析を報告した。参加者の方々からは、私自身が看護師であり、その私がフィールドワークを行っていることで自明となってしまっている事柄についてご意見をいただいた。また、ケアのあり方等についてもご意見をいただき、今後、研究を進めていくうえでの貴重な示唆を得ることができた。
2019
第3回定例研究会
看護・ケア研究部会1月定例会 報告
日時:1月11日(土)13:30~16:00
場所:首都大学東京荒川キャンパス校舎棟364教室
発表者とテーマ:細野知子「糖尿病〈手帳〉をつける経験の現象学的研究」
報告: 日本では、糖尿病治療でインスリン製剤などの自己注射をする患者たちは、健康保険適用下で血糖自己測定(Self-Monitoring of Blood Glucose: SMBG)を行い、「手帳」に記録して血糖コントロールするよう教育を受けている。
糖尿病治療では血糖コントロールの悪化による合併症の進展を予防することが最重要課題であり、患者自身による「手帳」の活用が期待される一方で、「手帳」を継続して使用することが難しい患者が多いことも報告されている。
発表者は、これまでのフィールドワークで、糖尿病者たちが自分の「手帳」を眺めながらぼそっとつぶやく場面を見てきた。
「手帳」に並ぶ自分の数値を見て生まれるつぶやきはその人の数値への意味づけを端的に表しており、そのつぶやきを通じて血糖値などの測定値とともに暮らす経験を開示する契機になると考えた。
本部会では、糖尿病薬自己注射をしている研究参加者による「手帳」をつけるときに生じたつぶやきを書き留めた記録を現象学的に分析した内容を発表した。
当日の参加者は5名であったが活発な議論がなされ、分析の方向性、記述の仕方、ケアへの活用可能性などが検討された。
第2回定例研究会
看護・ケア研究部会 公開企画報告
日時:2019年11月16日(土)13:30~16:30
場所:東京八重洲ホール 301会議室
報告者:板倉有紀さん(秋田大学)
タイトル:パーソンセンタードの支援について:災害から始める社会学の試み
概要:
災害時は一人一人の個別性に配慮することの困難がうかびあがる。ジェンダーや「災害時要援護者」への支援が一例だ。他人を社会的カテゴリーにわけて理解するという実践が問われる。この課題が社会学理論と教育にもつ含意を議論する。2019年11月16日(土)13:30から、東京八重洲ホール301会議室にて、第3回例会として公開企画を開きました。参加者は11名でした。
秋田大学高齢者医療先端研究センターの板倉有紀さんから、「パーソンセンタードの支援について――災害から始める社会学の試み」と題してお話ししていただきました。板倉さんは、地域包括ケア化が進む現代において、医療的・保健的・福祉的ニーズから零れ落ちるニーズにいかにして気づきうるかという問いを立て、そもそもニーズとはどのように捉えられるのかを議論しながら、フラットな「人として」とはなれない社会的存在である各職種や人びとが、いかにしてアプローチ可能かを考えることが重要だといいます。そこから災害研究に踏み込み、被害とは何か、ヴァルネラビリティはどう捉えられるか、という考察に入っていきますが、その際にジェンダーという視点を取り入れ、それで捉えかえすことの重要性と、それだけで切り取れないものの存在とを注意深く論じていきました。最終的には、ジェンダーだけでなく多様性という観点がいま必要なこと、そこで「昔の」保健師のような存在の再考が必要なこと、そして社会学において災害研究が持つ意味についても触れていました。
フロアからは、災害時の支援のありようについて経験談が語られたり、保健師の現在のありようについて論じられたりしました。また、板倉さんのような社会学的研究がどのような意味でケアや支援の専門家たちにとって有用か、それはジェンダーという概念を持ち込むことそのものというより、その概念の扱い方、現実と照らし合わせる際の丁寧さにあるのではないか、などの議論もありました。災害について、ケアや支援についてというだけでなく、社会学に何ができるかという議論にまで広がる、とても有意義な場となったと思います。
第1回定例研究会
看護・ケア研究部会 9月定例会報告
日時:2019年9月14日(土)14:00~17:00
場所:東京医療保健大学 船橋キャンパス 225教室
報告者①:三枝七都子さん(東京大学新領域創成科学研究科)
タイトル:「民間情報紙Bricolageから見る専門職たちの連携――介護保険制定以前に見られた地域における活動に着目して」
概要:
介護保険法制定以前の高齢者介護を巡るケア従事者たちの協働の変遷について、民間情報紙Bricolage(以下、ブリコラージュ)を対象とし分析した内容を発表した。ブリコラージュとは特別養護老人ホームで勤務し理学療法士となった三好春樹が設立した「生活とリハビリテーション研究所」という事務所が1989年に創刊した、介護にまつわる情報紙(会員制の講読紙)である。現在も年6回発刊し、介護職を中心に多く読まれている。発表では、ブリコラージュ創刊当時の80年代から、90年代、2000年代までの区間で、雑誌に登場するアクターの違いや、雑誌で取り上げられている話題などから、当時のケア従事者たちの協働の様子(の一部を)を報告し、意見・助言をいただいた。
研究会を経て、ブリコラージュは介護をめぐった一つの社会運動の記録として捉えることができるという点と、当時ブリコラージュを介して培われてきた医療・保健・介護のケア従事者たちの協働のあり方が、現在必要性が説かれ模索されている医療・保健・介護の専門職同士の連携・協働の視点とは異なるものを持ち得るという点を改めて認識することができた。このような研究会で頂いた視点を念頭に、今後更なる分析を進め、論文として仕上げていけるよう努めたい。報告者②:三井さよ(法政大学)
タイトル:「「触法」と「人格」について」
概要:
いわゆる「触法障害者」が問題化されつつある現在、知的障害・発達障害の人たちの自立生活支援や地域生活支援の場において、「触法」や「人格」がいつどのように問題として浮かび上がるのか、周囲の人たちとコミュニケーションはなされているがズレていること、相互理解はあるのだがズレていることなどに基づいて考察した。フロアとの議論では、近年発達しつつある「司法福祉」という領域について、その可能性と限界、看護とのかかわりなどについて議論になり、制度化の限界とともに、どのような制度化がありうるのかという視点も不可欠であることを再認識させられ、報告者にも得るものが大きかった。
2018
第5回定例研究会
看護・ケア研究部会 3月例会報告
日時:2019年3月16日(土)14:00~17:00
場所:法政大学 市ヶ谷キャンパス 80年館7F 丸会議室
【報告1】
報告者:高桑郁子さん(横浜国立大学大学院)
タイトル:ホームレス状態にある人に対しての医療の在り方に関する研究
要旨:
我が国において、ホームレス状態にある人に対しての「医療」という切り口からの研究は限られている。医療へのアクセスが困難である彼らに対して、医療または医療従事者としてどのように関われるかという問いの下で研究を進めてきた。本報告では、池袋で実践される7団体連携ホームレス支援プロジェクトの中の、炊き出しの場で行われる医療・生活相談の相談内容のデータと、ホームレス状態の人が診療を受けるクリニックの参与観察からのデータ、また元ホームレス状態にあった人のライフヒストリーの一部を報告させて頂いた。
報告を通して、「メンタルヘルス」をどのように捉えるのかという定義についての質問や、また欧米との社会保障の違いから起きている日本の路上生活者問題について、健康相談会の症状の分類の方法など、曖昧だった点をご指摘いただき学びを深めることができた。また、発表者にとって当たり前になっていたデータを興味深く聞いていただき、違う角度からデータを見直す機会となり、大変有意義な時間となった。排除をするつもりがなくても排除されていく人たちに私たち医療従事者はどのように関わっていけるのか、今回頂いた貴重なご意見を活かし、今度も研究を進めていこうと勇気づけられた。
【報告2】
報告者:中村美鈴さん(東京慈恵会医科大学)
タイトル:「救急医療における患者・家族の治療に対する意思決定へのケア」
要旨:
救急医療の場では、患者・家族にとっては、救急という性質から、突然の重篤な障害が発症し、その治療の意思決定に時間的制約の中で余儀なく迫られる場合が多い。また、家族は、童謡・混乱の中の代理意思決定であり、生死に直結しやすい。このような状況の中、従来は、医師のパターナリズムによる治療の決定において、問題は生じていなかった。
しかしながら、患者・家族の権利拡大により、時代は本人・家族の意思決定を尊重する風潮に変わってきた。ただ、救急医療を要する患者・家族の治療の代理意思決定に対するケアについては、先行研究による知見の蓄積は極めて少なく、支援内容も体系化されていない現状がある。そのため、発表者は、2005年頃より、細々と臨床研究を積み重ねてきた。その臨床研究の成果から、医師と家族の意思決定のプロセスの特徴、家族の体験、看護師の実践と困難などに対する示唆が得られた。ところが、臨床研究の成果を踏まえて、「本当に患者・家族は代理意思決定を望んでいるのか」という新たな研究疑問が生じたという問題提起をした。
