心療内科のこと

 心療内科ではどんな病気を治療しているのでしょうか。「心療」だから心の病気?それとも「内科」だから体の病気?心療内科がどんな病気を治療するのか、よくわからないという方は多いと思います。ここでは心療内科で扱う病気と治療についてお話しします。

心身症

緊張した時やいやなことがあった時などに決まって調子が悪くなる、ということはありませんか。ストレスが原因で体の病気が起こったり、あるいは体の病気がストレスで悪化する、そのような病気をまとめて心身症と呼んでいます。
日本心身医学会は心身症を次のように定義しました。

心身症とは身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、 器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病など、 他の精神障害に伴う身体症状は除外する。

心身医学の新しい診療指針(心身医学第31巻574頁)

まず言っているのは、心身症は体の病気であり、病気の始まりや途中経過に、心の問題や社会との関わりが強く関係しているものだということです。

『器質的ないし機能的障害』というのは全く耳慣れない言葉です。体のある部分が壊れたり色や形が変わってしまった りした状態になるのを器質的障害と言います。癌や潰瘍など、世の中で体の病気と考えられるもののかなり多くが、何らかの上で の形や色の変化を起こしていますから、内視鏡やX線、CT、MRIなどで異常だとわかります。あるいは採血などの方法で異常 だとわかる場合もあります。ある程度の規模の病院であれば持っている機械、検査装置などで確かめられる異常を、器質的異常と呼んでいます。

しかし、見た目には全く変化が起こっていなくても体のある部分の働きが変わってしまった状態になることもあります。 みぞおちがとても痛くて胃がおかしいと思い、胃カメラ検査を受けたが何でもないということが時々あります。 そんな時には実は、胃が激しく動く、あるいは動きが悪くなることで痛みが起こっているかもしれません(運動の異常)。 あるいは、胃の感覚が敏感になっているために、ちょっとした刺激で激しい痛みを感じているのかもしれません(感覚の異常)。 このような形の変化とは異なる運動や感覚の変化による病気を機能的障害と呼んでいるのです。 心身症では、器質的な異常だけなく、機能的な異常も目を向けなければなりません。

最後に、うつ病など心の病気に伴う身体の症状は除くと言っています。うつ病ではしばしば食欲がなくなったり、頭痛などの体の痛みを生じたりしますが、それは心身症には含まれないということなのです。

心身症の定義を満たすような病気としては、頭痛、高血圧、糖尿病、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、気管支喘息、 アトピー性皮膚炎など多岐にわたっています。しかしそのすべてを心療内科で治療しているわけではありません。

例えば胃潰瘍の発症や経過にはストレスが深く関わっています。しかし心療内科で特別な治療を行うことはありません。 現在胃潰瘍の治療はH2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬と呼ばれる、胃酸を抑える薬によるものが主流となっていて、 この薬を服用するだけで十分な治療効果が得られます。一般の内科、消化器内科で胃酸を抑える薬を処方すればよくなるので、 心療内科で専門的な治療をする必要はありません。心療内科ならではの専門的な治療とは何か、それはのちほどお話しします。