私たちの診療
小児科臨床の歴史を振り返ると、感染症の克服を主なテーマとする時代が長く続きました。1980年代以降、先天性心疾患、小児がん、小児神経疾患、新生児医療などの専門化が進み、より多彩で個別化された小児医療が実現されるようになりました。私たちの教室も時代の変化に合わせて進化を続け、現在では10を超える専門診療グループが活動しています。各分野のスペシャリストがそれぞれの強みを発揮するとともに、複数の専門領域を組み合わせたチーム医療を得意としています。また、子どもの病気の救命率が改善するなかで、病気とともに生活する患者さん・ご家族のメンタルヘルスにも早くから注目してきました。患者さん・ご家族のこころのケアに20年以上取り組み、患者さんを社会の中で生きる一人の人間として捉える全人的医療を実践しています。
私たちの研究
慶大小児科では、日々の診療で出会う患者さんから生まれた疑問を出発点に、疾患の原因や病態を明らかにする研究を長年にわたり展開してきました。22q11.2欠失症候群に伴う心血管・頭蓋顔面異常の分子病態の解明(Yamagishi et al., Science 1999)をはじめ、先天性副腎低形成・造血異常・成長障害などを呈し、骨髄異形成症候群の病態理解にも大きく貢献したMIRAGE症候群の発見(Narumi et al., Nature Genetics 2016)は、その代表的な成果です。近年においても、ZNRF3 exon 2の単一エクソン欠失による新たな先天性副腎低形成症の病態解明(Amano et al., J Clin Endocrinol Metab 2024)、先天性甲状腺機能低下症と多結節性甲状腺腫を結びつけるCHNG3の分子病態の解明(Narumi et al., Nature Genetics 2024)、CPOX欠損症による原発性副腎機能低下症・46,XY性分化疾患という新たな疾患概念の確立(Honda et al., J Clin Endocrinol Metab 2025)など、新疾患の発見や病態解明を精力的に進めています。
私たちの研究領域は、希少疾患の遺伝学にとどまりません。感染症・腸内細菌分野では、健常者由来の18種類の腸内常在菌からなる「細菌コンソーシアム」が、腸管内の栄養環境を制御することで腸管炎症を抑えることを明らかにしました(Furuichi et al., Nature 2024)。これは、小児感染症を専門とする臨床医が、日々の診療での問題意識を微生物学・腸内細菌学の基礎研究へと発展させた大きな成果です。
さらに、株式会社ファーストアセントとの産学共同研究として、育児メモアプリ「パパっと育児」を通じて得られる大規模なリアルワールドデータを小児医学に活かす慶應デジタル小児医学プロジェクト(Keio Digital Pediatrics Project; KDiP)を推進しています。成長・発達、睡眠、食事、排泄、予防接種など、日々の育児で蓄積されるビッグデータを多角的に解析し、従来の病院診療だけでは捉えにくかった子どもの健康と生活の実態を解き明かすことを目指しています。これまでに、アプリの記録から乳幼児のワクチン接種後発熱の実態と関連因子を明らかにしたほか(Furuichi et al., Vaccine 2025)、約6万人分のデータに基づき、2019年の離乳支援ガイド改定後に離乳食開始時期が早まったことを示しました(Kaburagi et al., Eur J Clin Nutr 2026)。
一人の患者さんから生まれる臨床上の問いから、ゲノム・細胞・腸内細菌、そして数万人規模のリアルワールドデータまで――。現場で生まれた疑問を研究へと深め、そこで得られた知見を再び患者さんの診断・治療、さらにはよりよい子育てや小児医療へと還元すること。それこそが、私たちが最も大切にしている姿勢です。

私たちの教育
