ごあいさつ

科長 金澤 素  

東北大学病院心療内科長
金澤 素

心療内科科長の金澤素(かなざわもとより)がご挨拶申し上げます。私は1991年に当院の心療内科に入局し、内科一般ならびに心療内科領 域の専門診療の研鑽を長年積んで参りました。そして、2024年4月から科長(特命教授)を務めています。
心療内科は、ストレスによって発症あるいは増悪する疾患群(ストレス関連疾患)を診療対象にしています。当科では、内科の一領域としてストレスが影響する内科疾患(これを「心身症」と総称します)を中心に診療にしています。ストレスは様々な身体器官の機能異常を生じさせるだけでなく、器質的疾患も悪化させます。心身症では、ストレスによって臓器の変化だけでなく、自律神経系や中枢神経系の異常がみられます。ストレスと症状の関連性をよく理解するために、患者さんの心理状態と社会的背景を詳しく評価し、それらが症状あるいは身体の異常にどのように影響するのかを診断します。その上で、一般的な身体的治療に加えて、ストレス軽減のための薬物療法や心理療法などの治療法(これを心身医学的治療とよびます)を実施するのが心療内科の役割です。
  当科では、ストレス関連疾患の中でも機能性消化管疾患(過敏性腸症候群など)や摂食症(神経性やせ症など)の診療と研究を主に行っています。当院では我が国でも有数の過敏性腸症候群の専門医療機関として、多くの医療機関群と協力して診療にあたっています。過敏性腸症候群は有病率がとても高い(よく罹りやすい)のですが、心身医学的治療を含む全人的・体系的な治療が必要とされる消化器疾患の1つです。私たちは世界各国の機能性消化管疾患の専門家と情報交換を行って最新の医療を追求しています。
一方、東北大学病院は厚生労働省・宮城県の支援を得て宮城県摂食障害治療支援拠点病院として機能しています。そこでは当科を中心に関連する診療部門が協力し合って摂食障害治療支援センターとして活動していますが、当センターでは摂食障害の専門診療を実践しているだけでなく、摂食症患者さんやそのご家族、あるいはその支援者への相談、啓蒙(市民公開講座や研修会など)、医療・行政機関との連携活動を精力的に行っております。
研究面では、これまで様々な最先端のモダリティ(手法)を用いてストレス関連疾患の病態を探求し、新たな治療法の開発に取り組んできました。具体的には、大規模疫学調査、MRIやPETを利用した脳機能画像検査、脳波から導出する内臓知覚誘発電位検査、消化管運動機能検査、バロスタット装置を用いた内臓知覚検査、質問票を用いた心理計量測定、血液や尿検体からの新たなバイオマーカー探索あるいは遺伝子多型分析、経頭蓋磁気刺激による治療、腸内フローラの評価とその介入治療、新たな心理療法プログラム(認知行動療法など)の開発などが挙げられます。これらの研究は当科で単独で実施するほか、国内外のネットワークを活用して様々な専門研究機関と共同して実践しております。
当科の研修プログラムでは、日本内科学会による内科専門研修カリキュラムに即した医師臨床研修を修了し内科専門医を取得することが可能です。また、当院は日本心身医学会・日本心療内科学会の心療内科専門医研修施設に認定されていますので心療内科専門医を効率良く取得することができます。研究を深め、新しい医学・医療に貢献したい人には、博士(医学)を取得する道を推奨します。これは意外に知られていないのですが、心療内科医は、心身を深く診療するスキルが求められるため、医学・医療の中でもこれからの多様な時代に最も必要であり、一人ひとりの患者さんに最もふさわしい医療(テーラーメイド医療)の提供に寄与し、一貫して全人的医療を追い求めそれを実践できる素晴らしい領域なのです。
心療内科が担当する疾患群には、次々に新しい現象が見つかっており、それは恒常性維持システムを理解することにも大いに役立ちます。そして、その診療や研究を通してこれからの新薬や新規治療法の開発が盛んになっているホットな領域でもあります。心身医学的知見から患者さんを治癒に導くための普遍的な原理を見出し、それに基づいて科学的な治療を追求すること、これが東北大心療内科の目標です。どうぞ宜しくお願いいたします。