<電解質異常>

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電解質異常>>酸塩基平衡実際篇はこちら

腎臓は体液の組成を一定に維持する機能を持っており(ホメオスタシスといいます)、腎臓の機能異常で血液組成が乱れます。
血液組成の主なものとして
  1. ナトリウム (Na)
  2. カリウム(K)
  3. カルシウム(Ca)・リン(iP)
をあげることができます。
さらに、血液は中性(pH 7.4)に維持されており、腎臓の機能異常ではこの異常(酸塩基異常)が起こります。

ナトリウム異常

腎臓は血清Na濃度を135-145 mEq/lの範囲に維持するように機能しています。
血清Na濃度<135 mEq/lを低Na血症
血清Na濃度>145 mEq/lを高Na血症
といいます。
血清Na濃度は血清中の水分量に対する相対的Na量を反映していますから、血清Na濃度は体内総Na量を反映しないことに注意が必要です。血清Na濃度が <135 mEq/lである低Na血症で体内総Na量過多の場合もあり、血清Na濃度が>145 mEq/lである高Na血症で体内総Na量不足の場合もあります。Na異常の治療にはNa代謝と水代謝を総合的に考える必要があります。

  • 高Na血症(hypernatremia)
体内総Na量により、
過剰:   高用量高Na血症(hypervolemic hypernatremia)
ほぼ正常: 正用量高Na血症(euvolemic hypernatremia)
欠乏:   低用量高Na血症(hypovolemic hypernatremia)に分類されます。

細胞外液量は体内総Na量を反映するので、細胞外液量の指標となる血圧値と浮腫の程度や胸腹水の有無が診断に有用です。

  • 低Na血症(hyponatremia)
高Na血症と同様に
体内総Na量により、
過剰:   高用量低Na血症(hypervolemic hyponatremia)
ほぼ正常: 正用量低Na血症(euvolemic hyponatremia)
欠乏:   低用量低Na血症(hypovolemic hyponatremia)に分類されます。

  • 血清Na濃度が正常でも体内総Na量が過剰または欠乏した病態があります。
体内総Na量は細胞外液量に反映されるので、過剰では細胞外液量過剰により肺や末梢浮腫といった心不全症状や高血圧症をきたしします。逆に、欠乏では細胞 外液量欠乏により末梢循環不全や起立性低血圧をきたし、高度の場合にはショックに陥ります。

カリウム異常

様々な細胞の活動を左右する静止膜電位が細胞内外のカリウム(K)濃度により規定されています。細胞が正常に機能するためには血清K濃度を正常(3.5- 5.0 mEq/l)に維持する必要があります。腎臓はKの摂取量に見合った尿中排泄を制御することでこの維持機能を担っています。しかし、進化の過程の宿命から 腎臓でのK輸送はNa輸送に従属的に行われていることが問題となります。

血清K濃度>5 mEq/lを高K血症
血清K濃度<3.5 mEq/lを低K+血症
といいます。

  • 高K血症(hyperkalemia)
K負荷増加(increased K load)、K排泄障害(impaired K excretion)、細胞内外K移行異常(impaired K entry)が原因となります。採血の過程や検体の保存状態により血球の細胞内Kが血清中に溶出する偽性高K血症に注意が必要です。偽性高K血症では生体 内での血清K濃度は正常であり治療の必要はありません。

  • 低K血症(hypokalemia)
K摂取不良(inadequate K intake)、K排泄過多(increased K excretion)、細胞内K移行(K shift into cells)が原因となります。利尿薬の使用や下痢・嘔吐によるK排泄過多が隠れた原因であることをしばしば認めます。

カルシウム・リン異常

血清カルシウム(Ca)濃度とリン(iP)濃度を制御する主な因子として副甲状腺ホルモン(PTH)・ビタミンD(VD)をあげることができます。VDは 腎臓で活性化されて作用するため、また、リンは腎臓から尿中に排泄されるため、腎臓病ではカルシウム・リン異常が問題となります。カルシウム(Ca)とリ ン(iP)はリン酸カルシウムとして骨に貯蔵させているため、これらの血中濃度の積の上限は制限され、お互いの値で影響されます。
Caに関しては、通常の検査ではアルブミン(Alb)と結合している非イオン化Caも測定した総Ca値が検査値として報告されます。総Ca値は血清Alb 値を考慮して評価する必要があり、血清Alb値が低い時には、測定総Ca値 + (4 – Alb)で計算される補正血清Ca値(corrected serum calcium)を用いて血清Ca濃度を評価します。正常値は8.0-10.5 mg/dlです。