私たちは、慶應義塾の特徴ともいえる「人間形成を目指した教育」に教室員一丸となって取り組み、指導的立場の小児科医や小児医学研究者を多数輩出してきました。大学病院に加え、地域医療を担う拠点病院や、国立成育医療研究センター、東京都立小児総合医療センターなどの小児医療に特化した施設と機動的に連携し、多様性に富んだ学習環境を提供しています。理想とする医師像は一人ひとり異なります。カスタマイズされたキャリアパスのなかで自らの可能性を試し、夢に挑む機会を得られることが私たちの強みです。また、「臨床と研究」「仕事と生活」のバランスにも十分に配慮し、一人ひとりが持てる力を最大限に発揮できる環境と文化を育んでいます。学習と実践のサイクルを効率よく回し、技術面だけでなく人格面でも優れた小児科医を育成します。
慶應義塾大学医学部 小児科学教室 教室主任 鳴海 覚志
Mission, Vision, Value
Mission
私たちは知識・技術・人間性を備えた小児科医を育成し、子どもの健康と幸せに貢献します。
Vision — Keep Growing
私たちは成長し続けます。子どもたちの健康と幸せを決してあきらめず、よりよい小児医療を目指して学び、考え、挑戦を続けます。
Value — 5つのC
私たちが大切にする行動指針は、Clear、Colorful、Communicative、Coordinated、Challengingの「5つのC」です。
Clear
科学的・合理的・わかりやすい説明
学術としての小児科学に真摯に取り組み、自然科学や小児科のトップジャーナルへ情報発信を行います。流行にとらわれず、本質的で効果的な診療へとアップデートを続けます。
Colorful
多彩・多様な人材・環境・キャリアパス
小児医療の主要領域を幅広くカバーし、プライマリケアから高度なチーム医療まで、多彩で多様な小児医療を学べる環境を整えています。一人ひとりに合ったキャリアをともに見つけます。
Communicative
仲間・連携・ナラティブ
多くの仲間がつながり、小児外科をはじめとする他診療科とも密に連携しています。患者さん・ご家族と丁寧に対話し、その目線に立った医療を大切にします。
Coordinated
チームワーク・全人的医療・自律
チームとしてのまとまりを重視し、心のケアを含む全人的医療につなげます。同時に、個人としての自律と独立も尊重し、自ら学び続ける力を育てます。
Challenging
挑戦者精神・ユニークさ・世界基準
新しいことに柔軟かつ機敏に挑戦し、ユニークな診療・研究・教育を皆で創り上げます。成果を国際的に発信し、世界の小児医療に貢献します。
教室主任略歴
鳴海覚志 慶應義塾大学医学部教授(小児科学)・小児科学教室主任
現職
慶應義塾大学医学部教授(小児科学)・小児科学教室主任
慶應義塾大学病院副病院長
担当:病院運営(入院・病床稼働管理)、医療連携、医療情報システム、AIホスピタル推進
学位・資格
博士(医学)(慶應義塾大学)
日本小児科学会認定小児科専門医・指導医
臨床遺伝専門医・指導医
内分泌代謝科専門医(小児科)・指導医
略歴
- 2001年
- 慶應義塾大学医学部卒業/慶應義塾大学病院小児科研修医
- 2003年
- 川崎市立川崎病院小児科専修医
- 2005年
- 慶應義塾大学大学院医学研究科(博士課程)入学
- 2009年
- 慶應義塾大学医学部小児科学教室特任助教
- 2016年
- 国立成育医療研究センター研究所分子内分泌研究部室長
- 2023年
- 慶應義塾大学医学部教授(小児科学)・小児科学教室主任
- 2026年
- 慶應義塾大学病院副病院長
主な学会役職
- 日本小児科学会 理事(2026年~)
- 日本小児内分泌学会 理事(2021年~)
- 日本甲状腺学会 理事(2025年~)
- 日本人類遺伝学会 評議員(2020年~)
- 日本内分泌学会 評議員(2015年~)
主な受賞歴
- 2008年 日本内分泌学会 若手研究奨励賞
- 2013年 日本小児内分泌学会 学術賞/日本甲状腺学会 七條賞
- 2015年 日本内分泌学会 研究奨励賞
- 2017年 日本人類遺伝学会 奨励賞
- 2019年 慶應医学賞 ライジング・スター賞
- 2022年 日本小児科学会 学術研究賞
- 2024年 三四会賞(北島賞)
- 2025年 小児医学川野賞(基礎分野)

