専門性を「つなぐ」ための、周産期・小児医療センター
小児の高度医療では、一つの診療科だけで治療が完結するとは限りません。慶應義塾大学病院では2013年、妊娠・出産から新生児期、乳幼児期、学童期、思春期までを連続して支えるため、周産期・小児医療センターを開設しました。小児科・小児外科・産科を核に、小児の診療に関わる内科系・外科系部門が連携し、病気そのものだけでなく、成長・発達や退院後の生活まで見据えた医療を行っています。
多様な専門性と、ひとつのチーム
小児科の12専門班だけでなく、小児外科、心臓血管外科、脳神経外科、泌尿器科、整形外科、形成外科、臨床遺伝学センター、麻酔科、放射線科、歯科・口腔外科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、皮膚科、眼科などが、患者さんの病態に応じて一つのチームとして診療します。
診療科の境界を越えて必要な専門家が集まり、「どの科の患者さんか」ではなく「この子に何が必要か」を中心に考えることが、センター診療の大きな特徴です。
ワンフロアでつながる入院診療
入院部門は1号館6階に集約され、産科・MFICU、新生児集中治療室(NICU)・GCU、小児病棟、小児ICUが近接しています。出生前から新生児期、その後の小児医療まで、病状の変化に応じてスタッフが速やかに連携できる「ワンフロア型」の診療環境です。
小児ICUを中心に、診療科が集う
小児ICUは、重症感染症や呼吸・循環不全などの内科系重症患者に加え、小児外科、心臓血管外科、脳神経外科、形成外科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、整形外科などの大きな手術を受ける子どもの周術期管理も担います。
小児科の急性期・集中治療班が24時間体制で診療し、各専門班、外科系診療科、NICU、成人ICU、麻酔科などと協働します。複数の診療科が同時に関わる複雑な病態でも、小児ICUを共通の診療基盤として密に情報を共有できることが強みです。

職種の壁を越える、チーム医療
センターの連携は医師同士だけではありません。看護師・助産師、薬剤師、診療放射線技師、事務スタッフ、保育士、チャイルド・ライフ・スペシャリストなど、多くの専門職が日常的に協働しています。治療の安全性だけでなく、子どもの不安を和らげ、家族の生活を支え、退院後の成長・発達につなげることまでをチーム全体で考えます。
熊谷祐美さん
「小児看護専門看護師」として様々な課題解決・調整を
慶應義塾大学病院の小児病棟で勤務をスタートした後、小児看護専門看護師の資格取得を目指して大学院(修士課程)へ進学しました。2014年に小児病棟へ戻り、慶應義塾大学病院として初めての小児看護専門看護師として勤務することになりました。小児看護専門看護師の役割は実践、調整、倫理調整、相談、教育、研究と多岐にわたります。大学病院で療養する様々な基礎疾患や社会背景を持つ患者さんに対して、より質の高い小児看護を提供したいと考えています。また、大学病院ならではの多種多様な医学的状況を持つ患者さんに対して、十分なエビデンスサーチをした上で、個別に適切な看護が提供できるよう努力しています。
また、多職種間の調整や地域医療サービスの調整においても、少しでも患者さんの療養環境を良くできるように務めています。安全な医療を目指し看護が標準化される中で、ひとりひとり異なる背景を持つ患者さん・ご家族それぞれに個別化された課題解決を提案できればと考えています。長期療養が必要となる患者さんご家族は特にメンタル面でのケアが大切で、点ではなく線へとつながる関わりを心がけています。伏見幸弘さんと協働して、プレパレーション(後述)を行うこともあります。
小児専門病院ではなくても「子ども中心の医療」を実現したい
大学病院である慶應義塾大学病院の患者さんの大部分は成人であり、小児専門病院のような「全てが子ども向け」という環境を作ることはできません。しかしそういった環境においても、できる限り子どもを中心とする医療、看護を行えるように工夫しています。2018年からは診療放射線技師、臨床検査技師の有志の方々らと、子どもの検査に関する取り組みをしています。例えば、画像検査を受ける子どもに対し、子どもの認知発達に応じた説明を行い、不安をやわらげることで、鎮静をせずに検査を行うことができることもあります。また、検査や処置終了後に「シール帳」にシールを貼り、頑張りを可視化するなど、子どもが前向きに臨めるような工夫も取り入れています。
小児病棟の看護師たちはそれぞれに思いをもって働いているのですが、それだけでなく、他部門や他の職種の方、いろいろな診療科の医師たちとも協働することで、慶應義塾大学病院の中で子ども中心の医療、子どもの権利を尊重した医療を実現したいと考えています。
伏見幸弘さん
「病院にくる全ての子どもにかかわる」スペシャリストを目指して