患者・家族の代理意思決定に関する欧米の先行研究では、家族は医療者の決定が善いと考えていたり、医療者に委ねている。一方で、家族が代理意思決定した場合は、数か月後~1年度ころまでに、不安、うつ、PTSD,複雑悲嘆となっている実態もある。他、Shared decision making、本人のもつ意思決定能力、さらにストレスと意思決定関係について報告した。
フロアとは、ここ十数年の中で救急場面での意思決定ガイドラインの確立との関係や極度のストレスがかかと誤った情報処理の中で意思決定をした経験、患者・家族に対する意思決定へのケアの有り方について、活発な討議がなされた。
第4回定例研究会
看護・ケア研究部会 1月例会報告
日時:2019年1月12日(土)14:00~17:00
場所:首都大学東京荒川キャンパス
【報告1】
齋藤貴子さん( 日本赤十字秋田看護大学/首都大学東京大学院博士後期課程 )
整形外科病棟におけるいつもの看護実践(トイレ介助)の成り立ち」
整形外科病棟の看護師は、動かしづらい患者の身体に触れつつ、自分が感じ感じ取られという相互性のなかで看護実践を行っている。この患者の身体や動きといったものへの看護実践は、看護師にとってはあたりまえの自明のことであるため、これまで明らかにされてこなかった。いつも看護師が行っている看護実践を記述することを研究目的として、フィールドワークのデータを基に、看護師が患者のトイレ介助をする場面の分析の試案を報告した。
私自身が看護師であり、データはとても馴染みやすく自明であるため、つい看護者として研究参加者と患者を見てしまったが故分析の視点がずれていることを指摘された。また患者と看護師の「間」としたことが、私の中でその「間」が雑駁であったため、「間」の水準を捉えていく示唆を得た。さらに身体を基軸にした分析の提案があり、今後のデータに向き合う上での視座への貴重な示唆を、今後の研究に反映させていきたい。
【報告2】
荻野貴美子さん(星槎大学)
「教員と看護師が協働で行う授業実践報告」
報告者は看護師の資格を持ち、中学校で医療的ケアを必要とする生徒に対して特別支援教育支援員として関わってきている。この度、2つの中学校において老年期の理解を学ぶ授業を行い、授業後に生徒からはアンケート調査やワークシート、教員からはインタビュー調査を実施し、これらの分析結果をまとめたので報告した。
これまでに報告者は、「教育と医療の協働」をテーマに研究しており、「チーム学校」という概念を使用して分析を試みてきた。この「チーム学校」は、細田の「チーム医療」の4つの志向性を援用し、こども中心志向、職種構成志向、専門志向、協働志向で構成される。我が国の高齢化率は2017年では27.7%で、2065年は38.4%の予測が報告されており、高齢者を理解することは喫緊の課題である。しかしながら中学校の学習指導要領や特別教科道徳の学習指導要領は老人を敬う心を育てることは明記されているが、自らの老いを考える内容は見当たらない。そこで報告者は、これらを考える授業が必要と考え、A市立B中学校の道徳で老年期の理解の授業を行い、A市立C中学校で老年期を学ぶ授業を行った。
A市立B中学校では、道徳の授業の中で老年期を理解する内容の話をした。そしてこの内容をいかに理解したかについて、生徒にはアンケート調査、教員には個別にインタビューを実施して分析した。生徒へのアンケート結果からは、老いを受け入れる生徒と、老いることに不安を抱く生徒がいることが分かり、「人はいずれ死ぬのになぜ生きるのか」という記載もみられ、生死に関して根源的な問いを持っている生徒がいることが分かった。教員へ行ったインタビュー結果では、「主体的な学習活動の方略」「『老い』と自分の人生設計」「現在の行動変容だけでなく、未来の行動変容」について関心を持っていることが分かった。
A市立C中学校で実施した老年期を学ぶ授業の分析は、生徒が実施したワークシートと、授業の振り返りの中で得られた言説から行った。ワークシートの結果からは、「老年期は現在の趣味や興味と関連付けて学びたい」「老年期の健康維持」で、生徒は自身の老年期をイメージして学びを考えている実態が分かった。授業の振り返りからは、「1年生へ老年期の学びの授業を1回で行うのは難しい」「『老年期の理解』でテーマ化した研究の必要がある」、が分かった。尚、報告者は老年期の学びの授業で、生徒へ押し付けにならないよう修正したハヴィーガーストの発達課題を用いた。
報告後の質疑では、フロアからハヴィーガーストや発達課題に対する意見があった。授業者がハヴィーガーストや発達課題の概念を用いると、ハヴィーガーストや発達課題を学ぶ生徒は、「成長しなければならない」「発達課題を到達しなければならない、という思いに至る可能性、授業者からの「意図しない強制力」を受ける可能性が生ずるということであった。「チーム学校」に関する質問は、看護師がなぜ教員と協働で授業ができたのかであった。報告者は看護師養成所で授業を行っていたことに依ると推察すると述べた。授業の展開の意見は、授業案にとらわれず看護師の語りを自由に行い、自由な討論を行ってもよいのではないかであった。また、実践報告の記述方法は2点の意見があった。1点目は、学級担任の指導の基で作成した授業案であれば、教員と看護師が協働で検討した作成過程の表記があると良いであった。2点目は、教員に対するインタビュー結果の分析の表題で「現在の行動変容だけでなく、未来の行動変容」は具体的に表現すると教員も同じテーマの授業に活用できるであった。今回の報告会では、参加した研究者から多様な視点の意見が出され、活発な議論が交わされた。
第3回定例研究会
看護・ケア研究部会
日時:2018年11月17日(土)14:00~17:00
場所:首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス 会議室A・B
報告者:
三井さよ(法政大学社会学部)
堀川英起(法政大学大学院社会学研究科)
三枝七都子(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
木矢幸孝(法政大学大学院社会学研究科)
タイトル:学会誌30年からみる保健医療社会学の課題と展望
今回の研究会では、1990年から学際的な学会である本学会の学会誌として始まった『保健医療社会学論集』の30年分を振り返ることで、本学会がどのような社会的ニーズに応えてきたのか、日本における保健医療社会学の課題がどう変遷してきたのかを読み解くことを試みた。
初めに三井会員より、学会誌全体の傾向の俯瞰と専門職論の扱われ方、著者の所属に着目した分析が示され、引き続き堀川会員による「専門職の連携」及び「教育」に着目した分析が示された(三井会員の代読による)。さらに、三枝会員より、「福祉」「介護」「障害」というキーワードに着目した分析が、木矢会員より「語り」「遺伝・告知」に着目した分析が示された。
その後の討論では、初期から当学会に多く貢献をしてきた看護学や新たな近接領域としての障害学と保健医療社会学の関係、さらには、当学会における「社会学」の意味等について議論がされた。また、過去30年の議論が大きくは前半と後半に分けられるのではないか、という問題提起があり、その違いが何によるものかについて議論された。具体的には、前半では保健・医療・福祉の統合や多職種連携が主たる研究テーマであったが、後半からは患者本人の語りや経験に着目した研究が多くみられるようになり、視点もマクロからミクロに移っているのではないか、また、多職種連携についても病院や施設を中心とするものから地域に移行しているのではないか、という指摘があった。ただし、これに対して、むしろ初期から当学会では患者や住民の「主体性」や「当事者性」を重視する点では一貫しており、それゆえに細分化された専門領域を超えて学際的な研究が求められてきたのではないか、という指摘もなされた。会員15名の参加があり、活発な議論が行われた。
第2回定例研究会
看護・ケア研究部会 9月定例会報告要旨
日 時:2018年9月15日(土)13:30-17:00
場 所:東京医療保健大学 船橋キャンパス 225教室
報告者:三枝七都子さん
タイトル:「富山型デイサービス」における労務管理プロセス―「デイケアハウスにぎやか」の事例研究
要旨:近年、地域包括ケアの推進が謳われるなかで、高齢者・障害者(児)の地域生活を永続的に支えていくあり様に注目が寄せられている。
本報告は「富山型デイサービス」の一事業所における支援・介護活動を取り上げ、利用者と職員の線引きをあえて曖昧なものとし、対応の難しい利用者とも「喧嘩」しながらも共に生活を送り続けるあり様について労務管理の視点から分析を試みようとするものだった。
報告を通して、従来のコンフリクトの議論と本事例で見られた「喧嘩」の具体的な違いわかりにくさや、利用者と職員の線引きが曖昧になっているという事実をデータから十分に実証しきれていない点、さらには倫理的配慮の甘さなど多くの指摘を得ることができた。