酸・塩基異常>>実際篇  >>進化型

血清pHは7.4前後(7.38-7.42)に維持されています。
pH <7.38をアシデミア(血液が酸性に傾いている状態)
pH >7.42をアルカレミア(血液がアルカリ性に傾いている状態)
といいます。
溶液中のpHは溶液中の酸(H+を出すもの)と塩基(H+を受けとるもの)の濃度により決まります。血清でpHを規定する重要な因子は、重炭酸緩衝系の酸 (H2CO3)と塩基(HCO3-)です。H2CO3濃度は二酸化炭素(CO2)濃度と平衡関係にあるため、血清pHは、pH=6.1 + log([HCO3-]/0.03xPCO2)で表されるHenderson-Hasselbalchの式を満たしています。
二酸化炭素濃度と重炭酸(HCO3-)濃度のいずれの異常でもアシデミア、アルカレミアになります。
二酸化炭素濃度の異常による酸・塩基異常を呼吸性、
重炭酸濃度の異常による酸・塩基異常を代謝性と言います。

酸塩基異常に対しては以下のステップで診断されることが一般的です。
  • pH値に従いアシデミアかアルカレミアかを診断する。
  • pH <7.4(アシデミア)ならPCO2が高い(>40 mmHg)かHCO3-が低い(<24 mmol/l)かにより、前者なら呼吸性アシドーシス、後者なら代謝性アシドーシスが原発性異常と診断する。
  • pH >7.4(アルカレミア)ならPCO2が低い(<40 mmHg)かHCO3-が高い(>24 mmol/l)かにより、前者なら呼吸性アルカローシス、後者なら代謝性アルカローシスが原発性異常と診断する。稀に呼吸性アシドーシスに代謝性アルカ ローシス、呼吸性アルカローシスに代謝性アシドーシスが合併しpH値が正常の場合もある。
  • 原発性異常に対する代償性変化を確認する。呼吸性原発異常に対する代謝性代償変化は数時間以内に起こる急性代償と数日(3-5日)を要する慢 性代償がある。代謝性原発異常に対する呼吸性代償変化は数時間以内に起こる。代償が不充分な場合は合併する異常が疑われるが、代謝性アルカローシスに対す る代償には低換気状態を要し低酸素血症を来すため、代償の程度は酸素濃度に依存し変動することに注意を要する。
  • 代謝性アシドーシスの場合はアニオンギャップ(Anion Gap: AG)を計算する。
アニオンギャップ
同じ検体で血清Na・Cl濃度を測定し、以下の式でAGを計算する。
AG = [Na+] – [Cl-] – [HCO3-]
AGの正常値は12(±2)であるが、血清中のリン、硫酸、アルブミン(Alb)といった陰性荷電を帯びた物質の濃度を反映するため、Alb濃度が4 g/dl以下の場合は、1 g/dlのAlb濃度低下毎に計算値に2.5を加え補正する必要がある。例えば、Alb濃度2.5 g/dlの場合(4から1.5低下)は、AG = [Na+] – [Cl-] – [HCO3-] + 2.5 x 1.5と算定する。AGが正常であればAG正常型代謝性アシドーシス、AGが増大している場合はAG増大型代謝性アシドーシスと診断する。
  • AG増大型代謝性アシドーシスの場合は、AG増大分(ΔAG:AGと正常値の差)をHCO3-に加えた補正HCO3-値(HCO3- + AG – 12)を計算する。補正HCO3-値>24の場合は代謝性アルカローシスの合併と診断する。

*pHが正常化しうる代謝性変化は呼吸性アルカローシスに対する慢性代謝性代償変化のみである。

その他

 
Henderson-Hasselbalchの式は診断に役立つ?
多くの教科書でこの式が診断過程で引用されているが、診断に必要なのでしょうか?
その疑問に対しての答えはこちら酸塩基平衡(番外篇)