慶應義塾大学病院に就職した後、脳神経外科病棟と血液内科病棟で勤務しました。血液内科病棟勤務時代に、がんの親をもつ子どもサポートチーム(SKiP KEIO)が立ち上がりました。「SKiP KEIOで子どもの心のケアで貢献したい」と考えて米国留学を決断、4年間の留学を経てチャイルドライフスペシャリストの資格を取得しました。慶應義塾大学病院に復帰した際、看護部から「病院にくる全ての子どもにかかわってほしい」と伝達されました。それは子どもを理解し、子どもの権利を尊重し、子どもたちの自発性を引き出してゆくことだと考えました。病気との戦いをトラウマとしてしまうのではなく、病気と戦った経験、乗り越えた経験をその後も続く人生の中で意味を持たせたい、と考えています。
帰国してからはSKiP KEIOとしての活動に加えて、小児病棟と救急外来における子どものケアを行っていますが、それらに加えてAYA世代男性の支援も並行して行っています。小児病棟では、子どもたちが負担の強い検査を受ける時、抗がん剤など副作用の強い治療を受ける時などに、ひとりひとりの子どもたちの発達段階に合わせて、人形やタブレット端末などを使って説明するプリパレーションを行っています。これによって、恐怖心や不安を最小限するとともに子どもたちなりに主体的に病気と立ち向かえるように支援することができます。例えば、病院というと「怖いところ」というイメージがどうしても先行してしまうものですが、環境を調整することでそのイメージを和らげることができます。ある時、自己末梢血採取の処置をとても怖がっていた女の子がいたのですが、処置室を大好きなディズニーのキャラクターで飾ることで、無事にこの処置を乗り越えることができました。
親が治療中であっても「我が子を大切にできるように」
SKiPでは、がんの親を持つ子どもを支援しています。血液内科で勤務していた頃、がんの治療はうまくいったけど家庭生活が大変になってしまった、というご家庭をいくつも見てきました。「我が子を大切にする」という親の役割を、がん治療を受けながら継続できるように支援しています。日本のチャイルドライフスペシャリストは小児病院で勤務している方ばかりで、同様の試み(がんの親を持つこのサポート)は独自性の高い取り組みだと思います。米国でもほとんど行われていません。この新しい取り組みを成功させ、その成果を世界に向けて発信してゆきたいと考えています。
病院全体で子どものケアの質を高めていきたい
院内を横断的に活動する中で、特に大切にしているのが同僚とのコミュニケーションです。いろいろな方と話す中で、思いもしなかったようなアイディアにめぐりあうことがあります。例えば、救急外来でのこどものケアをした際には、子育て経験のあるお母さん看護師からいろいろなアイディアをいただきました。チャイルドライフスペシャリストの技法を一人で実践することもできますが、自分に与えられた役割は部署全体のレベルアップだと考えています。
米国では看護師は看護師の業務、チャイルドライフスペシャリストはチャイルドライフスペシャリストの業務といった分業が明確ですが、日本の看護師は看護をしながらプレパレーションの役割も果たしたりしています。専門家である自分がプレパレーションに関わることで、病棟全体の子どものケアの質を高められるよう、役割を果たしてゆきたいです。
出生から成長まで、切れ目なく支える
出生直後の新生児医療から、重症小児の集中治療、一般小児病棟での入院診療、そして外来での長期的なフォローまで。各部門が近接し、診療科と多職種が情報を共有することで、子どもの成長に沿った切れ目のない医療を提供しています。
NICU・GCU
急性期治療を担うNICUと、退院までの成長を支えるGCUを整備しています。産科や小児外科をはじめとする各診療科と連携し、出生直後から専門的な新生児医療を提供するとともに、ご家族が安心して育児を始められるよう退院後まで見据えた支援を行います。
小児病棟
乳幼児から学童・思春期まで、幅広い年齢と疾患の患者さんを受け入れています。12の専門班と外科系診療科、多職種が日常的に連携し、治療だけでなく、入院中の学びや遊び、発達、家族との時間にも配慮した療養環境を整えています。
小児ICU
内科系・外科系を問わず、生命の危機にある子どもや大きな手術を受ける患者さんを24時間体制で受け入れています。小児科各専門班と小児外科、心臓血管外科、脳神経外科、形成外科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科などが、小児ICUを共通の診療基盤として密に協働します。
外来診療
産婦人科、小児科、小児外科の外来は同じフロアに配置され、出生前から乳幼児期、学童期、思春期へと継続して診療できる環境を整えています。複数の診療科を受診する患者さんでも、必要な専門家へつながりやすいことが大きな特徴です。
病気を治すだけでなく、子どもと家族の未来まで
高度な治療を提供することはもちろん、子どもの発達や学校生活、家族との関係、退院後の暮らしまでを見据えて支援します。思春期から成人期には成人診療科とも連携し、成育医療・移行期医療へつなげます。センター全体で、子どもを中心に据えた全人的な医療を目指しています。