今回、皆様から頂いた貴重なご意見を活かし、従来の施設介護や障害者支援で言われていた支援・介護の関係性と対比しながら改めて本研究の知見を整理していきたい。
報告者:樋口佳耶さん
タイトル:「特定行為に係る看護師の研修制度」創設までの流れと現状、今後の研究課題
要旨:「特定行為に係る看護師の研修制度(以下、本制度)」創設までの流れと現状、本制度に関連する研究の動向を述べた後、今後の研究課題について報告を行った。本制度は2015年より施行され約3年が経過したが、制度の詳細が複雑であり、看護師はじめ医療従事者間でも正確な理解が広がっていないのが現状である。さらに、日本看護協会は従来の認定看護師教育に特定行為研修を組み込んだ新認定看護師制度へ移行することを決定し、日本看護系大学協議会や日本NP教育大学院協議会はそれぞれ独自に資格認定を始めるなど、看護系の団体の足並みも揃っていない。フロアからは、在宅領域では徐々に効果が得られていると思われるケースが散見されるものの、医師の理解を得ることの困難さなど課題があるという指摘もなされた。
いずれにせよ、本制度に関する最大の問題は、受け手である国民にとってわかりにくい制度となっていることである。
本会でいただいたご意見をもとに、「よい看護」が提供できる制度やシステムとはどのようなものなのか、より考察を深めていきたい。
本部会についてのお問い合わせは、三井さよ(s-mitsui(a)hosei.ac.jp)までどうぞよろしくお願いいたします。*(a)は@に代えてください。
第1回定例研究会
看護・ケア研究部会 7月定例会報告要旨
日 時:7月21日(土)13:30~17:00
場 所:首都大学東京荒川キャンパス 463教室
報告者1:池口佳子さん
タイトル:「実習の意味を捉え直していく経験」看護学生から、新人看護師へ
看護系大学の急激な増加や実習施設や指導者の不足など、実習環境を取り巻く状況は厳しい。看護基礎教育における看護学実習は、病いと向き合う患者と出逢い、看護を初めて実践する学習の場でもあり、看護教員は看護学生の経験学習を支援する必要がある。しかし、教員から見えている学生の経験と彼らにとっての実習経験は異なるのではないかと疑問をもつようになった。学生が臨床現場での実習をどのように経験し、看護師となっていくのを彼らの視点から記述する必要があると考える。今回、実習を終えた学生が実習の意味を捉え直していく経験に関する研究報告を行った。報告後、研究参加者が学生であることから生じる倫理的な配慮や研究デザインに関する質問などがあり、看護領域以外の方々へも伝わる表現の必要性や研究者が気づかなかった先入見や文化的背景に気づく機会となった。参加者の皆様から頂いたご示唆を今後の研究に活かしていきたい。
報告者2:三井さよさん
タイトル:上田敏と社会モデル
この報告ではまず、上田敏のリハビリテーション論には障害の社会モデルからしばしば批判が向けられてきたが、実際にはその多くの批判があまり適切ではないこと、上田には十分に社会モデル的な要素があったことを指摘した。そして、それでも両者の間にあった違いを、上田が専門職という立場に非常に自覚的であったのに対して、障害者解放運動の中で培われてきた本人と周囲との関係性は、専門職とクライアントというそれではなく、「ともに生きる」というものだったところにあると位置づけ、この二つの関係の違いを整理した。その上で、現在の日本が医学モデルに基づく保健医療システムから生活モデルに基づく地域包括ケアシステムへと転換しつつあることを踏まえ、新たなケアシステムにおけるケア従事者として、専門職(従来型とは異なる上田流の専門職だが)とはまた異なる存在として、ベースの支援を担う人たちが必要だと述べ、その特徴を専門職と対比しながら整理した。フロアとの議論で、ベースの支援がいわゆる「共助」とは異なることを確認し、また看護職の位置づけについても考えさせられた。
その他、お問い合わせは、三井さよ(s-mitsui[a]hosei.ac.jp)までどうぞよろしくお願いいたします。*[a]は@に代えてください。
2017
看護・ケア研究部会 3月定例会報告 要旨
日 時:2018年3月10日(土)14:00~17:00
場 所:首都大学東京 秋葉原サテライトキャンパス 会議室
発表者1:杉山祥子さん(東北大学)
発表テーマ1:「看護師の責任に関する概念の検討」
要旨1:
看護師は医療行為の最終実施者として責任がある。しかし責任という言葉は、個人責任・法的責任・道義的責任・結果責任など多義的に使用されている。また、義務・責め・罪・非難など類義的に使用されている。そのため、看護師の責任も明確に定義はされておらず曖昧な状況である。報告者は、看護師の責任が曖昧であることは、専門職としての意識の低下を招く可能性があるのではないかと考えた。そこで、看護師の責任を捉えるため、看護師の責任について文献を用いて検討を行った経過を報告した。報告後、看護師の責任をどのように捉えていくのか、法的責任と社会的責任では問われ方は異なるのではないか、責任の問われ方は文化的な背景や制度、状況によって変化するのではないかなどの意見があった。また、看護師の責任が問われた裁判の判例を基に看護師の責任の外的要素、内的要素について検討しても良いのではないかとの助言があり、今後、研究を進めていくうえでの貴重な示唆を得た。
報告者2:門林道子さん(日本女子大学)
発表テーマ2:「がん闘病記に社会学的視座から関わって」
要旨2:
私が行ってきた「闘病記の社会学的研究」について、時系列に概要を述べた後、なぜ「『闘病』記」なのか、調べた結果について報告を行った。「闘病」は、小酒井不木によって「病と闘ふ」積極的な意味で用いられ、小酒井の著書『闘病術』(1926、春陽堂)とその本の反響を記し翌年に出版した『闘病問答』により膾炙した「社会的造語」と考えられる。「闘病」の普及の背景には「闘病」が「総力戦」に勝つため結核の撲滅をめざした国策と一致しマスコミを通じて一般化したことがあった。「闘病記」については『闘病術』後に結核の「征服記」に初めて用いられ、「病気体験記」や「闘病手記」が「闘病記」と一元化されていった。「闘病記」の記述が社会を変え、変化する社会が闘病記の内容をもまた変えてきた。闘病記は自己の再構築という個人レベルを超えて「病む」ことや「病む人」への見方も変化させるという社会の再構築も行っているが、「『闘病』記」という名称は「共生」が多くみられる現代の病いとの向き合い方の多様性を表すのに十分とは言えないのではないかという点にも触れた。
第3回定例研究会
看護・ケア研究部会 1月定例会報告要旨
日 時:1月20日(土)14:00~17:00
場 所:首都大学東京荒川キャンパス 校舎棟364教室
発表者1:藤巻郁朗さん(自治医科大学)
発表テーマ1:「AYA世代がん患者の医療・社会的問題と支援の課題」
要旨1: 15歳から39歳前後の思春期・若年成人を意味するAYA世代は身体的成長と共に多くの発達課題を持つ時期にあり、がんに罹患した場合、複雑な問題を抱えがちである。特に、自分の将来のことや仕事、学業については、多くのAYA世代がん患者が悩みをもつことが明らかにされている。一方、この世代のがん患者に対する診療体制は小児と成人の狭間にあり、適切な医療を受けられないおそれが指摘されている。
このような状況を受け、国の対策として、小児がん拠点病を中心に、AYA世代の診療や妊孕性温存、就学・就労を含めた支援を充実させることが検討されている。今後の課題としては、10代から30代までの幅広い年代が含まれ、発達課題も多様なAYA世代を一括りにせず、個別の状況に応じた支援を行うことが重要である。報告後の質疑では、SNSを活用したピアサポートの可能性、就職や結婚に関する社会通念がAYA世代のがん患者が抱く悩みの根源に関連することが考えられる、などの意見が交わされ、深い示唆を得ることができた。
発表者2:村上優子さん(首都大学東京)
発表テーマ2:「外傷性脊髄損傷患者の入院中の経験」
要旨2:脊髄損傷は、突然の事故などにより脊髄に損傷をうける病態であり、一度脊髄を損傷すると、多くの場合知覚・運動障害などの永続的な障害が残存する。脊髄損傷患者にとって受傷直後は、生命の危機的な状態であり、また、ショックや反応性うつ病が生じる傾向があるとの報告もある。このような脊髄損傷患者が、受傷後の苦痛の強い時期を乗り越え、今後の生活を送っていくことができるように支えることが看護の重要な役割であると考えられているが、先行研究からは、医療者には、患者の経験を理解したいと思う気持ちはあっても、実際には難しいということが浮き彫りとなった。そのため、本研究では、突然の事故で外傷性脊髄損傷と診断された患者が入院中に動かない身体をどのように経験をしているのかを、現象学を手がかりに明らかにすることを目的とした。今回の報告では、参加観察および録音データから、研究参加者1名と医療者とのかかわりの場面に注目した。さらに、その中で、研究参加者の「幸せな時間」という語りを分析の入り口に、この幸せな時間がいかに経験されているのか、その幸せな時間をかたち作る研究参加者と医療者の言葉のやりとり等について記述した。報告に対し、研究方法、言葉にして伝えあえるという医療者との関係性、今後のケアのあり方の検討、等々の質問・意見があり、今後、分析を進めていくうえでの貴重な示唆を得ることができた。
