<雑談>

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初学者向けに間違ったアプローチを提案?

 医療分野の様々な問題点を雑談集として集めてみました。
私が実際に経験したり、医療関係の仲間から聞いたエピソードです。

 また、投稿した時の実際にあったエピソードです。
日本内科学会雑誌に掲載されたシリーズ連載に対するコメントに対する編集委員会の対応です。
「シリーズ One Step more〜苦手を得意に!血液ガス」というシリーズだったのですが、
初心者が勘違いするような内容があったので、その点の改善を要求したものです。
元の文章を転記することは許可なくできないので、どのような内容であったかは
「シリーズ One Step more〜苦手を得意に!血液ガス 第3回 腎臓領域篇:血液ガスの知識と活用」 日内会誌 108:1777-80, 2019
をご参照ください。
内容を見ていただきながら、以下の記載を確認していただければと思います。

日本内科学会雑誌 編集主任 殿

 本会誌2019年6月号掲載の「シリーズ One Step more〜苦手を得意に!血液ガス 第3回」(第108巻 第6号 1777−1780)を興味深く拝読しました(1)。腎臓領域外の方々の理解促進のために、呈示症例の診断に関していくつかコメントさせて頂きたく存じま す。
1.    症例の血液ガス所見について
 呈示された血液ガス分析所見(pH 7.100, PaCO2 32.9 mm Hg, HCO3 8.6 mmol/l)の何れかの転記ミスと推測します。現在市販されている血液ガス分析装置はpHとPaCO2を実測し、これらからアルゴリズムに基づき HCO3を計算しています。メーカーにより異なるアルゴリズムを使用しているのが現状ですが、pH 7.100, PaCO2 32.9 mm Hgから得られるHCO3はシリーズ第1回のHenderson-Hasselbalch式に基づくと9.9 mmol/lですし(第108巻 第4号 757−763)(2)、市販されている装置のアルゴリズムでも通常は10 mmol/l前後の値が与えられるはずです。

この辺りの説明はHenderson-Hasselbalchの式をご参照ください。

2.    図1の表記について
 アシデミアから代謝性アシドーシスへの表記変更を推奨します。アシデミアをGapアシドーシスとnon-Gapアシドーシスに分類する表記ですが、厳密には代謝性アシドーシスを伴わない呼吸性アシドーシスがアシデミアを呈する場合もあります。
 診断1と2は独立した診断ステップです。Na−Cl−HCO3の値に関係なくNa−Cl値を評価します。Na−Cl−HCO3<12はNa以外の 血清陽イオン増加(ブロム中毒・リチウム中毒・ヨード過剰・陽性荷電免疫グロブリン増加等)を示唆し、Na−Cl<36がnon-Gapアシドーシ ス(高クロール性アシドーシス)を示唆します(3)。Na−Cl−HCO3<12であってもNa−Cl<36でなければnon-Gapアシ ドーシスではありません。Na−Cl値に関しては、下記に記載するように血清アルブミン濃度(Alb)異常を伴う場合は36では無く“36−2.5x (4−Alb)”と比較する注記が必要です。

具体的は症例で確認してみてください
症例1
症例2
症例3

3.    Na−Clの正常値について
 「Na−Clの考え方」の解説でも、注意点「AGの読み方」と同様に、Alb異常合併時にAlbに基づく補正(Alb補正)が必要な記載が必要です。 Na−Cl正常値36は、AG=Na−Cl−HCO3の右辺のHCO3を移項しNa−Cl=AG+HCO3が得られることから、AGとHCO3の各正常値 12と24から得られた値(12+24=36)です。従って、Alb異常を伴う場合は、AGと同様にNa−Clに対してもAlb補正を行わないと適切な診 断ができません。具体的には、Na−Cl正常値として36から2.5x(4−Alb)を減じた値“36−2.5x(4−Alb)”の使用が推奨され、36 の一律使用は推奨されません。

4.    図2「AGの読み方」のGamblegram表記について
 AGとNa−Clに対してAlb補正が必要なことが現在の表記ではわかりにくく、一般的なGamblegram表記を推奨します(4)。陰性電荷と陽性 電荷の棒グラフとAG相当部分を表記する添付のGamblegram(図1)をご参照ください。AGとNa−Clに対してAlb補正が必要なことと、上記 2の後半で記載したNa以外の血清陽イオン増加によりAGが減少することが図から読み取ることができると思います。

5.    AG (Na−Cl−HCO3)の正常値について
 AG正常値12はイオン電極法による測定以前の血清電解質濃度(Na, Cl)に基づいた値であり、イオン電極法による測定が一般的な現状では正常値は12より低値となる場合が多いことが指摘されています5)。 Gamblegram(図1)で示されるように代謝性酸塩基異常を伴わない血清中ではアルブミンの陰性荷電がAGをほぼ占めること、AG補正式の根拠でも あるAlb 1 g/dlあたりの陰性荷電が2.5 mEq/lであることから、AG正常値として2.5xAlbを使用することを推奨します。Alb異常を伴わない場合のAG正常値としては、Alb正常値 4.0 g/dlに対応した2.5xAlbの値10を推奨します。
 AG正常値2.5xAlbを用いて簡便に代謝性酸塩基異常を診断できる方法をAmerican Journal of Medicine誌上で発表しておりますので、診療にお役立て頂ければ幸甚です(6)。

この診断法に関しては酸塩基診断進化型をご参照ください。

著者のCOI(conflict of interest)開示:本論文発表内容に関して特に申告なし

文献
1) 岩野正之:「シリーズ One Step more〜苦手を得意に!血液ガス 第3回 腎臓領域篇:血液ガスの知識と活用」 日内会誌 108:1777-80, 2019.
2) 西眞一:「シリーズ One Step more〜苦手を得意に!血液ガス 第1回 基礎解説篇:腎臓内科医からみた酸塩基平衡障害」」 日内会誌 108:757-63, 2019.
3) Berend K, et al.: Physiological Approach to Assessment of Acid-Base Disturbances. N Engl J Med 371:1434−45, 2014.
4) Gamble J: Chemical Anatomy, Physiology, and Pathology of Extracellular Fluid. Cambridge, Harvard University Press, 1950.
5) Kraut JA, et al.: The Serum Anion Gap in the Evaluation of Acid-Base Disorders: What Are Its Limitations and Can Its Effectiveness Be Improved? Clin J Am Soc Nephrol 8:2018-24, 2013.
6) Tanemoto M: Calculated Bicarbonate for Acid-Base Disorders. Am J Med 130: 1135−6, 2017.

このコメント投稿に対する編集部からの返答は以下で、掲載拒否でした。

「このたびは「Letter to the Editor」にご投稿いただき、感謝申し上げます。
先生からいただいた詳細なご指摘は、貴重な内容であると考えます。
ただし、今回のシリーズ連載「One Step more~苦手を得意に!血液ガス」につきましては、初学者、あるいは血液ガスの解釈を難しいと感じている内科医に向けて、非常に簡単なアプローチを提案するコンセプトで開始いたしました。
従いまして、先生のご指摘は正しいものの、掲載コンセプトから、今回は「Letter to the Editor」としての採用を控えさせていただきたく存じます。ご理解いただければ幸甚です。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。」

初学者、あるいは血液ガスの解釈を難しいと感じている内科医に向けて、
非常に簡単なアプローチを提案するコンセプトなので、間違った診断に至ってしまうことは仕方ない?
という判断なのでしょうか?