2017年度第1回関東定例研究会
看護・ケア研究部会共催公開企画報告要旨
日 時:2017年11月11日(土)14:00-17:00
場 所:首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス会議室A・B
報告者:田中大介さん(東京大学)
指定発言者:鷹田佳典さん(早稲田大学)
タイトル: 葬儀業におけるデスケアの実践と特質
司会進行:田代志門(国立がん研究センター)
要旨:本年度『葬儀業のエスノグラフィ』(東京大学出版会)を公刊された文化人類学者の田中大介さんをゲストに迎えて研究会を行った。当日は、葬儀業の概要や近年の動向を丁寧にレビューしたうえで、「遺体処置」「空間設計」「専門家への志向」「包括的ケア産業」という4つの題材を取り上げ、現代社会において葬儀業者の行っている「仕事」についての人類学的な記述と分析を提示して頂いた。指定発言者では会員で悲嘆研究に詳しい鷹田佳典さんから、生と死の移行の手助けをするmediatorとしての葬儀業者の位置付けや、医療者と葬儀業者との多職種連携の可能性についてコメントがなされた。参加者は27名(うち非会員8名を含む)であり、社会学・文化人類学の研究者、医療者、葬儀業者等の多様な視点からの活発なディスカッションが行われた。
第2回定例研究会
看護・ケア研究部会 9月定例会報告要旨
日 時:9月23日(土)13:30~17:00
場 所:首都大学東京荒川キャンパス 校舎棟364教室
発表者1:植田仁美さん(リンパ浮腫ケアセンターBell's House)
発表テーマ1:「上肢遠位に遠心力がかかる運動〈バドミントン〉をしても上肢浮腫に改善がみられた事例報告」
要旨1: 上肢遠位に遠心力がかかる反復運動は上肢リンパ浮腫を悪化させるとして一般に禁止されている。一方、一定のルール下において腕に負荷をかけたウエイトトレーニングをすることは、筋の成長や運動に対する耐性がつくとされ、リンパ浮腫の予防や改善に効果があるという報告が近年増えている。本研究では、バドミントン再開を強く希望する上肢リンパ浮腫患者に対して、運動耐性や筋線維の増大を期待しながら慎重に運動量を漸次増加させていくという介入を試みた結果を検証した。その結果、症状の悪化なくバドミントンの試合が可能になるレベルまで到達し、患者のQOLの回復にまでつながった。リンパ浮腫という理由で禁止されていたスポーツでも、患者のセルフコントロール力と、セラピストとの密な連携による支援を前提とすれば、リンパ浮腫患者も楽しむことができる可能性があることが示唆された。報告後、乳がんサバイバーとリンパ浮腫患者の現状についての確認がなされた。患者が人生に前向きになるためにどういうサポートをしたかを明確にすること、医療者と患者との相互作用・人物像が見える介入の具体例を示す等の議論が行われた。
発表者2:本多康生さん(福岡大学)
発表テーマ2:「病による排除―ハンセン病療養所におけるフィールドワーク」
要旨2:本報告では、ハンセン病療養所をフィールドとした学生教育の意義について、社会学の立場から論じた。実際に、療養所を訪問して入所者のライフヒストリーを聞いた学生達の反応から、学生は入所者の語りをそのまま表層的に理解する傾向があることや、入所者の実存的苦悩を十分に理解することは難しいことなどが示された。現在ではハンセン病の社会問題としての側面が見え辛くなっているため、フィールドにおいては、社会事象の背景を解説する教員の的確な助言が必要であることも明らかになった。報告後の質疑では、生活経験の浅い学生が当事者の話に共感することの難しさ、看護実習における教員の経験との類似性、教育課題として達成が期待される短期的目標と長期的目標などについて意見が交わされ、有用な示唆を得た。
第1回定例研究会
看護・ケア研究部会 7月定例会報告要旨
日 時:7月22日(土)13:30~17:00
場 所:首都大学東京荒川キャンパス 校舎棟364教室
発表者1:荻野貴美子さん(星槎大学)
発表テーマ1:「医療と教育の協働―公立中学校における看護師から教員への医療的情報の提供と活用に関する事例研究―」
要旨:「障害者の権利に関する条約」は2006年に国連総本会議で採択され、2008年に発効されている。医療的ケアが必要な児童生徒のために看護師が配置され、障害を持つ児童生徒も通常の小学校、中学校で学習ができるようになった。報告者は、公立中学校において看護師の資格を持つ特別支援教育支援員として生徒、教員に介入した。
「学校」は「生徒」、「教員」の2方向の関係における学習の「場」であった。生徒という社会集団は、常に変化している。特に医療的ケアが必要な生徒は、合理的配慮をふまえた教育が必要であった。教員という組織集団は生徒たちへ教育的に関与していたが、合理的配慮をふまえた教育の実践について困難性を感じていた。そこで報告者は教員が医療的情報を理解しやすいように工夫して提供したところ、教員は、合理的配慮をふまえた生徒のニーズに適した教育の実践ができるように変化した。医療的ケアが必要な生徒は教員と看護師の介入により、本人の意思で学習方法、学習の場を選択するようになった。これらの介入から新たな関係性が生じた。それは、学校の中で「生徒」「教員」「看護師」の3方向の新たな関係性が成立した。
参加者は16名で、事例研究の論文の体裁を整えるには何を明確にすればその精度を上げることができるのか、研究方法論と結果の一貫性など活発な議論が行われた。
発表者2:吉田澄恵さん(千葉大学)
発表テーマ2:「大学改革期における看護学分野の教育・研究の現状に関する一考察」
要旨:発表者は、当部会では、保健医療社会学と看護学の対比から、看護学教育・研究者としての課題を検討してきた。今回は、当学会会員としての研究を模索するため、「大学改革」という社会現象の中にある「看護学教育・研究者」のおかれている状況の解釈を試みた。そして、この状況は、看護学教育・研究者が、看護学の中核にある実践(PRAXIS)から気づかされる政策等の不平等や不公正に対して発信する研究を実行しにくくなるリスクがあると指摘した。その上で、この解釈が、「保健医療社会学会」の学会誌に投稿することが妥当なのか、またこのような現状分析の結果を、研究論文とするための共同研究の可能性を含めたプランを探りたいと投げかけた。意見交換では、投稿規程の原稿の種類には該当するものがないものの論点としての意義があること、言説分析や具体的事例に基づく研究論文作成の可能性、市民向けの一般誌掲載などのアイデアなどの示唆を獲得できた。
2016
第4回定例研究会
看護・ケア研究部会 3月定例会報告要旨
日 時:3月18日(土)14:00~16:00
場 所:首都大学東京荒川キャンパス 校舎棟364教室
発表者:西村ユミさん(首都大学東京)
発表テーマ:「遺伝性疾患をもつ家族の経験
――親から子への生体腎移植という選択」
要旨:常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、1980年代に遺伝性疾患であることが分かり、1990年代中ごろに原因遺伝子が特定された、主に成人期に発症する疾患である。本研究では、このADPKDを患う家族に注目し、ADPKDによって腎機能が低下した子どもが父親から生体腎移植を受けた経験がいかに成り立っているのかを探究した。なお、ADPKDに罹患しているのは母親と子どもであった。移植に関わる経験は、複数回の非構造化インタビューによって聴き取った。本研究の実施にあたっては、研究倫理委員会の承認を得た。移植の経験の成り立ちは、1)移植を始める、2)主人の気持ちへの配慮、3)本人の意思――透析は嫌、4)家族のスタイル――移植の相談と病名の告知の4テーマを柱に、記述した。いずれもこの家族固有の経験であるが、諸条件や諸状況の積み重なりによって成り立った「家族のスタイル」がこの家族の病い経験、とりわけ移植への経過を支えていたことが見出された。この条件と状況の積み重なりという視点は、他の家族にとっても参照できる結果であると考える。
第3回定例研究会
看護・ケア研究部会 1月定例会報告要旨
日 時:1月21日(土)14:00~17:00
場 所:首都大学東京荒川キャンパス 校舎棟364教室
発表者1:金子雅彦さん(防衛医科大学校)
発表テーマ1:「日本の医療提供システムの変遷と今後の展望」
要旨:明治時代初期、病院は西洋医学を用いる施設全般に用いられたが、明治時代中期以降次第に一定数以上の病床を持つ医療施設を病院と規定するようになった。
診療所と病院の規模区分は現在の医療法まで続いている(経路依存)。他方近年、医療法上の規模区分はそのままにしつつ、その中での機能分化策を模索し始めている(経路依存の一部見直し)。そこで、パーソンズの議論を用いて、かかりつけ医(プライマリケア担当)普及定着策を整理検討した。
ある人が他者をコントローする戦略(媒体)には、誘因(貨幣)、強制(権力)、説得(影響力)、コミットメントの活性化(価値コミットメント)がある。
このうちすでに行われている戦略は、誘因=診療報酬による誘導と、説得=かかりつけ医のプライマリケア力の向上である。つまり、積極的サンクションが導入しやすい戦略である。討論では、かかりつけ医のイメージや医療連携の現状の課題、医学教育の役割などが指摘された。
発表者2:細野知子さん(首都大学東京)
発表テーマ2:「慢性の経過をたどる2型糖尿者の生活経験-現象学的記述の試み」
要旨:2型糖尿病は生活そのものが治療とも言われるが、コントロールを維持していくことは難しい。糖尿病看護では、このような病者の理解が求められるが、医学的な視点に偏重すると彼らの経験は問題解決の対象としてのみ映り、かかわりが難しくなる場合もある。そこで、2型糖尿病者の経験に接近するため、治療場面での1年間にわたる参加観察やインタビューを通じて記述した1名の経験をもとに、その慢性性や日常性を現象学的に探究し報告した。
当日の議論を経て、2型糖尿病者の治療場面の相互行為に組み込まれている習慣化された日常性や治療行為がつくり上げていく日常性が明らかになってきた。また、研究者が毎度の治療場面に参与して得られたデータからは、研究者も研究参加者の経験に織り込まれながら慢性性や日常性をつくっていたことが見えてきた。さらに、研究成果として現象学的記述を明瞭に位置づけるための論文構成など、論理的一貫性を保つための深い示唆も得られた。
第2回定例研究会
看護・ケア研究部会 関東定例会共催 公開企画 報告
日 時:2016年11月23日(水・祝日)14:00~17:00
場 所:首都大学東京秋葉原サテライトキャンパス 秋葉原ダイビル 12 階 会議室A・B・C
講 師:菅原和孝(京都大学名誉教授)
講演テーマ:「人類学の夢想とフィールドワークの経験」
要 旨:身体及び会話の人類学者として著名な菅原和孝先生に、 30年以上にわたるカラハリ狩猟採集民グイ(ブッシュマン)のフィールドワークをもとに、1。フィールドワークの経験と2。人類学の夢想についてお話いただいた。
フィールドワークの経験では、基本的な身構えとしての方法論的特徴を「生活世界の内部から人々のふるまいを了解する」現象学的態度として紹介され、このフィールドワークによって見出された、接触という経験や挨拶(出会いの相互行為儀礼と〈微視的なわばり〉)などがどのように行われているのかを、日常会話の分析や生活史の語りの分析、身ぶりの分析などと共に示された。また、菅原先生による現地語の発音や録音された音声は、分析のリアリティを感じる機会となった。人類学の夢想では、「環境と虚環境」に関する興味深い菅原モデルを展開された。菅原先生は、「世界-内-存在の様態を了解する手がかり」は「見る」ことよりも「歩く」ことにあり、「環境と虚環境」の境界を歩くことこそが私たちの根源的な生活様式であると説かれた。
質疑応答では、主に「虚環境」についての議論が行われ、「虚環境」が夢や白昼夢、時間を超えること、環境と虚環境の間がモザイク状になっていることなどが紹介され、実際にイメージをすることで理解を試みた。また、ゆっくり「歩く」ことは知覚の地平を限定し、それ故、見えないものに思いをはせる営みが生まれることなど、身体論の奥深さにも触れることができた。「虚環境」論がさらに発展し、新しい身体論としての菅原モデルの完成が期待された。60~65名の会場いっぱいとなった参加者が、「夢想」を堪能した研究会となった。
第1回定例研究会
看護・ケア研究部会 7月定例会 報告
日 時:7 月30 日(土)14:00~16:30
場 所:首都大学東京荒川キャンパス 校舎棟364 教室
発表者:横山正子さん(神戸女子大学)
発表テーマ:「地域医療介護における期待される介護福祉士のキャリアパスとは」
要 旨:地域包括ケアシステム推進政策における介護サービスの提供者である介護職の質・量の確保が喫緊課題となっている。
現行の介護福祉士資格制度の「頂を上げ、裾野を広げる」とは政府の考え方である。
そこで職能団体、養成施設協会、大学教育連絡協議会といった関係機関がそれに応えて介護福祉士の上位資格をそれぞれが提案した。本報告は介護福祉士の置かれている法的立場や現状、社会ニーズとしての介護内容の重度化・複雑化(医療的ケア含む)、国際化、また、段位制の活用での職能評価などの視点で、それらの提案するキャリアパスとしての各上位資格を検討するのが趣旨である。
質疑応答では介護職や介護福祉士への期待を感じる多くの質問、上位資格やキャリアパスに留まらない報酬や介護職の在り方に及ぶ研究課題のご助言を賜った。
しかし、介護福祉士集団の社会的発言力の弱さにも問題があることを実感した。
2015
第5回定例研究会(看護・ケア研究部会 3月定例会)
日 時:3月12日(土)14:00~16:00
場 所:東京女子医科大学看護学部 第2校舎4階 241教室
発表者:吉田澄恵さん(東京女子医科大学)
発表テーマ:「看護学教育の変遷から考える看護職と社会の関係に関する一考察」
要旨:
「看護学教育の変遷から考える看護職と社会の関係に関する一考察」と題して、まず、日本における看護職資格に関わる主な法、基礎教育制度、看護師国家試験制度、厚生労働省で定めている看護師養成教育のカリキュラムの主要な変化を概説した。さらに、看護職のキャリア開発の現況と、看護学研究の主たる関心を看護現象との関係性で整理し報告した。その上で、看護職を社会システムとの関係でどう位置づけ、看護職が社会システムに及ぼす影響について検討していくことの必要性を述べた。また、看護職が看護学を基盤として、社会システムの変革に関与していくためには、看護学の知を社会全体の知へと解放していくことが重要であると考えていることを述べた。ディスカッションでは、ミクロ社会に焦点をあてる看護学の成果を、マクロ社会に応用していく上で、医学や社会福祉学とは異なった特徴と課題があることが検討された。
第4回定例研究会(看護・ケア研究部会 1月定例会)
日 時:1月9日(土)14:00~16:00
場 所:首都大学東京荒川キャンパス 校舎棟3階333教室
発表者:鷹田佳典さん(早稲田大学)
発表テーマ:「医師のgrievingとその規定要因」
要旨:
本報告では、15名の小児科医に対して行った聞き取り調査の結果をもとに、医師が患者の死をどのように経験しているのかについて報告を行いました。しばしば、医療専門職者は患者の死に「慣れている」という言い方がされますが、調査からみえてきたのは、患者の死に直面した小児科医は、喪失感や悲しさ、患者を救えなかったという自責の念、患者が病いから解放されるという安堵感など、複雑な感情を経験しており、患者の死は医師にとって、それに向き合うために一定の“work”を必要とするような課題として立ち現れているということでした。報告では、こうした課題に対し、小児科医が、患者やその家族から一定の距離を置く、先輩医師の思いにふれる、医師間で相互的な支援を行う、患者の死に意味を見出す、次の患者に気持ちを切り替える、遺族との対話から治療を振り返るといったさまざまな仕方で向き合っていることを指摘しました。報告に対し、医師による感情労働の内実や指導医の影響、患者の死に対し業務的に対応することの弊害についての質問・意見があり、今後、データを分析していくうえでの貴重な示唆を得ることができました。
第3回定例研究会
看護・ケア研究部会 関東定例会共催 公開企画 報告
日 時:11月28日(土)15:00~17:00
場 所:首都大学東京荒川キャンパス 講堂
テーマ:「医療政策の決定過程:会議の政治学」
講師:森田 朗先生(国立社会保障・人口問題研究所 所長)
指定討論者:小澤 温先生(筑波大学大学院人間総合科学研究科 教授)
司会:中村 美鈴(自治医科大学看護学部 教授)
要旨:中央社会保険医療協議会(以下、中医協)の元会長による講演であり、審議会の機能をはじめとした医療政策の決定過程について、報告がなされた。具体的には、医療政策の合意形成の類型とプロセス、中医協の関連組織、既存の医療システムにおける診療報酬改定のスケジュールとあり方、審議の実際、決定のメカニズムなど、経験に基づく講和であり、わかりやすく説明いただいた。その上で、支援現場の実態と政策に詳しい小澤温先生から、「事務局の想定シナリオに沿った合意形成がなされていくのか、その場合は知見や既存の研究データなどエビデンスとなるものはどう考えたらよいのか、中医協の決定のあり方にも検討が必要ではないか」とコメントがあった。他、フロアの参加者と課題を共有し、活発な討議がなされた。
参加者は33名であった。アンケートは23名から回答いただき、その内容は「中医協で行われている議論が具体的に理解できた」、「経験を踏まえてご教示いただき、非常にわかりやすく面白かった」など、大変好評で肯定的な意見ばかりであった。
第2回定例研究会(看護・ケア研究部会 9月定例会)
日 時:9月12日(土)14:00~17:00
場 所:首都大学東京荒川キャンパス 校舎棟4階463教室
発表者:齋藤公子さん(立教大学大学院博士課程前期課程)
発表テーマ:「がん患者は<補完代替医療>の利用でなにを手にしたか ―グループワークに参加する患者たちの語りから―
要旨:
今回は、がん患者当事者である発表者が、がん患者を対象としたグループワークで出会ったピア8名に対してインタビューを行い、それにもとづき執筆している修士論文の概要を報告した。
この研究はライフストーリー研究として進められてきたが、その理由や、研究目的に照らしたその妥当性について議論された。そのなかで、研究者の当事者性は研究にどのように反映されるべきかという点についても検討がなされた。
加えて、<補完代替医療>の使用というがん患者たちの行動をどう捉えるのかについて、掘り下げた議論がなされた。医療者か患者かなどの立場の違いにより、捉え方に違いが出ることが明らかになった。
先行研究の選択とその検討における課題、研究の意義やその結果活用における課題なども浮き彫りになった。看護学、社会学それぞれの異なった領域の研究者の参加により議論が深まり、意義深い機会となった。
第1回定例研究会(看護・ケア研究部会 7月定例会)
日 時:7月11日(土)14:00~16:00
場 所:首都大学東京荒川キャンパス 校舎棟382教室
発表者:坂井志織さん(首都大学東京大学院博士後期課程)
発表テーマ:「しびれている身体で生きる経験 ~中枢神経障害者の回復期フィールドワークから」
要旨:
本報告では、「しびれていることで生活世界がどのように経験され、その経験と共にしびれがどのような意味を帯びてくるのかを記述すること」を目的とした、現象学的看護研究の結果の一部について議論した。結果記述において、しびれていることで、交わりの手ごたえが身体としてつながりを持って経験されていないことなどを示した。
議論においては、現象学的な分析の視点や、記述のなされ方、フィールドワークでの関係性などについて、さらには、難治性といわれる症状との付き合い方、周囲のサポート状況など、様々な背景の研究者から多様な視点の意見が出た。
他分野、現象学以外の研究者とのディスカッションにより、伝わりやすい点、そうではない点などがわかり、今後まとめていく上で考慮すべき点が明らかになった。
2014
第5回定例研究会
日 時:3月14日(土)13:30~17:00
場 所:国立社会保障・人口問題研究所 第4会議室
発表者:佐藤幹代さん(東海大学)
発表テーマ:「語りを臨床に応用する
~「慢性の痛みの語り」映像を用いた慢性痛患者への看護支援の構築を目指して~」
要旨:英国Oxford 大学で作成された、データベースDatabase of Individual Patient Experiences(DIPEx)を参考に、6か月以上の非がん性疼痛の痛みを患う人と、その家族にインタビュー調査を行い、身体的・精神的・社会的苦悩や疼痛対処の方法、患者・家族・医療者の相互理解のありかたを明らかにして、生活の再構築に向けた支援ツールとして、「慢性の痛みの語り」データベースをつくるプロジェクトの紹介を行った(http://www.dipex-j.org/outline/josei_itami)。
すでに撮影した慢性の痛みをもつ人(腰痛,60代,疼痛期間23年)の語り映像を上映し、「痛みを共有すること」、というテーマについて意見が出された。痛みのケアにかかわる人は、他者の痛みを共有することは難しく理解が及ばないことがあるが、痛みに関心を持ち続け、どのようにしたらその痛みをもつ人に寄り添うことができるのか。一方では、痛みをもつ人はそもそも、痛みを理解してもらいたいと思っているか、など多様な意見が出され、議論が深まった。
第4回定例研究会
日 時:1月10日(土)14:30~17:00
場 所:国立社会保障・人口問題研究所 第4会議室
報告者:三浦恵美さん(東北大学大学院)
発表テーマ:「看護師長が認識するsuccessfulな部署運営」
要旨:今回の報告では、「看護師長が認識するsuccessfulな部署運営」と題して、看護師長が考えるsuccessfulな部署運営についてのインタビュー調査の報告を行いました。研究の背景や目的、研究方法、結果、考察が報告され、分析結果として看護師長が認識するsuccessfulな部署運営と、successfulな部署運営を達成するための行動が示されました。討論の中では、看護師長が行動する前に何かしらの目標設定となるカテゴリーがあるのではないか、successfulな部署運営を達成するプロセスには看護師長の試行錯誤がもっとあるのではないか、一方向のプロセスが得られたが循環型や円錐形のプロセスではないのか、といった議論が行われました。また、コアカテゴリーの設定の根拠についての質問、背景から示される研究目的と考察のバランスが取れていないのではないかという指摘もなされ、分析内容や考察の方向性に対しての議論も行われました。
第3回定例研究会
日 時:11月15日(土)13:00~15:30
場 所:国立社会保障・人口問題研究所 第4会議室
報告者:西原かおりさん(神戸医療福祉大学)
発表テーマ:「高齢者自身がもつ性意識と高齢者のイメージと看護師がもつ高齢者に対する性意識と高齢者のイメージ」
要旨:病院に通院する高齢者とその病院に勤務する看護師がもつ「高齢者の性意識」と「高齢者のイメージ」の差を比較した調査結果の検討を行った。調査対象者数と調査病院の地域が限られていたため信憑性にかけていること、文献検討の再確認、表現の仕方などのアドバイスがあった。また、調査結果から「看護師がもつ高齢者に対する性意識の思い」が肯定的でない意見が一部あったことが明らかになった。討論の中で今後、看護師の「高齢者に対する性意識の受け止め方」「高齢者のQOLの向上の図り方」「看護教育の再確認」などの課題が示唆された。 報告後、ジェンダーの問題について、討論が行われた。
第2回定例研究会
日 時:9月13日(土)13:00~15:30
場 所:国立社会保障・人口問題研究所 第4会議室 報告者:本多康生さん(福岡大学)
発表テーマ:「東日本大震災被災地における民生委員の活動」
要旨:2011年3月の東日本大震災で被災した東北沿岸部A町の民生委員への全数調査をもとに、民生委員が自らも被災した困難な状況の中で、発災時から避難所生活、さらには応急仮設住宅での生活に至る過程で、どのような活動を行ってきたのかを考察した。町内外の仮設完成に伴い、担当区は再編され、多くの委員は従来の担当区に残された世帯以外に、仮設や他の地区をも割り当てられ、活動を継続する上で多くの困難を経験してきたことが示された。報告後の質疑では、民生委員活動と公私の関係性、災害時要援護者登録制度の妥当性、 生活支援員制度との関連、ジェンダーの問題、などについて討議が行われた。
第1回定例研究会
日 時:7月26日(日)13:30~16:30
場 所:国立社会保障・人口問題研究所 第4会議室
報告者:松繁卓哉さん(国立保健医療科学院)
発表テーマ:「「セルフケア」の社会学の射程」
要旨:
今回の報告では、「セルフケアの社会学の射程」と題して、近年の「セルフケア」をめぐる動向に関する社会学研究の可能性(問うべき課題・異なる水準における問題設定)について述べました。「セルフケア」の営み自体は、近代医療の成立以前より人々が行ってきたものですが、近年の「セルフケア」をめぐる動向の大きな特徴は、日本を含む多くの国々で持続可能性が危ぶまれるようになった医療制度の問題と重ね合わせながら、「行政課題」として議論されている点にあります。
報告では、一事例として2000年代以降のイギリスにおけるセルフケアの振興の経緯について整理しながら、社会学研究の主題設定として(セルフケアの実践・振興における)「行為主体の問題(誰がおこなうものなのか)」「能力の問題(どのような能力が必要とされるのか)」「文化的差異の問題(どの程度普遍性を持つものなのか)」を挙げました。さらに、「セルフケア」と「フォーマルケア/正規医療」との関係性の問題、「セルフケア意識」の高まりが社会に及ぼすインパクトついて述べました。
質疑応答では、本報告が事例として挙げたイギリスのセルフケア振興策と、看護実践の中で形成されてきたセルフケア理論とのつながりや、保健・医療・福祉領域におけるセルフケア実践に対する社会学の立ち位置の問題、さらに、日本のコンテクストとの対比などについて意見交換が行われました。
2013
第4回定例研究会
<報告:看護・ケア研究部会:2013年度 第4回定例研究会、2014年度総会>
2013年度第4回定例研究会が、3月22日(土)13:30~17:00に、東京女子医科大学河田町キャンパスで開かれました。白瀬由美香さん(国立社会保障・人口問題研究所)から、「ケアの質をめぐる政策と従事者の専門性」と題して報告がありました。内容については次の通りです。本報告は、イギリス医療における事例をもとに、ケアの質を保証するための政策と従事者の専門性のありようとの関係性を探ろうとした。イギリスは租税を財源として、予算の枠内でサービス供給をする医療システムであることから、ともするとサービスが過小になりやすく、一定水準のケアの質を保つための多様な方策が講じられている。したがって、イギリスの事例は公的サービスとしてのケアの質の保証する政策の一つの極を表すものとして位置づけることができる。具体例として、受診までの待機期間の目標設定、成果に基づく診療報酬や施設基準の策定、専門職免許の更新制、診療ガイドラインの導入などが紹介された。こうした諸施策によって形成される医師や看護師の行動規範や両者の関係性、専門職として求められる資質等に関して報告者から論点が提示され、伝統的専門職論とイギリスの現状との違い、ケアサービス全体における公共部門と民間部門の占める比重に関する日英比較などに関して議論がなされた。
また、2014年度総会が、5月18日(日)に東北大学での大会中に開催されました。新役員は次の通りです。会長は中村美鈴さん、副会長は朝倉京子さん、会計は松繁卓哉さん、庶務は白瀬由美香さん。例会の日程は、7/26(土)、9/13(土)、11/15(土)、1/10(土)、3/14(土)を予定しています。毎回2人まで報告できますので、報告希望の方は事務局までご一報ください。
第3回定例研究会
<報告:看護・ケア研究部会:2013年度 第3回定例研究会>
2013年度第3回定例研究会が、1月12日(日)に東京女子医科大学河田町キャンパスで開催され、三井さよ(法政大学)が「ケア労働と組織」について報告しました。報告要旨は次の通りです。今回の報告では、ケア労働をどのように捉えられるかという試論を報告した。ケア労働のひとつの極に、報告者が以前からかかわってきた看護職をおき、もうひとつの極に近年になって報告者が参与観察している、重度知的障害・自閉の人たちの自立生活支援の現場で働く支援者たちをおきながら、ケア労働に共通した特性と、内部での多様性を捉えかえそうとした。具体的には、公私の区別の困難、専門職論の再考、新たな協働モデル、〈場〉の議論などの試案を提示した。フロアとの間で、社会学的な概念の使い方の妥当性について、看護職と地域生活支援ヘルパーの異同について、専門職の定義についてなど、さまざまな議論がなされた。
2013年度 公開企画
<報告:看護・ケア研究部会:2013年度 公開企画[福祉社会学会と共催]>
2013年度公開企画「『介護事故』をどう考えるか?――法政策の現状と、現場の状況から」(福祉社会学会と共催)が、11月30日に日本赤十字看護大学広尾キャンパスで開催されました(司会は三井さよ(法政大学)。以下、文責は三井)。
まず、長沼建一郎さん(法政大学)から、ご著書『介護事故の法政策と保険政策』の内容をご紹介いただくとともに、その後の傾向等にも解説していただいた上で、それぞれの判決について法学者の中でもさまざまな立場があることなど、わかりやすく話していただきました。そして、現在の介護事故の判決では、たとえば「もう少しなんとかできたはずだ」ということで不作為による過失を認めてしまっているが、これは福祉領域の規範(had better)と法規範(must)の混同でもあるという指摘があり、ケア言説の過剰さを改めて痛感させられました。
討論者として、まず宇城令さん(聖隷クリストファー大学)から、自治医科大学病院での転倒予防の取り組みについてご紹介いただきました。ころばぬ先のパンフレットなどの作成に加え、全病室に手すりがついたこと、そうした取り組みが実際にどのように進んだかなど、解説していただきました。
また、岡部耕典さん(早稲田大学)から、「安全性の確保」は「もっとも基本的な利益」なのだろうかという根本的なところから改めて問いが発せられました。入所施設と地域での発想の仕方について問題提起がなされるとともに、現状として家族に責任が問われてしまうことについても指摘がありました。
フロアからは、判決の議論の仕方等についても質問が出て、本人の意思をどこまで中心として考えるべきか、施設と地域の違い、ケア言説についてなど、議論がなされました。総じて、看護や介護という枠ではなく、人の生活において安全という問題をどのように考えるかという議論ができたように思います。
第2回定例研究会
<報告:看護・ケア研究部会:2013年度 第2回定例研究会>
2013年度第2回定例研究会が、9月28日に東京女子医科大学河田町キャンパスで開催され、海老田大五朗さん(新潟青陵大学)が「相互行為から柔道整復を記述する:学位申請論文『柔道整復師と患者の相互行為』の概要」について報告しました。報告要旨は次の通りです。本報告の目的は、学位論文である拙著『柔道整復師と患者の相互行為』について発表し、本論文の意義を医療実践者の集まる看護・ケア部会において議論することであった。論文において明らかになった知見を報告し、こうした知見が学術界ではどのような評価を受けるか、実践者からはどのような評価がなされるかが話し合われた。論文は医療実践者からの意見を取り入れて構成されている。本論文では大きく分けて7つのデータを分析しているが、その全てがひとつの医療的活動(たとえば問診や触診など)の始めから終わりまでを含んでいる。これは「相互行為を相互行為の断片として検討しても医療者が得られるものは少なく、ひとつの医療的活動の単位のなかに相互行為を包括したものとして提示したほうが、医療実践者としても受け入れやすい」という医療実践者の意見を取り入れたためだ。こうした医療実践者に寄り添った記述が、どのような学術的な意味を持つのか。これがくり返し問われ続けることが確認された。
第1回定例研究会
<報告:看護・ケア研究部会:2013年度 第1回定例研究会>
2013年度第1回定例研究会が、7月13日に東京女子医科大学河田町キャンパスで開催され、長峰久美子さん(東京都立板橋看護専門学校)が「知的障害者施設における看護職員と生活支援員の連携・協働に関する認識」について報告しました。報告要旨は次の通りです。本報告では、自記式質問紙調査を用いて、知的障害者施設における看護職員と生活支援員の連携・協働の実態について分析した。研究協力者は、関東圏内の知的障害者支援施設における生活介護事業の施設入所支援で勤務する看護職員と生活支援員である。報告後の討議では、知的障害者施設における両者の業務内容の差異を明らかにする必要があること、業務が重なり合う領域について両者がどのような認識を持っているかを解明すべきであることなど、今後の分析方針に関する具体的な助言をいただいた。これらの示唆をもとに、分析を精緻化し、論文執筆を進めたい。
2012
第5回定例研究会
<報告:看護・ケア研究部会:2012年度 第5回定例研究会>
2012年度第5回定例研究会が、3月9日に東京女子医科大学河田町キャンパスで開催され、まず、千葉京子さん(日本赤十字看護大学)が「ピック病と診断された若年性認知症者と妻」について報告しました。報告要旨は次の通りです。本研究の目的は、ピック病と診断された若年性認知症者の妻がどのような体験をしているかを明らかにすることであり、在宅で1年以上介護をしている妻3名に半構成的面接を行った。分析の結果、経済的困難なども体験していたが、一人の家族成員の病が、家族全体に破壊的な影響を及ぼし、妻が苦悩していることが明らかとなった。また、「愛おしさ」に焦点をあて、夫の人格の変容が夫婦関係の変容をもたらす様子を示した。報告後、相互行為や応答性について学際的な意見交換が行われ、今後の考察について重要な示唆を得た。
第4回定例研究会
<報告:看護・ケア研究部会:2012年度 第4回定例研究会>
第4回定例研究会が、2013年1月12日に東京女子医科大学河田町キャンパスで開催され、吉田千鶴さん(帝京科学大学)が「派遣看護師として介護施設ではたらく看護師の思い」について報告しました。報告要旨は次の通りです。今日では看護職のはたらき方が多様化し、正規雇用だけではなく、非正規雇用、短時間勤務などの看護師が大規模病院でも存在するようになった。本研究では介護施設で派遣看護師としてはたらく看護師を協力者とし、介護施設で派遣看護師としてはたらく意味を明らかにした。研究協力者は雪だるま方式で募り半構造化面接法を用いてインタビューを実施し、質的帰納的に分析した。また、倫理的配慮はA大学倫理審査受審後承諾を得て実施した。同意の得られた研究協力者10名の語りを逐語録にし、データ分析した結果35個の概念、9個のサブカテゴリー、3個のカテゴリーを生成した。以下にカテゴリーを≪≫、サブカテゴリーを〈〉で示す。10名の研究協力者たちはさまざまな理由で病院を辞め、次の職場を決める際、〈自分のペースではたらく〉や〈自由に職場選択〉できる職場を選び≪とりあえず派遣看護師としてはたらく≫ことを選択していた。派遣看護師として勤務を始めるとケアを通して〈派遣看護のちょっとしたやりがい〉を感じることができ≪派遣や介護施設ではたらいたからこその気づき≫を得ていた。しかし派遣ではたらいていると対象者やスタッフと関係性が継続されないこと、さらにはケア継続も困難になり≪派遣で働き続ける不安やむなしさ≫も感じていた。
第3回定例研究会
<報告:看護・ケア研究部会:2012年度 第3回定例研究会>
2012年度第3回定例研究会が、昨年11月10日に東京女子医科大学河田町キャンパスで開催され、まず、安藤こずえさん(東京女子医科大学病院)が「認知症高齢者が一人暮らしを継続するための支援のありよう」について報告しました。報告要旨は次の通りです。一人暮らしを継続できている認知症高齢者と担当介護支援専門員を対象として、認知症高齢者が一人暮らしを継続するための支援のありようを探求することを目的とした。都内4ヶ所の介護支援専門員6名と介護支援専門員が担当する一人暮らしの認知症高齢者6名に参加観察とインタビューガイドを用いた 半構成的面接法、およびケース記録による記録調査を行い、質的な分析方法に基づいて分析した。その結果、5つのカテゴリーが抽出され、認知症高齢者が一人暮らしを継続するための支援のありようは、【一人暮らしを続けるために努力している本人を後押しする】ために、本人にとって身近な存在である家族に対して【一人暮らしが不可能だと感じたら家族の助けを借りる】ことや、支援への抵抗が生じないように【本人が支援を受け入れるような技を駆使する】こと、また近隣の力を借りることや多職種の地域連携を図り【支援の輪を広げて一人暮らしの限界を乗り越えていく】こと、生命や生活の危険回避が出来なくなった時に【本人と近隣の安全は必ず守る】という働きかけをしていることであった。報告後の質疑応答では、認知症高齢者の一人暮らしを研究テーマに選んだ動機の確認や、分析の手順、カテゴリーの命名について、活発な意見交換と助言をいただき、さらなる分析の視点として重要な示唆が得られた。
次に、清水準一さん(首都大学東京)が「保健医療系調査におけるテキストマイニングの活用」について報告しました。報告要旨は次の通りです。近年、保健医療福祉の研究においてもテキストマイニングの利用が散見されている。テキストデータを数値化することで、様々な多変量解析の手法を活用し、回答の傾向を把握することができることを確認したうえで、①社会調査の自由回答では、内容も広範かつ誤字脱字や表現が多様であることなどから分析する一つの単語が多義的になりうること。②一般的な質的研究に比べ分析過程は明示的であるものの、解析の意味解釈は研究者の主観、専門性に左右されうるものであること。③分析の条件等については、明確なコンセンサスがないことなどの課題が示された。発表後は使用するソフトウェアやテキストデータの分析単位の決め方、必要となるサンプルサイズなど具体的な使用方法を中心に活発な質疑が交わされた。
第1回・第2回定例研究会
<報告:看護・ケア研究部会:2012年度 第1回・第2回定例研究会>
2012年度第1回定例研究会が、6月30日に東京女子医科大学河田町キャンパスで開催され、白瀬由美香さん(国立社会保障・人口問題研究所)が「イギリスの看護師の専門性と自律性:資格・教育・人事システムに基づく考察」について報告しました。報告要旨は次の通りです。看護師の役割や業務範囲の在り方に関する近年の議論では、アメリカのNpやCNSなどを事例とした高度実践看護師の状況がしばしば言及されている。しかしながら、医療制度や専門職資格体系に関する日本との社会的基盤の違いについては必ずしも議論がなされていない。本報告は、諸外国の看護師制度をどのように理解すればよいかという問題関心のもと、イギリスの看護師の資格・教育・人事システムについて検討を行った。その上で、看護師の専門性と自律性に関する特徴について考察をした。イギリスでは基礎教育段階から成人・小児・精神保健・知的障害という4つの分野別に看護師が養成されており、その後のキャリアパスについても、限られた範囲(診療科、疾病、年齢層)の患者を対象とした実践の高度化を追求していくシステムとなっていた。さらに、専門性の追求とは臨床実践だけを指すのではなく、マネジメント、教育、調査研究という4つの方向性があった。そして、看護助産協議会(NMC)という団体が看護師免許の管理(3年ごとの登録の更新、免許の取り消し)、養成カリキュラムの認可などを行っていることは、看護職が国家や他の医療専門職、一般市民に対して、職業集団として自律性を持つことを示していると考えられた。イギリスでは看護師の従事する業務範囲が法令等で規定されておらず、臨床現場における各々の看護師は、雇用契約で定められた範囲内で自律的な活動をしていた。こうした事実に対して、会場の参加者からも多くの質問、意見が出され、日本の看護師が置かれた現況についても活発な議論がなされた。
第2回定例研究会が、9月15日に東京女子医科大学河田町キャンパスで開催され、まず、朝倉京子さん(東北大学)が「看護師の自律的な判断の様相」について報告しました。報告要旨は次の通りです。臨床経験の豊富なジェネラリストの看護師達がどのように自律的な判断を行っているのかを質的帰納的に明らかにすることを目的とし、臨床経験8年目以上の看護師19名に半構成的面接を行った。分析の結果、3種類5つのカテゴリーが抽出され、経験豊富な看護師達は患者の希望や意思をつなぐという共通の目標に向かって、自らの知覚を駆使し他の看護師と判断を共有しながら、療養上の世話に係る判断を自律的に行う一方で、医師の指示を吟味し、必要な場合は医師の指示を補うほどの影響力を有する自律的な判断を下している様子が記述された。報告後、学際的な意見交換が行われ、今後の分析の方向性について重要な示唆を得た。
次に、谷川千佳子さん(北海道大学大学院)が「看護職場の労働編成」について報告しました。報告要旨は次の通りです。100床台規模病院の外来看護部門を事例に、参与観察と聴き取り調査から外来看護労働の構造を労働編成と労働過程のあり方の実態を報告した。労働編成については特に看護の職場における能力主義管理に基づく人事労務管理と配置について取り上げた。労働過程については、外来診察の実際を時系列で観察し、そのスケジュール管理と人員配置の教育的志向性をとりあげた。総じて、職務遂行には立体的な能力が求められ、日々訓練が行なわれているとの趣旨で報告した。質疑応答では、看護を国内の一産業として位置づけようとするならば他産業との対比があると見えやすいだろう、電子カルテ化や人員配置合理化は当該規模の医療機関でも今後推進されると見込まれるため研究対象施設の規模を広げることを勧める、労働過程分析のための観察方法再考についてなど多くのご助言を賜った。今後も看護師自らの陶冶とそのインセンティブ、それを支える組織的構造の実態に迫りたい。
2011
第5回定例研究会
<報告:看護・ケア研究部会:2011年度 第5回定例研究会>
2011年度第5回定例研究会が、3月17日に東京女子医科大学河田町キャンパスで開催され、中村美鈴さん(自治医科大学)が「生命の危機状態にある患者に代わり延命治療の意思決定を担う家族に関する研究」について報告しました。報告要旨は次の通りです。患者に代わり延命治療の実施に関する意思決定を行う家族は衝撃と混乱の中で患者の状況や治療に関する複雑で多様な説明を受け、意思決定を余儀なくされることも多い。今回明らかにされた《家族が患者の現状や治療による効果および影響を理解し受け入れられるような関わり》や《家族の状況を把握し苦悩をサポートするような関わり》は、家族の身近にいる看護師にとって重要な関わりといえる。また、家族の状況を把握した看護師が《家族と医師との橋渡しや関係性を保持するような関わり》を持ち、《患者・家族への医療・看護方針を統一するような関わり》をしており、医療職者と家族との間の調整や医療職種間の統制といった関わりも重要なものであることが推察される。しかし、《家族と共存できる時間・場の確保が難しい》と勤務中に家族との時間を割くことの難しさや、《患者が危機的状況にある家族に踏み込むのは難しい》といった困難を抱えており、家族に積極的に関わる必要性を感じながらも十分出来ないといった葛藤が生じていることも推察された。これらのことから、支援を必要としている家族に時間を割けるような勤務体制やこのような家族にどのように対応していくかを話し合える体制を整えるなど、看護師が抱えている困難を可能な限り軽減・解決していくことが家族の意思決定プロセスを促進するために重要であると考える。その後、学際的な議論がなされ、考究すべき課題をさらに見出せた意義ある会であった。
新役員について:先日の大会時[5月20日(日)]に看護・ケア研究部会総会が行なわれました。新役員の役割分担は、会長:三井さよ(法政大学)、副会長:千葉京子(日本赤十字看護大学)、会計:吉田澄恵(東京女子医科大学)、庶務:本多康生(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)。今後の方針として、従来通り看護職を中心とすること、同時にケア全般に視野を広げ、関東定例研究会や福祉社会学会と共催での研究会を開催するなどの案が出されました。今後も多くの方々にご参加いただけるような会にしていくため、新役員一同、努力してまいります。